燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード107

 

 

 

 

(明日、か。)

 

 

黒く染った空を見上げて、真田は息を吐いた。

 

10月末とはいう事もあり、日が落ちると少し肌寒い。

熱気で包まれているこのグラウンドですら、風が吹くと流石に堪えた。

 

 

次勝てば、甲子園。

夏の時はあまり具体性を帯びていなかった大舞台が、手の届くところにまで近づいている。

 

しかも相手は昨夏、自分たちの夏を終わらせた張本人。

 

 

最強だと思っていた攻撃力は、劣っていた。

無敵だと思っていた4番は、完膚なきまでに叩き潰された。

 

尖っていると思っていた場所で、劣っていた。

 

 

だから、磨いたのだ。

自分たちの長所は伸ばし、短所は補った。

 

今の自分たちは、薬師高校は強い。

 

 

次の試合に勝てば、甲子園。

春のセンバツ大会とは言え、それには変わりない。

 

夏の時は、影しか見えなかった。

 

 

 

あの夏を、超える。

最後の砦には、十分すぎる役者だ。

 

今、都内でいちばん強いチームである青道を倒して、夢の舞台へ。

 

 

 

「んなとこにいたのか、真田。」

 

突然かけられた声。

しかし馴染み深い声だから、特に驚くことも無く振り向いた。

 

 

「なんだよ、平畠キャプテン。」

 

 

この尖りまくっている薬師高校を統括する、主将の平畠。

 

あまり目立った選手ではないが、計画性もあり真面目である。

やんちゃな選手が多い薬師を纏めるには、最適な人間の1人だ。

 

「お前わざと言ってるだろ。足の状態はどうだ。」

 

「マッサージ受けて終わり。そもそも、最近は特になんもないんだってば。」

 

 

夏の大会前に怪我をした、左大腿部。

 

真田の特徴的な、踏み込み足に全体重を思い切り乗せて弾き返すフォームは、一般的な右投げの投手とは比べ物にならない程左脚に負担がかかる。

 

だから、その負荷に耐えられなかった下半身が限界を迎えた。

 

 

しかし今は、球数制限やリリーフ登板の影響もあってかなり良好。

今のところは不安要素がない。

 

 

「そりゃ、心配になる。」

 

「ははっ、流石にキャプテン。皆は?」

 

「まだ打ってるよ。そろそろ集まって上がるけどな。明日も朝早いし。」

 

「そっか。じゃあ俺もちょっと打つかな。」

 

 

真田は今日も登板があった為、連投になる日は基本すぐ帰る。

明日は確実に、投げることになるから。

 

しかし、マウンドに上がらなくても大事な打線の主軸。

投手専念で打てませんでは、話にならない。

 

 

2人で練習に戻ると、真田もバットを肩にかけてチームメイトの元へ向かう。

 

 

「真田はあんまし無理すんなよー。他の奴らはみっちり振れ!明日のピッチャーたちは今日の奴とは比べもんになんねーぞ!」

 

 

相手は、都内でも屈指の投手王国。

エース大野を筆頭に、怪物と呼ばれる降谷暁、変則左腕の沢村。

 

この3人の陰に隠れているが、リリーフの2人も悪くない。

 

サイドスローでスライダーとシンカーを巧みに低めに集める川上。

そして、高い制球力を活かして低めに動くボールと緩い変化球を織り交ぜて打たせる東条。

 

それぞれ全く違う投手が、5人。

故に、投手王国である。

 

 

 

1人打ち崩しても、また別の投手。

また1人崩しても、また1人と。

 

特に、あまりフォーカスされていないが、沢村。

彼が意外と、強敵である。

 

 

降谷は言わずもがな、剛腕でガンガン押してくる。

 

最速150キロ越えのストレートもそうなのだが、案外厄介なのはフォーク。

 

ストレートが速い分、それに自然と目がついていく。

その速度と軌道に目が慣れてしまうと、いきなり沈むフォークが来ると、完全に視界から外れる。

 

 

調子極端なのが欠点だが、なんとこの大会は安定している。

そのため、大荒れの線は考えない方が良い。

 

 

 

大野は恐らく、投げない。

あの時、練習試合で緊急降板した時以来、登板しているところを見たことがない。

 

注意しなくてはいけないのは、降谷と沢村。

この2人。

 

案外、川上と東条はなんとかなる。

 

 

薬師のナインは、2人の投手に狙いを絞っていた。

 

 

「しっかり振っとけよー!相手の打線もやべえかんな、ミッシーマも点取られちまっからよ!」

 

「取られねーっすよ!」

 

 

監督である雷蔵の言葉に、すぐさま三島が返答する。

もはやお家芸の流れに、チームの面々も笑った。

 

 

明日は決勝。

今更緊張することもなければ、やることを変える訳でもない。

 

いつも通り。

奇しくも、対戦相手である青道と全く同じような前日練習の空気感が流れていた。

 

 

「盛り上がってるっすねー。」

 

「お久しぶりです、監督。」

 

 

大きく欠伸をした雷蔵の背後から、声が届く。

これまた慣れ親しんだ、けれども懐かしいその声に、慌てて雷蔵も振り返った。

 

 

「おめえら、こんな時間に何してんだよ。」

 

 

高圧的だが、それでも優しい。

雷蔵が言葉を放ったその先には、夏の大会を最後に引退した三年生たちであった。

 

 

「いやあ、大会前ですから。差し入れ。」

 

 

そう言って、ブレザー姿の山内は両手にそれぞれ携えられた袋を顔の高さまで持ち上げた。

 

 

先輩たちの姿に、ナインたちも思わず集まってくる。

と言うより、練習自体はもう終わって、自主練という感じだった。

 

集まり、三年生が持ってきた差し入れに手を伸ばす。

 

そこには、エネルギーになる果物筆頭のバナナ。

それとゼリー飲料に、スポーツドリンクが入っていた。

 

 

「お前ら、勉強してんだろうな?さんざん俺はやれって言ってんだから、進路決まんねーとかやめてくれよ。」

 

「言ってましたっけ、そんなこと。」

 

「言ってただろうが!俺みたいになっちまうぞってな。」

 

 

思わぬ自虐に、三年たちも、現役のナインたちも笑う。

 

すると決勝にちなんで、三年生たちはとあることを提案した。

 

 

 

明日の抱負。

メンバーでそれぞれ、自分の目標を話していくことを提案した。

 

抱負や目標というのは、口に出してこそ真に意味をなす。

だからこそ、先輩たちというギャラリーがいる中で言うことに、意味がある。

 

 

守備で貢献したい。

良いところで打ちたい。

ホームランを打ちたい。

 

さまざまな目標がある中、とうとう最後の選手に順番が回った。

 

 

「おい雷市!おめえも食ってばっかねーでなんか言え!」

 

 

雷蔵が声を飛ばした先には、息子であり4番の雷市。

 

口下手で人見知り。

そして、よく食べる。

 

 

そんな彼も、促されるままにみんなの前に出た。

 

 

俯き加減で、頭をかく。

そして、少しばかり静寂が流れる。

 

みんなも雷市の性格を知っているから、ゆっくり待つ。

 

 

少し待つと、雷市は重い口をそっと開いた。

 

 

「も、もっと。俺、もっと打ちたい。すごいピッチャーを打ちたい、すごい舞台で打ちたい。だから次も、勝ちたい、です。」

 

 

一つ息を吐き、雷市はまた口をひらいた。

 

 

「でも、それより。みんなのために、打ちたい。みんなのために打って、勝ちたい。そしたらもっと、楽しい。」

 

 

そう言い切る。

 

今までは、自分のために打っていた。

高校に入ってから本物の投手と戦うことが楽しかったから、バットを振った。

 

他にも色々な理由があるが、第一にピッチャーと対戦することに喜びを感じていた。

 

 

しかし、夏の大会を終えて。

そして、多くの時間を仲間と過ごしていくうちに。

 

彼の感情は、少し変わってきていた。

 

 

聞いていた全員が拍手をする。

 

その光景に、雷蔵は微笑んだ。

 

 

「うーっし、そうと決まりゃ今日は終わりだ。明日のためにさっさと帰って休めよ!」

 

 

場所は違えど。

青道と薬師、それぞれの校内で、同じように時間は流れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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