10月某日。
秋も真っ盛り、夏の残暑すらとうに過ぎ去った今日この頃。
高校球児たちは、一種のターニングポイントを迎えていた。
「いくぞオオオオ!」「いくぞオオオオ!」
2人の主将から放たれた掛け声と共に、選手たちがグラウンドへと集結する。
試合を構築する数十人がグラウンドに集結し、試合開始を告げる。
礼を重んじる日本人として、野球人として。
そして、これから闘う相手に敬意を払って。
互いに、顔を合わせた。
秋季東京都野球選手権大会。
東西東京の頂点を決める大会であり、選抜高校野球選手権大会への切符を手にすることができる大一番。
今、この大会で最も強い2校が、相対する。
先攻は、Aブロックから勝ち上がってきた薬師高校。
今夏からいきなり頭角を表した超攻撃的なチームであり、今大会でも圧倒的な得点力で相手をねじ伏せてきた。
Bブロックを勝ち上がったのは、後攻の青道高校。
抜群の安定感を誇る投手陣と強力打線を誇り、強豪犇くBブロックを這い上がってきた。
試合前評判は、6−4で青道有利。
しかし、ほとんど五分である。
薬師が勢いに乗るか。
青道が、王者の貫禄を見せるか。
互いのプライドをかけた大一番が今、始まる。
「まずは、1人な。秋葉も良いバッターだぞ。」
後攻めの青道が、まずは守りに入る。
今日の先発は、降谷暁。
昨日からの連投になるが、大野が投げられない以上、彼の他に薬師戦で先発を任せられる投手はいない。
小さく頷き、マウンド横に置かれた小さな袋に手を当てる。
そして指先に息を吹きかけた。
左のバッターボックスからそれを見た秋葉は、合わせるように左手に息を吹きかける。
(ここまでスピードボールはたくさん見てきた。今更、驚かねー。)
もう一度小さく息を吐き、バットを掲げる。
練習試合から、大会を通じて、速いボールの投手とは何回も当たってきた。
降谷の速球でもきっと対応できる。
そう思った刹那。
彼の目の前に走ったのは、まるで生命を感じるかのような勢いのある何かであった。
轟音と共に、噴き上がる直球。
バットを出すことすらできずに、秋葉はその初球を見逃した。
「うわ、まじかよ。」
思わず、口に出てしまう。
それほどまでに、豪速球。
2球目は振りに行くものの、これもバットに当たらず空振り。
(速い、それに強い。軌道もあんまり見たことない軌道だ。)
ストレートが、浮き上がって見える。
手元で加速するような、それでいて唸りを上げて昇ってくる。
間違いなく、ここまで見てきたストレートで「2番目」に凄まじいボールだと、思った。
3球目。
御幸は、低めのストレートを要求。
投げ込まれたボールはわずかに外れてボール。
1−2で、バッテリーが追い込んだカウント。
しかし秋葉は、リラックスしていた。
(確かにすごいボールだ。だけど…)
投げ込まれたのは、真ん中付近のストレート。
これに対して、秋葉は完璧にコンタクトした。
金属バット特有の、甲高い音。
それと共に、鋭い打球は右中間を破った。
『弾き返したー!降谷の150キロのストレートを完璧に捉え、先頭の秋葉、チャンスを作ります。』
秋葉は俊足を生かして二塁へ。
いきなり食らった鮮烈なパンチに、降谷は目を見開く。
マスク越しにそれを見ながら、女房役である御幸も、苦虫を噛み締めるような表情を浮かべた。
(やっぱ、連投の影響は出ちまってるな。)
確かにストレートに勢いはある。
しかし、いつもほどではない。
追い込んで勝負しに行けば無意識にギアが上がると思ったが、それでも三振を取れる力はなかった。
いや、寧ろ。
連投の影響というよりは、この舞台か。
決勝という大舞台で任された、先発。
しかもそれが、初めての二連投。
球が浮つくのも、頷ける。
続く、増田。
このバッターに対しては、初球からフォーク。
先ほどまでとは打って変わって、これは良いところに決まって空振り。
(調子は悪くない。ただ、いつもより出力が出ないって感じか。)
こればかりは、仕方ない。
連投の疲労でマックスの力が出ないのは、御幸も想定してのことだった。
(そうなっと、秘密兵器がどうか、だな。)
(手先の感覚は悪くない。多分カーブも、上手くいく。)
御幸の言う秘密兵器というのは、カーブのこと。
丹波直伝の縦に大きい割れる緩いカーブは、試合でも少ししか投げていないため、薬師の頭の中にもないはず。
何より、勢いが足りないとはいえ、この緩急差。
150キロの浮き上がる球と120キロ以下で落ちるボールでは、スイングも崩れる。
増田に対して、2球目はストレートで空振り。
このストレートは、やはり並の打者では捉えることができない。
3球目は、そのカーブ。
ど真ん中から低いコースに決まったこのボールに増田は空振り三振。
やはり調子自体は、悪くない。
寧ろ無駄な力が抜けて、安定感はいつも以上だ。
ミットに収められた白球を掴み取り、マウンド上にいる降谷に投げ返す。
そして、続く打者に目を向けた。
3番打者の三島は、典型的なパワーヒッター。
しかし、当てるのも上手い。
轟の前にランナーは、貯めたくない。
最悪この男を抑えることができれば、轟を歩かせるという選択肢も出てくる。
何としても、抑えたいバッテリー。
しかしその考えも、三島は何となく感じ取っていた。
(俺を抑えて、雷市との勝負を安全にする魂胆だろうがな。)
しかし、三島は初球攻撃。
降谷の低めのストレートを完全に狙い撃ち、打球を上げた。
(雷市に回すまでもねえ!俺が決めんだよ!)
高々と上がった打球は、セカンド後方。
少し詰まっているが、打球はライトとセンターの間に落ちるテキサスヒットで、出塁した。
意気込みの割にしょぼい当たりだが、あえて誰も突っ込まない。
何故なら、出塁することに大きな大きな意味があるから。
次に打席に入るのは、4番。
チームを象徴する選手であり、最も信用のおける打者。
そしてこの薬師高校で座るその男は。
『4番、サード、轟くん。』
都内で今、最も打っているバッターである。
今大会、文句なしの三冠王。
打率は8割越えであり、本塁打7本と打点15は悠々一位。
(ほんと、勝負したくねーな。)
バッターボックスに入る轟にチラリと視線を送り、戻す。
やはり、打ちそうというか、強打者特有のオーラのようなものがある。
初球のフォーク。
これがワンバウンド、外れて1ボール。
2球目、同じようなボールも見逃してボールが先行してしまう。
カウントとしては、歩かせたい思いもある。
しかし、状況が状況。
この一、三塁という状況で歩かせるわけにはいかない。
何より、5番打者は勝負所に強い真田。
そんな男を、満塁で迎えるわけにはいかない。
ここで簡単に歩かせるわけにはいかない。
しかし、無理に攻めて轟に一発をもらうのは、最悪。
ほんの少しの迷い。
そして、躊躇。
捕手のそれは、投手にも伝染する。
迷いがあって、抑えられる打者ではない。
だからか、御幸は少し。
焦りすぎた。
『高めのストレート狙ったー!何という男だ轟、全く打球の方向を見ません!意気揚々と一塁へと走っていきます!』
高高度まで舞い上がった打球は、最後まで見送る必要がない。
そう思わせるほど完璧な当たりは、神宮球場の高い高いバックスクリーンを超えて。
誰の目にも届かない場所まで、放り込んだ。
今作の轟はとんでもないバッターにするつもりです。
原作でも猛威を振るっていた彼にさらに強化バフをかけるので、多分環境壊れます。