燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード110

 

 

 

 

 

(ここだぞ、降谷。夏輝はこいつを捩じ伏せたからな。)

 

(はい。)

 

 

打席から感じる、威圧感。

マウンド上にいる降谷は、この18.44mの距離があっても尚感じるプレッシャーに恐怖すら感じていた。

 

しかし、逃げれば。

それこそ、先程と同じ結末になる。

 

 

大きく深呼吸。

そして、目を開ける。

 

ここが、正念場。

全身全霊をかけて、抑えに行く。

 

 

 

初球、外低めのフォーク。

これを轟が見逃して、まずは1ボールとなる。

 

(フォークは、見切ってるのか。)

 

(これは、ギュインッて落ちる。さっきみたいにンゴーって来るのとは、速さが違う。)

 

 

初速か、或いは軌道なのか。

どちらにせよ、常人では判断のできないような場所を、完全に見分けている。

 

 

2球目。

ここは敢えて高めのストレート。

 

フォークとの球速差と軌道の違いを、より出すために。

吹き上がりやすい高めに要求して、これが轟のバットを掻い潜って1ストライクを取る。

 

 

唸りを上げる豪速球。

正にそう言わんばかりのボールに、轟はまた口角を上げた。

 

 

(すげえ、さっきよりも速えし、強え!)

 

 

空振りしたのにも関わらず、笑う轟。

それを横目で見た御幸は、次のサインを出した。

 

 

(決め球には使えねえ。なら、せめてカウントは取らせてもらうぞ。)

 

 

出されたサインに、降谷が一度反応し、すぐに頷く。

 

今日、この試合で最も出された数が少ないサイン。

それを確認して、降谷はボールに手をかけた。

 

 

3球目。

先の2球とは全く違うリリース。

 

一度ふわりと上がったボールに、轟の身体も少し反応して浮く。

何とか対応し、鋭い当たりが三塁ベースギリギリに切れてファールとなった。

 

 

縦に割れるスローカーブ。

この試合轟に投げる初めてのボールで、ファールを取った。

 

良い当たりだったが、それでもファールに変わりは無い。

 

 

1-2。

バッテリーが追い込んだカウント。

 

御幸は、勝負を選択した。

 

 

(行けんだろ、降谷。最高の真っ直ぐで、こいつを捩じ伏せろ。)

 

 

構えられたコースは、内角高め。

一般的には危険なコースなのだが、降谷の伸び上がるストレートだと話は別だ。

 

浮き上がるような軌道を描くこのボールは、低めよりも高めに投げられた方が威力も上がるし、揚力も大きくなる。

 

故に、彼の良さを最大限に生かすコース。

だからこそ、御幸は敢えてこの危険なコースに構えた。

 

 

 

息を吐き、受け止めた白球を右手に握る。

キラリと一瞬瞳が煌めき、また帽子の鍔の影に隠れる。

 

 

(もっと、先へ。)

 

 

白球が握られた右手を左手で覆うように収めて、振り上げる。

両手を後ろで組むようにして、背筋を開く。

 

 

(その先に、あの人がいる。)

 

 

そして腰を捻転すると、合わせた両手を顔の横へ。

右足で蹴り出すと同時に、右腕を振るった。

 

 

(超える。あの人を、超える…!)

 

 

ギアを一気に最大まで上げた、ストレート。

正に唸りを上げるストレートが、突き進む。

 

高め、少しインコースに外れているボール。

しかし勢いも相まって、轟もバットを出す。

 

 

ジャストミートか。

完璧な当たりを象徴する金属音が、鳴り響く。

 

しかし少し振り遅れている。

 

 

 

 

 

 

 

痛烈ながら詰まった当たりは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

降谷の投げたボールと同じ軌道を描き。

 

 

 

鈍い音と共に、白球はピッチャーの前に転がった。

 

 

『ピッチャーライナー!強い当たりが降谷を襲いました!』

 

 

球足の速い打球は、降谷の肩口へ。

 

嫌な音と共に転がる白球。

蹲り少し体勢を崩す降谷を見て、慌てて御幸がボール取りに行く。

 

 

が、しかし。

 

マウンドの男は、目の前のアウトを全力で奪った。

 

 

悶えながらも、転がる打球を掴む。

そして流れる身体を精一杯に支えて、一塁の前園に投げ込んだ。

 

 

 

「アウト!」

 

 

一塁塁審の声が耳に入った瞬間。

マウンド前で、倒れ込む降谷。

 

利き腕である右肩を抑え、蹲るように。

 

 

「降谷!」

 

 

駆け寄る、御幸と片岡。

そして遠くから走ってくる大野が、すぐに追いつく。

 

 

当たった位置は、右肩。

不幸中の幸いか、咄嗟に出た左手のグローブがクッション代わりになり、直撃は防いでいた。

 

しかし、投手の命である利き腕の肩。

当然、ここでマウンドを降りる。

 

 

4回表、途中で実質エース格の降谷が降板。

 

暗雲立ち込める神宮球場。

代わりに登板する沢村がマウンドに到着するも、降谷は白球を握ったままだった。

 

 

意地か、投手としてマウンドを降りたくないという負けん気か。

そう思い、声をかけようとした御幸に、大野が右手を広げて静止させる。

 

 

直後、動き出す降谷。

そしてその右手に握られていた白球を、左手に移し替えた。

 

痛みでか、右手は上がらない。

だから、利き腕でない左手のグローブで沢村に直接渡した。

 

 

「…込めといた、から。」

 

ただ一言。

悶えながらも絞り出して、沢村に託した。

 

 

普段から自分の主張をあまり声に出さない。

それこそ同学年でエース争いのライバルである沢村には、尚更。

 

 

いや、ライバルだからこそか。

チームメイトであり、良きライバルだからこそ。

 

最善を、尽くすのだろう。

 

 

 

まだ闘争心のある、降谷の瞳。

沢村のその瞳と視線が重なり、彼も頷いた。

 

 

「任せろ。」

 

 

その返事を聞き降谷は、一瞬間を置き、唇を噛んだ。

 

自分で失った、3点。

挽回出来ずにマウンドを降りるのが、悔しい。

 

 

しかし。

 

今は投げられないエースも、できることを尽くしてきた。

 

 

 

全員で勝つ。

チームの為に、今できることは。

 

託すこと、だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

降谷が降りたマウンド。

そこに残された沢村は、降谷から手渡された白球をじっと見つめた。

 

 

「どうだ、そのボールは。」

 

「…重い、っすね。」

 

彼の思いも乗せて。

 

そしてエースの思いも肩に乗せて。

 

 

「行きましょう、御幸先輩。俺も、真っ向から闘いますから。」

 

「前屈みになりすぎんなよ。お前はお前らしく、だ。その上で俺も、お前の良さを最大限に生かしてやる。」

 

 

先程、エースからやられたことと同じように。

女房役である御幸は、右手で沢村の背中をトンと叩いた。

 

 

「一緒に闘おうぜ。俺たち2人で、あの爆弾魔たちを倒してやろう。」

 

「…はい!」

 

 

そこからの沢村の投球は圧巻だった。

 

1アウトランナーなし、緊急登板ながら真田をセカンドゴロ。

平畠をチェンジアップで空振り三振に奪って、完璧に降谷の後を継いでみせた。

 

 

 

 

3-0

薬師有利のまま迎えた、4回の裏。

 

青道高校の攻撃。

 

 

打席には、エースが立った。

 

 

 

 

 

 

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