燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード113

 

 

 

 

 

「どうだ真田。」

 

「ええ、悪くないっす。調子もいいもんで、中々失点するイメージ湧かないっすね。」

 

 

額に浮いた水滴を右手の甲で拭い、ふっと一息吐く。

そして、ベンチに座り込んだ。

 

7回の守りを終え、三島と交代した後は無失点。

 

自分でも完璧な出来だと、真田自身感じていた。

 

 

しかし、監督である雷蔵が懸念していたのは、そこではない。

寧ろ、真田の投球技術に関しては、全幅の信頼を置いていると言ってもいいくらいだ。

 

 

そんな雷蔵が懸念しているのは。

 

 

「足はどうだ?まだ大丈夫そうか?」

 

 

春先に痛めた太腿痛。

筋肉疲労によるものであり、真田の軸足に全体重を乗せて蹴り出す特徴的なフォームだからこそ起こる癖のような怪我。

 

その為、雷蔵は怪我の完治した夏以降も、慎重にその様子を見ていた。

 

 

 

「大丈夫っすよ、監督。今んところはそっちも問題ないっす。」

 

「そうか、わかった。あと2イニング、いけんだな?」

 

「心配しすぎっすよ、監督。緊張してんすか?」

 

「うるせえ!」

 

 

そう言って、雷蔵はまた腕を組んで座り込む。

そしてすぐさま攻撃の指示を行なっていた。

 

 

ベンチに座り込み、横に置かれたスポーツドリンクに手を伸ばす。

一息ついて額にタオルを当てた。

 

 

(後、六つ。)

 

 

甲子園の舞台まで、後アウト6つ。

 

夏の頃は全く見えなかった朧げな姿は、カウントダウンできる程にまで現実味を帯びてきた。

 

 

流れ出る汗を鬱陶しく思いながら、真田は目を瞑った。

 

 

 

できれば、もう少し点差が欲しい。

もしくは、何とか相手の反撃の勢いを止めてもらいたい。

 

失点こそ許していないものの、徐々に増していく青道打線のプレッシャーに、真田もかなりの疲労感を感じ鬱蒼としていた。

 

 

 

しかし、そんな真田の心理に反すように、青道のリリーバーである沢村が好投。

持ち前のテンポの良さと高い精度の投球で、あっという間にアウト3つを奪っていった。

 

 

 

 

 

 

8回の裏。

青道高校の攻撃は、4番の御幸から。

 

打席に向かっていく彼に、大野は耳打ちした。

 

 

(真田、かなり疲れが出てきてる。甘いところも増えてるし。)

 

(そうか?あんまし変わってねえように感じるけど。コントロールがアバウトなのは元々だし。)

 

(ベンチに向かう表情でわかる。精神的にも、かなり追い込まれてると思う。)

 

(なるほどね。)

 

 

やはり、よく見ている。

投手特有というか、エースでしかわからない場所か。

 

大野の言葉を頭の片隅に置き、打席に入った。

 

 

(最初の3失点は、俺のせい。降谷は良く投げてくれたし、沢村も良く投げてくれた。)

 

 

鳴り響く、子気味良いブラスバンドの演奏。

それに合わせるように、御幸はリズムをとった。

 

 

(また、あいつに気付かされたよ。)

 

 

それに、先発を担ってくれた2人は、本当に助けられた。

口酸っぱく多くのダメ出しをしてきたが、内心では一年生ながら良く大野の代わりを担ってきてくれたと思う。

 

だから、か。

 

 

4番として。

捕手として。

 

やらなければいけないことが、ある。

 

 

 

点差は、2点。

先頭打者として、まずはチャンスを作る。

 

 

四球目、甘く入ったカットボールを弾き返し、ライトへ。

これが長打となり、右中間を破る二塁打となった。

 

 

(やっぱり、夏輝が言った通りか。)

 

 

後半戦というのもあり、疲れが出てきている。

 

先ほどまで甘く入ってこなかったインコースのボールも、今は少し甘い。

特に、高くなってきているように感じた。

 

 

 

 

続く打席には、右の前園が。

彼もまた、大野から言われた言葉を頭に浮かべながら打席にはいった。

 

 

(自分ができることを精一杯やって、結果的にチームのためになればいい、か。あいつが一番説得力なかったわ。)

 

 

自分が不振に陥っている頃、彼はそう言った。

 

そんな大野自身が、勝利のために自己犠牲を厭わない姿を度々見せていたこともあり、自分でも笑ってしまった。

 

 

(せやな、あいつが安心して自分の事考えられるようにやらなあかんよな。)

 

 

三球目のシュート。

インコースボール球のこのボールをしっかり引っ張り込み、レフト前に落ちるヒットでランナーは一、三塁とチャンスを広げた。

 

 

 

 

0アウトランナー一、三塁。

ここで打席には、主将である白州が打席に入った。

 

 

夏の敗戦。

エースの力投の末に、最後まで打撃で貢献できないまま、崩れ落ちるエースを、ただ見ていることしかできなかった。

 

そして、主将を任されて、夏のリベンジを誓った。

しかし、アクシデントはまた起きた。

 

 

勤続疲労による、大野の怪我。

 

エースがいなくなってしまったというのもあるが同時に、自分を犠牲にしてまで勝ちにこだわる姿勢に、主将として見習わなくてはいけないと思った。

 

 

しかし当の大野は、他の選手に自分のためにプレーをしろと呪文のように言うのだ。

 

誰よりも勝ちを求め、チームを背負う。

エースである以上に、チームの中心であることを本当に意識していたのだろう。

 

 

そんな姿勢に、自分よりもキャプテンシーを感じていた。

だからこそ次第に、そんな大野の思いを無碍にしないために。

 

自然と、チーム全体での結束力が高まっていったのだ。

 

 

自分ができること。

それぞれが精一杯それを尽くし、結果的にチームとして完成する。

 

 

(俺はキャプテンらしいことは何もできていない。だがせめて。)

 

 

勝って。

甲子園というあの舞台で、彼を投げさせたい。

 

 

(青道高校で、みんなで行くんだ…!)

 

 

ストレート。

高めに浮いたこのボールを完璧に捉え、飛翔。

 

強い当たりはフェンス直撃、ランナーが2人帰り、あっという間に同点に追いついた。

 

 

 

一塁塁上、ガッツポーズを浮かべる白州。

そしてその拳を、ベンチの方向に向ける。

 

視線の先には、大野夏輝がいた。

 

 

(終わらせない。それに、まだこれから始まるんだろ、大野。)

 

 

チームを背負う。

同じ志だからこそ、共にチームを盛り立てたいのだ。

 

 

まだ、終わりじゃない。

こんなところでは、止まれない。

 

エース大野夏輝がいる青道高校で、甲子園に行きたいのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

尚も逆転のランナーを置き。

打席には、今大会から覚醒の兆しを見せた金丸。

 

大野の同室の後輩であり、世話になってきた。

 

 

同室で高校野球の、野球選手としての行動を学んだ。

 

初めて相談したのは、春。

金丸がブレイクのきっかけとなった、一年生と2軍の紅白戦。

 

2軍を打倒するために尽力してくれたのは、彼だけでなく一年生全体からの信頼を得た。

 

 

夏以降も多くのアドバイスを受け、いつも練習にも付き合ってくれた。

 

それこそ野手と投手という立場の違いはあるが、他の人とはまた違う目線でくれるアドバイスが、彼を成長させてくれた。

 

 

 

(正直勝ちへの執着には、怖さすら感じた。でも、試合を重ねていくうちに、大野先輩の思いもだんだんわかってきた。)

 

 

だから。

そんな大野と一緒に、勝ちたいのだ。

 

一年生だとか、関係ない。

 

同じチームメイトとして。

 

 

(俺たちで、勝つんだ!)

 

 

続く金丸も、ヒットで繋ぐ。

0アウトランナー一、二塁。

 

この後沢村が送りバントをしっかり決めて、ランナー進塁。

 

1アウトランナー二、三塁。

 

 

 

しかし、真田もここで踏ん張りを見せる。

 

麻生を三振に切ってとり、2アウト。

 

 

ピンチを背負いながらも、漕ぎ着けた2アウト。

何とか同点までで切り抜けたい薬師。

 

 

 

 

ここで打順は1番の倉持に回った。

 

 

 

 

 

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