燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード116

 

 

 

「お前、ツーシームを捨てろ。」

 

 

突如として伝えられた、宣告。

ただの一つの球種とはいえ、俺はその重すぎる言葉に唖然としてしまった。

 

 

ツーシームファスト。

一般的にストレートと呼ばれるフォーシームから縫い目の向きを替え、速球と同等のスピードで変化するボール。

 

小さくシュート方向に曲がる変化球。

普通は、打者にわざと打たせてゴロを打たせる小さな変化球だ。

 

 

しかし俺のそれは、他のツーシームのそれとはまた違う。

 

フォーシームとほぼ同等のスピードで、尚且つ寸前まで同等のノビを誇りながら、打者の近くで大きく沈む。

 

三振の奪える、高速変化球。

俺のウイニングボールであり、真っ直ぐとこの球を軸にして俺は投げてきた。

 

 

「言っている意味がわかりません。」

 

「言葉の通りだ。そのツーシームを投げるのを、やめた方がいいというんだ。」

 

 

今度は少し淡白に、落合コーチは言った。

 

ツーシームは、俺の決め球だ。

ストレートと対を成す、俺だけの変化球だ。

 

それを捨てろというのは。

 

 

「俺に、投手としての一つの特徴を殺せと?」

 

「そうは言っていない。しかしお前もわかっているだろ。その強力な球の裏側にある、リスクを。」

 

 

コーチの言葉に、俺も口を紡いでしまった。

 

何となく理由はわかる。

自覚もあるし、投げている時も“その”感覚はあったから。

 

 

「お前のその球は、諸刃の剣なんだよ。爆発的なキレと変化量を生み出す代わりに、肘に莫大な負荷がかかってるんだ。」

 

 

ツーシームは、ほとんどストレートと投げ方自体は変わらない。

 

それこそ、シームと呼ばれる縫い目の位置を変えるとある程度は簡単に曲がってくれる。

 

 

しかし、その反面。

投げる際に一瞬人差し指に強い力が加わるため、肘の腱に負担がかかりやすい。

 

また、フォーシームと違い、縫い目に若干指がかからないため、余計な負荷が肘にかかる。

 

 

さらに俺のツーシームは、他よりも感覚的に強めに捻りを加える。

だからこそ、肘の負担も大きくなるのだろう。

 

 

実際、ツーシームなしで投げた時と普段通り投げた時とでは、肘の張りもかなり変わっていた。

 

 

 

しかし。

もちろん、ここまで俺が投げて来れたのは、はっきり言ってこのボールがあったからこそだ。

 

多少キレがあるとはいえ、遅いストレート。

それを生かしたのは、同じ軌道から大きく鋭く沈む、このボールがあったからこそだ。

 

 

そのツーシームを、捨てるか。

 

肘に負担がかかるのは、わかる。

しかし、俺の武器だ。

簡単に捨てることなんて、できない。

 

 

「あのボールを削って抑えられるほど、いい投手でもありません。」

 

「それは違うな。お前のストレートは超一流だ。球速が遅いだけであって、絶好調の時は降谷を凌ぐ。」

 

 

回転数は、多い。

他には見ないほど極端なオーバースローだから、ストレートに掛かる揚力が普通より多い。

 

重力と空気抵抗がぶつかって起こる吹き上がる力が、強いのだ。

 

 

確かに言われてみれば、稲実との試合での投球内容は、ほとんどがストレートが占めていた。

 

それも、決め球として、だ。

 

 

「大野、お前のストレートはプロ並みだ。普段から自分で卑下しているが、はっきり言って高校生とは思えない質をしている。」

 

 

突如として言われた言葉に、俺は目を見開いた。

 

 

「お前は日本一の投手になれる。いや、その先ですら、お前が躍動する姿は浮かぶ。」

 

「その…先…?」

 

 

俺がそう返すと、落合コーチはハッとしたように口を紡ぐ。

そして、一度咳払いをして一蹴、また口を開いた。

 

 

「お前の野球人生だ、最終的にはお前が決めなきゃならない。しかしな、このまま続ければ、取り返しのつかない事になる。」

 

「夏輝…。」

 

 

思わず、俯いてしまう。

 

自分でも分かっているのだ。

あのボールは、今の投げ方では確実に肘を壊すと。

 

 

だがそれは。

ツーシームを捨てるというのは、俺にとって。

 

 

 

 

俺は唇を噛み締めて、黙り込んだ。

見かねたコーチは、溜息を吐きながらもまた言葉を綴った。

 

 

「ツーシームの代わりになるボールなら、俺が見つける。オフの長い期間があれば、何とか身につくはずだ。だとしてもお前は、甲子園で戦える投手にはなれる。確実に、な。」

 

 

 

ツーシームが無くても、甲子園で戦える。

だがそれで本当に、稲実に勝てるのか?

 

あの時の、俺の全開でやっても敵わなかった成宮に、投げ勝てるのか?

 

 

あいつはもっと成長しているはずだ。

それこそ、鵜久森に負けたからこそ。

 

現状ですら負けた相手に。

成宮は成長して、俺は武器を一つ捨てる。

 

そんなことで、本当に勝てるのか。

 

 

甲子園で戦えるのは、わかる。

しかしそれ以前に、その場所に足を踏み入れることが出来るのか?

 

 

 

 

敢えてそれを口にすることはない。

だがしかし。

 

俺にも少し、考える時間が必要かもしれない。

 

 

 

少しの静寂。

重い空気が流れ、何となく息苦しい。

 

考えても、仕方がない。

 

 

というよりは、こんな短時間で解決するような話では無い。

 

 

「少し、考える時間をください。」

 

「その方がいい。だが、試すなら早い方がいいからな。」

 

 

頷き、俺はグローブを外す。

そして、ブルペンから離れていった。

 

 

「御幸、少しいいか。」

 

「俺、ですか?」

 

 

離れ際、そんな声が聞こえた。

 

 








ここのクダリは少し時間を頂きます。
大きなターニングポイントになるので、ここは少し話数を使います。

んでもって、次回は御幸と落合コーチのパートになります。



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