燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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かなりガバ理論が展開されます。
悪しからず。




エピソード117

 

 

 

 

 

グローブを外し、ゆっくりとブルペンから離れる大野。

その小さな背中を見つめながら、御幸と落合は目を合わせた。

 

 

「全く、厄介なもんだな。」

 

「ええ。」

 

 

肘部官症候群という怪我を患ってから約三ヶ月。

やっとの思いで投げ始めた大野に待っていたのは、目を背けたくなるような現実だった。

 

これまで決め球にしてきたツーシームは、肘への負担が大きすぎる。

 

今回の原因も、登板過多と肘に負担のかかるボールを投げてきていると、落合は見立てを立てていた。

 

 

「やっぱり、夏輝の肘には重すぎるんでしょうか、ツーシームは。」

 

「ツーシームだけじゃない、夏から投げ始めたカットボールもおそらく原因の一つだろう。」

 

 

フォーシームよりも縫い目の掛かりにくいツーシームは、ボールに力を伝えにくい分、肘の腱に負担がかかる。

 

さらに大野のそれは、一般的なツーシームよりも人差し指で強く押し込み、尚且つ捻りが大きい。

 

 

だからこそ、大野のツーシームはシュートしながら手元で大きく沈む。

その代償として、肘に大きな負担が掛かるのだ。

 

 

しかしもう1つ。

大野が夏から投げ始めたカットボール。

 

これもまたツーシームに近く、最後に人差し指で押し込み、捻りを加える。

その為、関節の構造上無理な形になりやすく、肘への負担も掛かりやすい。

 

 

 

「御幸、お前はどう思う。」

 

「どうって、そりゃ怪我して欲しくないですよ。でも、ツーシーム無しで抑えろというのもまた難しい話です。」

 

 

御幸が応えると、落合は顎髭に手を当てる。

そして、左目を瞑った後に溜め息をついた。

 

 

「いいか、御幸。あいつのボールは特別だ。あの精密機械ばりのコントロールにあの威力の直球があれば、正直ツーシームが無くても抑えられる。」

 

 

それこそ、替りになる変化球があれば。

 

肘への負担を考えれば、順当にチェンジアップだろう。

投げ方としてはストレートと変わらない為、捻りが加わらない分怪我にも繋がりにくい。

 

そして、沢村が参考にする為に、言わばお手本で投げたチェンジアップ。

あれが案外、落差もあり球速差もあった為、決め球としても十分使えるはずだ。

 

 

そう落合が言うが、御幸はそれでも言った。

 

 

「でも、夏輝は多分ツーシームを投げます。アイツにとってあのボールは、特別なんです。」

 

「ただの一変化球ではない、と?」

 

 

そして御幸が小さく頷く。

 

大野夏輝にとってツーシームは、いわば象徴的なボール。

ストレートと同等、寧ろそれ以上に大野を表すボールとして数多の三振を奪ってきた。

 

 

大野自身は遅いと言っているが、彼のストレートはキレもあり打者目線から見ればかなり速い。

回転数が異常に多く、ほぼ垂直に近い縦回転が揚力を生み出し、打者の手元で加速するような錯覚するほどのノビを誇る。

 

 

このストレート、所謂フォーシーム単体でもかなり強いのだが、やはりほぼ同速で変化するこのボールがさらにストレートを際立たせる。

そしてフォーシームに目付けされすと、今度はツーシームが視界から消える。

 

 

尚且つ、出どころが見えにくいトルネード投法から、快速球。

そして精密機械のような、ピンポイントに決まるコントロール。

 

これが、大野が数多の三振を奪ってきた所以。

 

 

大野が武器にしている二つの剣。

いわば大野夏輝という投手の翼の、片翼である。

 

だからこそ、御幸は大野がツーシームを投げることに反対はしなかった。

 

 

「それに。」

 

 

顔を上げる御幸を、落合が横目で視線を向ける。

そして御幸は、少し笑って言った。

 

「あいつにとってあれは、初めて自慢ができたボールなんです。」

 

 

遡ること、四年前。

当時ただのコントロールがいい球の遅い投手だった彼が、ツーシームを習得してから迎えた初めての大会。

 

地区でも随一の実力を誇っていた城南シニアとの試合。

その時に対戦した2年生エースとの会話から、彼はメキメキと成長していった。

 

 

「お前、名前なんてゆーの。」

 

 

白髪が靡く、端正な顔立ちの少年。

その美しい顔立ちから想像もできないような佇まいで投げていたその男は、2年生ながらその完成度の高さを評価されて地区トップの左腕として評価されていた。

 

そんな彼に言われた大野は、ただ一言返す。

 

 

「大野。大野夏輝。」

 

「覚えたかんね、君のこと。あの落ちるボールは自信持っていーと思うよ、今まで見てきたフォークの中で一番すごかったよ。」

 

 

そう言って、離れていく少年に、御幸はため息をついた。

 

確かに実力はまだ向こうが上だが。

しかし、自分勝手な男だと思った。

 

 

「なんだあいつ。偉そーにしやがってよ。」

 

「ああ、そうだな。上から目線だし。それにフォークじゃねーし。」

 

 

大野も、御幸と同じように言う。

 

しかし、そう言われた張本人は、笑っていた。

 

 

確かに、地区でも随一と言われる実力者である彼に認識されたと言うのは、中々心にくるものはあった。

 

何より、自分勝手で他の投手にあまり興味がないで有名なその投手が自分のことを覚えてくれたと言うのは、当時目立つ事のなかった大野からすれば自信を持つきっかけになある出来事だった。

 

 

側から見たら、ただの一言の会話でしかない。

しかし大野はこの一言、と言うより具体的な比較相手ができてから。

 

意識をする相手ができてから、彼の飛躍は始まった。

 

伝家の宝刀は、さらに磨き上げられ。

そしてそれに比例するように、彼の自信に満ち溢れる投球は良くなっていった。

 

 

投手大野が自慢できる、初めてのボール。

思い出のボールだからこそ彼は、固執するのだ。

 

 

 

 

「しかしな、怪我の原因として考えられるボールなだけにな。」

 

 

それでも落合は、その姿勢を変えない。

確認しながら御幸は、とある疑問を投げかけた。

 

 

「だとすれば、これまでも投げていたのになぜ怪我しなかったんですかね。カットが加わったから、って事っですか。」

 

「どうかな。夏の大会からの勤続疲労もあると思うぞ。」

 

 

そう考えると、確かに大野が投げているイニングはかなり長い。

夏の大会や練習試合では、長いイニングを投げられない丹波にリリーフを使っていたため、大野は基本完投か8回まで投げることが多かった。

 

 

「にしても、あいつ、意外と夏場の成長が著しかったですよね。」

 

「確かにな。真っ直ぐが一気に良くなったのは薬師との試合だったか。」

 

 

夏の大会の準々決勝。

その試合で投げた大野のボールは、何かの蓋が外れたかのように覚醒した。

 

 

この時ふと、落合に1つの可能性がよぎる。

 

 

(もしかすると、あの覚醒がある種きっかけなのか?)

 

 

小柄な体格ながら、意外にも身体のバネがある。

身体能力も高く、肘や肩甲骨など関節もかなり柔らかい。

 

だからこそ、か。

 

体格の割に、強度の高いボールを投げている。

そう感じることは、夏以降よく見られた。

 

 

しかし、裏を返せば。

自分の体に見合わない出力が出てしまっているのではないだろうか。

 

身体のキャパシティを超えているにも拘らず、その負荷が肘にかかってしまっているのであれば。

 

 

肘という部位は、鍛えることができない。

だからこそ、弱いのだ。

 

 

大野夏輝が引き出せる最大出力に、彼の肘が限界を迎えたのかもしれない。

彼のある種能力が覚醒したといえるような夏以降に怪我をしたと言うのも、頷ける。

 

 

 

 

だとすれば。

 

「明日の大野の出した答え次第だが、御幸。もしかしたら、長いオフになるぞ。」

 

「俺は覚悟できていますよ。あいつが怪我をした時点で、必ず何か動かなきゃいけないって思いましたから。」

 

 

御幸が笑顔でそう答えると、落合は瞑っていた左眼をゆっくりと開く。

 

その目はいつになく、鋭い視線そのものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 







みなさま良いお年をー。


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