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「なっさん!」
「どうしてあんなに打たれたんですか。」
関東大会を終えて帰校して次の日、何故か一年投手2人に詰められた。
どうやら、俺が打ち込まれたのが不思議で仕方ないらしい。
まあ、見たまんまだよな。
「俺が弱くて、相手が強かった。」
極めて端的にそう伝えると、俺は逃げるように走り始める。
「ま、待ってくださいよ!」
というか沢村は分かるのだが、何故降谷までいるのか。
だって今、朝6時にもなってないのよ。
普段一緒に走ってる沢村はわかるけど、何故わざわざこんな早くに降谷いるんだ。
「御幸先輩に、お前も走れって。」
あいつか。
確かにこいつの弱点はスタミナとコントロール
特にスタミナは最優先重点項目だろう。
スタミナつけるなら走るのが1番手っ取り早いしな。
横にいる
となれば、こいつも同じなはず。
きっと走り込んでいけば、スタミナだってついてくるはずだ。
スタミナだけでなく下半身、主に足腰だって強くなる。
足腰が強くなればフォームも安定して制球もある程度まとまってくる、というのが一也の算段なのだろう。
「で、どうしてあんなに打たれたんですか」
まだこの話続いていたのか。
「相手は全国トップクラスの打線だ。そもそも俺、球も遅いし変化球だって大したことないし。」
「そんなことないですって。カーブだってギュインって曲がるし、あのよくわからないボールも凄いし。」
「だがよく飛ぶ。」
ストレートは回転数が多い分問題ないのだが、変化球はミートされるとよく飛ぶ。
体重移動が下手なのか、弾かれやすいみたいな。
おそらく同じ理由で、球速も遅い。
つまりは、コントロールがある分厳しいコースを攻めることができるんだけど、ボール自体は大したことないということ。
それこそストレートとツーシームの組み合わせさえも、単体で見れば遅いボールだけでしかない。
まあ、そんなこと言っても沢村が理解するとは思えない。
というか、こんなこと言っても仕方がない。
「まあ、俺の投球は一也頼みってことだ。」
ほらいくぞ、そう言って俺は走り始める。
俺にはまだ、足りないものが多すぎる。
球速、変化球、そして力強さ。
けどそれは、短期間で治るような事じゃない。
だから今は、自分のできることを精一杯やるだけ。
そして、あの夏に届かなかった場所へ。
俺は、さらにペースを上げて走り始めた。
蝉が鳴き、汗が流れる。
少しばかりというか、だいぶ夏の暑さが近づいてきた。
今日は練習試合。
と言っても、俺の出番はなし。
何故なら。
「今日は、クリス先輩出るんすよね。」
「ああ。どこかの問題児の面倒を見なければいけないからな。」
「金丸も出るんだよな。」
「ええ、折角チャンスをもらえたんで、絶対活躍して見せますよ。」
うん、2人の気合は十分。
今日の練習試合は、夏の大会で戦えるメンバーの最終選考。
レギュラーとして夏のメンバー入りが決定している野手陣と、ピッチャーは俺と丹波さん、そして降谷の11人は既に決まっているため、残りの9人を選考するための練習試合だ。
とは言いつつ、ベンチ入りしているメンバーもある程度固まっているため、実際にはもう少し減るだろうが。
一応、現段階で投手の候補としては5人。
関東大会まではエースだった男、大野夏輝。
そして、安定感と貫禄を得た三年生投手の丹波さん
最速150キロ右腕であるノーコン速球派の降谷。
貴重な変則サイドスローのノリ。
これまた貴重な、というか唯一の左腕、沢村少年。
この5人に関しては、ほぼ決まっているような感じ。
野手のレギュラー陣が固まっている分、控え野手に割く人数を投手に回すことができる。
ということで、真夏の連戦に備えて投手も多めに備えておく、ということだ
前半戦の試合間隔が長い時はいいのだが、準決勝と決勝戦は連日で行われる。
それこそ、決勝前に長いイニングを投げて影響を残したくない。
ということで、今日登板するノリと沢村に関しては最終選考というような形だ。
そして、野手。
まずは一也の控えとしてベンチ入りしている宮内さんと、復帰したクリス先輩。
バッティングこそまだ本調子とまではいかないものの、やはりリード面では抜けている。
何より、彼の野球脳とコーチング能力。
まだ不安定な一年生投手のケアとコーチングをしながら、この2人をリードしていくような形でベンチに入る予定
かといって、宮内さんも丹波さんとノリとの相性が3人の中では1番いい。
慎重な2人を安定的に稼働させることができる。
おそらく監督の構想では、2人ともベンチに入れるのではないだろうか。
続いて、内野。
ここは春の関東大会時と同じ。
内野全体を守れるショートの楠木さんと、サードの樋笠。
あとは、とりあえず保留。
外野手は、そこそこ激戦区。
ベンチ入りしているメンバー、というよりはレギュラー争いが激しい。
センターの純さんとライトの白洲は固定されているものの、レフトが残っている。
それこそ、俺や降谷など打撃もいける投手が入ったり、守備固めで坂井さんや門田さんのような外野本業が入ったり。
ということで、そんなに入る余地がない。
あとは、代打の切り札。
それが、一年生2人のうちどちらか。
壮行試合で存在感を見せた金丸と小湊春市。
荒削りだがパンチ力のある金丸と、高いアベレージを残すヒットメーカーの小湊。
一打で流れを変える大事な役割を、一年生が担うと予想。
おそらく、こんな感じだろうな。
あとは、今日のに試合で最終的なメンバーが選考されるのではなかろうか。
ちなみに対戦相手は、春日第一と国土館高校。
東東京地区の中堅校だ。
個人的にはルームメイトである2人を応援しているのだが、まあ今日は見るに徹しよう。
一緒に夏を戦う、最後のピースを。