燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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あけましておめでとうには遅すぎる投稿です。
やはり流行病には気をつけましょう。






エピソード118

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日を跨いで、朝。

肌を突くような冷たい風が眠気から遠ざけるものの、早朝というのもあり、思わず大きな欠伸をして薄暗いグラウンドへと顔を出した。

 

広いグラウンドに1人、ストレッチをして体をほぐす。

そして、この早朝には珍しい顔に、大野は驚きながらも声をかけた。

 

 

「珍しいな、こんな時間に起きているのも。」

 

「だよな。俺もそう思う。」

 

 

寝坊常習犯。

早起きとは無縁のこの相棒の登場に少し動揺しながらも、大野は少しずつ身体を動かし始めた。

 

時刻はまだ、朝の5時。

秋とはいえ、この時間帯は少し冷えた。

 

 

身体を温めるためにも、早々に走り始める2人。

 

ある程度体感の温度が落ち着いてきた頃、ようやく話を始めた。

 

 

先に口を開いたのは、大野であった。

 

 

「あと三ヶ月は試合できないんだよな。」

 

「オフシーズンだからな、早くても三月の練習試合だし。」

 

 

野球というスポーツは、冬季の期間中はオフシーズンという形で対外試合を禁止している期間が設けられている。

 

 

都内や温暖な地域と冬季に雪が降ってしまい練習がままならなくなる地域との不平等をなくすということを目的に作らせた制度。

 

グラウンドが寒さで固まって怪我に繋がりやすいというのも理由の一つ。

あとは、肩肘に負担がかかりやすいスポーツというのもあり、休ませるという理由もあるだろう。

 

 

そんなこともあり、一般的には体力作りに充てられることが多い。

 

 

「まあ、一から作り直すにはいい機会、だよな。」

 

「…そうかもな。」

 

 

この時はまだ、御幸も大野がどちらに転ぶかわからない。

彼がどうするのか、まだ直接的には聞いていないから。

 

ツーシームを止めるのか、それとも投げるのか。

 

 

しかしその表情をみれば、彼が何を考えているかはなんとなく分かった。

 

 

「なあ、一也。」

 

「なんだ?」

 

 

少し息が上がり始めた頃、大野が足を止める。

それに伴って御幸も足を止める。

 

 

白髪というには、艶がある。

少し黄金色に艶めいている成宮とは違い、純粋な白で形成される白銀の髪。

 

長い前髪が、冷たい風に靡く。

 

 

そしてその切長の目の中央に入っている水晶のような青い瞳は、まるで人形のよう。

吸い込まれるような瞳を、御幸も真っ直ぐに見つめた。

 

 

「俺はまだ、力が足りない。成宮に勝つことも、全国制覇をすることも。エースが今の大野夏輝ではそこに辿り着くことはできないと思う。」

 

 

その視線が空に向けられる。

まだ暗い空には、紺色に色づいたままだ。

 

 

「変わらなきゃいけない。削るのではなく、俺という存在を創り直す。」

 

 

確かに秋大では優勝した。

しかしその時、マウンドにエース大野夏輝はいなかった。

 

そのため、彼の投手としての記憶は、あの夏の敗戦で止まっているのだ。

 

 

 

創り直す。

言うのは簡単だが、長い年月ををかけて積み重ねてきたものを変えると言うのは、難しい。

 

しかし大野は、言った。

 

 

現状維持ではなく、あくまで成長を。

リスクを負ってでも高みを目指すことを、選んだ。

 

 

その理由は、単純なものだった。

 

 

 

 

「みんな、いい意味で変わった。成長している中で俺だけ現状維持じゃ、置いてかれちまうからな。チームのために、俺も変わらなくてはいけない。秋大は、何も出来なかったから。」

 

 

そう言って、大野は遠い空を見つめる。

 

まだ見えない自分の、未来の姿。

良くも悪くも、変わることが必要だと。

 

 

「夏輝、お前はみんなが変わったって言うけどな。」

 

「なんだよ、急に喋り始めやがって。」

 

「いいから聞け。」

 

 

御幸が言い切ると、大野は押し黙る。

 

基本的には冗談で返したり、毒を吐いたりするこのやり取り。

しかしいずれかが本気の時は、必ず真剣になる。

 

そこら辺の常識は弁えているし、何より互いにとっての大切な事が多いため、割と真面目に聞く。

 

 

「お前が変わるっていうから、先に言わなきゃ行けないことがある。この際だから、お前に考え方を改めて貰わなきゃいけないからな。」

 

 

ここで、御幸は覚悟を決めた。

 

息を吐く。

何となく鼓動が早まっている感覚がしながらも、御幸は構わず口を開いて話を始める。

 

 

 

「チームは変わった。1年生2人はお前に次ぐほど成長したし、野手も本当に良くなった。」

 

 

沢村と降谷は、技術的にも精神的にも大きく成長した。

前園と倉持は、大会中にその打撃を開花させた。

 

 

「でもな、それもお前だったんだ。あいつらが変わったんじゃない、お前が変えたんだ。だから夏輝。何も出来なかったなんて言うな。お前が居たから、勝ったんだ。」

 

「俺が、変えた?」

 

 

御幸が、頷いた。

 

沢村と降谷が大きく成長したのは、大野がいたからこそ。

 

絶対的エースという大きな背中を見てきたからこそ2人は、そこを超えるために練習してきた。

 

そして何より。

夏の大会での覇気を見たからこそ、目指してきたその場所の厳しさを知った。

 

 

小山の大将などではない。

巨大な城ほど、その道のりは厳しい。

 

 

ならば、生半可な気持ちではいけない。

覚悟を決めて、その彼を超えたいと思ったから。

 

 

大野夏輝という絶対的エースを追いかけてこそ、成長したのだ。

 

 

 

 

野手もまた、然りだ。

倉持や前園のように、実際に助言を受けて急成長を遂げた者もいる。

 

しかしそれ以上に。

 

あの夏の敗戦が、野手の大きな発奮材料となった。

 

 

 

夏の都大会決勝。

稲実との最終決戦、成宮と大野の独壇場となったエース対決。

 

両者の圧倒的な投球で迎えた延長戦、遂に2人は力尽きた。

 

 

1点でも取れていれば。

 

そんな後悔と不甲斐なさが心を占める中。

マウンド上で崩れ落ちたエースを、呆然と見つめることしか出来なかった。

 

 

これが、2年連続。

経過は違えど、同じような結末を二度辿った。

 

 

もう、負けてはいけない。

だからこそ、バットを振った。

 

あの時の記憶が、鮮明に残っているから。

 

弱音を吐いたことがない彼が泣き崩れた姿が、全員の脳裏に刻み込まれたからこそ、必ず「打って勝つ」と誓った。

 

 

 

そのお陰か、昨年よりも攻撃力が大幅に落ちると言われていた前評判を覆して、大量得点で勝利を収め。

 

総合力で言えば、一つ上と肩を並べるほどに成長できた。

 

 

 

 

「お前と勝ちたいんだ。俺たちは。エース大野夏輝がマウンドにいて、俺たちが守っている。監督が、落合コーチがベンチにいる青道高校で甲子園に行きたい。」

 

 

成長できた自分達と。

骨身を削って投げ続けた、エースと。

 

上の舞台に行きたい。

 

 

「だが俺に、そんな権利があるのか。監督の進退が問われる大事な試合でも投げられず、二度も夏を終わらせた。」

 

「背負ってくれたお前だから、任せたいんだよ。」

 

「だが俺は…。」

 

 

尚も渋い表情を浮かべる大野。

 

夏の敗戦に加えて、秋大は怪我で投球禁止。

エースを任された大野にとってできることは、チームのために尽くしてきた。

 

その上で、チームは秋大で優勝。

春の甲子園への切符を、手に入れた。

 

 

だからこそ、二度の敗戦を喫した自分が本当に必要なのかどうかすら感じていた。

今までの投手しての自分では感じたことのなかった感情だったのだが、投げられない期間を経て大野の中で生じた新たに生まれた負の感情だった。

 

 

元々自己肯定感が低い、というよりは実力を過小評価している節はある。

そして何より、責任感が人一倍強い男。

 

 

 

投げられなかったこの期間。

彼の中では、「自分の必要性」を感じなくなってきていた。

 

 

 

そんな様子を見た御幸は、ため息をつきながら答えた。

 

 

「めんどくせー男だな、ほんと。」

 

「うるさい。」

 

 

 

そうして、ペースを上げる大野。

それについて行く形で、御幸が追いかける。

 

するとまた違う方向から声が届き、思わず大野は歩みを止めた。

 

 

「なんや朝から元気やな。」

 

「あれ、御幸いんの珍しいな。」

 

 

これまた、朝からバットを振る野手の面々。

 

前園に倉持。

そして白州と、同学年の主力である

 

彼らもまた日課でバットを振っているのだが、今日は少し早くきていた。

 

 

「昨日からピッチング再開したんやろ?なんか力になれることあったら言うてくれや。俺たちだって手伝ってもらったんやからお前の力になりたいんや。」

 

「センバツ勝つにはお前いなきゃどうにもなんねーからな。頼むぜエース。」

 

 

前園が笑顔でそう言い、大野の左肩をパンと叩く。

すると大野の中で何か、たかが外れたように頬を大粒の涙が通過した。

 

 

「あ、ゾノが泣かした。」

 

「嘘やろ!おいどうしたんや大野!俺なんかあかんこと言ったんか!」

 

「あーあ、ゾノ泣かしたわ。」

 

「じゃかし!」

 

 

てんやわんやの青道グラウンド。

少し落ち着いて、大野が泣き止むと、御幸は大野に向けて言った。

 

 

「だから言ったろ。お前が変えたんだって。」

 

「うん。」

 

「だから、このオフだけは、お前のためだけの時間に当ててほしい。」

 

 

これまでは、沢村や降谷など投手の面倒を見ながら練習をしていた。

 

エースとしてチームの底上げをしなければいけないとわかっていたから。

チームの勝利を第一に考えてきたからこそ、そうしてきた。

 

 

だからこそ。

この、最後の冬。

 

 

大野には、自分のことだけに集中して練習して欲しかったのだ。

 

 

「ありがとう。みんな。」

 

 

赤く腫れたその目で、大野が顔を上げる。

珍しいその姿に集まっていた面々が笑うと、そこにこれまた珍しい刺客が。

 

 

「意外と盛り上がっているな。」

 

 

そう言ってきたのは、コーチである落合。

 

先ほども言ったが、まだ朝である、

全体練習も始まっていないこの時間に投手コーチが来ることは、中々ない。

 

 

だからか、困惑の表情を浮かべる大野に落合がその旨を伝えた。

 

 

「御幸に呼ばれたんでな。こんな朝からよくやるもんだ。」

 

「コーチ、昨日の答えが出ました。」

 

 

昨日の答え。

 

肘の怪我の原因を作った可能性が最も高いツーシームを捨てるか。

それとも、別の可能性を見出すか。

 

 

まあその答えは、初めから出ていたようなものであった。

 

 

「日本一のチームには、日本一の投手がいなくてはな。」

 

「ええ。まだ力不足ですが、よろしくお願いします。」

 

 

落合が言うと、大野も笑顔で答える。

そして落合は、御幸に対しても言った。

 

 

「御幸。長いオフになる。付き合ってくれるな?」

 

「もちろん。焚き付けたのは自分ですからね。」

 

 

 

 

青道高校エースの。

 

否。

投手、大野夏輝の長いオフが、始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







落合コーチがどんどん聖人化してしまう。


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