燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード119

 

 

 

 

 

 

寒空の快晴。

冬に近づいてきた秋の空は、とにかく澄んでいる。

 

 

オフシーズンに突入した俺たち青道高校。

 

各々が個人のレベルアップや体力作りに勤しむこの期間。

俺も例に漏れず、これからトレーニングが始まる。

 

 

投手として。

ただの能力向上ではなく、チームのエースとしてでもなく。

 

 

純粋な投手としての能力を、引き上げていく。

 

 

俺が、俺自身であるために。

 

 

 

 

 

「準備はいいか。」

 

「ええ、大丈夫です。」

 

 

 

そうして用意された、タブレット端末に目を向ける。

 

幾つも小分けにされた動画。

小さな画面に写っているのは、各試合の自分の投球シーンだ。

 

 

最後の本格的な投球からかなりの期間が経ってしまっているため、あらためて自己分析から。

 

と言うことで、夏の大会の各試合と夏の練習試合。

そして、昨日の投球の参考映像を用意してもらった。

 

 

 

ノーワインドアップから、体の正面を三塁側に向ける。

振り上げた左脚をゆっくりと後方に持っていき、打者に背中に見える位置まで捻転させるとそこで一瞬静止。

 

そこから肘を豪快に振るい、始める。

 

 

体の開きを抑えながら踏み込み。

全身を縦回転させ、オーバースロー。

 

打点の高さにより生まれる位置エネルギーと、強いスピンによる異常な回転数。

そして純粋な縦回転から生まれるマグヌス効果により吹き上がるようなフォーシームが投げられるようになる。

 

 

さらにそのツーシームもまた、このフォームが影響しての変化になる。

 

極端なほどの縦回転に反してさらに肘を捻り込みながら人差し指で押し込むことができるからこそ、横に変化しながら縦に大きく沈む。

 

 

 

これが大野の、特徴的な投球スタイルを形成している。

 

投球フォームが縦回転がメインということもあり、スライダー系の変化球はあまり得意ではない。

そしてフォークは、個人的に回転がかかりすぎて球速が落ちにくい上に変化が小さく、それならツーシームでいいとなってしまう。

 

 

あと、大会後に投げ始めたボールといえばカットボールか。

変化としてはスライダー系に近いのだが、高速で小さく変化する。

 

いわば、ツーシームの反対側に変化するボールだ。

投げ方自体も、通ずるものがある。

 

 

 

話が脱線したな。

 

とりあえず、動画の方に戻ろう。

 

 

 

「今のが、夏大の初戦だな。」

 

「次が、薬師高校ですかね。」

 

 

次に映し出されたのは、さらに炎天下の日のグラウンド。

俺がこの大会で2番目にできが良かったと感じたマウンドだ。

 

 

 

この日はストレートのキレがとにかく良かった。

なのだが、特段他に異変というか、普段と違うところはなかった。

 

 

 

そして、問題の稲実戦。

これもまた、序盤は全く同じフォームなのだが。

 

 

「このイニングからか。」

 

「何がですか?」

 

 

コーチが動画を一度止める。

そして、薬師との試合と見比べるように再生した。

 

 

6回の裏。

富士川と成宮にヒットを許し、ピンチを背負った中盤戦。

 

1番から始まる上位打線に対して、ストレートの真っ向勝負。

その上で、3者連続の三振で切り抜けた。

 

 

「お前の球質が一気に変わったところだ。」

 

「確かに、あのイニングから俺の中で、別の感覚が生まれた気がしました。」

 

「ほう、別の感覚と言うと?」

 

「なんと言いますかね。俺が今まで感じたことなかったと言いますか。いつもより格段に力が入った感じがしました。」

 

 

何故かはわからなかったが、いつもよりもたまに力が乗っている気がしていた。

 

いつもは、捻転したのちに少し抜けていってしまう感覚があったのだが、この日はその力がそのまま球に力が乗って速くキレのあるストレートが投げることが出来ていた。

 

 

 

「確かに、球にも力があったな。いつもより球威がある感じしたし。」

 

 

一緒に見ていた御幸がそう言うと、コーチも右目を瞑る。

そして、その顎に蓄えられた豊かな髭に手を当てて、言葉を発した。

 

 

「トルネードをした後にできる若干の溜めが少し大きくなった。それに伴って、腕の振りが大きくなっている。上手くバランスが合って球に力が乗ったんだと思うぞ。」

 

 

確かにそうだ。

溜めがワンテンポ長い気がするし、その後の腕の軌道も普段と少し違う。

 

だからこそ、あの球が投げられたのか。

 

 

「しかし、肘が後ろに引かれ過ぎている。こいつの可動域が広い故にでくる芸当で出力は出るかもしれないが。」

 

「その分、肘は壊れると。」

 

 

人間とは、本来投げる動作をするようにできていない。

 

さらにその可動域の限界を超えて投げていたのであれば、壊れるのは当然だ。

 

 

「ならどうすれば。元の投げ方に戻せば治ると。」

 

「それはそうだが、まず無理だな。変化して一度定着したものを戻すのは容易じゃない。」

 

 

ならばどうするか。

現状維持のつもりは毛頭ないわけだし。

 

同じような使い方ができて、負荷がかかりにくい投げ方か。

 

 

「そうだな、肩周り…と言うよりは広背筋を大きく使うのがいい。」

 

「広背筋ですか。」

 

 

背中に広がる大きな筋肉。

これを投球時に使えればかなり有効なのではないか。

 

 

要は、肘だけでは耐えきれない負荷を他の部位に回すと言うもの。

肘という腱が集中していながら筋力がつけられない箇所ではなく、上半身で使える大きな筋肉を使う。

 

 

 

「少しの違いにはなるが、投球フォームを少し変えていこう。」

 

「具体的には。」

 

「肘の上げ方を変える。無理にしなりを作るよりは、最短距離を走るように腕を振り上げる。」

 

 

イメージしやすいのは、メジャーの選手か。

 

投げ方的には少しコンパクトに見えるが、肘が詰まらない分負荷がかかりにくい。

あとは、腕が背中近くの軌道に行けば、それだけ無理な体制になる分痛めやすい。

 

なので、できるだけ身体の前で完結させるようにする。

 

 

あとは、若干アーム気味に。

これは本当に気持ち程度。

 

 

「ん?アーム投げって怪我しやすいイメージあるんですけど。」

 

「肩に負荷がかかりやすいからな。肘の怪我のしやすいお前にとっては今より怪我しにくいはずだ。」

 

「肩も可動域広いし、柔らかくて強いしな」

 

 

コントロールは多少ブレるかもしれないが、広背筋を使う意味では今より力を出せる可能性も出てくる。

そのため、負荷軽減と共に球威も上がるのだ。

 

 

ただ懸念点とすれば、出どころが多少見やすくなること。

しかし投げられないよりはマシだ。

 

 

 

 

要点をまとめると、変更点は以下の通り。

 

・捻転時の静止で1テンポ多くためを作る。

・テイクバックと肘の上げ方を変更。

・捻転時に少し腕を伸ばし気味にしてアーム投げの要素を入れる。

 

 

あとは、これをオフの期間に投げて定着していく。

 

 

 

 

ゆっくりフォームを組み立てていく。

フォームがためだけでなく、トレーニングでさらなる飛躍を。

 

力をつける。

過去の俺を超える。

 

 

 

来るべき、冬が明ける時まで。

 

 

 

 

 

 

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