燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード120

 

 

 

 

季節はあっという間に流れ。

既に、冬のど真ん中に入っていた。

 

 

「寒いからしっかり解せよ。特に冷えてる時こそ体が大きく使いにくいもんだ。」

 

「わかりました。」

 

 

吐き出す息が、白く可視化して見えるほどには、気温は落ちている。

 

いついかなる時でも、やはり冬はあまり好きではない。

寒いと怪我のリスクにもなるし、何より試合ができない。

 

 

まあ、だからこそやれることもあるのだが。

 

 

 

 

投球フォームを改造してから、早一ヶ月。

 

12月なかば。

学生としても、冬休みが近づいてきたこの頃。

 

 

投球フォームもかなり形になり、それぞれの球種も同じようにコントロールできるようになってきた。

まだ完璧なまではいかないが、沢村と同じくらいにはコントロールもまとまる。

 

スピードは、冬ということもありまだそんなに出ない。

これはまあ、徐々にだな。

 

 

 

さて、今日の本題だが。

少し、変化球に関すること。

 

 

この期間に投げているのは、まずフォーシーム。

あとは、感覚が染み付いているカーブとツーシームだけだ。

 

実戦でも決め球になるこの球だけを投げているのだ。

 

 

しかし、この期間のうちにできればもう一球種決め球に使えるボールがほしいと思っていた。

 

 

 

「使うならスライダー方向か。落ちる球が一番だが、ツーシームがあるからな。」

 

「斜め下に曲がるやつ投げたいんですよね、少しスピードの落ちたやつ。」

 

「ああ、悪くはないな。三振をとりにいくスライダーは武器にする投手も多いからな、持っているに越したことはない。」

 

 

元々スライダーは投げていたが、基本カウント球。

キレも変化量も、そんなにいいものではなかった。

 

だから、それが決め球になればいいと思う。

 

 

 

しかし、何球か投げていると、落合コーチは言葉を漏らした。

 

 

「お前、スライダーなげんの下手くそだな。」

 

「ええ、自覚あります。」

 

 

何回投げてみても、変化が緩い。

変化も小さいし、とても追い込まれてから空振りを奪えるような球ではない。

 

切る感覚も抜く感覚もあるのだが、捻りながら切るスライダーはあまり得意ではない。

 

 

「少しカット気味に投げてみろ。案外その方がスピンがかかってよく曲がるかもしれん。」

 

 

少しカット気味か。

となると、握りも変えてみるといいかもな。

 

少しフォーシームから握りをずらし、投げてみる。

やはり変化は、小さかった。

 

若干キレは良くなったが、これではただのカットボールだ。

 

 

 

「ツーシームの握りで投げる。一也、多少暴走するかも。」

 

「わかった。」

 

 

御幸が構えたコースは、左バッターインコースの胸元。

 

カットを投げるのでは、一番変化しやすいコース。

ここに向けて、ゆっくりとモーションに入る。

 

 

 

(あんまり、変化させようとするな。)

 

 

ツーシームは、そうだった。

なら多分このボールも、無理に変化させる必要はない。

 

要所だけでいい。

全身で、投げる。

 

最後の一手で、力を入れる。

 

 

(ここ。)

 

あるタイミング。

身体の中でどこか歯車があったような瞬間に、一気に人差し指で強いスピンをかける。

 

さらに、思い切り肘を捻り込んだ。

 

 

普通のスライダーより強い回転。

ミットに対して水平にかかっている、いわゆるジャイロ回転。

 

弾丸のような回転をしたこのボールは、御幸に向けてまっすぐ進んでいく。

 

 

そして、ベース盤手前。

急激に変化し始める。

 

俺の利き腕とは反対側。

弾丸のような回転をしたボールは、伸びながら曲がった。

 

 

「…は?」

 

御幸のミットに触れることなくすり抜けた白球。

それが、コロコロと転がるのを、俺たち3人は唖然として見つめていた。

 

 

 

明らかに、さっきまでとは違った。

 

キレ、そして変化量。

共に、圧倒的だった。

 

 

何より、他とはまるで違う軌道だった。

 

斜め下に変化するはずのカットボール。

もしくは、高速スライダー。

 

なのに今回のボールは、加速しながら曲がった。

 

 

「今のボールは?」

 

「カットのつもりで投げたんですが。最後に思い切り切るのと、ひねる要素を少し強くしたんです。」

 

 

そしたら、ノビがある状態で一気に曲がった。

 

ジャイロ回転と言うのもあって空気抵抗を受けにくい分ブレーキがかかりにくい

だから、加速しながら曲がるのだろう。

 

 

「同じように投げてみろ、今度はもっと力を入れて。」

 

「わかりました」

 

 

さっきの力配分で、大体7割くらい。

ならもう少し力を入れたら…。

 

 

今度は、打者に向けて少し吹き上がるようにホップして曲がった。

 

 

「今度は浮いたか。」

 

「少し待て、俺の情報処理が追いつかん。」

 

 

そう言って、コーチが俯く。

 

確かに、変化球で浮き上がるなんて聞いたことがない。

投げている俺もその真相は、よくわからないのだ。

 

 

無論、本当に浮き上がっているわけではない。

ただフォーシームと同じように、揚力を受けて沈む幅が小さいだけなのだ。

 

 

 

「回転軸が完全に垂直なわけじゃないのか。少し軸が利き腕側にズレているから、フォーシーム同様揚力を受けてホップ成分が生まれるのかもしれない。」

 

 

 

その上、最後にかかるスピン量が多いから、独特の軌道を描くらしい。

 

 

コーチが顎に手を当てて、そういう。

なるほどわからん。

 

 

要は、ストレートとカットボールの間というわけか。

だから球速がそのまま、尚且つホップ成分もあり打者の真横に変化する。

 

 

「肘はどうだ。」

 

「特に違和感はありません。まだコースの制御はできませんが。」

 

 

アームにした影響か、これを投げてもあまり痛みはない。

それどころか、肘の違和感も特にない。

 

 

「あれだけ制球できるのであれば十分だろ。なあ、御幸。」

 

「ええ。ある程度決めてくれるだけで打者は空振りしますよ。」

 

 

なるほど。

 

何はともあれ、痛みが出ないのであれば決め球に使えるはずだ。

変化量もしっかりあるし、軌道上内野フライが欲しい時に使える。

 

 

案外あっさり決まってしまったこの決め球問題。

 

ふと、御幸がとあることを言い出す。

 

 

「あれ、そういえばお前、沢村がチェンジアップの練習してた時試しに投げてたよな。」

 

 

ああ、確かに。

そういえばそんなはなしもしていた気がする。

 

というか、コーチにコツを聞いたら俺まで投げられたということがあった。

 

 

「ああ、中指と薬指でリリースするって話ね。あの時以来投げていないな。」

 

「そうだな。あん時も正直沢村よりも良くスピードが落ちていたし、使えるんじゃないか。」

 

 

と言うわけで、これまた投げてみる。

 

秋大中の投げれない期間ですらしっかり投げれていたと言うこともあり、こちらはすんなり投げることができた。

 

 

成宮のもののように、落ちたりはしない。

どちらかというとスローボールのような、本当に緩急だけで打ち取るものだ。

 

変化量も大きいわけではない。

 

しかし、轟のように早い変化に対応できるバッターには使えるかもしれないな。

肩肘の負担も、変化球の中では一番小さいし。

 

 

これで使える変化球は、4つ。

冬前に投げているのも含めたら、6つになった。

 

 

 

これで俺の新しい武器探しは、冬の期間中に新たに2つ見つかってしまった。

 

 

 

 

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