今回はかなり短いです。
そしてオフは、今回までです。
次回以降、選抜大会編に入っていきます。
「くああ。おはよ、金丸。」
「おはようございます、大野先輩。」
部屋の中でも漂う、冷たい冷たい風。
乾き切ったこの風にため息が出そうになるも、部屋の後輩にゼリー飲料を渡した。
「あざっす。珍しいすね、大野先輩と同じ時間ってのも。」
「今日から冬合宿が始まるからな。流石に俺も、この期間は走る余裕がない。」
時期は、年の瀬が近づいてきた12月後半。
この季節、俺たち青道高校が伝統的に行なっている地獄の冬季合宿がある。
試合形式ができないオフシーズンということもあり、基本的には体力づくりが中心。
技術練習もあるが、それでも個人練習が主となる。
そのため、精神的にも肉体的にも鍛えられる合宿なのだ。
「そんなにきついんですか。」
「まあな。トレーニング自体はそうでもないんだが、やはり連日やるとな。筋肉痛と疲労で体が動かなくなるから、日が経てば経つほどきつい。」
さて、待っていても仕方ない。
軽く準備して、金丸と共に外に出ていく。
まず朝からランニング。
身体を起こす意味も込めて、そして調子を確認するように。
「おっはようございます夏輝さん!」
「おはよう、相変わらずうるさいね。」
耳に指を突っ込みながらそう答える。
この男、本当に朝から元気である。
しかしこの明るさがどこまで持つのか。
早朝は、個人でのバッティング練習。
ティーバッティングや素振りなど、それぞれが行う。
あくまでメニューは、個人の能力を鍛えるもの。
見つめ直し、身体に染み込ませる。
朝の練習が終わると、朝食。
まあみっちり練習して消耗したエネルギーを回復。
そしてこれから消費するエネルギーを蓄える為に、とにかく量を食べなければならない。
いつも以上にしっかり入れる。
去年は後半ガス欠だったからな。
しっかりエネルギーは、入れられる時に蓄えておこう。
日中は、サーキット中心。
跳躍や自重、無酸素運動なども入れながら全身運動。
効率よく身体に負荷をかけ、尚且つ強度も高い。
そして、夜。
日が落ちてからは、地獄のランメニューが待っている。
長距離ランからインターバルのような高強度のダッシュトレーニングまで幅広く行う。
まあ、これが本当にきつい。
何がきついって、日中散々下半身をいじめ抜いているから、体がついてこない。
「頭を上げろ、背中を丸めるな!」
監督からの檄が、度々とぶ。
この人も良くやるもんだ。
朝早くから夜遅くまで、最後までずっと付き合ってくれる。
まあこのクソきつい中だと鬱陶しいと思うのが、学生の本音だと思う。
これが、約1週間続く。
夏合宿とよく比較されるのだが、これは比にならないほどきつい。
追い込み時期というのもあり、体力的にも精神的にも追い込まれていくのだ。
「大丈夫か、沢村。」
絶賛足元で死んでいる沢村。
まあ一年なんかは、初めてだもんな。
俺も最初はかなりきつかったのを覚えている。
というか、俺も実際クソきつい。
立っているのがやっとだ。
だが後輩が倒れている反面、エースである自分は意地でも立っていないといけないと思っていた。
「エースになるんだろ。なら辛い時でも突っぱねろ。エースは背中を汚さない。」
「余裕です、夏輝さん!」
そうして、慌てて立ち上がる沢村。
足は震えているが、よくやっている。
「宜しい。さ、飯行くぞ。」
「うっす。」
そんなこんなで、冬の合宿もどんどん進んでく。
下半身も上半身もバキバキになり、各所が悲鳴をあげているのを感じてきた。
そんな合宿も気がつけば最終日。
年明けも間近に迫っている中、最後の夜を迎える。
棒のように硬く、鉛のように重くなった脚を最後まで動かす。
倒れ込みそうになる降谷を抑え、立ち上がらせる。
無理もない。
夏合宿もある程度余力の残っていた俺ですらギリギリなのだ。
体力のない降谷はとうに、限界を超えている。
しかし、俺はあえて強い口調で言った。
「俺に勝つんだろ。ここで折れてどうする。」
「はい。」
すぐに降谷が立ち上がり、走る。
夏に誓いを立てたのは、俺だけではない。
あいつもまた、悔しい地獄のような思いをしてきたんだ。
そして秋大の決勝。
彼は志半ばで力尽きた。
エースになる。
そんな男は、こんなところで折れていてはいけないのだ。
最後のランメニューを終えた時、少し空が明るくなり始めていることに気がつく。
日が登ってきたか。
そう思い、今年の練習も終わったのだなと実感が湧いてきた。
今年も長かった。
できなかった期間があったからこそか、とても長く感じた。
来年で、とりあえず節目を迎える。
高校球児として、当たり前に野球ができていた時期は、夏までだ。
そこから先は、未知の世界だ。
まあ、今はそんなこと考えることはないか。
今はただ、このメンバーで甲子園に行く。
それだけを考えて。
チームのメンバーが並び、登る日に向けて一つ礼をした。
明くる年の、その新たな日に。
一つの誓いを、込めて。