燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード122

 

 

 

 

 

 

晴天の春。

果てしなく、青い。

 

 

まだ3月だというのに、なんだか蒸し暑い。

 

むせかえるようなそんなこの熱気。

まだ会場に入っていなくてもわかる、この空気感。

 

 

全国高校野球選抜大会。

春の甲子園だとか、選抜とか呼ばれるこの大会。

 

春季とはいえ、甲子園。

夢の舞台に、到達した。

 

 

 

 

 

実感なんてない。

何せ、俺はほとんど何もしていないのだから。

 

 

だけど、届いた。

夢の舞台に。

 

 

ベンチでタオルを被り、俺は息を吐いた。

 

 

「緊張しているな、珍しく。」

 

 

声の主を、横目でみる。

蛙のような見た目に、確かな投球理論を持っているこの人は、俺のオフに大きな影響を与えてくれた。

 

 

「甲子園ですからね。空気感はやっぱ違いますよ。」

 

「安心しろ。マウンドはマウンドだ。どこだろうが、それは変わらない。」

 

 

コーチが笑顔でそう言う。

そして俺も、笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

息をもう一度吐き、俺は立ち上がる。

頭に乗せられたタオルをベンチに置き、目を閉じる。

 

ここが、甲子園か。

 

 

実感と、微かな緊張。

今までなかった感情に、俺は思わず笑ってしまう。

 

 

「大野。」

 

「はい、監督。」

 

 

褐色肌に強面、そしてサングラス。

明らかにそっちの方面に精通してそうな顔だが、野球一筋である。

 

 

「エースは時に、孤独なものだ。俺も最後に信じられたのは、自分だけだった。」

 

 

目は合わない。

だけど確かにわかる。

 

この人もまた、同じ番号を背負ったのだ。

 

 

「優れたエースは、エゴイストでなくてはいけない。自分勝手になれた時、投手は本当の意味で覚醒することができる。自分を信じろ。」

 

 

監督の言葉に、頷く。

俺は置かれたグローブに手をかけた。

 

 

 

声の圧が。

大地の熱が。

空の透明感が。

 

何もかもが、ひさしぶりだ。

 

 

グラウンド中央に用意された、小さな山。

ここが、投手だけに用意された、玉座だ。

 

 

ここからの景色を、どれだけ待ち望んでいたか。

 

 

 

大きく、深呼吸。

そして、そこに置かれた小さな板に手を置いた。

 

 

帰ってきた。

ついに、俺の場所に。

 

打者としてやってきたが、やはり俺の居場所はこのマウンドだけなんだ。

 

 

 

目を瞑り、胸に手を当てる。

そして、息を大きく吐き出す。

 

不安、緊張、雑念。

全てを吐き出し、己の投球に集中できると確信した時。

 

 

俺は、ゆっくりと目を開いた。

 

 

 

「いけるか。」

 

「勿論。」

 

女房役である御幸に言われ、最低限で答える。

半年前と同じようなやりとりに若干安心しながらも、俺は肩を小さく回した。

 

 

「体の調子は?」

 

「気にしすぎだ。大丈夫、俺は投げられるよ。」

 

 

俺がそう答えると、御幸は笑って俺の胸にミットを当てた。

 

 

「馬鹿、鼻から心配なんかしてねーよ。全部使ってくからな、ちゃんとついてこいよ。」

 

「わかっている。」

 

 

離れていく御幸。

それを見つめながら、プレート横に置かれたロジンバックに手を当てる。

 

白い粉塵が宙を舞い、消える。

 

 

 

「行こうぜ大野!」

 

「ヒャッハー!一つずつな!」

 

「後ろはまかしときい!」

 

 

バックの声に安心し、頷く。

 

なんとなく、足が浮つくが、抑える。

珍しく、緊張していると言うのは、あながち間違っていないかもしれない。

 

 

もう一度、念のため深呼吸。

 

戦う準備は、できた。

あとは、投げるだけだ。

 

 

 

 

 

 

まずは、切り捨てる相手が1人。

 

先攻めは、九州代表の宝明高校。

先頭打者の三森が打席に入った。

 

 

俊足巧打。

王道を行く、リードオフマン。

 

前大会でも高い出塁率から塁上の揺さぶりを行うという、得点に絡むことの多い選手。

 

これをまずは、しっかり抑えること。

御幸に口酸っぱく言われてきた。

 

 

(最初から全開で行く)

 

(だろうと思ってた。コースには決めろよ。)

 

 

頷き、モーションに入る。

ノーワインドアップから全身を三塁側へ向ける。

 

腰を回転、トルネード投法から全身を縦回転。

 

 

(ここ。)

 

 

最後の一押し。

自分の中で最後の歯車が噛み合った時、指先の力を一気に加える。

 

 

 

狙ったコースは、外角の低め。

俺が幾千もの回数投げ込んだ、俺の最も得意とするコース。

 

打者視点から見ると最も遠いこのコース。

 

このコースに、完璧に決まり。

審判の右手が、上がった。

 

 

 

「ストライーク!」

 

 

そこは一杯か。

ここから「今日の幅」を確認する。

 

2球目、同じようなコース少し外。

これもストライク判定、さっきよりも幅を広げた。

 

 

(今日の調子をみる、いいな。)

 

(わかっている。)

 

 

今更お前のリードに文句など言うか。

そう内心で呟きながら、俺は最後の一球を投げ込んだ。

 

 

最後はもう少し、外。

気持ちボール気味かなと思うようなストレート。

 

しかし審判の手は、上がった。

 

 

「ストライク、バッターアウト!」

 

思わず、審判に振り返る打者。

無理もない、ボールと言われても仕方のないボールだったからな。

 

しかし「今日の審判」は、そこを取る。

どうやら今日は、外に広いらしい。

 

 

「OK、ナイスボール!」

 

 

御幸から白球を受け取り、頷く。

 

 

続く打者は、田口。

典型的なアベレージヒッターで、ミートが上手い。

 

タイプ的には、薬師の秋葉に近いか。

彼よりパワーは、ないと思う。

 

 

(当てさせたくないよな。)

 

(使おう。暴走の可能性も捨てきれないから、早めに選別するのも悪くない。)

 

 

練習試合で何度も投げてきているが、公式戦では初めて。

だからここで、試しておく。

 

 

まずは、ストレート。

初球を見逃されて1ストライク。

 

続く2球目、真ん中低めの球。

コースは、甘い。

 

これに振りにくるも空振り。

 

甘いコースからボールゾーンに逃げるツーシームで早くも追い込んだ。

 

 

(いいコース。)

 

(遊び球は?)

 

(いらないだろ。ここで決めたい。)

 

 

御幸のサインに一瞬止まるが、頷く。

 

公式戦初か、投げるのは。

ここで投げきれなきゃ、意味がない。

 

 

ツーシームから握りを少しずらし、息を吐く。

 

狙ったコースは、インコース。

コースはあくまで、目安で。

 

浮き上がる軌道を生かすのであれば、高め。

 

 

回転の意識は、ジャイロ回転。

最後に人差し指で引っ掛けると同時に、肘を捻って回転を強くかける。

 

 

ストレートと同様の軌道。

そこから、真横に滑るように大きく曲がる。

 

ボールは、田口のバットの上をくぐり抜けるようにミットに納まった。

 

 

『2者連続三振!最後はスライダーで田口を三振に切ってとります。』

 

 

オフに手に入れた、ジャイロ回転のカットボール。

新たなる武器で、2つ目の三振を奪う。

 

 

最後は3番。

パワーのある強打者であり、典型的な当たったら飛ぶバッター。

 

ストレート3球で追い込んだ4球目。

この打者に対しては。

 

 

(ツーシームで決めるぞ。)

 

(バックドアで見逃し三振ってのはどうだ。)

 

(最高。決める。)

 

最後は御幸の要求通り。

外のボールゾーンからストライクゾーンに切り込んでくるツーシームファスト。

 

俺のウイニングボールで、見逃し三振を奪った。

 

 

 

 

『三者連続三振!甲子園デビュー戦のエース大野、最高の立ち上がりで闘志全開です!』

 

 

 

 

 

 

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