燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

125 / 283
エピソード123

 

 

 

 

 

 

全国高校野球選抜大会、1回戦。

 

青道高校と宝明高校の試合も、早くも終盤戦。

中盤で一気に点を取った青道高校有利で迎えた7回の表、宝明高校のラッキーセブンの攻撃が始まる。

 

 

4-0で迎えた7回表。

 

マウンドには、変わらずこの男が上がる。

 

 

「まだ行けるな。」

 

「舐めるな。最後まで投げる。」

 

 

ここまで宝明を被安打2の11奪三振で完璧に抑えている、青道エースの大野。

この回もまた、彼がマウンドへと向かった。

 

 

「カットは減らす。必要以上に見せることもないからな。」

 

「分かった。リードは任せる。」

 

「はいよ。」

 

 

女房役である御幸と言葉を交わし、別れる。

そして、グラウンド中心にある小さな山に置かれた、その袋に手を当てた。

 

あと3回。

スタミナも十分。

 

援護も貰い、あとは抑えるだけでいい。

 

 

宝明の攻撃は、クリーンナップから。

一発のある3番が、打席に入る。

 

 

(ストレートに合わせようとしてる。カーブで崩すぞ。)

 

(OK。)

 

 

まずは、初球カーブ。

縦に割れる大きな変化球で、空振りを奪う。

 

御幸の見立て通り、大きな空振りでまずは一つストライクを奪った。

 

 

2球目、同じようなカーブ。

今度はもう少し低く投げ、これにも空振り。

 

 

追い込んだ3球目。

最後は高めのストレート。

 

ボールゾーンに投げて空振りを誘う、所謂釣り球。

 

キレのあるこのボールを打ち上げてしまい、ショートフライ。

カーブの軌道に目が焼き付いてしまったバッターは、完全に振り遅れてしまった。

 

 

 

そんな姿を、4番である岸田はネクストバッターズサークルで見ながら、軽く舌打ちをした。

 

 

(大野なんて聞いたことないぞ。なんでこんなに打てない。)

 

 

過去、甲子園の出場経験はなし。

それに、中学でも全国大会に出ている姿は見た事がない。

 

東京と言ったら、左腕の成宮鳴。

全国でも有数の左腕である彼と肩を並べるほどだと、岸田は思った。

 

 

しかし、泣き言は言っていられない。

ここで負ければ、宝明の甲子園は終わりだ。

 

なんとか繋ぐ。

若しくは、反撃の糸口を掴む。

 

 

そう噛み締め、岸田は左の打席に入った。

 

さほど身体は大きくない。

しかし全身を目一杯使ったトルネード投法が、印象的だ。

 

 

高い打点から振り下ろされる、右腕。

真っ直ぐに伸びてきた直球が、岸田の膝元に決まる。

 

 

速い。

そして、軌道が綺麗すぎる。

 

思わずバックスクリーンに目を向け、またその129km/hという球速表示に驚嘆した。

 

 

(とてもそうは見えないがな。)

 

 

はっきりいって、地区で体感した145km/hよりも速く感じる。

回転数が多いからか、手元で加速するように伸びてくる。

 

それでいて、ストライクゾーン一杯。

この球が、完璧なコースに決まるのだ。

 

 

甘いコースを狙っても、そこには来ない。

前の2巡で、それはわかった。

 

厳しいコースを拾うしかない。

 

 

狙い定めた2球目。

今度は、外角の低め。

 

長打を打つのも難しく、打者視点からしたら遠く感じるこのコース。

 

思わず見逃すも、審判の手は上がった。

 

 

3球目、同じようなコース。

さっきより若干遠いコースに決まるが、審判は手をあげなかった。

 

 

(んー、さっきは取ってくれたじゃん。)

 

(同じコースなんだけどな。ゾーンが可変されると困る。仕方ない、ここで決めるぞ。)

 

 

外角低めのストレートを見送り…というより、手が出なかった。

しかしカウントは、1-2。

 

未だに、投手有利のカウントである。

 

 

(際どいコースは全部バットに当てるしかない。変化球も、なんとか対応するしかない。)

 

 

追い込んでから投げるボールは、勝負の高めのストレート。

若しくは、ストレートとほぼ同速で大きく落ちるボール。

 

あとは、前の打席で見た謎のボール。

軌道としてはストレートに近いが、浮き上がるようにして打者側に切り込んできた。

 

 

 

追い込まれた、5球目。

ボールの軌道は、高めの直球。

 

コースは際どい。

しかし、低めを拾うよりはマシだ。

 

 

(貰っ…)

 

しかし、突如視界から消える白球。

 

勿論、バットは空を切る。

気がつくと、背中から乾いた音が鳴り響いた。

 

 

「ストライク!バッターアウト。」

 

 

鳴り響く、球審のコール。

先の2度聞いたその声に、岸田はバットを握りしめた。

 

 

(くそ、またこれか。)

 

 

ストレートで追い込み、最後は同じ軌道から曲がる変化球。

こちらの打者が何度もやられたそのパターンに、してやられた。

 

 

至って単純な投げ分け。

だからこそ、攻略の糸口が見当たらなかった。

 

ランナーを出せば、ギアを上げて一気に抑え込む。

そうでなくても、快速球と落ちるツーシーム、そしてカーブで躱してくる。

 

 

とても、初見で打てるボールではないと感じていた。

 

 

 

「追い込まれたら、確実にやられる。多少厳しくても、早いカウントで打った方がいい。」

 

 

生まれた2本のヒットは、追い込まれる前にストレートを弾き返した2つ。

勝機は、そこにしかない。

 

 

4番である岸田が5番にそう耳打ちし、次の打者が右の打席へと入った。

 

 

 

 

(2アウト、ここはテンポ良く行きたいな。)

 

 

打席に入るのは、クリーンナップ最後の刺客。

彼を横目で見ながら、御幸は大野にサインを出した。

 

 

(初球から振ってくる。ここは、コレで。)

 

(確かに、早打ちしそうな感じはある。)

 

 

テレパシーばりの意思疎通を当たり前のようにするバッテリー。

 

サインに大野が頷くと、御幸は外角低めに構えた。

 

 

 

まずは、初球。

ストレートの振りで緩い軌道を描くチェンジアップ。

 

完全にストレートに狙いを絞っていたバッターは、これにスイングを崩される。

 

 

(ここでチェンジアップかよ。)

 

 

ストレートに狙いを定めれば、高速変化するツーシームとカットボールが視界から消える。

速いボールに対応しようとすれば、カーブとこのチェンジアップで崩される。

 

そしてコントロールも完璧。

マウンド捌きもスタミナも十分と、手の施しようのない完成度の投手。

 

幾度となく強豪校と試合をしてきた宝明高校のバッターたちも、ここまで完成度が高く投球の幅が広い投手を見たのは、正直初めてであった。

 

 

2球目。

同じようなコースに決まるストレート。

 

これにバットを当てるも、フェアゾーンに飛ばずファール。

 

 

チェンジアップのスピード感が目に焼きついたからか。

ストレートの速度感についてこれていない。

 

 

3球目、ここは外に外れるカーブ。

これをなんとか堪え、1ボール。

 

 

(珍しく遊び球を使うな。)

 

(相手も全国レベルだからな。警戒していくに越したことはないだろ。)

 

(なるほど、そう言うことか。)

 

(次回以降の布石にもなる。ここは、幅を見せていくぞ。)

 

 

最後に出たサインに、大野が無言で頷く。

 

幅を見せる。

手札がまだあるぞという、次以降に当たる相手にも牽制をかける。

 

 

 

ストレート。

外角のボールゾーンに進んでいくスピードボール。

 

 

(外れてる、これは。)

 

 

そう思った瞬間。

突如として変化する、このボール。

 

動いたと脳が理解した時。

 

 

ボールは、ストライクゾーンぎりぎりを掠めた。

 

 

『見逃し三振!最後はバックドアのツーシームです!恐るべき技術、恐るべきコントロール!これが青道高校のエース、大野夏輝です!』

 

 

吠える事もなく、ガッツポーズをするでもなく。

ただ、抑えるのが当たり前と言わんばかりに。

 

悠然と、エースはマウンドを歩いて降りた。

 

 

 

この大野の完璧な投球の前に、宝明打線は完全に消沈。

 

 

 

しかしこの圧倒的な投球を、スタンドから見下ろす1人の男がいた。

 

 

「大野夏輝、か。」

 

 

黒いウインドブレーカーを身に纏い、短髪の球児がその椅子から立ち上がる。

 

甲子園のトーナメント中と言うのもあり、チーム全体で対戦予定のチームの試合を研究するのは当然だ。

 

 

そしてその男は。

 

この大会で、最強と名高い投手である。

 

 

「いくぞ、政宗。」

 

 

無言で頷き、球児はグラウンドに背を向ける。

ふと、もう一度。

 

 

「野球の申し子」は、マウンドのエースに、目を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 






次か次の次に能力解説やります。
夏輝の投球が解禁されたので、現状の能力解説入れます。

記載した方がいる選手がいれば、教えていただければ幸いです。

今のところは青道の主要選手のみです。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。