燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード125

 

 

 

 

空は、青天。

心地良い春風が吹き抜けながらも、暖かい日の光がグラウンドを温める。

 

まだ寒さも残るこの3月。

 

 

春の甲子園は、熱気が漂っていた。

 

 

「巨摩大の先発は本郷かな。」

 

「だろうな。青道も今大会はかなり強いから、巨摩大もベストメンバーで行くんじゃね。」

 

「青道は大野だろ。甲子園初出場とは思えないコントロールだよ。」

 

「いやあ、本郷の方が能力は高いよなあ。」

 

 

観客席から飛び交う、それぞれのチームの先発の名前。

 

どちらも強力な打線を有するのは勿論だが、それ以上にこの2チームに共通しているのは、絶対的エースの存在である。

 

 

青道高校は、3年の大野夏輝。

巨摩大藤巻は、2年の本郷正宗。

 

世代を代表する2人の右腕。

しかし下馬評では、能力の高い本郷有する巨摩大藤巻が有利だと言われていた。

 

 

 

その空気感は観客席を超え、グラウンド内の選手にも伝わる。

 

ここは甲子園。

メディアもいれば、新聞などでも取り上げられるような舞台、多くの声や下馬評などが目に入るのは困難なことではなかった。

 

 

マウンドに向かう大野。

ゆっくりとその小山に向かっていく。

 

 

「夏輝。」

 

 

マウンド手前、軽くジャンプをする大野に、御幸は駆け足気味で声をかけに行く。

 

この声援の殆どが、本郷見たさによるもの。

そしてこの甲子園という、注目が集まるグラウンド。

 

 

少しでもマウンドのエースの緊張を解すために、最善を尽くすのは当然の思考であった。

 

 

「まずは1人ずつな。本郷にプレッシャーかけるくらい、すげえの頼むぜ。」

 

 

無言で頷く、大野。

心配で御幸が少し止まるが、その表情をみて杞憂に終わった。

 

 

あの夏と、同じような目つき。

深く被られた帽子の影からわかる、水晶のような紺碧の瞳が煌めいた。

 

 

「一也、先に謝っとく。」

 

「なんだよ。」

 

 

帽子の鍔に手を当て、大野がフッと息を吐く。

そして、言葉を紡いだ。

 

 

「今日は多分、チームを考える余裕がない。エースとしては不甲斐ないが、他の投手のことは頼む。」

 

 

その言葉に、御幸は思わず目を見開いた。

 

これまでチームの勝利を最優先にし、自己犠牲を厭わなかったこのエースが。

自分の投球に集中してくれるというのは、御幸にとっては嬉しいことこの上なかった。

 

 

「当たり前だろ。それが俺の仕事だ。お前はお前の。大野夏輝という、存在を証明しろ。」

 

「…俺が俺で、ある為にか。」

 

 

御幸が笑い、大野の前に左手のミットを突き出す。

その姿を確認して、大野は笑って御幸のミットに軽く自分のグローブを当てた。

 

 

「行こう、夏輝。」

 

「頼むぞ、相棒。」

 

 

珍しいその言葉に、御幸は思わず笑みが零れる。

 

 

ここまで長かった。

最高のエースであり、最高の相棒である大野は秋に怪我をし、終わりの見えない長いトンネルを彷った。

 

共に歩んできたから。

共に超えてきたから。

 

 

(夏輝、今日は何も背負わなくていい。お前はお前だ。エースである前に、お前は大野夏輝だ。)

 

 

位置につき、いつもの様に大野の目の前でしゃがみこむ。

 

18.44mのその距離で、バッテリーは笑った。

 

 

(輝け夏輝。その存在を、見せつけろ。)

 

(今までの限界を、超える。俺が、俺であるために。)

 

 

構えられたのは、外角低め。

大野の原点であり、彼の最も自慢のできるコース。

 

鋭いストレートが、御幸のミットに突き刺さった。

 

 

(完璧なコース。次は、ここ。)

 

 

続く2球目は、インコース高め。

これもまたピンポイントのコース。

 

尚且つ、威力のあるストレートにバットが空を切る。

 

 

 

追い込んだ3球目。

 

(ここで使うか。)

 

(今日の調子占いみたいなもんだ。決まれば、使える。)

 

 

御幸が構えたのは、同じようなコース。

先程よりも甘いコースのボールだ。

 

速いボールがインコースのストライクゾーンへ。

 

打者も反応し、バットを軌道にのせる。

しかし白球は。

 

 

「うお!」

 

 

滑るようにして打者の胸元を抉った。

 

 

大野の、彼のウイニングボールの一つであるジャイロボール。

ストレートと同じ軌道から、吹き上がるように真横に滑る高速の変化球で、空振りの三振を奪った。

 

 

 

(おいおいおい。こりゃたまげたな。)

 

 

大野の調子を占うこの第一打席。

結果は、御幸も唸るほどの、圧巻の投球であった。

 

 

球の勢い、それにコントロール。

何より気迫が、物語っている。

 

キラリと光る、瞳。

 

その瞳を、御幸はよく記憶していた。

 

 

 

続く2番の西に対して、初球は打ち気を逸らすカーブ。

 

一度ふわりと浮かんでから途中で加速するように落ちるキレのある縦カーブで、まずはカウントを取る。

 

 

2球目、再度カーブ。

今度は少し低めに動かし、ボールゾーンへ投げ込む。

 

しかし、相手もまた一流。

 

西もこのカーブはしっかりと見逃し、1-1とカウントが並ぶ。

 

 

(やっぱ、地区で通用しても、ここじゃな。)

 

(仕方ない、相手も一流だ。)

 

 

生半可なボールでは駄目。

ならば、ここは力押しで。

 

御幸が構えたコースは、高め。

 

外角の高めに、打者も食らいつくもファール。

 

 

(終わらせるぞ。)

 

(ああ。)

 

 

最後は、外角低め。

要求した御幸も、ストライクボールどちらとも取れるコースを要求。

 

ここでストライクと出るか。

それとも、ボールと出るか。

 

 

乾いた革の音と同時に。

 

球審の手は、上がった。

 

 

「ストライク!バッターアウト!」

 

 

同時に、大野が小さくガッツポーズを浮かべる。

今日の審判もまた、少し外に広い。

 

となるとやはり、大野にとってはこのコースが最大限生かせるため、今日の投球の追い風となるのだ。

 

 

外角低め(アウトロー)一杯。

打者の目線から最も遠いこのコースが完璧に決まり、打者も全く手が出なかった。

 

 

 

 

「ストレートも凄いけど、カーブもまた厄介だな。スピード感といい落差といい、結構いいカーブだぞ。」

 

 

打席に向かう谷中に、先程三振に喫した西がそう耳打ちをする。

それに頷き、クリーンナップの一角である彼は、右の打席に入った。

 

 

(確かに凄いのは見てわかった。)

 

 

息を吐き、バットを掲げる。

そしてそのまま、真っ直ぐにマウンド上の投手に視線を向けた。

 

 

(だけどな、うちの正宗の方が…)

 

 

刹那。

彼の視線の先を通過したのは、まるで。

 

閃光のように、駆け抜けていった。

 

 

 

思わず、谷内は目を見開く。

 

あまりに速い。

直感的に青緑色のバックスクリーンに目を向け、またも驚嘆した。

 

 

球速表示は、136キロ。

彼の最速を考えると速い方なのだが、それでも谷内には150キロ越えのストレートに感じた。

 

 

何より、軌道がおかしい。

打者の手元で加速する、浮き上がるように感じるノビ。

 

無論、物理的に考えてそのようなことはあり得ない。

しかし打席の谷内から見たら、手元でトップスピンがかかってさらに加速しているように見えた。

 

 

2球目。

今度は低めのカーブを投じるも、谷内はこれを見逃した。

 

 

(これを見逃すか。)

 

(相手は全国だぞ。)

 

 

生半可なボールは、通用しない。

それは、わかっていたことだ。

 

 

強気に攻める。

彼が超高校級と称された時の投球スタイルは、あくまでストレートを軸に組み立てた時。

 

 

 

(お前も日和るな。らしくない。)

 

(余計なお世話。見せ球だっての。)

 

 

そうして御幸が構えたコースは、内角の真ん中寄り。

一般的には甘めのコース。

 

チーム内でもトップクラスの打撃能力を誇るこの谷内。

 

甘いコースは決して見逃さない。

思い切ってバットの軌道を合わせる。

 

 

(真っ直…)

 

 

タイミングは完璧。

さすがの修正能力である。

 

ストレートの軌道、そしてタイミングは完璧。

 

しかし白球は、突然軌道を変えて沈み始めた。

 

 

「…は?」

 

 

タイミングは、完全にあっていた。

しかしその白球は、捕手である御幸のミットに収められていた。

 

 

そしてこれが大野夏輝のウイニングボールであるツーシームだと気がついたのは、空振りをしてから間も無くであった。

 

 

(こんなに速いのか。それに軌道も、全く判別がつかない。)

 

 

はっきり言って、空振りしてから気がついた。

それほど軌道の違いはなく、どこで変化したかも理解できなかった。

 

 

(次は何が来る。ストレートか、それともツーシームか。)

 

或いは、もう一つか。

 

 

追い込まれた谷内。

しかし、その迷いが生まれた瞬間。

 

 

打者はもう、負けているのだ。

 

 

 

 

『三者連続三振!137キロ、高めのストレートで巨摩大打線を全く寄せ付けません!青道高校エースの大野、圧巻の立ち上がりです!』

 

 

湧き上がる青道ベンチサイド。

そして観客もまた、青いユニフォームのエースに視線を奪われる。

 

歓声が上がる。

またそれを背に、大野はマウンドを降りてきた。

 

 

「どうよ、甲子園の歓声は。」

 

「宝明の時はそうでもなかったがな。やっぱり、悪くないと思う。」

 

 

マウンドの時とは一転、朗らかな表情を浮かべる大野

 

しかしその歓声を掻き消すように。

傾きかけた流れを全て押しつぶすように。

 

 

もう1人のエースが、全てを捩じ伏せた。

 

 

『最後は151キロのストレート!今度は本郷が魅せます、三球三振!夏の大会沸かせた王者が再び、この甲子園のマウンドを燃え上がらせます!」

 

 

両エースが先発したこの春の甲子園準々決勝。

 

その初回は、これからの熾烈な投手戦を確信させる圧倒的な立ち上がりで幕を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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