昨日上げられなかったので、2話一緒に。
圧巻の投球を見せる両エースの組み立てる試合は、早くも折り返し地点。
5回の裏の攻撃は、青道高校。
4番から始まるこの攻撃、御幸が打席へと入った。
(そろそろ打たにゃならんよな。)
ここまで本郷が許した出塁は、0。
青道の打線が本郷に献上した三振は、既に9個に登っている。
幾ら本郷が絶好調とはいえ、打てませんでしたでは話にならない。
夏、あの時のエースの姿が焼き付いているからこそ、言い訳なんて出来なかった。
ストレートの勢いは凄まじく、決め球のSFFはストレートとの判別が効かない。
コントロールも纏まっており、バタつかない。
とはいえ、コントロールが良いというのは御幸にとって好都合。
ある程度配球を読んで打つ彼のバッティングスタイルからすると、要求通りのコースに投げてくれる分、読みが当たればしっかり打ち返せるのだ。
(さあ、何で来る。)
打席から本郷を見据えたとき。
ピリピリと肌に、圧を感じる。
(見たことあるか。雪の上を走る白球を。野球に魂を売った、悪魔を。)
吹雪のよう舞う、粉塵。
それを振り払い、本郷が両腕を振り上げる。
(俺たちは、野球を楽しむために北海道から来たんじゃねえ。)
正に本格派エースを表すような、豪快なワインドアップ。
ゆったりと左足を振り上げ、グローブを前に突き出す。
スリークォーター気味のオーバースローから放たれるは、豪速球。
「ッラア!」
轟音と共に、本郷のボールはミットに収まった。
150km/h。
計測された数字は、既に超高校級と称されるに相応しい。
2球目、今度はインコース。
力任せの剛腕が唸る。
同じく150km/hのストレートに、御幸のバットが空を切る。
3球目、低めのストレート。
これはバットに当て、ファール。
依然、カウントは0ボール2ストライクのままである。
4球目。
最後はやはり、伝家の宝刀を引き抜いた。
『最後は伝家の宝刀スプリット!早くも二桁奪三振に乗せました!』
振り抜いた勢いそのまま、右腕を握りこむ。
そして、咆哮を上げた。
(洒落くせえ!てめえら雑魚は引っ込んでろ!)
続く白州は、ストレートを詰まらせてショートゴロ。
最後の降谷は高め、149km/hのストレートで空振り三振に切って取った。
「正宗、ムキになりすぎだぞ。あそこまで力いれる場面じゃないだろ。」
「うるせえ。ムキになんかなってねぇ。」
駆け寄ってきた女房役にそう言われ、帽子の鍔に手を当てる。
確かにクリーンナップとはいえ、些かやり過ぎだというのは否めない。
しかし本郷は、額から流れた一滴の汗を拭って言った。
「こっちがギア抑えたら、一気に持ってかれんぞ。あの人はそれだけの力を持っとんのじゃ。」
そう言って、本郷が青道側のベンチに視線を送る。
視線の先には、やはりエースの大野夏輝がいた。
「そんなにか。」
「圧力とかそんなんじゃねえ。もっと違う、何かだ。」
ここまでの成績は、被安打1の10奪三振。
円城に長打こそ浴びたが、それ以降は全く巨摩大打線を寄せ付けない投球でチームを鼓舞している。
「わりぃ夏輝、打てなかった。」
「そう簡単に打てる投手じゃないことは、分かっている。相手も思っていることは同じだ。」
白銀の髪を覆う帽子を、一度被り直す。
ここまでの本郷は、未だに防御率0.00
昨年の夏の大会も合わせても、許した失点はたったの1点である。
そんな男から点を取る事は、容易ではない。
それは最初から、分かっていた。
いや、だからこそか。
大野は本郷が圧倒的な投手だからこそ、その投球に呼応して力を発揮していた。
ただ、同時に。
この終わりの見えない兆しを見せる投手戦に、少しばかりの不安を覚えたのも、嘘ではなかった。
「余計なことは考えんな、今日は9回で終わる。お前はお前のことだけに集中しろ。」
そんな表情を読み取られたのか、御幸がそう言った。
「言う前に打ってくれ、2三振。」
「るせ。円城からだからな、今度はガチで行くぞ。」
相手は、先程唯一のヒットを許した円城。
しかしこの男の存在もまた、大野の好調を後押しする存在となっていた。
相手投手が好投手であれば、それを超えようと普段よりも力を発揮する。
そして対戦する打者も、例外ではなかった。
何故か知らないがこれが相手投手にも影響し、対戦相手もまた限界を超えて力を発揮してしまう欠点はあるのだが。
こればかりは、仕方ない。
『あーっと空振り三振!先程唯一のヒットを許した円城に対して、ここは伝家の宝刀ツーシームで空振り三振に切ってとりました!』
円城が狙い澄ました、4球目。
大野のツーシームは、彼の想定を大きく超えた。
真ん中低めからボールゾーンまで沈む、高速変化球。
文面だけで言えば本郷のSFFと大差はないが、大野のそれはSFFよりも遥かに速く、細かくコントロールが効くのだ。
(くそ。)
内心舌打ちしながらバットを持ち帰る円城は、ヘルメットに手をかけてネクストバッターズサークルの近くを通過した。
「言ったろ、あのピッチング続けられちゃ、流れは確実に持っていかれる。」
「あぁ。さっきよりも増したな、力が。」
すれ違いざま、本郷と言葉を交わす。
確かに先程よりもギアが上がった。
というよりは、勢いが変わったと言うべきか。
さっきよりも思い切りがいい。
何よりその表情が、印象的であった。
続く打席には、エースの本郷。
(こいつもいいバッティングするからな。気をつけ…って、いらねえ心配か。)
マウンド上での表情を見れば。
そう付け加えて、御幸はサインを出した。
(外、高めのカットで空振りを誘う。)
(OK。)
ロージンバックを手のひらで転がし、マウンド横にそっと置く。
手先に着いた余分なそれに息を吹きかけ、粉塵が宙を舞う。
そして大野は、空を見上げた。
(すげえな、ここは。)
全員がすごい選手で、マウンドに上がる男はもっと凄い。
声の圧が。
この空気が。
空が。
球場の雰囲気が。
全てが、特別だ。
(すげえな、本郷は。)
年下のそのエースは、自分なんかよりもよっぽどいい投手だ。
力も、技術も。
気概も、背負っているものも。
(ここにはこんなにすごい投手がいる。)
ゆったりと足を上げ、ウイニングボールを投げる。
外から逃げる、彼の独特のカットボール。
大野夏輝の大野夏輝だけのこの変化球に、本郷のバットも空を切る。
(まだ通過点なんだろ。ここがまだ途中なんだろ。)
続く2球目は、同じコースに投げ込まれたストレート。
この速球に反応しきれず、本郷は見逃す。
(お前が見た景色は、もっと凄いとこなんだろ。)
3球目、外角低めのストレートだが、これは本郷も何とかバットに当ててファール。
しかし、前に飛ばない。
捉えきれない。
(俺も見なきゃ、敵わないのはわかってる。)
御幸からの返球。
自然と口角が、上がる。
音の抜けた、白黒の世界。
彩られているのは、本郷と御幸だけ。
(もっと強く。もっと高く。)
ゆったりと足を上げ、右足を軸に全身を捻転。
ある地点まで到達すると、静止。
エネルギーを収縮して、溜め込む。
そこから、解放。
(昇って見なきゃ、並べねえよな。)
大野の中にある常人離れした出力から放たれる、速球。
さらに肘を思い切り、捻り込む。
同時に、人差し指で縫い目を思い切り弾き返す。
外角のボールゾーン。
少し高めの所から、速球は一気に切り込んできた。
(しまっ、手が…)
認識した時には、もう遅い。
本郷がバットを出す隙もなく、ミットの音が鳴り響いた。
外角ボールゾーンから、ストライクゾーンに抉り込む。
所謂、バックドア。
138km/hで大きく沈んだ、ツーシームファスト。
大野の決め球であるこのボールを、大野の持ち味である繊細なコントロールで。
本郷に、見せつけた。
(そうだろ、鳴。)
帽子が落ち、ふわりと銀髪が浮かぶ。
その額からは、キラリと汗が輝いた。
大野夏輝 (絶好調)
【基礎能力】
ストレート 球威S 140km/h
ツーシーム 球威A 138km/h
カットボール 球威A 変化量6
Dカーブ 球威B 変化量3
コントロール A87
スタミナ C65
【特殊能力】
対ピンチA /怪童 /クイックF /ケガしにくさF
キレ○ /ドクターK/精密機械/球持ち○ /意気揚々/闘魂/要所○/原点投球/対強打者○/全開/軽い球 /負け運/ミックスアップ
ミックスアップ…拮抗した能力の選手と対戦した際に、能力が大きく上がる。また、ストレートのノビが良くなる。
という感じのオリジナル超特殊能力。