燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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遅くなり申し訳ありません。






エピソード131

 

 

 

 

0の並んだ、スコアボード。

しかしその最後についた数字だけは、0と異なる数字が刻まれた。

 

 

8回裏。

疲労を見せた本郷の一瞬の隙を突いて、遂に先制をする事に成功した青道。

 

遥かに遠いと言われた1点を、4番と主将の連打で遂にもぎ取って見せた。

 

 

 

9回の表。

マウンドには、夏ぶりに守護神として沢村が上がる。

 

 

(ここで、夏輝さんは投げてたのか。)

 

 

同じ甲子園のマウンド。

先日上がった沢村だが、その時とはまるで別の場所に感じた。

 

 

先の試合では、感じなかった圧迫感。

これが、甲子園優勝候補との試合か。

 

空気感が。

そして、熱気がまるで違う。

 

少し息苦しようで、それでいて高揚感がある。

 

 

沢村にとっては、今までにない不思議な感覚であった。

 

 

「緊張してるか。」

 

 

黙々と準備をする沢村に、御幸が声をかける。

 

緊張するのも無理は無い。

ここまで圧巻の投手戦、本郷も追加点を許してはくれないだろう。

 

そんな中でもぎ取った一点を、守らなければ行けないのだ。

 

 

大野から繋がった、このバトンを。

最後まで、ゴールに運ぶ為に。

 

 

 

しかしそんな沢村から返ってきたのは、また違った回答であった。

 

 

「すごいっすね、このマウンドは。」

 

 

帽子の鍔を掴みながら、マウンド上の土を足で慣らす。

 

いつものような明るい声ながら、普段とは少し違った落ち着いた声。

それに御幸は、若干違和感を感じた。

 

 

「違和感、あるか。」

 

「本郷が投げて、夏輝先輩が投げて。すごい2人が投げた場所って考えると。やっぱり、変な感じはします。」

 

 

続けざま、彼は息を吐いてこう言った。

 

 

「まだ遠いのは分かってます。でも、負けたくない。」

 

 

決して弱気なわけではない。

はっきり言って、先程まで投げていた2人と比べてしまうと見劣りしてしまうのは事実。

 

まだ遠い。

お世辞にも彼らと肩を並べられるとは思っていない。

 

 

しかしその姿に、御幸は沢村の将来に期待を寄せた。

 

 

真っ向から捩じ伏せる剛腕はない。

 

天才とはいえ、超天才ではない。

工夫をしてようやく、打者を抑えられる。

 

だがそれでも、唯一無二の武器を持ち合わせ。

それを生かす技術も着いてきた。

 

 

なにより、その姿勢。

 

ただ真っ直ぐ、目指すべき道へ。

高すぎるその目標を、後ろ向きなことなどまるでないその心で、突き進む。

 

 

その姿は、一気に成長を遂げた大野と重なった部分があった。

 

 

成宮という天才を超えるために、全力を尽くしてきた大野。

そしてその大野を超えるために、突き進む沢村。

 

目指すべき相手は違えど、共通点があまりに多いが故に、御幸の沢村に対する期待値がさらに上がったと言っても過言では無い。

 

 

 

そしてもう1つ。

遂に才能を開花させ、世代を代表するエースになりかけている大野の姿に感化されているのは、投手だけではない。

 

それを受けてきた御幸もまた。

共に闘ってきたからこそ、彼を生かせる選手でなくてはいけない。

 

だからこそ、御幸もまた大野に追いつかなければいけないという考え方があったのだ。

 

 

「底知れねえよな、あいつもよ。」

 

「ほんとですよね。秋でなんとか近づけたと思ったのに、まだ先にいて。」

 

「あぁ。ったく、追っかける側も辛いもんだぜ。」

 

 

そして2人は、笑う。

 

先程までの緊張感は、薄れた気がした。

 

 

「さあ行こう。一緒に挑もうぜ、相棒。」

 

「行きましょう!」

 

 

互いに、グローブを合わせる。

2人が笑うと同時に、沢村の瞳もまた僅かながらに光を帯びた。

 

キラリと光ったその眼に御幸も既視感を感じ、そしてまた笑う。

 

それこそ正に、絶好調の大野が見せる表情と重なったから。

 

 

 

マウンド上。

沢村が両手を広げて大きく息を吸う。

 

鼻から吸い、純粋な空気を肺に入れて、吐き出す。

一度、二度。

 

大きな深呼吸を見せてから、彼は両手を大きく掲げ。

 

普段と変わらず、声を上げた。

 

 

「本日はお日柄も良く、過ごしやすい天候ですが!この甲子園のマウンドは、非常に暑く感じます!久しぶりの抑えのマウンドですが、相手は強豪校!皆さんのお力添えが必要です!ガンガン打たせて行くんで、宜しくお願い致します!」

 

 

伝統芸。

しかし、甲子園ではあまり見ない光景。

 

全国の野球ファンに、この沢村の決意表明が広がる。

 

 

余談だが、この沢村の決意表明がテレビで取り上げられ、かなり話題になるのはまた次の試合以降の話である。

 

 

 

 

 

何とか食らいつきたい巨摩大藤巻。

遂に絶対的エースが替わったということもあり、何とか点を奪いたい。

 

しかし、この沢村もまた。

 

大野不在時に、降谷と共に柱として投げた1人。

青道を支える、エース級投手の1人なのだ。

 

 

 

 

見据えたバッター。

まずは9番の佐々木が打席に入る。

 

 

(球速は確か、130くらい。変則気味のフォームで、外角で組み立てる事が多い。)

 

 

甘く入れば、初球から叩く。

そのマインドで見据えた最初のボールは、膝元を抉るインサイドのボールであった。

 

 

(はや…。)

 

 

球速としては、135km/h。

準備をしていた分、初球からかなり出ている。

 

何より、手元が見えにくい独特なフォーム。

 

球持ちも良く、左腕もまた独特なタイミングで出てくる為、球速表示よりもかなり速く感じやすい。

 

 

そして案外、キレがいい。

回転数が多いため、手元で加速するように伸びる快速球である。

 

 

続けざま、今度は外角低め。

インサイドアウト、左右の幅広いゾーンを使った投げ分けで早速追い込む。

 

テンポがいい。

そしてコントロールが良い。

 

圧倒的に速いボールでもなければ、キレでもない。

 

それでも彼の投球術で、抑え込むことができる。

 

 

3球目、内角低めのボールは詰まりながらもバットに当ててファール。

 

そして4球目。

最後はアウトコースに伝家の宝刀チェンジアップ。

 

 

速球に合わせていた佐々木は完全に引っ掛けてしまい、ショートゴロ。

ショート倉持が軽快に捌き、まずはテンポよく1アウトを奪う。

 

 

「ナイスショート!」

 

「しゃあ!まずは1アウトな!」

 

 

ここから上位打線。

高いバットコントロールをもつこの打者に、佐々木が耳打ちする。

 

 

「綺麗なストレート。かなり速く感じる。」

 

 

その情報の元、打席に入った一番打者。

 

初球は低めの速いボール。

これを合わせに行くも、ボールは急激に失速し、シュート方向に曲がった。

 

2球目。

同じようなコースから、今度は真下に沈むボール。

 

これもバットに当てるも、ファール。

 

 

(めっちゃ曲がる…全然綺麗なストレートじゃねえ。)

 

 

そう思った刹那。

最後は外角低めのフォーシーム。

 

ノビのある直球に反応が間に合わず、見逃しの三振となる。

 

 

思わず天を仰ぐバッター。

最後の最後にきたこの綺麗なストレートに、反応出来なかった。

 

 

 

この快速のフォーシームと、不規則に変化する高速変化球のムービング。

そして、球速差をつけるチェンジアップ。

 

これらを投げ分け、テンポよく左右のゾーンを幅広く使える。

 

バランスの良い左腕。

変速フォームで小さく変化するボールと、尖っているように見えてかなり整っている。

 

 

早くも2アウト。

巨摩大藤巻にとっても、なんとか奪いたい1点。

 

しかし、攻めあぐねていた大野に替わって出てきた沢村。

 

彼もまた、エース級の投手。

初見で、尚且つ守護神として出てきた彼を打ち込むのは、容易ではなかった。

 

 

 

2番の西に対しての初球。

まずは外角低めのストレート。

 

初球から叩くも、前に飛ばずファール。

 

 

2球目、同じようなボール。

これは見逃し、僅かに外れる。

 

3球目、インコースのストレート。

これもバットに当てるもファール。

 

 

やはり、打者視点から見てもかなり早く感じるのか。

中々前に飛ばない。

 

 

1ボール2ストライクと追い込んだ。

ここで勝負を決めたいバッテリーが選択したのは、沢村の新たなウイニングボールであった。

 

 

(行けるな、沢村。)

 

(夏輝さんだって投げてたんですから。負けられないですって。)

 

 

キラリと光ったその瞳。

 

それを確認し、御幸は外角にミットを構えた。

 

 

握りをずらし、ツーシームの握りに。

感覚を研ぎ澄まし、ワインドアップから右足を振り上げる。

 

グローブを突き出し、身体の開きを抑えたフォーム。

 

そこから投げられたボールは、外のボールゾーン。

かなり速いボール、そしてムービングでも入らないほど外れている。

 

 

追い込まれながらもバットを止める西。

しかしその瞬間、急激に曲がり始める。

 

 

(しまっ…)

 

 

反応した時にはもう遅い。

外のボールゾーンからストライクゾーンに変化する高速のスライダー。

 

否、大きく変化するカットボール。

 

通称「カットボール改」

 

 

最後も見逃しの三振。

奇しくも大野が本郷から奪ったものと同じようなボールで、この激戦に終止符を打つ。

 

 

 

大野と本郷という世代を代表する右腕同士の投げ合いは。

 

 

激闘の投手戦の末、1-0で青道高校に軍配が上がった。

 

 






WBC楽しみ。


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