選抜はもうそろそろ終わります。
迎えた決勝戦。
対戦相手は、準決勝にて薬師高校を8-7で下した清正社高校である。
高い攻撃力と、絶対的エースによる存在で勝ち上がってきたこのチーム。
エースで4番の川崎を中心とした、パンチ力のある打線は、薬師高校との乱打戦を制するほど。
特に、コンタクト力とパワーともに水準の高い川崎に加え、もう1人。
2年生ながら主力を張っているリードオフマン、1番ショートの山田。
高いバットコントロールと、低めでもスタンドへと運べるパワー。
そして、並外れた動体視力からの反応。
足も速く、走塁面や守備面でもチームを救うことが多い。
打って走って守れる、野手の象徴的存在。
この清正社を引っ張る、川崎と同じくチームの柱である。
対する俺たち青道高校のスターティングメンバーは、以下の通りだ。
1番 遊 倉持
2番 投 大野
3番 二 小湊
4番 捕 御幸
5番 右 白州
6番 三 金丸
7番 中 東条
8番 一 前園
9番 左 麻生
スタメンは大方いつもと同じような、所謂ベストメンバーである。
昨日先発した降谷はとりあえずベンチスタート。
代わりに、守備の安定感のある麻生をレフトへ。
打順も下位が少し変わっている。
昨日も決勝タイムリーを放った、好調の金丸を6番へ。
その後7番から始まる下位打線は、あわよくば東条のチャンスメイクから一点を取れるような布陣。
ベンチ内から出ると同時に、強い日差しを受けて目を細める。
今日もまた、春先と同じような天候。
かなり暖かく、過ごしやすい絶好の行楽日和である。
外野手、内野手がそれぞれ走って持ち場に着く。
少し遅れて捕手がホームベースに向かい、最後にマウンドへと向かう。
「前回登板の疲れはとれたか。」
「あれだけ丸々空けてもらえばな。」
日程としては、中3日。
2日前の試合では野手出場こそあったものの、投げてはいない。
実際、本郷と投げあった試合も、8回までしか投げていない。
ギアを入れていた分投げていたその時は疲れたが、疲労感自体は特段多い訳では無い。
「調子は?」
「悪くない。まあ、特段良くもないがな。」
ブルペンで投げた感じは、悪くない。
本郷と投げあった時ほど良くは無いが、コントロールも効くし球も走っている感覚はある。
絶好調ではないが、好調ではある。
「1巡目はストレートとツーシームを軸に。チェンジアップも効くか見てーかな。2巡目以降からカーブ、状況次第でカットも使っていこう。」
「OK、そこは任せる。」
組み立て方に関しては、御幸に一任しても特に心配は無いし、今までだってそうしてきた。
今更覆そうなんて思わないし、それがベストだと思うし。
俺より賢いあいつが四苦八苦してくれているのだから、下手に突っ込む必要は無い。
「コントロールも大丈夫だ。リリースも個人的にはちゃんとイケてる。」
「受けててもわかる。あん時ほどじゃねーけど、それでもいい状態だぜ。」
御幸の言うあん時というのは、巨摩大藤巻との試合のこと。
受けていた彼からしてみても、やっぱり良かったらしい。
球威、球速、変化球のキレ。
そしてなにより、コントロールがいつも以上に完璧に決まっていた。
恐らくあれが、俺の最大値。
それを基本と考えるのはあまり現実的ではないが、基準のひとつとして数える分にはいいと思う。
一頻り確認作業を終え、御幸からボールを受け取る。
少し、重い。
物理的にではなく、気持ち的な話し。
この決勝という舞台。
残された最後の2校の、直接対決。
負けたチームがいるから。
蹴落としてきたから、ここにいる。
このマウンドには。
このボールには。
敗者たちの思いも、込められている。
フッと一息。
それを見て、御幸が笑う。
「何が可笑しい。」
「いや。流石に甲子園の決勝だと、いつもと雰囲気違うなっておもってさ。」
当然だろう、そんなことは。
この全国という舞台に立つこと自体珍しいのに、さらにその決勝なのだ。
そして高校野球の全国といえば、注目度はトップクラス。
それこそメジャーリーグのスカウトすら見に来るほどだ。
この熱気も。
この空気も。
ここでしか味わえないし、ここはその頂点だ。
違って、当然だ。
「あんま気負うなよ。って、お前にはいらねー心配か。」
「いや、実際そうだからな。少し、いつもとは違う感情はある。」
いつも通り、俺は預かった白球を左手のグローブに収める。
目を瞑りながら、帽子の両脇を軽く押え、直す。
そしてその鍔に手を当てて、帽子を深く被る。
「この選抜という舞台は、今日で最後だ。」
「そうだな。」
もう一度息を吐き、目を開く。
自然と俺の口角は、上がっていた。
「なら、楽しまなきゃ損だろ。」
誰も来れない場所なのだ。
俺たちだけが、来れたのだ。
なら、俺たちが目一杯味わい尽くさなくてどうする。
「ここから先は、俺たちだけの舞台だ。好きなだけ暴れようぜ、一也。」
「当たりめーだ。初っ端から見せつけてやれよ、夏輝。」
グローブを合わせ、離れる。
18.44mのこの間で始まる。
打者が打席に入り、審判がコールをかける。
打席に入るのは、2年の山田。
ビデオで見た限り、俺でもわかるほどの天才。
打撃のセンスは超一流。
今はまだ注目されたばかりだが、将来必ずプロにいくような男だ。
走攻守、全てが高水準。
全国トップクラスの実力者。
まだ荒削りなのにわかる、この器の大きさ。
(こんな奴が平気でいるから、ここは面白い。)
御幸の構えるミットに、視線が向かう。
まずは挨拶代わりのインロー。
山田のような反応で打つバッターは、案外初球から打ちに来やすい。
中途半端なボールは絶対NG。
決め球と同じような覚悟で、いく。
バットを掲げ、クイックイッと揺する特徴的なフォーム。
その膝元に、フォーシームを決めた。
2球目、今度は外角低めのストレート。
これもまた見逃し、2ストライクで追い込んだ。
3球目。
1つ前のそれより、僅かに外に外れているボール。
これを投げ込むも、バットは止まり1ボール。
(これを見るか。)
(いいバッターだな。打ちに行きながらあれを堪えるとは。)
ファールか、或いは三振か。
しかしこれを見れるバッターは、中々珍しい。
様子的に、手が出なかったという理由でもないし。
(なら。)
(決めるか。こういうバッターには、出し惜しみする訳にもいかねーからな。)
御幸の出したサインは、先の3つとは全く違うもの。
それに頷き、グローブを構える。
視線の先のミットは、外角のストライクゾーンギリギリ。
そこを確認して、俺は息を吐いた。
ここまで登ってきた感じた、全国の広さ。
そして自分が、案外戦えることもわかった。
だからこそ、実感してきた。
この全国という舞台もそうだが。
それより先の舞台。
高校野球の先。
選ばれた中からさらに選ばれた、天才たちの集い。
幼いころから目指してきた、その場所。
その世界が、まだ影ながらぼやけて見えてきた。
俺はまだ、いける。
もっと上へ。
その先へ。
見た事のない世界へいくんだ。
パァン。
小気味のいい、ミットの破裂音。
山田のバットはピクリとも動かず、ストライクのコールは鳴った。
「ストライク!バッターアウト!」
今はただ、前へ。
全てをねじ伏せて、俺は声を上げた。
投稿頻度が中々安定しなくて申し訳ない。
もう少ししたら上げられると思うんで、お待ちください。