燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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財前に関しては、完全に妄想です。


エピソード13

 

 

深呼吸と共に、左手を胸に当てる。

心臓の鼓動がわかるくらい、ドキドキしてる。

 

そんなことを考えていた沢村は、気持ちを落ち着けるようにゆっくりと息を吐いた。

 

 

「緊張、しているか。」

 

不意に声をかけられ、思わず肩を揺らす。

驚くような大きな声ではないのだが、こうやって急に声をかけられると小さい声でもかなり心臓に悪い。

 

寧ろ小さい声の方が不気味なのではと思いながら、沢村は大きく深呼吸をした。

 

「大丈夫ですよ、クリス先輩。俺、絶対に活躍して見せますから。」

 

そうしてサムズアップ。

少年のような対応ながら、少しばかり安心できてしまう。

 

沢村特有の、雰囲気のようなものだ。

 

笑顔で答える沢村に、クリスも思わず笑みを浮かべてしまう。

 

「安心しろ、俺が構えたところに投げれば最小失点に抑えられるはずだ。」

 

「何言ってんすか、クリス先輩。」

 

マウンドから離れようとした時に聞こえた沢村の言葉に、クリスも足を止める。

疑問符が頭に浮かびながらも、沢村が言おうとしていることはクリス自身なんとなくわかっていた。

 

「無失点で切り抜けましょうよ。」

 

「フッ、当たり前だ。」

 

笑顔で離れる2人。

沢村の胸の中の鼓動は、まだ高鳴ったままだった。

 

(早く、投げたい。)

 

こんなにも、勢いのあるチームに挑戦していきたい。

それも、自分に野球を教えてくれたこの人と一緒に。

 

満点の笑顔で、沢村は野手陣に体を向けて左手を高々と突き上げた。

 

「ガンガン打たせていくんで、よろしくお願いします!」

 

「どんどん打たせてきていいよ!」

 

「後ろは任せろ!」

 

同じ一年生が、声をかける。

それに釣られるように、周りも声が出てくる。

 

 

サイン交換。

相手は警戒すべき打者で尚且つ、満塁のピンチ。

 

それでも、マウンドの少年は真っ直ぐ打者を見据えた。

 

(初球、厳しく。)

 

ここに来いと言わんばかりに、クリスのミットが大きく広がる。

まずは、インコース低めのストレート。

 

そのサインに頷き、沢村は投球モーションに入った。

 

右脚を高く上げ、静止。

柔軟性を活かした豪快なフォーム。

 

ここから、改変。

右手で壁を作るようにして、身体の開きを抑える。

さらに、ボールの出処が見えづらい変則フォームとなる。

 

インコース低め、130キロのボールが向かっていく。

 

(舐めんなよ!)

 

コースは厳しいものの、遅いストレート。

打者は迷わずに、振りにきた。

 

しかし、そのボールは急激に失速する。

否、手元で小さく沈んだ。

 

 

快音、速い打球がセカンド正面へ。

速いゴロ、しかし打球に力はない。

 

ランナーがホームに辿り着くよりも先に、セカンドの小湊がクリスに転送。

そして、強肩のクリスが一塁へ送球。

 

一塁ベースが踏みしめられる前に、二つのアウトが宣告された。

 

 

少しの静寂。

刹那、グラウンド外から驚嘆の声が上がった。

 

「うわあ!たった一球でホームゲッツー取りやがった!」

 

「あのセカンドうめえ!てかキャッチャーも肩強すぎだろ!」

 

各所で湧き上がる歓声。

しかし、当事者の1人であるマウンドの少年はなかなかこの状況について来れていなかった。

 

「え、えーっと。ワンナウトー!」

 

「ツーアウトランナー二、三塁だ。ピンチには変わりないから、引き締めていけよ。」

 

あまりに鮮やかなプレーだったためか、とんでもないことを言う沢村に、クリスは半ば呆れながら訂正した。

 

 

続いての打者は、好打者に2番。

バットコントロールが良く、単打が多い打者。

 

普段ならあまり怖くない打者なのだが、今はテキサスヒットすら許されない場面。

だからこそ、バッテリーは思い切って攻めた。

 

 

初球、インサイドのムービングボール。

これを見逃し、まずはワンストライク。

 

(あんまり速くない、よな?)

 

なぜあいつは打ち損じたのか。

そんなことを考えながら、打者はバットを構え直した。

 

球は速くない、コースだって厳しいが打てない球ではない。

 

少しばかり違和感を感じながらも、バッターは狙い球を絞った。

 

(甘く入ったら、狙う。)

 

極めてシンプルな考え方。

しかし、コントロールが荒れている一年生相手であれば、極めて上等な手段であった。

 

 

2球目、同じくインコースのストレート。

これは僅かに外れてボール。

 

 

3球目。

投げ込まれたコースは、インコース。

 

しかし、先ほどまでよりも甘いコース。

 

(きた、甘いコース!)

 

迷わず、振りぬく。

彼が前の打者と全く同じ構図で打ち取られていることに気がついたのは、打球を放ってからのことだった。

 

弱々しい打球は、ショート正面へ。

ここもショートの楠木が丁寧に捌いて、三つ目のアウトを奪った。

 

「おっしゃあ!」

 

出処の見え難い変則フォームからムービングボールを放つ沢村。

その「ストレート」をあえて甘いコースに投げさせることで、動くボールを打たせて取るピッチングに生かすクリス。

 

阿吽の呼吸で打者を打ち取るその姿は、まさにバッテリーと呼ぶに相応しいものであった。

 

 

 

 

 

「やるじゃねえか、クリス。」

 

ベンチ前でキャッチボールをしていた財前も、復活したライバルの姿に感激していた。

 

かつては、高校野球への再起は無理だと思っていた2人。

その「仲間」が、今同じグラウンドに立っていることが、堪らなく嬉しかった。

 

(けどよ、負けねえよ。)

 

同じ境遇だったからこそ、勝ちたい。

中学時代に交わした約束とは全く違う状況ながら、財前は昂っていた。

 

 

マウンドに上がった財前の投球は、それはもう圧巻だった。

 

先頭打者の遠藤をスライダーで三振。

2人目の金丸をフォークで三振。

 

早くも2者連続三振でツーアウトを奪うと、打席にはキャッチャーのクリスが入る。

 

(来やがったな、クリス。)

 

(勝負だ、財前)

 

初球、インコースのスライダー。

これを見逃し、ワンストライク。

 

2球目、136キロのストレート。

これが高めに外れてボール。

 

(いい真っ直ぐだ。)

 

球速云々ではなく、勢いがある。

回転数もそうだが、しっかり体重が乗っている。

 

怪我を経て身体を理解したからこその、球の強さ。

高校二年時の142キロよりも、圧倒的に速いボールであった。

 

 

3球目、再びストレート。

クリスも振りに行くも、空振り。

 

4球目のストレート。

これになんとか喰らいつくも、前に飛ばずファール。

 

(やっぱり、打席の感覚だけはまだ戻ってねえか。)

 

バットを構え直すクリスの姿を見ながら、財前は唇を噛み締めた。

 

なんとか肩も完治し、リードなど守備面は元に戻っている。

しかし、売りの一つであった強打だけは、まだ戻りきっていなかった。

 

 

「ストライク!バッターアウト!」

 

最後は決め球であるフォークで空振りの三振。

ここは財前に軍配が上がった。

 

「こっちじゃ負けねえぞ、クリス!」

 

財前が拳を突き上げ、クリスが天を仰ぐ。

その光景はまるで、公式戦さながらであった。

 

 

 

しかし、その投球に呼応するように沢村のピッチングにも磨きがかかる。

財前の3者連続三振に刺激された沢村も、8回の表を3者凡退に抑える。

 

対する財前も、8回の裏を3者凡退。

最後の攻撃に望みをかけるピッチングで9回の攻撃に繋いだ。

 

 

「すげえ。」

 

ポツリと、沢村が零す。

 

確かにボール自体もすごい。

がそれ以上に、マウンド上のその闘志が心に刺さった。

 

「あのマウンドに上がるのはプレッシャーか?」

 

「まさか。俺も負けたくねえって思いますよ。」

 

「それでこそだ。」

 

ミットを突き合わせ、互いの定位置に戻った。

 

 

沢村の言葉に偽りはなく、この回も先頭打者をセカンドゴロ。

2人目の打者にはレフトライナーで早くもツーアウトと国土館高校を追い込む。

 

そして。

 

「ぜってえこのままじゃ終わらせねえからな。」

 

最後の打席に立つのは、投手の財前。

ここまでチームの勢いをつけた火付け役であり、この国土館高校で1番のバッター。

 

「ああ、最高の形で終わらせてもらうぞ。」

 

「抜かせ。」

 

初球、インコースのストレート。

これを、まずは見逃す。

 

(思ってたより動くな。)

 

ここまでの打者の反応と今見たボール。

ナチュラルムービングかと、彼は察した。

 

2球目、再びストレート。

今度はシュート方向に沈むボール。

これも入って、2球でツーストライクと追い込まれる。

 

(動く球ってなると、球質は軽いかもしれないな。)

 

縦回転が綺麗にかかっていればそれだけ反発の力が作用する分、打球は飛びにくい。

それとは逆に、不規則な回転である沢村のストレートは、飛びやすい。

 

バットを短く握り直し、コンパクトにスイング一閃。

そのスイングを見て、クリスはマスクに右手をかけた。

 

(気づかれたか。)

 

こうなると、少し難しくなってくる。

 

なんと言っても、沢村の球質に気がついた打者は、例外なく良い打者が多い。

それこそ、2軍戦での増子が良い例だろう。

 

 

コンパクトなスイングで弾かれれば、ムービングボールは飛ばされてしまう。

そう考え、クリスはこの試合初めてのサインを沢村に見せる。

 

(ここでっすか?)

 

(ああ、投げられるだろ?)

 

笑顔で、クリスがミットを大きく構える。

そのコースは、インコース胸元。

 

 

今まで投げてきたボールは、自分自身が何も意識せず投げていた。

だからこそボールは自然と曲がっていたし、自分の意志とは関係がない動きをしていたのだ。

 

そんな沢村が、初めて握りを意識したボール。

中学時代に投げたくても投げられなかったボールを、実戦で初めて握った。

 

 

(どっちに動く。)

 

シュート方向か、スライダー方向か。

それとも、下か。

 

手元で沈む分、ノビはない。

ならば、多少詰まっても差し込まれにくい。

 

そう踏み、財前はバットを構えた。

 

「負けねえぞ、クリス。」

 

そう呟いた財前の姿に、クリスはフッと笑いかける。

そして間も無く、マウンドの投手を見守った。

 

「ああ、負けないさ。」

 

足を高く上げ、グローブで壁を作るようなフォーム。

豪快な、しかし理に適ったフォームで、ボールは放たれた。

 

 

右か、左か。

その判断を下す前に、キレのある「ストレート」はインコース胸元にズバッと決まった。

 

「負けないさ、『俺たち』はな。」

 

天を仰ぐ財前、マウンドで吠える沢村。

2人の投手を視界に収めながら、クリスはガッチリと右手を握りしめた。

 

 

 

 







一応補足。
財前に関しては、昨年秋時に怪我した大野と一緒にトレーニングをしたことで治りが早くなった、新しい投球スタイルを確立したような感じです。
クリス先輩同様、主人公が入ったことによる改変ですね。
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