燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

141 / 283
エピソード138

 

 

 

 

清正社との選抜決勝は、いよいよ中盤戦。

序盤から絶好調のエース、川崎は3回を終えた時点でノーヒットの6奪三振を奪っている。

 

かくいうこちらも、5番の大西にヒットこそ打たれたが、すぐにダブルプレーを取って帳尻合わせをしている。

 

 

 

3回の裏の守りでも、下位打線をしっかりと押さえ込み、三者凡退。

 

4回の表の攻撃に向けて、準備を始める。

 

 

 

「あんなカーブは中々見れねえよな。」

 

 

ベンチ前、屈伸をしながら倉持がそう漏らす。

確かに今日の彼のパワーカーブは、特にキレている。

 

それこそ、キレと落差共に全国トップクラスというのに相応しいだろう。

 

 

「まあな。真っ直ぐも強いから、カーブが生きる。」

 

「甘いコースは来るんだから、ストレート狙いでいいと思うぞ。」

 

 

俺と倉持の間に、御幸が入ってくる。

まあ確かに、それくらいでいいかもしれない。

 

川崎のように、少ない球種を軸にしていく投手は、練度の高いボールを続けて使えるということもあってシンプルに攻めやすい。

 

そしてそれが魔球レベルなら、バッターも捉えるのは容易ではない。

 

 

しかし、球種が少なければそれだけ狙いやすくなる。

 

ストレートとカーブが軸なのであれば、2分の1。

フォークも入れても、3分の1である。

 

 

無論そんな簡単な話では無いのだが、少なくとも多種多様な球種を使う投手よりは絞りやすい。

 

 

「カーブは思い切って全部捨てても構わん。狙い球を絞る以上、我慢が必要になるが、仕方ない。」

 

 

監督の言葉に、倉持が頷く。

 

そして俺と監督の視線が合い、俺も頷いた。

 

 

こういう戦いには、慣れているつもりだ。

相手が好投手なら、こちらの我慢が必要なのも。

 

エース対決だから覚悟はしていたし。

 

 

何より、任されるというのは、嫌いじゃない。

 

 

「大野、小湊、白州。」

 

 

俺もネクストバッターズサークルに向かおうとしたところで、監督に呼び止められる。

 

何かと思い、共に集められた小湊と白州の横に並ぶ。

 

 

「どうだお前ら、川崎のカーブは。」

 

「速いですね。球速もそうですけど、軌道が普通のカーブと違いますから速く感じやすい気がします。」

 

 

パワーカーブと呼ばれているが、若干縦スラに近い。

少しフワッと浮かぶカーブよりかは、スライダー系に近い変化をしている。

 

そうだな、鵜久森の梅宮の速い変化球に軌道は近いか。

 

まあ彼のものより変化はかなり大きいが。

 

 

「二巡目以降、他の奴らにはストレート狙いに徹してもらう。しかしその狙いを悟られるとやりにくい。」

 

 

なるほど、それで俺たちが呼ばれたわけか。

 

バットコントロールのいい小湊に、ミート力の高い白州。

そして、変化球対応の得意な俺。

 

この3人は狙い球をカーブに絞ることで、相手に悟られないように。

 

 

選手によって狙い球を変えていると相手が察したらそれはそれで儲けもの。

川崎ないしはキャッチャーにも余計な思考を割かせるこもができるのだ。

 

 

ということで俺がネクストバッターズサークルに向かおうとすると、倉持とすれ違った。

 

 

「随分早いご帰宅だな。」

 

「るせ!」

 

 

ちなみに、2球目インコースのストレートを弾き返したものの、少し詰まった当たり。

悪くは無い当たりだったが、センターフライに落ち込んだ。

 

まあ、ストレートをしっかり捉えていたからいいと思う。

 

 

 

さて。

じゃあ、こちらもやれる事はやらせてもらおうか。

 

 

『2番、ピッチャー、大野くん。』

 

 

マウンドから見下ろす、川崎。

やはり遠目からでもわかる、強気。

 

表情から豪快なフォームまで、自信に満ち溢れているのがわかる。

 

 

絶好調だからか、ここまで散々三振の山を築いているからか。

 

 

(両方だろうな、多分。)

 

 

こういう投手は、自信を持って投げている時が一番いい。

 

キャッチャーもそれを理解しているはずだ。

 

 

 

なら、思い通りにいかなければ。

或いは、少し乱れが生じてくる。

 

例えばそうだな。

 

簡単に三振をしていた打者が、そのボールに対応してきたら。

 

 

 

初球、ストレート。

これを見送り、まずは1ストライク。

 

速い、しかし甘い。

それでも威力があるから、抑えられる。

 

特にカーブとのギャップがあるから、打線も苦労しているところはある。

 

 

2球目。

真ん中付近のボール。

 

先の球より少し緩い。

このスピード感は、カーブか。

 

これは見るのに徹していた為、完全に見送ってボール。

 

 

 

やはりキレも落差もすごいな。

追い込まれていたら、というか振らないと決めていなければ完全に振っていた。

 

 

 

しかし、軌道は見えた。

タイミングさえ捉えられれば、いける。

 

 

3球目、このカーブはゾーン内。

バットに当てるも、前に飛ばずファールとなる。

 

まだ、もう少し下か。

でも、速度感には対応出来てる。

 

 

4球目、ここはストレート。

これは狙う必要が無いボール、バットに当ててファールとした。

 

 

5球目、6球目もストレート。

これも振り遅れながらもバットに当ててファールを続ける。

 

 

完全に速いボールで押してきてる。

でもこれなら、対応くらいは大丈夫。

 

 

 

(そろそろ三振が欲しい頃だろ。)

 

 

投手相手に、いつまでも粘られたくない。

先頭をテンポよく切っただけに、ここもリズム良く抑えて攻撃に弾みをつけたいのだ。

 

ここまで粘られたならせめて、三振が欲しい。

 

 

 

バッテリーの空気が、投手の目が変わった。

そろそろ来るだろ、パワーカーブ。

 

 

(ほら、ドンピシャ!)

 

 

投げられたボールは、正にそのパワーカーブ。

縦に大きく割れる鋭いカーブが、外から入ってくるような軌道で抉り込む。

 

悪いがこの手のボールは。

 

苦手では無い…!

 

 

『おっ付けて打ったレフト前!ここは青道エースの大野に軍配が上がりました、1アウト一塁!』

 

 

軽く弾き返した打球は、サードの頭を超えてレフト前に落ちるヒットとなる。

 

良かった、思っていたよりも落ちなかった。

本当はゴロを打つ予定だったんだけどまあ、結果オーライだな。

 

 

 

さて、まずは俺でカーブを打った。

ここで小湊もカーブを打つ、ないしは狙っている素振りを見せることができれば。

 

それである意味、布石を投じたことになる。

 

 

理想はヒット。

最悪、ゲッツーにならないゴロ。

 

ダブルプレーと三振はリズムに乗られるから、ダメ。

 

 

それが難しいんだけど。

でも、小湊ならできる。

 

 

3番、カーブ狙いを任された小湊は初球打ち。

少し浮いたカーブを完璧に捉えてセンター前に運ぶ。

 

 

 

 

これで1アウト二三塁。

初めてのチャンスの場面で打席に入るのは。

 

恐怖の4番、圧倒的クラッチヒッター。

 

俺たち青道打線を引っ張る主軸の中の主軸。

 

 

投手の花形がエースだとすれば、打者の花形はこの男だ。

 

 

 

『4番、キャッチャー、御幸くん。』

 

 

 

狙いはストレート、の予定。

しかし監督も、このチャンスの場面になれば。

 

恐らくは、御幸の判断に任せるだろう。

 

 

何故か。

理由は簡単だ。

 

 

チャンスの場面のウチの4番は。

 

確実に、結果を残すのだから。

 

 

 

初球、低めのカーブ。

これを振っていき、当てるもファール。

 

さっきよりキレてる。

それに、落差も大きい。

 

ピンチになって、向こうもギアを上げたか。

 

 

投手戦が予想されているだけにできれば失点をしたくない。

 

特に向こうもまだヒットが生まれていないだけに、なんとしてでも抑え込みたいのだろう。

 

 

 

カーブで攻めてくるのか。

まああの手の強気な投手は、ストレート勝負でくることもある。

 

そしてそれができる強いストレートと、見せ球にも決め球にもできる象徴的なカーブを投げられる。

 

 

さて、どうくる。

 

 

2球目、ここもまたカーブ。

これは少し低めに外れており、見送ってボール。

 

 

3球目、ここもカーブ。

これはゾーンに入っており、見逃して2ストライク追い込まれた。

 

 

御幸はストレート狙いか。

順当にそれが1番可能性も高いしな。

 

元々ストレートに負けないパワーもあるし、多分ついていける。

 

 

 

4球目、ここもカーブ。

これも少し泳ぎながらだが、ファール。

 

なんとか食らいつき、三振しない。

 

 

 

ここまでしつこくくるとなると、見せ球として使っているのか。

それともしつこくカーブでくるのか。

 

今のところはどちらでも攻めようがある。

 

 

そして今の御幸の反応を見るに、相手バッテリーも御幸がストレート狙いだということを感じ取ったと思う。

 

ならばおそらく、相手はカーブで最後まで攻めてくるか。

 

 

 

でもなあ。

 

 

なんとなく、さっきのファールが不自然に感じた。

あれは多分、カーブを狙ってる。

 

 

完全にストレートのタイミングで振った4球目。

 

おそらくあれは、相手にストレート狙いだという間違った認識を植え付けるための布石。

 

 

バッテリーから見れば、ストレート狙い。

そんな相手に対してはしつこくカーブで攻めていき、打ち損じを誘う。

 

 

 

5球目、案の定最後の決め球カーブを狙った。

 

 

「おっ。」

 

「あっ。」

 

 

バッテリーの漏れた声。

同時に俺も、声が出てしまう。

 

打球の角度、それに飛距離。

 

 

間違いなく、完璧な当たりであった。

 

 

 

高々と上がった打球は右中間。

打った瞬間確信できる当たりに、御幸も一塁ベースに向けてゆっくり進み始める。

 

 

御幸がバットを投げて走り始めたと同時に。

 

打球はライトスタンドへと、吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。