燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード140

 

 

 

 

 

 

『行ったーーー!高々と上がった打球は左中間!』

 

 

弾き返された打球を振り返り、その行方を追う。

高い弾道、伸びはあまり無い。

 

しかし、あまりに飛距離がある。

 

 

 

上手く捉えられた。

 

 

7回の表、ここまで順調に抑えて来れたのだが、遂に許した失点。

それが、1番の山田から浴びた一発であった。

 

 

インコースの高め。

カットボールの見せ球に投げたボール球のストレート。

 

 

これをしっかりと捉えられた。

 

ボール球だが、際どいコース。

まさか長打に、それもホームランにされるとは思っていなかった。

 

 

 

思わず眉を顰める。

というより、表情に出ていたのだろうか。

 

御幸が駆け寄り、様子を伺ってくる。

 

 

「派手に飛ばされたな。」

 

「まあな。あんな小柄なのに、どこにあれだけのパワーがあるんだか。」

 

 

あーいうのを天才というのだろうな。

おそらくプロの世界に行くだろうし、きっとその世界でもきっと活躍できると思う。

 

しかしまあ。

 

 

「やっぱり、一発病だな。」

 

「しゃーねーよ。改善されたとはいえ、球が軽いのはあんま変わってねーし。そう簡単に直るようなもんじゃねーよ。」

 

 

球が軽い。

質も割にというか、当たるとよく飛んでいく。

 

身体が小さいからか、力が弱いからか。

 

ストレートのキレとかバネとかはある方だと思うけど、球威はない。

 

 

 

当たればよく飛び、ヒットこそ少ないが被本塁打はある。

捉えられると長打になりやすく、痛手になりやすい。

 

それはわかっていたが。

 

 

いざ露呈すると、な。

 

 

(切り替えるぞ。今更焦るもんじゃねーし。)

 

(わかっている。)

 

 

 

今大会を通じて、わかった。

 

通用することも、通用しないことも。

そして、案外なんとかなることも。

 

 

 

続く2番をセカンドゴロ。

3番からは浅いセンターフライ。

 

そして4番の川崎に対しては、カットボールで空振り三振を奪う。

 

 

 

 

最後のバッターである川崎を抑え、俺はフッと息を吐いた。

 

 

まだ足りないものはある。

 

力配分、ギアチェンジ、完投能力、球質。

改善していかなければいけないし、でなければ今よりもっと過酷な夏では戦っていけない。

 

 

(難しいな、野球は。)

 

 

それと同時に。

 

 

(面白い。)

 

 

この場所は。

この空気は。

この景色は。

 

高校野球の聖地であり、選ばれし猛者だけが集まるこの地。

 

ここでまた、戦いたい。

そしてこの地に。

 

 

約束もできたしな。

 

2年生の怪物がまた俺を待っている。

 

 

 

 

無敵と称され、北の怪童と揶揄された。

北海道からきたあのエースは間違いなく、俺よりも優れたエースであった。

 

負けたくない。

 

今も、この後も。

 

 

 

 

 

 

 

 

その過程でも、負けては行けない。

奴が負けを糧にするのなら、俺は負けないことを糧にする。

 

負けることは人を大きく成長させる。

それはもう、経験した。

 

 

なら次は。

勝ち続けて、負けないことの難しさ。

 

それを、力に変える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

回は進み、9回。

8回に少し乱れた川崎を打ち込み、白州のタイムリーヒットで追加点を奪って6-1で迎えた最終回。

 

 

マウンドに上がるのは。

いや、言うまでもないな。

 

 

「行けるか、大野。」

 

「勿論。」

 

 

監督からの、一声。

未だに表情は崩していないが、声が少し浮ついている。

 

まあこの人にとっても念願だからな。

 

高揚してくれない方が、困る。

 

 

「もう少し待ってて下さい、監督。今度は3年生じゃなくて、俺たちがあのマウンドで胴上げしますから。」

 

俺がそう言って帽子を被ると、監督はフッと笑って返してきた。

 

 

「生意気な。しかし、そうだな。」

 

 

すると監督が俺の前に拳を出す。

それに応えるように、俺も拳を出した。

 

 

「任せたぞ、大野。」

 

「任されました。行ってきます。」

 

 

コツンと拳を合わせ、俺はベンチを出る。

 

 

「ヒャッハー!最後しっかり締めろよ!」

 

「1人ずつな。」

 

 

倉持と白州が、背中を叩いて守備位置に向かう。

 

それに続いて麻生が、東条が。

小湊と金丸、前園が守備位置へと走っていく。

 

 

「夏輝さん!最後もお願いします!」

 

「バックは任せて下さい。」

 

 

 

 

俺はゆっくり、マウンドへと向かっていった。

 

 

 

小さな丘。

いつもと変わらないマウンドだが、ここに上がれるのは何人いるのだろうか。

 

その頂点になる、か。

 

 

マウンドへ上がり、軽く跳ねる。

 

身体は大丈夫。

疲れはあるけど、投げ切れる。

 

それ以上に。

まだ投げたい。

 

 

プレートの横に置かれたロージンバックに手を当て、指を擦り合わせる。

 

少し白く染まり馴染んだ指にフッと息を吹きかける。

 

余分な粉塵が飛ぶその様は、まるで粉雪。

太陽と反射して結晶のように輝くそれが、宙に消える。

 

 

俺は、右手を胸に当て目を瞑る。

そしてゆっくりと、息を吐き出した。

 

 

 

1つ1つと思って戦ってきた。

 

そもそも全国という舞台もそんなに経験が無かったし、こうして注目されることも無かった。

 

 

強い相手がいて。

というよりは、周りには強いチームしかいなくて。

 

巨摩大藤巻は強かった。

白龍も強かった。

 

それに負けないように、やってきた。

 

 

だから、頂点とかあまり考えている余裕はなかった。

 

 

 

 

ゆっくりと目を開け、帽子の鍔に手を触れる。

待っていたように声をかけてきたのは、頼れる4番で女房役の御幸だ。

 

 

「行けるか。」

 

「ああ。」

 

 

いつもの様に、確認。

 

 

「漸く、だな。ここまで来れたのは間違いなくお前の力があったからだ。ありがとう。」

 

「何だよいきなり、気持ち悪いな。」

 

「照れんなよ。感謝を伝えただけだろ。」

 

 

そういう負けフラグみたいなのやめてくれよ。

そんなことを思いながらも、敢えて口に出すことはない。

 

でもまあ、そうだな。

 

 

「俺もだ。お前がいたから、この舞台まで来れた。ありがとう。そんで、これからも宜しく。」

 

「ああ。」

 

 

2人でそう言い合い、そして笑う。

 

やはり改めてこういうことをすると、気持ち悪い。

それに何となく、照れてしまう。

 

 

「さて、と。最後の3人だけど。」

 

「そうだな。抑えられればなんでもいいんだが。」

 

「わーってるよ。お前も案外ええかっこしいなとこあるからな。」

 

「見返したときに、そっちの方が見栄えがいいだろ。」

 

 

2人で笑い、互いのグローブとミットを合わせる。

 

いつもと同じように。

そして、各々自分たちの場所へと着いた。

 

 

 

 

最後の回。

しかし待っていたかのように、ここからクリーンナップで始まる。

 

でも、やるべきことは変わらない。

 

 

まずは先頭、開田から。

緩急にも強く、器用なバッター。

 

そして、パワーがある。

 

 

まずは、外。

外角低めから高速で変化するツーシームを振らせて早速1ストライクを奪う。

 

やはり初球の外角低めを狙っていたか。

 

 

今度は、同じコースにストレート。

少し迷ったか、バットが遅れて出てファール。

 

 

2ストライク、追い込んだ。

 

 

遊び球を入れるのも悪くはないが。

それはまあ、らしくねえな。

 

 

強気に、それでいて丁寧に。

 

真っ向から…行く!

 

 

『空振り三振!3番の開田はインハイのクロスファイア!127km/hの快速球が唸りを上げます!』

 

 

「っし。」

 

まずは一つ目。

思わず小さくガッツポーズが出てしまう。

 

 

しかし気持ちを切り替える。

なんと言っても、次は4番。

 

エースで4番の川崎が、打席に入る。

 

 

(ここまで合ってないけど。)

 

(ハマったら怖いかな。)

 

 

山田と同じで、反射神経がいい。

それでいて、パワーも非常にある。

 

ここまで当たっていないが、間違いなくこのチームで注意しなくてはいけない打者の1人。

 

 

 

まずは外に決まる縦のカーブ。

これを振らせて1ストライクを取る。

 

2球目、インコースのストレート。

少しギアを上げ、胸元を抉るボール。

 

132km/h、これも手が出てしまい早くも2ストライク。

 

 

間を開けず、最後はツーシーム。

1打席目ストレートで三振を奪ったコースから、今度は変化するボールで空振り三振。

 

 

『落としてきた三振!4番を三球三振で仕留め、残り1人と言うところまで来ました!』

 

 

「っらあ!」

 

 

2アウト。

投げきり、右手を握りしめたと同時に、御幸がボールを投げ返す。

 

 

(まだ取っとけ。)

 

 

胸に手を当て、そうアピールする。

 

 

まだ終わっていない。

何があるか分からないこの高校野球。

 

打席に入るのは、山田と共に唯一ヒットを放っている5番の大西。

 

 

一度リセットをするように、深呼吸。

 

もう、大丈夫。

 

 

 

初球、インロー抉り込むカットボール。

これをファール、ストライクを取る。

 

2球目、外角低めのストレートで見逃し。

 

 

3球目、少し抜けたストレートが外角高めボールゾーンへ。

 

 

(緊張しすぎだろ。)

 

(すまん。とはいえ、流石に緊張するなという方が無理だろ。)

 

 

息を吐いて両肩を2回転。

サインに頷き、投げ込む。

 

先程の川崎を三振にとったものと同じようなツーシーム。

 

しかしこれは見逃されてカウント2-2と、並行カウントとなる。

 

 

 

 

 

まだ、行ける。

俺はまだ、強くなれる。

 

今の先へ。

限界の、その先へ。

 

 

『高く上がったー!ライト白州は定位置のまま、掴みました3アウトー!』

 

 

外角低めのストレート。

これを打ち上げライトフライ。

 

しっかりと最後は白州が掴み取って試合終了。

 

 

心地よい風が吹き抜ける中、照りつける太陽。

 

 

 

俺は我慢していた両腕を、上に突き上げた。

 

 

 

 

 

 

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