春の甲子園であるセンバツを優勝という最高の形で終えた俺たち青道高校。
全日程、そして閉会式を終えた俺たちは、東京へ凱旋した。
のだが…
「人、多すぎじゃね?」
学校に戻って早々、まあ人が多い。
それこそ歩くのすら大変なくらいに。
それだけ注目されていたといえば野球選手冥利に尽きるのだが、とはいえ限度がある。
「仕方ねーだろ。」
「悪いとは言っていないだろ。」
元々目立つのは嫌いでは無いが、支障が出るとな。
正直疲れてるし、早く休みたいところではある。
「大野ー!ナイスピッチングだったぞ!」
「夏輝くーん!」
「ありがとう。」
手を挙げて、応える。
早く帰りたいなぁとも思いつつ、こうして自分が注目されているというのは悪い気はしなかった。
「すごい人気ですね、夏輝先輩。男女問わずすごい人数ですよ。」
「ああ、俺は御幸のようにイケメンじゃないんだがな。」
やはり先発は華があるというわけか。
身長も大してない俺でもここまで女子が来てくれるのだから。
自分で言うのもアレだが、御幸や降谷といったイケメンコンビに比べると、劣る自覚はある。
そう続けると、金丸がため息混じりに言った。
「よく言いますよ、夏輝先輩もすげえイケメンだってもっぱら話題になってますよ。」
「まさか。」
「綺麗な顔立ちで綺麗な髪と瞳が相まって人形みたいだって。」
「それは褒められているのか。」
ため息をつきながら、俺はベッドに寝転ぶ。
まあ、イケメンと言われて悪い気はしない。
と言うよりむしろ、嬉しいと思う。
にしても疲れたな。
1週間とちょっと、丸々甲子園の近くのホテルにいたから。
慣れないところでの生活というのもあってか、少し新鮮な気持ちにはなった。
というより、少し浮ついたかな。
少し遅めの修学旅行というか。
こういうのもどうかと思うのだが、休みの日や夜なんかはやっぱり舞い上がった。
でも、普段慣れているところと違って疲れは蓄積される。
終わってから、ようやく疲れがどっときた。
「金丸もゆっくり休みな。練習も大事だが、お前も体に疲労が溜まってるだろうし。休むのもまた、いいパフォーマンスをするために必要なことだからな。」
俺たち投手陣はもちろんそうだが、フルイニングで戦っている野手もまたかなり疲れが溜まっている。
内野は慣れない土のグラウンドで、神宮とはまた違った環境下である。
ゴロはイレギュラーしやすく、人が多いから熱気も停滞しやすい。
何より、全国大会という緊張感。
心身ともにかなり疲れが溜まっているはずだ。
金丸も自主練をしたい気持ちがあると思うが、我慢も必要。
疲れたところで練習しても質を上がりにくいし、怪我にも繋がる。
彼もまた、自分が思った以上に疲れが溜まっている。
「今日くらいはゆっくりしな。明日も休みなんだから、自主練は明日以降で大丈夫だと思うぞ。」
「そうですかね。言われてみれば体重いかも。」
「連戦だったしな。たまの休みだし、俺も休む。」
そうしてベッドに入り、俺は息をはく。
金丸に言った通り、たまの休みだ。
ゆっくり休もうと思い、目を瞑る。
いろいろなことがあったな、センバツは。
カットボールはかなり通用したし、チェンジアップも意外と使えた。
足のイメージだったが美馬はかなり上手かった。
山田から喰らった一発は正直圧巻だった。
円城も、あのシャープのスイングはすごかった。
何より、本郷。
あの闘気というか、覇気は他の人間とはまた違ったものだった。
新たなライバルというか、俺のもう一つ目標になったかな。
また、あいつと投げ合いたいな。
あいつと投げていると、俺もまた頑張ろうと思える。
負けたくないから、すごい相手に勝ちたいから。
元来というか、俺はそういう性格らしい。
感覚的にはそうだな、成宮と投げ合った時に近かった。
同い年で幼い頃から目標にしていたから感覚としては若干違うんだけど。
それにまだ足りないものもあった。
山田に打たれたのは、インハイのボール球。
そこのコースに強いボールが投げきれなかった。
球威はもちろんだが、角度の作りにくい高めはやはり痛打されやすい。
特に俺のように軽い球の選手は。
それに、力配分。
フォームを変えてからまだ上手く力が抜けきれていない感じがある。
夏に比べても、疲れが早く溜まる感覚があったな。
巨摩大藤巻との試合でも、途中から少しコントロールが乱れたし。
やはり、ギアの入れ替えや力配分は考え直したほうがいいかな。
でも、通用したことも多かった。
どうやら制球力は全国でも自慢できるらしい。
かなり褒められることが多かった。
あとは変化球とストレートの投げ分け。
カーブとチェンジアップの緩い球と速いボールの緩急。
低めのコースからストレートとツーシーム、高めのカットボールで三振を奪う投球は俺としてもかなり通用したと思う。
明日からまたやるべきことはたくさんだな。
次はもう、最後の夏の大会。
そこまでは時間があるようで、たったの三ヶ月しかない。
できることは限られているが、やれることもやるべきこともまだある。
これからはラストスパート。
忙しくなるな、これからは。
だからこそ、今日はゆっくり休もう。
そうしよう。
と、思ってきた頃。
「夏輝さん!今よろしいでしょうか!」
「俺ならいないぞ。」
「なんですって!いないのに声がするわけないじゃないですか!」
おっしゃる通りで。
ため息をつき、ゆっくり体を起こす。
沢村のやかましい声に起こされた俺は、降谷と沢村の反省会に付き合わされるのであった。