こんにちは、大野夏輝だよ。
センバツから帰ってきて次の日、ようやくゆっくりできた。
しかし、落ち着いたのも束の間。
季節は春。
別れの春であり、出会いの春。
ついに新たな戦力が加わる。
「今日だっけか、新しい子来るの。」
「ええ、確か。センバツあったから遅くなりましたけど。」
例年なら3月中に合流するのだが、今年に関しては選抜で首脳陣が出ていっていたため新入生も遅れて入ってきた。
金丸がいうには、夕方から合流らしい。
まあ今日はオフだし、ゆっくり準備するか。
いつものルーティンであるランニングとストレッチを終え、バッティングに取り組む。
今日はノースローだから、打撃練習。
金丸や東条、白州らと自主練をしているとあっという間に時間が過ぎていった。
「おっと金丸、そろそろ時間だな。俺たちは準備しに戻るぞ。」
「あっ、はい。」
折角夢を持ってこの寮に入ってくるのだ。
迎え入れる側の俺たちとて、しっかり準備をしなければ失礼にあたるだろう。
「名前なんだっけ。」
「大京シニアの瀬戸ですね。足が早くて走塁技術がいいって噂ですよ。」
「詳しいね。」
「夏輝先輩が疎すぎるだけっすよ…。」
そんなもんか。
まあ確かに、シニアの情勢とかあんまり興味ないし。
新入生の情報なんて本人から聞けばいいし。
そう考えると、クリス先輩の存在って大きかったな。
それこそ俺もクリス先輩に聞くまでは金丸のこと知らなかったし。
瀬戸ね。
足が速くて尚且つ技術もあるってなると、倉持のタイプだよな。
どうしよう尖ってる子が来たら。
「ヒャッハーとかいうやつだったら困るな。」
「ないと思います…。」
眉間を押さえながら俺が顔を俯くと、金丸が溜め息混じりにそうツッコミを入れてくる。
おっしゃる通りである。
そんなやりとりをしていると、ついに扉をノックする音が響く。
ついに来たか。
「今日からお世話になります、瀬戸拓馬っす!よろしくお願いします!」
あら、まともな子。
上背はそんなにないかな、それにまだ線は細い。
メガネでタレ目が特徴的だな。
「おう、よろしく。俺は2年の金丸、とりあえず荷物置いて座れよ。」
「はい、ありがとうございます。」
荷物を置き、床に座る瀬戸。
それを確認して、俺も飲み物を用意してその場に出した。
「まあ、楽にしなよ。一応、自己紹介してく?」
「そうっすね。改めて、2年の金丸信二。ポジションはサードだ、よろしく。」
すると軽く会釈をする瀬戸。
それを見て、俺も咳払いをして話し始める。
「3年の大野夏輝、ポジションはピッチャー兼センターやってます。」
よろしくと小さく礼をする。
「わかる通り、このチームのエースだな。」
「知ってます。センバツの時と前の夏大のピッチングは本当にすごかったです。」
「お、知ってくれてんの。」
流石に全国まで行くと知名度も高くなるのか。
覚えてもらえるってのも中々ないから、嬉しいもんだ。
そういえば高島先生も今年は特にスカウトが楽だって言ってたな。
知名度も出てきたからか、やはり他県からもきてくれる選手が多かったらしい。
「ちなみに歓迎会とかはやらないよ、明日も早いし。」
金丸がそう言うと、瀬戸が頷いて前に出されたコップに口をつける。
毎年のことながら、明日は新入生の挨拶や身体測定など中々やることが多いため、朝が早い。
あんまりはしゃいで遅くなるのも悪いし、早めに休むのが吉と見ている。
実際、遅れている人間がいるからな。
昨年歓迎会をやった倉持の部屋は、見事に沢村が寝坊した。
「そういえば、大京シニアからもう1人来てるんだろ?」
オレンジジュースで喉を潤し、金丸がそう質問する。
大京シニアというのは、どうやら神奈川のシニアらしい。
どうりで知らないと思っていたが、近辺の強豪校ではなくこちらまでくることはかなり珍しいらしい。
確かに俺も、大京シニア出身のチームメイトは聞いたことなかったかな。
「ええ。奥村ってキャッチャーなんですけど。」
瀬戸がそういうと、俺はコップを口元から離す。
「奥村でキャッチャー、確か一也の部屋だったかな。」
「御幸先輩と同じ部屋なんすね。」
へえ、それは面白いな。
前評判ではかなりクレバーなキャッチャーだって聞くし。
気が合うとは安易に考えられないが、上手くやるだろう。
「あいつも大野先輩のボールを受けてみたいって言ってましたよ。」
「期待しすぎだろ。」
そうしてすぐに休むように促す。
明日も早いし。
何より瀬戸も、慣れないところでの生活になる。
早めに休んで、明日に備えるべきだと思う。
瀬戸か。
かなり丸い子ではあるけど、性能的には尖ってそうだな。
いやまあ、そういう方が戦力にはなりやすい。
さーて、他にはどんな子来るんだろうな。
そんな期待を胸に、俺も眠りについた。
翌朝。
まだ霧が晴れないこの明け方に、それぞれ一年生が挨拶をしていく。
「矢澤中学出身、鈴木陽平です!ポジションは外野全般です!」
元気、まさにフレッシュ。
そんな彼らの挨拶を聞いていると、一躍存在感を放つ彼が口を開いた。
「赤堂中学出身、結城将司。可能性を狭めたくないのでポジションは全て希望します。」
結城。
みなさまお察しの通り、前主将の哲さんの弟である。
彼以上に身長があり、身体の厚みもすごい。
飛ばす力でいえばおそらく、哲さん以上だろう。
まあ、あの人はどちらかというとアベレージヒッターだったからな。
技術とパワー、そしてメンタル全てが良かった。
「高校野球はあくまで通過点。将来的にはメジャーで活躍する選手になりたいと思います。」
ほう、でかいことを言う。
身体だけでなく、言うこともまたスケールが大きいな。
中学時代もずっと四番。
意識も高くスケールがデカいと、哲さんも言っていた。
あとは、あれか。
「間宮シニア出身、由井薫!小中とキャッチャーとしてやってきたので、キャッチャー以外は考えられません!」
小学生のリトル時代、世界大会では主将として代表を引っ張ってきた実績があるキャッチャー。
中学時代も強豪間宮シニアにて不動の正捕手として活躍してきた。
身長はないな。
かなり小柄な部類だが、下半身は結構大きい。
広角にも強い打球が打てると言う前評判にも頷ける。
「案外小さいんだな。」
「まあな。しかし体格は言い訳にはならん。本人もわかっててここまできたんだろ。」
「お前が言うと妙に納得できるわ。」
「うるさい。」
横にいる御幸とそんなやりとりをしながら、一年生の挨拶に目を戻す。
すると我が部屋の期待の新星、瀬戸の挨拶が終わったタイミングであった。
「大京シニア出身、奥村光舟。希望ポジションはキャッチャー。憧れの選手とかは特にいないです。」
綺麗な白髪に、鋭い目つき。
なるほど、あれが瀬戸の言ってた奥村か。
しかしまあ、面白い刺激にはなるはずだ。
即戦力とは言わんが、おそらくいい影響をもたらしてくれるだろう。
「奥村、お前と同じ部屋だったろ。どうだった。」
御幸に俺がそう聞くと、なぜか嬉しそうに笑って答えた。
「中々生意気なやつだったぜ。さっさとレギュラーキャッチャー奪ってやるってさ。」
「嬉しそうな意味がわからないが、まあいい影響を及ぼすならいいか。」
確かに競争相手がいるというのは、彼にとってはかなり久しぶりなことだったか。
小野はそもそも俺のツーシームを取れないから使われることはあまりないし、狩場はそもそもベンチ入りすらしていない。
そう考えると、実績のある2人のキャッチャーの加入は御幸にとっても。
あとは投手陣にとっても、かなりいい影響を及ぼすはずだ。
これまで俺や御幸が引っ張ってきたものを、今度は後輩を引っ張っていく立場に変わっていく。
特に沢村や降谷、東条にとってはいい経験になるはずだ。
(そうか、もう次の世代のことを考える時期か。)
そんなことを内心で思いながら、俺は新入生たちの挨拶を見送った。