燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード148

 

 

 

 

 

春の東京都大会は、降谷と天久の投げ合い。

 

前評判では、全国レベルと名高い投手2人ということもあり投手戦の予想だったのだが、序盤からスコアが動く。

互いに得点を取り合う展開になったものの、最後は天久がしっかりと投げ切って5−4で敗北した。

 

 

 

 

その試合から一夜明け、ブルペンに入った俺。

 

昨日違和感のあった肘は問題なく、投げた感じも変な感覚は無くなっている。

これなら昨日投げてもよかったかなーなんて思いながら、俺は口を窄めた。

 

 

「投げればよかった、と思ったか?」

 

 

図星をつかれた。

落合コーチの言葉に俺は目を向けて、すぐに首を傾けた。

 

 

「まあ、まだ無理する段階ではないですから。」

 

「わかっているならいい。今日は軽めに投げてお前も上がれよ。」

 

 

今日ブルペンに入っているのは、俺だけ。

 

昨日登板のあった降谷とノリは休み。

そして東条は今日、野手練習に参加している。

 

沢村はランニングであり、今は俺がブルペンで投げているのだ。

 

 

キャッチャーに入っているのは、もちろん御幸。

 

一息吐いて、俺は彼のミット目掛けてストレートを投げ込んだ。

 

 

 

「ナイスボール!今の何割くらい?」

 

「だいたい7割くらいかな。いい感じではある。」

 

 

コントロールは多少ぶれているが、試合になればもう少しまとまる。

 

なんというか、試合くらいの緊張感じゃないとコマンドに決める能力はない。

 

 

もう一球続けて投げようと言うところで、俺はとあることを思い出して投げるのをやめた。

 

 

 

「そういえばコーチ。」

 

「なんだ。急にどうした。」

 

「昨日の試合で言ってたじゃないですか。ほら、降谷の不調の原因ってのが。」

 

「ああ、あのことか。」

 

 

昨日の試合…と言うよりは、甲子園から帰ってきてからか。

降谷が少し、乱れているような気がする。

 

調子が悪いわけじゃない。

 

のだが、少し力が入りすぎている気がする。

 

 

「甲子園から戻ってきてからっすよね。燃え尽き症候群とかですかね。」

 

 

俺がそういうと、御幸と落合コーチがわかりやすく顔を顰める。

 

 

「違うのか。」

 

「おそらくな。」

 

 

御幸が端的に答え、腕を組み直す。

すると落合コーチは、右目を瞑って話し始めた。

 

 

「俺が想像するに、どこか焦りによるものだと思うんだがな。」

 

「焦り、ですか。」

 

「目の前で自軍のエースと同世代の、それも出身も同じスター選手がとんでもない投げ合いをしたんだ。追いかけてる身としては、焦りがあってもおかしくないだろう。」

 

 

巨摩大との、本郷と俺の投げ合いか。

 

確かにあの時の俺は、自分で言うのもなんだがかなり調子が良かった。

それこそ、本郷にも負けていないと思った。

 

 

目の前でエース争いをしている相手が好投したら、俺もやらなきゃと思う。

まさに俺も、秋に大きく飛躍した沢村と降谷を見て、すごく焦った。

 

だからこそ練習したし、もっと上手くなりたいと思った。

 

 

「あとで話に行ってきます。」

 

「そうだな。今のあいつに必要なのは、考えをまとめる時間だ。それを手伝ってやれ。」

 

 

頷くと、俺は再び投球練習に戻る。

 

降谷は、あれでかなり繊細だからな。

それでいて、不器用だ。

 

 

なら、まとめることくらいは手伝おう。

 

 

 

何球か力を入れて投げ終えると、タイミングよく沢村がブルペンに戻ってくる。

 

このあとは沢村が投げるから、俺は終わり。

クールダウンをして、練習を終える。

 

 

まあ、元々自主練だからね。

 

それに今日は午後からまた予定がある。

だから、とりあえずそれまでの空いている時間に降谷の部屋へいく。

 

 

 

彼も今日は完全オフを言い渡されているため、部屋にはいるはずだ。

 

 

部屋の前で一つ深呼吸して、俺はドアを叩く。

 

 

「入るぞ。」

 

 

そう言って、俺はドアノブをひねる。

 

同室の小野は、ウエイトか。

今部屋には、降谷しかいない。

 

 

「身体は大丈夫か?」

 

「はい。」

 

 

小さく、そして最低限返答して、降谷は身体をベットから起こした。

 

うん、本当に特に問題なさそうだね。

 

 

「そうか。今日はゆっくり休むんだな。なんだかんだで球数も放っているし、疲れも溜まってるはずだ。」

 

「わかりました。」

 

 

沈黙が流れる中、俺は落ちていた白球に手をかける。

それを右手の手のひらで転がしながら、俺は話を続けた。

 

今更、回りくどいことを言うこともあるまい。

 

 

「なあ、降谷。」

 

「はい。」

 

「お前にとって、甲子園という場所はどんなところだった。」

 

 

俺がそう聞くと、降谷は俯き加減で答えた。

 

 

「僕の力不足を、感じた場所でした。」

 

 

自慢のストレートは弾き返され、低めの難しいコースでもヒットにされる。

白龍戦では、失点してから普段なら割り切れるのだが、それでも追加点を許した。

 

 

「同世代のすごい人たちがたくさんいて。僕はまだ、足りないと感じました。」

 

 

同い年、か。

 

この高校野球で、2年生で大きく活躍する選手は、少なくない。

能力の高い選手が優先的に使われるのであれば、学年なんて関係ないからだ。

 

 

巨摩大藤巻のエースは、降谷と同じ2年生。

それも、出身は同じ北海道の苫小牧。

 

彼なりに、意識するところはあっただろう。

 

 

 

他にも、俺がこの大会で唯一失点を許した、清正社の山田。

彼もきっと、将来的にはこの高校野球のスター選手になる器の選手だ。

 

 

 

そしてきっと。

降谷の言っている同世代のすごい選手という中に、沢村も含まれているんだろうな。

 

 

 

「厳しいな、この世界は。」

 

 

どんなに成長しても、周りの選手も成長している。

 

そして各地には、まだ見ぬ強敵がいて。

 

 

だからこそ面白いと、俺は思ったんだけどな。

 

 

 

「刺激になったか、甲子園は。」

 

 

俺がそういうと、降谷は迷わず頷く。

その姿を見て俺は、小さく笑った。

 

 

「そうか。」

 

「でもそれは、本郷を見たからじゃ、ないんです。」

 

 

そうして降谷は顔を上げて、俺の顔を見た。

 

 

「改めて、ここにいる人たちはすごいんだと、感じました。」

 

 

思わぬその発言に、俺も目を見開いてしまった。

 

てっきり俺は、甲子園で出会った選手に感化されたのかと思っていた。

 

 

 

「東条も、栄純も。それに、大野先輩も。僕にとっては、みんながすごい選手だと思いました。」

 

 

だからこそ、負けたくない、か。

もっと上手くなりたい、すごい投手になりたい。

 

その上でエースに、なりたい。

 

 

 

 

気持ちは、分からんでもない。

というか俺も、同じような気持ちになることはよくある。

 

 

その、焦りか。

 

 

 

「なあ、降谷。お前が目指しているところは、どこにある。」

 

「僕が目指すところ」

 

 

目先の、目標ではない。

 

言ってしまえば、現状考えられる自分の完成形を、考えてもらいたいのだ。

 

 

「僕は、誰にも負けないピッチャーになりたい。」

 

「ほう。」

 

「チームメイトにも、対戦相手にも。負けるのは、嫌です。」

 

 

そういう降谷に、俺は思わず笑ってしまう。

 

なんだ、思っていたより切実じゃないか。

全てを捩じ伏せようというように見えたが、案外考えていることはシンプルだな。

 

 

「大丈夫。お前はすごい投手になれるよ。」

 

 

苦い思いを知っているからこそ。

降谷はもっと強くなる。

 

 

稲実との試合で、負ける悔しさを。

 

巨摩大藤巻との試合で、大きな壁を。

 

そして、同じチームに好敵手を。

 

 

大投手になる素質もある。

何より、誰にも負けない武器がある。

 

 

「負けたくないのは、皆同じだ。ならどこで他を出し抜くか。」

 

 

少し間を置く。

そして俺は、降谷の右肩に手を置いた。

 

 

「それは、お前だけにしか持ってない、誰にも負けない武器なんじゃないかな。」

 

 

俺がそうだったように。

 

そこまで言わなかったが、降谷は理解をしたように頷いた。

 

 

「とはいえ、俺も負けるつもりは毛頭ない。多分沢村も、東条も、ノリも。」

 

「わかってます。その上で。」

 

「なら、練習するしかない。俺もまだ未完成なように、お前も未完成だ。もっと上手くなろう、もっと強くなろう。」

 

 

きっとこいつは、俺よりすごい投手になる。

 

世代を代表するだけじゃない。

きっと将来的には、日本を代表する投手になれる。

 

 

眠っている大器があまりに大きいからこそ。

そして、背負う意思が強いからこそ。

 

上手くいかないことは多くある。

 

 

だがそれを乗り越えた先に。

 

こいつはきっと。

 

 

「じゃ、俺は行くからよ。」

 

「はい。ありがとうございます。」

 

 

そういって、俺は椅子から立ち上がる。

降谷も見送るように立ち上がると、会釈をした。

 

 

午後からの予定も迫っているし、俺も部屋を後にする。

 

直前で、思い出したので降谷に言った。

 

 

「そういや今日、午後から1年と二軍の試合あるから、暇なら見に来いよ。」

 

「練習しなきゃいけないので。」

 

 

あ、そう。

 

 

 

 

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