燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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今回も例の如くガバです。
ご了承ください。




エピソード154

 

 

 

 

(なんだ、コントロールいいんじゃないんか。)

 

 

打席に入る好永高校の主将である栗原は、そのマウンドにいる投手に目を向けてそんなことを考えていた。

 

 

前評判というか、甲子園での彼の評価は、絶対的な制球力と球のキレで強気に攻めてくる超高校級投手と呼ばれた完全無欠のエースと言われていた。

 

それこそ、多くの野球有識者の中では、この大野こそが世代最強右腕と言われるほどに。

 

 

的確に四隅を攻め、キレのある直球と高速で変化する変化球で打者をねじ伏せる。

与四球が非常に少ないながらも奪三振が多いと、なんとも完成度が高い。

 

 

 

そういう意識で、この青道を遥々訪れてきたというのに。

蓋を開けてみれば、いきなり連続フォアボール。

 

 

今日はたまたま乱調なのだろうか。

 

だとしたら、とんだ不幸だなと思いながら、栗原はバットを幾度か振った。

 

 

 

 

 

「どうした。どこか痛むか。」

 

 

らしくないエースの姿に、御幸は思わずそう聞いた。

 

元々、乱調自体はそんなに多くない。

むしろ、少ない方だ。

 

試合途中で制球が乱れたりすることはあるものの、ここまで大きく乱れたことは久しかった。

 

 

ミットを口元に寄せ、2人が向かい合う。

 

すると、御幸の質問を否定するように彼は首を横に振り、返答するべく口を開いた。

 

 

「違和感があるか、どこかに。」

 

「俺の意識と感覚に乖離がある。悪いわけじゃないんだが、なんとなく噛み合っていない。」

 

 

身体のキレというか、状態は悪くない。

寧ろ、いつもよりも可動域が広いし、感覚は研ぎ澄まされている。

 

しかし、裏を返せば、普段とは違う状態ということ。

 

 

繊細な感触の持ち主である大野からしたら、それが「違和感」として感じてしまうのも仕方がないことであった。

 

 

「少しアジャストに時間がいる、付き合ってくれるか。」

 

「何年バッテリー組んでんだよ。」

 

 

そう言って、御幸が右手の拳で大野の胸をトンと叩く。

 

 

(2人で地獄は見たからな。死なば諸共、最後までお前に付き合うって決めてんだよ。)

 

 

あの時。

昨年の夏、エース同士の力投の末に敗れ、甲子園を逃した試合。

 

あの時、大野の異変に気がつくことができなかったことに、彼は不甲斐なさと大きな後悔を感じた。

 

 

同時に彼の中で芽生えたのは、彼を頂点に連れて行きたいという、野心。

 

ここまで勝ちに恵まれず、その勝利のために自己犠牲をしてきた。

そんな彼が頂点に立つことができなければ、それこそ報われないと感じていたのだ。

 

 

勝てなかったから、もっと強く。

 

そして遂には、頂に手が届いた。

 

 

それでも。

ここまでの彼のことと実力を考えれば、まだ足りない。

 

ただ純粋に、強く。

遥か遠くに、その先に。

 

夢のまた、その先に。

 

 

何より、今より高く飛べるのなら。

 

それこそキャッチャー冥利に尽きるというものだ。

 

 

 

 

「それが、キャッチャーの役目、だろ?」

 

「…そうだったな。頼む。」

 

「おう。気にすんな。」

 

 

2人で笑い、いつものように大野がグローブを顔の前に差し出す。

それに応えるように御幸もとんとミットを当てた。

 

ホームベース側に戻る御幸を背に、大野が手のひらで白球を転がす。

 

 

(さて、と。ああは言ったが、だいぶ感覚は掴めてきた。少し整理しよう。)

 

 

ここまで投げたボールは、10球。

 

そのうち大きく外れた球は4球で、いずれも引っ掛け気味にバウンドしているもの。

 

 

可動域が少し増えている為か、腕の振りが大きくなっている。

 

その振りが大きいからこそ、遠心力と反動の関係で、普段よりボールに力が乗りやすくなっている。

 

故に、普段とはまた違う感覚になっているのだ。

 

 

 

(いつもの引っ掛けるイメージよりも、押し込む感覚を強くしてみるか。)

 

 

指の感覚と、意識を擦り合わせる。

幸い今日は手先の感覚が鋭利な為、最後の一押しを変えてみることは出来る。

 

 

息を吐き、リセット。

 

イメージは、ボールの中心にあるコルクを、思い切り押し込むイメージ。

より強く、回転をかける気持ちで。

 

かと言って、持ちすぎない。

引っ掻くよりも、押し込んで回転をかける。

 

 

 

 

対する3番。

このチームで最もバットコントロールが良く、長打もある左打者。

 

整理した内容を落とし込み、大野は投げ込んだ。

 

 

まず初球。

少し浮いたストレートを見送り、まずは1ストライク。

 

 

2球目。

ボールゾーンに抜けたが、先程より力のあるボール。

 

それを確認きて、御幸は大袈裟に頷いた。

 

 

(大丈夫。確実に良くなってる。コースは気にせず、とりあえず今は感覚を優先させろ。コマンドはその後考える。)

 

 

はっきり言って、リードをする御幸側からすると、制球が効かないというのはかなり厳しい。

 

しかし、出来ないことをやれというほうが非現実的だ。

 

 

それに、これは大野の飛躍の為。

悪いながらも何とかまとめて試合に勝つという思考から、自分のいいピッチングの為に、やろうとしている。

 

口には出していないが、御幸の目にはそう映った。

 

念願というか、自分の為に投げて欲しいという思いが伝わったような気がして、御幸としては嬉しい気持ちの方が先行していた。

 

 

 

3球目、4球目と続けてボール球。

カウント3-1と、らしくないボール先行のカウントになる。

 

しかし、徐々に球のキレは良くなってきている。

 

制球も大きく引っ掛けたり抜けたりではなく、ゾーンには近づいてきた。

 

 

5球目、外の低め。

ギリギリ…という訳では無いが、厳しいコース。

 

栗原も振りに来るも、前に飛ばずファール。

 

 

(OK、良い感じ。)

 

(感覚はほぼ掴んだ。これなら、決められる。)

 

 

指先の感覚。

そして、いつもより広い可動域。

 

普段とは違う身体の状態と、イメージの齟齬。

 

擦り合わせて、纏まった。

 

 

 

まだ完璧にアジャストしている訳では無い。

しかし御幸は、思い切ってコースを指定した。

 

 

構えられたコースは、外角の低め。

大野が最も得意なコースであり、これまで組んできて最も多く要求してきたコース。

 

原点投球。

 

彼らにとって正にそう言うに相応しい、そのコース。

 

 

(思い切ったな。)

 

(まだ難しいのはわかる。振り切って、最悪周辺に来てくれればいい。)

 

(やってみなけりゃわからん。投げるさ。)

 

 

サインに頷き、チラリとランナーを見る。

 

動く素振りはない。

どちらにせよ、ここはバッターに集中する他ない。

 

 

(ここまで何度も投げてきたろ。)

 

 

息を吐き、大野は投げ込んだ。

 

全身を使い、身体を縦回転。

ボールをリリースするとき、いつもより押し込む。

 

 

(…ここで、強く!)

 

 

投げたボールは、外角低め。

いつもとほぼ同様のコースに、突き進む。

 

しかしその速度は。

 

 

(…速い!)

 

 

打者である栗原も、先程までのボールとの違いに驚愕。

 

実際の球速もそうだが、球のキレがさらに上がった。

何より、強度。

 

ボールの圧力というか、威力が増している。

 

 

この強いボールに、流石の栗原も反応が遅れた。

 

 

 

「ボールフォア!」

 

 

思わず、大野が前屈みになって表情を歪める。

同じく御幸も、同様の反応を見せる。

 

 

(うーん、我ながらいいボールだと思ったけど。)

 

(仕方ない。反応はされてなかった。強度もあるし、コントロールもいつも通りになってきた。ここからはいつも通り配球するぞ。)

 

(了解。)

 

 

元々コンディションは悪くなかった。

寧ろ身体のキレはいいし、感覚もいい。

 

だからこそ、これがアジャストしてくれれば、ボール自体は普段よりもいい物になるのだ。

 

 

 

しかし、ここで打席に入るのは、志麻。

全国最高峰のホームランアーティストが、打席に入る。

 

0アウト、満塁。

犠牲フライでも、1点。

 

それどころか、一発出れば一挙4点である。

 

四球を出せば、押し出し。

 

 

逃げ場のない状態で、このバッターを迎えた。

 

 

 

(ハナっから逃げる気なんてねぇだろ。)

 

(当たり前だ。ここでこの打者を捩じ伏せられないようじゃ、二冠は夢で終わりだ。)

 

 

 

帽子を被り直し、一度目を瞑る。

そして、軽く深呼吸。

 

ここまでの状況を、まずはリセット。

 

ピンチなのだが、大野は敢えて全てを忘れて、目の前の打者だけに集中した。

 

 

キラリと光る、青い瞳。

その瞬間、御幸も頷いてミットを構えた。

 

 

コントロールが効くことは、わかった。

あとは、完璧に決められるか。

 

 

 

(さあ来い、東京の怪物。その手並み、見せてもらおう。)

 

 

どっしりとしたスタンスで、力感なくバットを揺する。

懐が深く、強打者特有の打ちそうな風格がある。

 

甘く入れば、飛ばされる。

満塁、打者は満塁に強い打者。

相手は、全国屈指のホームランバッター。

 

 

練習試合とはいえ、最高潮の緊張感。

 

対する大野は、まだ本調子ではない。

 

 

しかしこの不利な状況。

寧ろ大野にとっては、この緊張感こそが毎度の覚醒の糸口となっていた。

 

 

 

(初球で多いのは、外角低め。だがピンチになると、強気でくる。)

 

 

今までの見てきた傾向を整理し、志麻はバットを掲げる。

 

予測したコースは、内角低め。

速いボールというか、自身のあるストレートを内角低めに決めてくる。

 

 

(甘く入ったら、狙う。)

 

 

そして志麻のその予測は正しく、御幸も内角に構えた。

 

 

全身を捻転する、豪快なフォーム。

そして腕を大きく振るい、縦振りで投げ込んでくる。

 

 

 

狙ったコースは、内角低め。

ボールは志摩のバットを掻い潜って、御幸の構えたミットの位置に完璧に入り込んだ。

 

まずは、1ストライク。

それ以上に、志麻に与えた衝撃は計り知れなかった。

 

 

狙ったコース、狙った球種。

そして、球速は絶好の速さ。

 

当たればよく飛ぶ、縦回転の要素の多いストレート。

 

 

しかし、当たらない。

 

 

視認した、そしてイメージしていた軌道とまるで違う。

 

途中で加速するように、そして浮き上がるように伸び上がる。

 

 

 

 

何より、志麻の目で見た大野のストレートに対する率直な感想は。

 

 

(速い。)

 

 

今まで見てきたストレートで、圧倒的に速い。

それは実際の球速ではなく、体感速度の話。

 

純粋な縦回転で且つ、全身を使って強い回転をかけるから、初速と終息の差が限りなく少ない。

 

だからこそ、打者から見たギャップが大きいため、早く感じやすいのだ。

 

 

そして、当の大野も。

 

 

(今の感覚。いつもと違う。)

 

 

先日の試合で投げたせいか、肩周りや肘、広背筋の可動域が広がっている。

より身体のバネが使える為、普段よりも球に力が乗っている。

 

 

いつもより速いストレート。

コントロールも、完璧に決まる。

 

 

この緊張感の溢れる試合で、大野はさらに蓋を開けた。

 

 

 

 

志麻に対して、三球三振。

それも全て、純粋なフォーシームを続けて、ねじ伏せた。

 

さらに次の打者である5番に対しては、小さく動かしたツーシームを引っ掛けさせてダブルプレー。

 

 

バタバタした初回の守りは、大野夏輝の圧巻の投球で無失点で切り抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







今回の覚醒は、一時的なものです。
2日前の投球で身体がほぐれて、可動域の限界値が広がったような感じで。

なのでこの試合が終われば戻ります。
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