燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード155

 

 

 

 

 

「うーん、中々。」

 

「まあ、仕方ねえな。球の力があるから抑えられてるけど、いつも通りとは行かねーよ。」

 

 

試合は、終盤。

好永高校との練習試合は、4−2と俺たち青道高校リードで、7回の守りを終えた。

 

俺はここまで7回を2失点の、13奪三振。

 

被安打は4、しかしフォアボールは4個。

 

 

概ね悪くないのだが、なんだかな。

今日の身体の状態にアジャストできなくて、少しバタついた。

 

初回はもちろんだが、やはり中盤でも少し制御が効かない場面があったかな。

 

 

やはり、ストレート。

ギアを入れると、少し乱れる。

 

ただ、ピンチで志麻に回った際はしっかり抑えることができているから、そこはOKだな。

 

 

ベンチに戻り、汗を拭う。

 

やはり5月になり、少し気温も上がってきた。

そのせいか、かなり汗が出てしまう。

 

 

 

「疲労度はどうだ。」

 

「身体は特に。少しペースをあげても、最終回まではいけます。」

 

 

 

ギアチェンジしてるから気疲れはしてるけど。

あとは普段とまた違う感覚ってのもあって。

 

しかし、身体の状態でいえばまだ問題ない。

 

 

「なら、残りのイニングも頼むぞ。」

 

「あ、勿論です。」

 

 

なんだ、続投か。

 

いや勿論最後まで投げ切るつもりだったのだが、いつもの感じならここでリリーフにスイッチすることが多いから、今回もそのパターンだと思っていた。

 

 

 

「今日以降もまだ連戦だからな。大会でもお前は完投起用になるだろうし、投げられるのなら9回まで行ってもらいたいところはある。」

 

 

補足するように、落合コーチがそう言った。

 

確かに、俺はイニングイーターとして評価されている部分もある。

球数も少なく後半に大崩れすることもないから、最後まで投げ切ることが多い。

 

 

まあ実際、俺のエース像はチームを勝たせる完投投手。

だからこうして評価されるのは、いつもながら素直に嬉しい。

 

 

「実際のところ、疲れはどうだ。」

 

「身体はな、まだ。気疲れはしたけど。」

 

「身体は何割くらいだ。」

 

「八割くらい。初回のバタバタがあったから、余計に疲れたな。」

 

 

ただ、9回までは行ける。

 

疲れはあるが、今の身体の状態にもアジャストできているから、今は効率よく投げられている自覚はある。

 

 

 

 

 

8回の守りもまた、無失点。

下位打線相手とはいえ、しっかりと抑えることができた。

 

球数は、ここまでで121球。

 

少し多い気がするが、許容範囲だろう。

 

 

対する相手投手である増田もなかなか得点を許さない。

途中交代した7、8、9回をしっかりと無失点に抑え込み、反撃の糸口を掴ませない。

 

 

相手も全国の猛者というわけか。

やはり、こちらに流れを掴ませてくれない。

 

強いチームだ。

 

だが、負けるわけにはいかない。

 

 

「最後だ。油断すんなよ。」

 

「上位だからな。言われんでも、気は勝手に入る。」

 

 

俺が答えると、御幸が小さく頷く。

 

さあ、最後の守りだ。

相手は、上位打線。

 

 

勝つだけでは、足りない。

相手がこのあと戦ったら勝ち目がないと、そう感じるほど完膚なきまでにやる。

 

この大事な時期に、練習試合をしているのだ。

 

プレッシャーの一つや二つ、かけさせてもらう。

 

 

 

「いつも通りの配球で行く。捩じ伏せるぞ。」

 

「OK。」

 

 

要所要所で力を入れる。

それも、俺のピッチング。

 

しかし今求められているのは。

 

 

相手に手も足も出ないと感じさせる、圧倒するピッチングだ。

 

 

先頭の1番に対しては、ストレート2球で追い込んだ後に、カーブを振らせて空振り三振。

 

まずはテンポ良く、斬り捨てた。

 

 

 

続く打者は、選球眼のいい2番。

 

早打ちはせず、相手に球数を投げさせて失投を待つタイプ。

初回もいきなりフォアボールで出塁されるなど、嫌らしいバッターではある。

 

 

 

 

裏を返せば、簡単に追い込むことができる。

ゾーンで強気に攻めていくのが、シンプルで且つ最も効果的な対処法。

 

ギリギリに強い球を決めることが、求められる。

 

 

(できんだろ?)

 

(当たり前だ。何年やってきてんだよ。)

 

 

まずは、インロー。

膝元に反応出来ないボールを、投げ込む。

 

やはり、バットを出してこないか。

 

これが内角低め、膝元いっぱいの決まってストライク。

 

 

 

2球目、今度は外角低め。

今日のゾーンは若干外に狭い気がするから、そこも加味して狙う。

 

これもいっぱいに決まる。

 

しかし相手も予測していたのか、バットを振ってきた。

前に飛ばなかったものの、バットに当ててファール。

 

 

(結構引き付けているのを見るに、外狙いか。それも速いボール。)

 

(インコースで決めるか?)

 

(いや、外で行こう。ストレートの支点で、そこから落ちるボールで。)

 

 

縫い目を90°ずらし、指にかける。

 

シュート回転を強くかけながら、落とす。

できるだけ指にかけて、速度は落ちないように。

 

 

俺の、俺だけの決め球。

 

ストレートと同じく、俺を象徴するボールの一つ。

 

 

このボールを要求通り決める。

御幸の構えたコースにドンピシャ、しっかりとストライクからボールに落ちて空振りを奪うボールで、三振に切ってとった。

 

 

 

 

 

あと一つ。

御幸に向けて人差し指と小指を立て、頷く。

 

 

しかし、ここからクリーンナップ。

できれば志麻まで、回したくない。

 

相手はバットコントロールが良く、選球眼もいい栗原。

 

塁に出るには、持ってこいの打者。

一発の怖さがない分、出塁率が高く嫌なタイミングで塁に出る。

 

はっきり言って、志麻の前にはいて欲しくない。

 

 

 

(左だし、カットを使っていくか。)

 

(傾向的には変化球打ちが多い気がする。選球眼も良いから、強い真っ直ぐで空振りを取りたい。)

 

 

しかし2球目、狙われた。

 

外の少し甘く入ったストレート。

これを詰まりながらもセンター前に運ばれ、出塁を許す。

 

 

失投という程では無い。

 

しかし、上手く打たれた。

 

 

 

(悪い、少し甘く行った。)

 

(仕方ねえよ。抜けてるわけじゃねーし、打つ方も上手かった。)

 

 

とはいえ、できれば許したくなかったランナー。

志麻の前に出るというのは、それだけで大きな意味を持つ。

 

ただのヒット一本とは、訳が違う。

 

 

(割り切るしかない。切り替えて、志麻を打ちとろう。)

 

(了解。ここはギアを入れる、リードは任せる。)

 

(おう。)

 

 

感覚を研ぎ澄まし、集中力を高める。

 

相手は全国屈指の打者。

この2点ビハインドの場面、必ず狙ってくる。

 

 

1発出れば、同点。

何より、一気に流れを掴める。

 

 

こういう場面、4番は強い。

 

 

 

(身に染みているからな。俺は。)

 

 

極限まで集中力を高めた後、目を開ける。

 

 

今のところは、4タコ。

しかしそれが、当てになるような選手ではない。

 

 

威圧感もそうだが、それ以上に。

投げ込んでこいという、懐の広さ。

 

ストライクゾーン全てをホームランにしようという、誘い込んでくるような感覚。

 

これが、ホームランアーティスト。

全国トップの、ホームランバッター。

 

 

 

 

 

 

 

 

それがどうした。

相手がなんであろうと、俺は青道のエースだ。

 

 

打てると言うなら打ってみろ。

生易しい球は、投げるつもりはないからな。

 

 

 

息を吐き、全身を捻転。

 

そして、内角低めにストレートを投げ込んだ。

 

 

「っらァ!」

 

 

このストレートに、空振り。

志麻も思わず、態勢を崩した。

 

 

やはり狙っているのはストレートか。

 

カーブを打つのも上手いから、変化球を使うなら速いボールで行きたい。

 

 

(ストレートは走ってる。これで押していきたいのは山々なんだが…)

 

(リードは任せると言ったろ。お前の考える最善ならば、俺はそれに従うだけだ。)

 

(…なら、インコースに切れ込むツーシームで行こう。ストレートを打ちに来てるから、振るはずだ。)

 

 

要求通り、インコースのツーシーム。

少し甘めのコースから、内のボールゾーンに切れ込んでくるこのボールは、御幸の目測通り志麻のバットを掻い潜った。

 

ストライク2球。

 

 

これで、追い込んだ。

安直に攻めるなら同じコースだが、恐らくバットに当ててくるはず。

 

それに、俺のツーシームは続ければ反応される。

 

 

ストレートとの球速差とキレがある為、基本的には真っ直ぐと誤認して振らせるというのが俺の決め球。

 

しかし単体で見れば、少しスピードのある落ちるボールだ。

反応される可能性も大いにある。

 

 

(もう一球、ストレートでいく。インコース、見せ球。)

 

(OK。)

 

 

1球、ボールゾーンにストレート。

最後のボールを生かすための、所謂見せ球と呼ばれるボール。

 

インコース、胸元にストレートを投げ込む。

 

 

バットが、出かけた。

しかし、止まった為1ボール2ストライク。

 

まだ俺たち有利のカウント。

 

 

遊び球は使えるが。

ここは、勝負だな。

 

わざわざ、打ち気になっている状態を逸らす必要も無い。

 

 

(振らせよう。高めに、お前のカットだからこその軌道を描け。)

 

(俺のボールで、ね。)

 

 

抑えるのは、絶対条件。

 

今見せなければ行けないのは、圧倒。

俺らしく、それでいて相手を捩じ伏せる。

 

 

 

沢村に無ければ、降谷にもない。

ノリにも東条にもない。

 

俺だけの、決め球。

 

 

 

 

外角の高め。

ストレート軌道で突き進むボールに、志麻もバットを出す。

 

完璧なスイング、完璧なタイミング。

 

 

でもそれじゃあ。

 

 

「当たらねえよ、ホームランバッター。」

 

 

最後は空振りの三振。

小気味良いミットの破裂音が響き渡ると同時に、俺の咆哮が木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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