燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード157

 

 

 

 

長かったゴールデンウィークの連戦も、最終盤。

 

その残りの試合も何とか勝利を収めることに成功し、俺たちはこのゴールデンウィークの8連戦を全勝で切り抜けることができた。

 

 

さて、しかし手放しで喜ぶ訳にもいかない。

 

各々課題が出てきており、それを解消していかなくてはならない。

 

 

俺たち3年生であれば、残り3ヶ月。

もう既に、時間は残っていない。

 

出来ることをやっていき、出来ないことはある程度割り切るしかない。

 

 

俺で言えば、球速のアップは見込めない。

長期スパンで身体を作ってから芽の出ることに関しては、今からやってはもう遅い。

 

 

だからこそ、今できることをやるのだ。

 

 

沢村や降谷、東条。

彼らにはまだ、来年がある。

 

だから伸び代もあれば、壁にも当たる。

 

そしてその壁を超えて、強くなれる。

 

 

俺には時間がない。

いや、俺たちには時間がないのだ。

 

3年の俺にも、ノリにも。

 

 

 

 

トレーニングをしながら、シート打撃で投げるノリに目を向ける。

 

ストレートが、左打者の内角にズバッと決まる。

あれでは打者も、手が出ないだろう。

 

 

練習ではいいんだけどなぁ。

試合になると、外中心になってしまう。

 

まあ低めで打たせてとるのがノリのピッチングだから、わかるには分かるのだが。

 

後手後手になることが、多い。

 

 

「練習ではいいんだがなぁ。」

 

 

そんな声に、俺はビクッとする。

心を読まれたのかと思い後ろを見ると、それは落合コーチが漏らしただけの言葉であった。

 

 

「まあ、ある程度やってくれますけどね。」

 

「ある程度じゃダメだろ。あの夏の過酷な状況じゃあ、沢村と降谷の完投はまず見込めない。お前も基本連投はやらせる訳にはいかないし、アイツがリリーフエースになるくらいじゃないと、いつかガス欠で共倒れになるぞ。」

 

 

そんなことは、わかっている。

 

 

「技術とか悪くねえんだ。あとは、考え方次第だろ。」

 

「そう、ですね。」

 

 

俺とか沢村、それに降谷なんかはどちらかと言うと、強気に出るタイプ。

 

俺は、試合を掌握して、力を見せつける。

降谷は、自慢の剛腕で真っ向から捩じ伏せる。

沢村は、持ち前の強い心で攻め込んでいく。

 

細かい違いはあれど、大分類は同じ。

こちらから攻めて、相手を上回る。

 

 

ノリは、はっきり言ってわからない。

 

 

 

(待てよ。もしノリもまた、こちらと同じ考え方なら?)

 

 

 

そういや、ちゃんと話したことなかったかもな。

 

沢村や降谷は、俺が面倒を見なければいけないと思っていたから、積極的に声をかけてきた。

 

 

 

あれでノリは、案外しっかりしているからな。

だからこそ、あまり関与していなかった。

 

本人にも芯があると思うし、下手に俺が指摘する必要もないと思っていた。

 

 

低めに慎重に、丁寧に打たせて取る。

それで、強気に行くというよりは、相手に合わせていくというのがノリのピッチングだと思っていた。

 

 

案外それも、俺の決めつけなんじゃないか。

 

もしかしたら、本人も攻めていきたいと思っていたのかもしれない。

 

 

 

そうだな。

同じ三年生同士、一度目線合わせをするのも、悪くない。

 

 

最後なのだ。

 

せっかくなら、少し話すのもいいか。

 

 

 

 

 

 

まあ、後での話だ。

今はただ、力をつけるための練習する。

 

そんなことを考えながら、俺は心を練習に戻した。

 

 

「ほら、ラスト三本行ってこい。」

 

「はい。」

 

「負けませんよ夏輝さん!」

 

 

やかましい男を右に添えながら、俺は走る。

 

そうだな、練習後に話に行こう。

まともにゆっくり話すのも、中々ないチャンスだしな。

 

 

そうして俺は、練習に没頭した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、夜。

練習、そして食事も終えてひとときの休息。

 

ある者はバットを振り、ある者は勉学に励む。

 

 

 

そんな中、俺は誰もいない食堂で座っていた。

 

右手で白球を転がし、なんとなくため息をつく。

中々俺は、こういう役回りが多いな。

 

まあ、チームを背負っている身だ。

 

 

ここ最近は自分勝手にやることも多いから、こういう普段の練習や生活で協力できるところは、協力していきたい。

 

 

 

「ごめん、お待たせ。」

 

「誘ったのは俺だ、気にするな。」

 

 

俺の近くで、ノリが座る。

 

 

軽く浮かせた白球を掴み取り、話す。

なんだろう、こうして面と向かって話すのは、案外気恥ずかしいものがある。

 

 

「まずはそうだな、今日も練習お疲れ。」

 

「ずいぶん畏まるね、お疲れ。」

 

 

そんなことを言って、2人で笑った。

 

 

「いや、なんかこうして話すのも初めてだろ。なんか緊張しちゃってさ。」

 

「そうだよね。なんでわざわざこうなったのかわからない。」

 

「俺も器用じゃなくてな。」

 

 

確かに。

というか無難にキャッチボールしながらとかでもよかったな。

 

失敗したなーとか思いながら、俺は話を続けた。

 

 

他愛ない話、最近の調子とか。

俺のメンタル管理とか、そんな話をしていた。

 

 

「すごいね、大野は。やっぱりしっかりしてるし、よく考えてる。」

 

「ありがとう。」

 

 

改めて言われると、照れる。

それを隠すようにボールを転がす。

 

するとノリは、少し俯き加減で言葉を並べる。

 

 

「正直俺の実力不足は自覚してる。降谷はもちろん、沢村みたいにすごい武器があるわけでもない。だからこそ、なんとか自分のできることをやるのに一杯一杯になっちゃうんだ。」

 

 

最速155キロのストレートの本格派右腕。

多彩な変化球で相手を惑わす変則左腕。

 

あまりに個性的すぎる二年生は、確かに大きな剣を持った2人といえる。

 

 

でも、そうだな。

 

 

「ノリはお前が思っているほど、普通の投手じゃないよ。」

 

「え?」

 

 

だって、サイドスローって時点で割と変則だし。

 

最近は増えてきてるとはいえ、やはり対右に対しては圧倒的な強さを誇る。

そして落ちる球としてシンカーもあるから、最近は左もあまり苦にしていない。

 

 

 

そしてこのノリ。

フォームも、少し特徴的である。

 

元々は結構シンプルなサイドスローだったのだけど、入学して少ししたタイミングで独特なためを作るフォームに改造していた。

 

力を溜めながら、相手の打者のタイミングを外す。

その独特なタイミングで投げる姿は、北海道の鉄腕サウスポーを彷彿とさせる。

 

 

サイドスロー独特の、真横に滑るスライダー。

そして聞き手側に曲がりながら手元で沈むシンカー。

 

ストレートだけで言っても、角度があるから中々癖がある。

 

 

そして実は、最速135キロと意外と速い。

 

 

 

そうこの男、スペックで言えばかなり高いのだ。

 

ただこの癖の強さと能力の高さを理解していないから、弱気になる。

 

 

 

しかしこれは、ある種仕方がないことでもある。

 

自分で自分の力を正確に測ることができるのは、本当に数少ない。

それこそ俺も、みんなに色々言ってもらえたからこそ、今の大野夏輝がいる。

 

 

だから、誰かが言わなければいけないのだ。

 

 

 

「ノリはさ。すごい投手だよ。」

 

「そうかな。」

 

「なんてったって、お前がやっていることは、俺たちにはできない。俺は勿論、降谷や沢村、器用な東条だってできない。それがお前の武器なんだよ。」

 

 

それに。

 

 

「お前がどんだけ頑張ってきたかっていうのも、近くで見てきたつもりだ。前よりも球は強くなったし、安定感だって増してきた。はっきり言って練習量で言えば、沢村とか降谷よりもやってきていると思う。」

 

 

球速だって、上がった。

下半身の安定感が増したから、球も強くなった。

 

 

「自信持てよ。お前だって、甲子園優勝チームのピッチャーなんだぜ。」

 

「そう言われると、プレッシャーおっきいね。」

 

「事実だ。お前はそれだけの力がある。」

 

 

このチームで求められるのは、個性。

 

レギュラーメンバーはそれに加えて総合力も高い。

 

 

そしてノリは確実に、その二つは備えているのだ。

 

 

「最近ノリのクロスファイヤー、いいよ。折角ストレートも強くなってきたんだからもっと使ったほうがいい。」

 

 

って、御幸と落合コーチ言っていた。

 

 

「強気に攻めろとは言わないが、もっと気持ちは出して言ったほうがいい。負けたくないんだろ、お前だって。」

 

「当たり前だよ。俺だってエース狙ってんだから。」

 

「じゃあもっと貪欲に来いよ。受け身のやつにこの番号は背負えねえぞ。」

 

 

そう言って、俺は笑った。

 

もうきっと、大丈夫。

そもそもノリは、いい投手だ。

 

 

「沢村にも降谷にも、東条にも。それに大野、君にも。負けたくないって思うし。」

 

「俺もだ。誰にも負けたくない。それは投手にとって、ごく自然な考えだと思う。」

 

 

マウンドに上がる投手は、1人だ。

だからこそ、ある意味エゴイストでなければいけない。

 

自分が1番で、自分に自信を持たなければ負ける。

 

1人だからこそ、最後に信じることができるのは他でもない、自分自身だけなのだ。

 

 

 

「そんなもんかな、俺が話したかったのは。ねみーし、そろそろ部屋戻ろーぜ。」

 

「そうだね。」

 

 

呼び出しておきながら先に欠伸をする。

 

まあ実際時間も遅くなっており、そろそろ消灯も近づいていた。

 

 

「じゃ、また明日。」

 

「うん、ありがとう、大野。」

 

「別に感謝される覚えはねーよ。俺が呼んだだけだし。」

 

「そうだったね。」

 

 

笑うノリを背に、俺は己の部屋に戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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