ゴールデンウィークも終えて、5月も中旬。
最後の大会まで残り二ヶ月弱となり、またやれることも限られてきた。
追い込みと、仕上げ。
土日の練習試合でチームの完成度を上げていき、総合力を高めていく。
チームとしては、非常に大事な時期。
そんな中、俺たちにとある知らせが届いた。
東京選抜による、ウインドユースアカデミーとの壮行試合。
海外の野球チームとの試合で、俺たちが推薦された。
そもそもウインドユースアカデミーというのは、MLBが野球振興のために設立、運営している野球アカデミーであり、元メジャーリーガーなどがボランティアで指導をしている。
経済的な理由などで野球ができなくなった選手たちに無料で育成プログラムを提供していると言うもの。
海外ではそれこそ、野球どころか生活すらまともにできない世帯は数多くいる。
有望な野球選手となりうる才能がそこで埋もれてしまうと言うのは、非常に勿体無い。
何より、人は等しく平等に楽しむ権利があるはずだ。
だからこう言う働きはすごくいいことだと思うし、協力できることは俺たちもやりたい。
まあ正直、海外の選手への関心というか。
単純に、日本の野球とは違う試合を体感したいというところは、ある。
主に東京都内の各校から三年生を1人ずつ招集し、東京選抜としてチームを作る。
ちなみにうちは例外で、俺と御幸2人の選出となった。
甲子園での活躍と俺たちの仕上がりを見て、2人とも出していいと監督も判断したのだろう。
顔合わせ、そして都内の大学と練習試合。
そしてアメリカチームと2日間試合と言う、計4日間チームを離れることになる。
俺はともかく、御幸がチームを離れるのが大きいだろうな。
チームの大事な時期に抜けるのは心苦しいが、仕方ない。
投手陣はまあ、心配いらないだろう。
俺がいなくても、ノリがまとめてくれるし、実力的にも。
沢村と降谷もいるし、東条と金田も枚数として計算できる。
問題は野手だよな。
核となる4番がいないわけだし。
俺らが抜ける間にも、対外試合がある。
それも、山守学園と西邦と、直近でも甲子園出場経験のある強豪校との試合だ。
ここまで練習試合も負けなしで連勝しているわけだが、まああくまで練習試合だ。
大会で負けるよりはマシだし、あまり気負いすぎず頑張ってもらおう。
日程は5月末から6月頭にかけて。
だからとりあえず今は、チームのことを考えていこう。
「由井くん、たまには受けてもらおうか。」
「はい、お願いします!」
基本はバッテリーも入れ替えながら、それぞれの組み合わせでしっかり力を発揮できるようにする。
今日は御幸と沢村、小野と降谷、ノリと奥村、俺と由井。
東条と金田は、野手練習に参加しているというところだ。
「ストレート、外角低め。」
「はい。」
由井が構え、そこに狙いを澄ませる。
力のあるボールを投げながら、コントロールもしっかり決める。
それができるから、やる。
投げたコースは、構えたコースにドンピシャ。
少し鈍い音が、鳴った。
「すいません!」
「構わん、勉強だ。」
由井はまだ、高校生のスピードについてきていない。
打撃の際はなぜか反応できるのだが、ことキャッチングに関してはまだ完璧に反応できてはいない。
だからこそ、このスピード帯に慣れてもらう。
変化球も速球も、ガンガン受けて感覚を養っていく。
自分で言うのもアレだが、俺はコントロールがいい。
構えたコースに投げられるから、由井がこのスピード感になれるにはちょうど良かったりする。
「次、ツーシーム。」
「はい!」
今度は、変化球。
このボールは、少し取り損ねてしまった。
やはりまだ、速い変化球は取れないか。
後ろに逸らさないだけマシだけど。
実際ちゃんと取れたのって御幸とクリス先輩、あとは奥村くらいだしな。
小野もたまに落とすし、宮内先輩もしょっちゅうポロっていた。
「御幸先輩、今日はアレ試したいっす!」
「はいはい。」
セットポジションから、足を高く上げる。
沢村の独特なフォームで、スリークォーター気味にの腕の振りで投げ込んだ。
御幸が構えたコースは、右打者の外角。
投げ込まれたボールはストライクゾーンギリギリである。
しかしそこから、逃げるようにシュートしながら、ボールは手元で落ちた。
変化的には、スプリットに近い。
しかし、速い。
落差は小さいが、その分スピードとキレがある。
ツーシームより大きく、スプリットより速い。
沢村の、彼の落ちる決め球。
「スプリーム、いい感じだな。」
「今日はな。いい感じに回転もかかってるし、変に抜こうとしてない分自然と投げられてるな。」
極めて安直な名前だが、ある意味分かりやすい。
スプリットの落差とツーシームのキレとはいかないが、その間の変化球にはなった。
ツーシームの握りから中指だけを外し、シンカー方向に強い回転をかける。
イメージというか、感覚は俺のツーシームに近い。
中指を外してスプリットの要素がある分、俺のツーシームよりも縦変化の要素が多い。
速度的には、ツーシームより少し遅い程度。
だから変化球の中では、かなり速い部類だ。
これで沢村の持ち球は、7つ。
ストレートに近い腕の振りで緩急を作るチェンジアップ。
鷲掴みから不規則に変化をする高速チェンジ。
利き腕の反対側にストレートと同じようなスピード感から高速で大きく曲がるカットボール改。
そして、今投げているスプリーム。
それに加えて小さく変化するカットボールとツーシーム。
全てを管轄する、軸となるのはキレのあるフォーシーム。
純粋な縦回転で手元で加速するような、混じりっ気のないストレート。
縦横の決め球として使える変化球に、緩急を作るチェンジアップ。
手にした順序は違えど、昨年の成宮に近い完成度にはなってきた。
「他あってこそだからな沢村。欲張んなよ。」
「わかってますって!よいしょー!」
そうして、ストレートを投げ込む。
うん、ストレートにもあんまり影響がなさそうだし、本当に使えそうだな。
すると、その奥からさらに轟音。
明らかに対抗するような、強いストレートの音。
この音は、間違えようもない。
「あんまり無茶すんなよ、降谷。」
「してません。」
そうして、彼もまたストレートを投げていく。
真ん中低めに決まった、いいストレート。
思いっきり投げている割には、案外ちゃんと制球できてるな。
脱力もできてるし、無駄な力も抜けてるから荒れてない。
「ちゃんと変化球も混ぜろよ。特にカーブ。」
「…カーブ。」
忘れてたね。
しかしこれもまた、ストライクゾーンに決まっていた。
いい感じだな。
これが試合でも決まるようになれば、本当に化け物になる。
「俺が言いてえこと全部言ってくれんな。」
「あ、いえ。俺が感じてたことですから。」
「まあお前から言ってくれる方があいつらには効くからな。」
それを確認して、俺も自分の練習に戻る。
「悪いね由井くん、待たせた。」
「いえ、お願いします!」
こうして俺もまた、ストレートを投げていった。
夏は、総力戦だ。
だからこそ、チーム全体の総合力アップが必要不可欠になる。
それはピッチャーだけでなく、キャッチャーも。
炎天下で防具を着込み、その上ずっときつい態勢で最も長くグラウンドにいるのだ。
投手だけでなく、この捕手の控えも必ずいなくてはならない。
そのテストと考えれば、意外と俺らが抜けるのも、ちょっとしたチャンスになるかもな。
沢村ですが、原作と違いナンバーズで変化球を管理していないため、このような球種としています。