今回かなり短めです。
悪しからず。
「っらぁ!」
真田の声とともに、鈍い音が響く。
打ち取った当たりは転々と転がり、セカンド正面。
しっかりと奈良が捌き、一塁の御幸へと送球。
最後のアウトを奪い、真田は小さく拳を握りこんだ。
「ナイスピッチ。要求通りだ、最後はいいとこ決めてくれた。」
「おう!」
捕手である乾と握手を交わし、マウンドを降りる。
投球結果で言えば、3回を投げて1失点。
唯一許してしまった失点も、フォアボールと少し抜けた変化球を捉えられてしまったもの。
真田の長所であるインコースと強気な投球で取られた訳では無い分、ある程度は割り切れると、乾も感じていた。
何より、相手は身体の強さで自分に勝る大学生。
そんな相手に対して自分の持ち味を活かしながら真っ向勝負できていることが、収穫であった。
しかしそんな中、真田の胸中は悔しさが残っていた。
(こうなると、完全に見劣りするよな。)
被安打3でフォアボールは1つ。
3回を投げて失点は、たったの1点。
決して真田の投球が悪かった訳では無い。
しかし。
その前に投げていた2人が、圧巻であっただけなのだ。
「まあ今日は俺の勝ちかな!」
「どこをどう見てだ。奪三振は俺の方が多かった。」
「俺はヒット打ったっての!」
成宮と大野のやりとりを見て、真田が苦笑する。
まるで小学生、それもチームメイトかのような。
純粋な少年のように見えた。
「ギラギラしてんだろ、あいつ。」
「イメージとは、違ったな。」
両手を後頭部で組み、溜息混じりに笑う。
そんな姿に、返すようにして御幸も答えた。
「だろ。普段は毅然としてるんだけど、こうしてガキみてーになる時があんだよ。」
普段はエースとしての自覚と態度から、チームの柱として毅然とした姿で立ち振る舞う。
グラウンドにいる時は、特に。
闘志を燃やし、チームを鼓舞する。
チームを勝たせなくてはならない。
そんな責任と、使命感。
チームを背負うエースだからこその、気概。
だからこその、マウンド上の姿なのだ。
しかし時に、青道のエースというチームの柱の肩書きを降ろすときがある。
そしてその引き金こそが。
「それが、成宮か。」
「まあな。」
チームを背負うことも。
そして、青道のエースということも忘れて、投げるのだ。
ただ一つ、忘れていないのは。
成宮に、負けないと言うことだけ。
それが同じチームだとしても、対戦する相手だったとしても。
「互いに意識し合ってるって訳か。」
「俺から見りゃあ、好投してた甲子園ですら成宮と投げあったときの勢いには及ばなかった。それだけ成宮ってのは、夏輝の力を引き出す引き金になってるんだ。」
今日の成績は、互いに被安打はなし。
フォアボールもなければ、ランナーすら許していない。
奪三振は、それぞれ大野が6つ。
そして成宮が、5つ。
打者9人に対して、半分以上を三振でアウトを奪うのだ。
それも、地区大会などではない。
相手は、自分たちより年上の。
それも高いレベルで試合をしている、大学生たちなのだ。
決して真田は悪い投球ではない。
しかし比較される2人が怪物だからこそ、見劣りすると本人も感じていたのだ。
(まだ足りねーってわけかよ。わかってたことだけどさ。)
薬師高校もまた、甲子園でベスト4に入るなど全国にその名を轟かせた。
それこそこの真田も、強気な投球でガンガン攻めていくその様が人気を博し、そこそこ騒がれていたのだ。
怪童と呼ばれる2人に、近づけた。
そう思っていたのだが。
怪童もまた、進化するのだ。
相対するには、まだ力が足りない。
立ちはだかる壁は、大きすぎる。
だからこそ、真田は。
「激アツすぎんだろ、あいつら。」
高すぎる壁と、同世代の天才に。
彼の心の炎が、燃えたぎっていた。
続く2試合目は、東東京の中心で投手を組む。
野手も入れ替え、前の試合に出なかった選手とポジションを試しながら試合をこなしていく。
前の試合とは裏腹に、初回から大学生チームが先制。
先発の楊からいきなり連打で1点を奪う。
その後も途中登板した梅宮も捉え、6回までに5−0と点差を放される。
しかし高校チームも終盤、その粘り強さを見せていく。
7回に奈良のタイムリーで1点を返すと、そこから猛攻。
御幸と星田の2者連続ホームランで3点を返し、反撃の糸口を掴み取る。
最終回は代打構成。
長田と乾の連打ですぐさま同点に追いつくと、最後は山岡のタイムリーヒットで サヨナラを決めた。
5−6。
一試合目とは打って変わり、今度は攻撃力を見せつける。
この東京選抜の試合ぶりを。
明日の対戦相手であるアメリカチームの面々は、観客席から見下ろしていた。
『中々パワフルな奴らじゃないか。』
『ああ。ジャパンはスモールベースボールのイメージだったんだが。』
確かに、スモールベースボール。
所謂、撹乱やバントなど緻密な攻撃で得点をあげるのも、野球の醍醐味だ。
『鋭い眼光で、狙い球が来たら一閃。まるでサムライだな。』
『エルビスもいるしな。』
『おいやめろって。あのリーゼントのことだろ?』
そう言って笑う。
しかし、直ぐに話題は東京選抜に戻る。
折角の国際試合。
この機会だからこそできる真っ向勝負を、アメリカチームも所望していた。
『これなら、ベースボールが出来そうだ。』
そう言って、国境を超えた2つの野球人の視線が、交錯した。