燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード162

 

 

 

 

大学チームとの練習試合を経て、迎えるはアメリカからの刺客、ウインドユースアカデミーの選手たち。

 

 

家庭の事情や金銭面などの問題で野球が出来ない子供たちに無償で育成プログラムを提供するなどして、将来有望な若者を支援するMLBの画策。

 

都市部の活性化や野球界全体のレベル底上げを図る為に創設されたこのチーム。

 

 

そのイベントとして、東京都の高校球児、主に3年生を中心とした代表チームを結成。

親善試合として、2日にかけて試合を行う。

 

 

「でけえな。わかってたことだけど。」

 

「まーね。でも、流石に高校生って感じ。身長も馬鹿でけえ訳じゃねーしな。」

 

 

ベンチ前で準備をするカルロスに、大野はそう声をかけた。

 

 

普段は別のチームで汗を流す選手たちが、今日は違う。

 

同じ目標で同じ敵を倒す為に、肩を並べる。

 

 

(身体も大きいけどそれ以上に、派手だな。)

 

 

ジャンピングスローや厳しい体制からの送球など。

身体の軸が強いから、届く。

 

そもそもの体つきから違うというのもそうだろう。

 

筋力量も骨格も、ましてや身体のバネまでまるで違う。

 

 

しかしそれでも。

相対して、やるしかないのだ。

 

 

 

 

第一試合の先発投手は、成宮。

 

稲実のエースであり、世代No.1左腕と呼び声高いこの男が、マウンドへと上がる。

 

 

巨漢揃いのアメリカに対して、小柄な少年。

それを見たアメリカチームは、案の定ざわついた。

 

 

『なんだ、日本は中学生も呼んでいるのか?舐められたもんだ。』

 

『いや、高校生で招集していると言っていた。おそらくは緩い球で乱してくるタイプだろう。』

 

 

彼らの目測では、この先発は技巧派左腕で、低めに緻密に投げ込んでくる投手だろうと予想を立てていた。

 

それもそのはず。

チームの投手内でもかなり小柄の部類であるこの投手だ。

 

器用さを買われて試合を組み立てることを優先しての選出だと思われても、なんら不思議ではない。

 

 

 

 

 

『まずは外からか?日本の野球は慎重なイメージだからな。』

 

 

バットを掲げ、先頭のアンソニーが息を吐く。

狙いはストレート。

 

身体の力も、強さも自分に分がある。

 

だからこそ、真っ向勝負でならば負ける気がしなかった。

 

 

『そのファストボールを…』

 

 

だが。

ここでマウンドに上がるこの投手は。

 

まごうことなき、「王」なのだ。

 

 

 

天高く挙げられた右足。

 

一昔前のエースを彷彿とさせるような豪快なフォームから放たれた真っ直ぐは、インサイドに完璧に制球された。

 

 

『おっと。』

 

 

思わず、目を見開く。

 

その速球は、想定したよりもあまりに速すぎる。

そして何より、強い。

 

 

『軟投派なんて嘘だ。とんでもない豪腕だ。』

 

 

決まったのは、3球目。

ゾーンに投げられたたった3球が全て決める球となり、最後はインハイのストレートで空振りの三振に切ってとった。

 

 

『なんだありゃ。日本の投手はもっと緻密で精巧なものだとばかり思っていた。』

 

『とんだ荒くれ者だ、完全にこちらを捩じ伏せに来てる。』

 

 

さらに2番3番と連続で抑え込み、三者凡退。

 

フィジカルで完全に劣るアメリカに対して、成宮は完全に見下ろして投げた。

 

 

 

「やるね。」

 

 

ベンチに戻る成宮。

まずは初回の攻撃を0で抑えた彼に対して、中継ぎで予定している大野がドリンクを手渡した。

 

 

「悪いね、あんがと。」

 

「完全に振り遅れてたな。やっぱインコース弱い?」

 

 

渡されたコップにそっと口をつけ、成宮が頷いた。

 

 

「まーね。向こうは外に広いっていうし、それ考慮して乾も要求してくれてるからね。」

 

「内角の、特に直球はまるで手が出ていないな。反応を見るに、やはり目付けができていないのだろう。前半は攻めて行っていいかもしれんな。」

 

 

防具を外した乾もそう言って、成宮の横に腰をかける。

 

確かに、アメリカの野球界では外のストライクゾーンが広い。

それはMLB然り、学生リーグでも同じことなのだろう。

 

 

だからこそこの日本の、内角に広いストライクゾーンに適応できていないところはあるのだろう。

 

 

しかしそれ以上に。

アメリカチームの選手たちは、軒並みこの成宮の想定以上のボールで、圧倒されていたというのが1番であった。

 

 

さらに2回。

4番のカーライルから始まる打線。

 

日本を代表する左腕と、アメリカの主砲が相見える。

 

 

内角のストレート。

少し甘いが、これに振り遅れてファールとなる。

 

 

『速いな。しかし、その覚悟で来ればなんとかなりそうだ。』

 

 

幸いなことに、左打者に対して右はまだ見やすい。

 

特にこのカーライルは速球に強く、コンタクト力にも長けている。

できればここで速球を叩きたい。

 

 

 

そう思った2球目。

速球かと思っていた白球が、「来ない」のだ。

 

 

狙い定めたカーライルのバットは、空を切った。

 

 

『なんだこれ、スクリューまで投げるのか。』

 

 

ストレートと同じ腕の振りから、緩く遅い球。

それでいて打者の手元で鋭く大きく沈む。

 

魔球、チェンジアップ。

 

他のそれとはまるで桁違いの魔球に、カーライルのバットは空を切った。

 

 

(思い切ったね、俺のチェンジアップを見せ球にするなんて。)

 

(決め切れるストレートがあるからな。思い切って、捩じ伏せに来い。)

 

 

乾が構えたコースに、成宮は思わず笑みを浮かべた。

 

 

(決め切れるだろ。)

 

(当然…!)

 

 

最後は内角高めのストレート。

 

敵の4番に対して、たった3球。

それも危険な高めのストレートで空振り三振に切ってとった。

 

 

続く5番にヒットを打たれるものの、後続を切って無失点。

 

 

強力なアメリカ打線に対して完全に見下ろして投げている。

 

強いストレートと切れ味のあるスライダー、そして打者を嘲笑うチェンジアップ。

そしてこのマウンド捌きまで。

 

 

まるで圧倒的な投球は、結果にも現れていく。

 

4回を投げて、被安打はたったの2つ。

一つのフォアボールを許し、失点はない。

 

奪った三振の数は、7つ。

相手が積極的に振ってくる打線だったというのもあるが、それにしても多すぎる三振を奪ってみせた。

 

 

この日の最速は、148キロ。

それに対し、チェンジアップは球速120キロ台。

 

同じ腕の振りからこの球速差で追い込んでくる。

 

 

この圧倒的な投球に、東京代表の面々は頼もしさを感じると同時に、近い将来この男と対戦して打ち勝たなければいけないのかと戦々恐々としていた。

 

 

 

 

ただ1人を除いて。

 

 

「大野、次の回から行くぞ。」

 

「はい。」

 

 

そうして大野が、ゆっくりと目を開く。

 

 

日本を代表するもう1人のエースが。

その瞳を煌めかせ、体内で滾る炎を燃やした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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