燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード163

 

 

 

 

2チームの試合も、中盤戦。

1-0と投手戦で迎えた5回の表。

 

 

『どうする、やはり角度的には右の方がやりやすそうだが。』

 

『冗談だろ、右からしたらあのスクリューは打てそうもないぜ。』

 

 

アメリカチームが話題にしているのは、やはりこの男。

 

日本チームの先発投手である、成宮。

最速148km/hのストレートに大きなスライダー、そして大きく沈むチェンジアップ。

 

更にコントロールも良く、内外角に投げ分ける技術も度胸もある。

 

 

彼がマウンドに上がってから、許したヒットは2。

 

四球は1つだけであり、勿論失点は0である。

 

 

 

何より、力で勝るアメリカチームに対して、真っ向から捩じ伏せる投球。

 

力勝負では負けないというアメリカチームの心を折る投球をここまで繰り広げていた。

 

 

 

 

ここまでは、圧巻の投手戦。

特に成宮の躍動で流れてきてこの試合の流れ。

 

これがついに、変わるきっかけが生まれる。

 

 

 

 

日本チームの野手が守りにそれぞれついていくなか、最後に守備位置につく男。

 

それはここまで試合を完全に掌握していた男ではなく。

東京選抜のもう一つの剣が、その小さな玉座に、腰をかけた。

 

 

『おい、ナルミヤはもう降りちまうのか?』

 

『先手で投手を変えていくのだろう。おそらくナルミヤが向こうで1番いい投手だろうが、慣れられる前に変化をつけようというところだろう。』

 

 

軽くキャッチボールをして、マウンド上で跳ねる。

 

 

『WAO、トルネードだぜ。ド派手だ。』

 

『球はナルミヤよりも遅いな。これなら捉えられそうだ。』

 

 

小山に置かれた小さな袋に手をかけ、指先に白粉を付着させる。

そして余分についたその粉塵に息を吹きかけた。

 

 

『まずは初球から振っていこう。』

 

『OK。』

 

 

マウンド上、舞い上がる白銀の粉塵。

 

少し深く被られた帽子からチラリと見える紺碧の瞳に不気味さを感じながら、4番のカーライルは打席に入った。

 

 

白球を手元で転がしながら、大野はゆっくりと息を吐く。

そうして、帽子の鍔に手をかける。

 

 

(準備はいいか。)

 

(腹はとうに括っている。)

 

 

バットを掲げたカーライル。

そしてマウンドの大野の視線が重なる。

 

少し深く被られた帽子の鍔から見え隠れする瞳はきらりと輝き、宝石のように光を増した。

 

 

 

構えられたコースは、内角低め。

 

風を切る白球は、そのまま打者の膝下いっぱいに決まった。

 

 

ストライクコール。

審判の右腕が上がると、思わずカーライルは二度見した。

 

ここまでアバウトな制球の成宮に対して、完璧にコースに決まった大野。

 

球の勢いで押してきた彼はまだ内角の甘いボールがあったが、今度は徹底的にコースを攻めてくる。

 

 

先ほどよりも顕著に、日本のコースとギャップが出る。

普段見慣れているストライクゾーンの違いを再認識させられ、カーライルは軽く舌打ちをした。

 

 

(ここまで踏み込んでくれるなら、内角は攻め放題だな。)

 

 

アメリカのストライクゾーンは日本の高校野球に比べると、内に狭く外に広い。

だからこそ、かなり踏み込んで外のボールをしっかり飛ばす事が多いのだ。

 

見慣れない膝下のボール。

ここに寸分違わず決め続ければ。

 

 

或いは、全く手が出ることなく、相手の強打者をねじ伏せることができるのだ。

 

 

 

 

 

インコース低めで追い込んだ3球目。

 

伝家の宝刀は、引き抜かれた。

 

 

 

少しインコースよりの真ん中。

最も危険なコースに投げ込まれた白球にカーライルも反応してバットを出す。

 

 

『What!?』

 

 

しかしそのボールは彼のバットを掻い潜り、低めのボールゾーンまで落ち切った。

 

 

声を上げるでも、ガッツポーズを浮かべるわけでもない。

ただ悠然と、第一の打者を切り捨てた。

 

 

 

さらに5番をインコース低めのボールで見逃しの三振。

 

最後の打者である男を内角のカットボールで空振り三振に切って取る。

 

 

要した球数は、たったの9球。

それぞれのバッターに使ったのは、最低限のストライクボールのみ。

 

3者連続の、3球三振。

 

 

己が球で完璧に抑えたマウンド上の投手は相手の強力打線を見下ろすように、咆哮した。

 

 

「どうでしょう。」

 

「完璧だな、怖いくらいにな。」

 

 

マウンドからゆっくりと歩いて戻る大野。

それに駆け寄り、乾は改めてこの男の能力に感動した。

 

寸分違わぬ制球力。

いくら制球に自信がある投手でも大抵は少し狙いからズレることが多い。

 

 

 

しかしとにかく、構えたところに続けて決めることができる。

その技術が、そして危険なコースにも投げることができる度胸もまたある。

 

だからこそ成宮の時には要求できなかったインコースに連続でストレート要求など、勇気のいる要求ができたのだ。

 

 

 

さらにコントロールだけではない。

 

高めで空振りが奪える勢いとキレのあるストレート。

そしてそれを活かす、二つの剣。

 

高速で変化する、大きな変化球。

 

それが、ツーシームとカットボール。

ストレートと同速そして凄まじいキレで変化するこの2球種があるからこそ、手元で加速するストレートがさらに生きるのだ。

 

 

 

三者連続三球三振で最初の回を終えた大野に、肩を氷嚢で大きくした成宮はツンとして話しかけた。

 

 

「なーんか、調子良くない?」

 

「別に。」

 

「嘘だー!絶対俺がいいピッチングしたからってムキになってんでしょ!」

 

 

成宮からドリンクを受け取り、大野がため息を吐いて否定をする。

 

 

 

無論、大野は完全に意識はしていた。

 

普段投げ合っている自分のライバルが。

 

未だかつて超えたことのない相手が、こんなにも近くにいるのだから。

 

 

そんな男が。こんなに近いところで。

自分たちよりも大きな相手打者たちに全く怯むことなく真っ向勝負でねじ伏せてきているのだから。

 

 

自分のライバルが、凄まじい投球を、むしろ見せつけてきているのだ。

 

それに応えない方が、男ではない。

 

 

 

 

 

しかし成宮の好投に感化されたのは、大野だけではない。

 

それは相対している、アメリカチームにも。

 

 

『ここまで手厚いもてなしを受けては、こちらも黙っているわけにはいかない。』

 

 

マウンドに送られた投手。

 

長身で四肢が長く、そして大きい。

帽子からはみ出る長髪が風で揺らめき、そのアメリカ人らしい威圧感に拍車をかける。

 

 

「でかいな。」

 

 

思わず、大野がつぶやく。

 

成宮含め、彼らは投手の中ではかなり小さい部類。

だからこそ、マウンドに上がった時の威圧感が、2人と比べてもかなり大きいものとなる。

 

 

 

 

その体躯の大きさは、投球動作で更に優位性を見出してくる。

 

長身で、四肢が長い。

そこから繰り出される、豪快なサイドスロー。

 

 

というよりは、思い切り腕を振って力が出る場所からリリースした結果がサイドスローなのだろう。

 

だからこそその球は速く、強い。

 

 

 

威力のある直球をどんどんゾーンに集めてくる。

 

先頭の大野を内角のストレートを完全に詰まらせてセカンドゴロ。

圧倒的なその球威で完全に捩じ伏せる。

 

 

(ってぇ…)

 

 

思わず、大野はその力技に左手をフラフラと揺する。

 

完全に詰まらされ、それこそ振り遅れてやられてしまった。

やはりその力は、桁違いである。

 

 

それを象徴するように、続く真田をストレートでピッチャー正面のゴロ。

更に奈良に対しては切れ味鋭いスライダーを低めに決め切り、空振りの三振。

 

コントロールはアバウトながら、力技で打者を捩じ伏せる。

 

純粋なまでの力に、日本チームのナインたちも思わず苦笑を浮かべる。

 

 

「とんでもねえのが出てきやがったな。」

 

「全く、追加点も一苦労だぜ。」

 

 

そしてそれぞれが守備位置に向かっていく。

 

コンラッドが登板して、失点を許せない場面。

出来れば流れを掴める投球ができれば、理想。

 

相手も流れを変えてきた。

空気は、捩じ伏せに来たコンラッドのおかげか、若干アメリカに傾いている。

 

 

 

 

しかしそんな空気とは露知らず。

 

 

「さあ大野、行こうか。」

 

 

大野夏輝は、その瞳を輝かせる。

 

 

「投げ負けたら許さないから!」

 

「うるせーよ、鳴。」

 

 

ただ投げ合う好投手に、呼応するように。

そして、もう1人のエースに負けないように。

 

 

「言われなくても、滾ってらあ。」

 

 

エースは、炎のマウンドへと上がった。

 

 

 

 

 

 

 

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