燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード164

 

 

 

 

 

「やべえな、コンラッド。」

 

「あぁ。恐らくメジャーでも引っ張りだこだろうな。あの球威はロマンあるし。」

 

 

各々が守備位置に着いていく中、マウンドに向かう大野に御幸は声をかけた。

 

 

今は女房役ではない。

普段やり慣れていない一塁手だが、他投手たちを受ける兼ね合いもあり、今日は乾に任せている。

 

しかし話し相手になるくらいなら。

 

 

そう思い、御幸は自然といつものように、彼の調子を伺うように話した。

 

 

(まあ、心配いらなそうだな。というか寧ろ…)

 

 

いつもより、凄みを増している。

 

しかしこの状態、御幸にとっても想定外という訳ではなかった。

 

 

というのも、これは大野夏輝という投手の性質のようなもの。

 

成宮鳴というライバルがいるとき。

そして、マウンドに自分と同格、若しくはそれ以上のポテンシャルを持つ投手が上がっている時。

 

彼は普段の力にも増して、限界以上の力を引き出す。

 

 

ベンチには、成宮鳴。

彼もまた、大野の前に先発して、圧巻の投球をみせた。

 

そして相手投手であるコンラッドもまた、荒削りながら潜在能力と力で言えば彼らに匹敵する力を有している。

 

 

だからこそ、彼の能力は解放された。

 

 

 

「すまん、一也。先に謝っとく。」

 

「なんだよ、急に。」

 

「多分、制御できない。俺の全力を、敵に見せることになる。」

 

 

そう言って、大野は帽子を深く被り直した。

 

普段はエースとして、チームの勝利の為に戦う。

 

その為、このような練習試合というか、エキシビションマッチで手の内を見せることには少し抵抗があった。

 

こう言った好投手との投げ合いになると、自分の投球に没頭することが多い。

だからこそ自分の制御が効かない可能性を、危惧していた。

 

 

「構わねーよ。それを踏まえて俺が組み立てんだから。」

 

 

現状の戦力と、相手の条件。

その上で配球と試合を組み立てる。

 

だからこそ、見せてしまえばそれを考慮してまた試合展開を組み立て直せばいい。

 

 

何より、御幸にとってはそれ以上に大事なことがあった。

 

 

 

 

「折角みんないるんだ。ここで絶望して貰えりゃ、それはそれでやりやすい。」

 

 

 

 

東京都の選抜だから、各チームの代表たちが集合している。

 

この仕上げの時期。

手の内を見せるというのは、デメリットが多い。

 

しかしながら、できることもある。

 

それは、敢えてその力を誇示すること。

圧巻の投球という形で力を見せつけ、嫌な印象を持ち帰らせる。

 

 

いざ試合になれば、この印象というのは相手の焦りや萎縮を産むことが有り得る。

だからこそ、その力を誇示することにも若干ながら意味があるのだ。

 

無論、これは投手の力量が圧倒的ではなければ成立しない。

 

 

だが、今の大野夏輝であれば。

相手に絶望を与える、その力を有していることは確かであった。

 

 

 

「暴れて来いよ。その方が俺も、やりやすい。」

 

「俺はやりにくいがな。エラーしないか不安で仕方ない。」

 

「うるせ。捕逸してねーだろ普段。」

 

「ファーストだからな。珍プレーしたら笑ってやるよ。」

 

 

そうして、大野は笑みを浮かべる。

瞳は、あの時と同じように煌めく。

 

これが大野の、彼のスイッチのようなもの。

 

その紺碧の瞳が光を帯びるとき、彼は例外なく最大出力のピッチングを見せる。

 

 

 

 

 

 

 

「下位打線とはいえ、力のある打者だ。君の感覚に委ねる。」

 

「配球は任せる。嫌なら、首を振る。」

 

「それでいい。組み立てはこちらに任せてくれ。」

 

 

そして、今日の女房役との打ち合わせを終えて、白球を受け取る。

 

軽くマウンド上で跳ねたのちに、帽子の鍔に手を触れる。

そして大野は、息を吐いた。

 

 

 

まずは7番。

パワーもあるが、ミート力に長けている打者。

 

下位打線のチャンスメイカーとして、第二の加速装置として作用している。

 

 

この試合でも、成宮が許したヒット二本の内、一つはこの打者から生まれている。

 

そんな警戒すべきバッター。

この相手に対して、バッテリーは初球に緩い球を選択。

 

 

高い打点からぬるっと落ちるカーブ。

先ほどまでのキレのある球に対してこの遅いボール。

 

真ん中付近から綺麗に落ちるボールに思わず、空振り。

 

 

 

『ドロップカーブ、こんなのも持ってんのかよ。』

 

 

続けてストレート。

緩急を活かしたこの速いボールについていけず、これにも空振り。

 

 

 

緩い球の後というのもある。

 

しかしこのストレート、明らかに速い。

この回またギアを上げたキレのあるストレートは異次元の軌道であり、手元でホップするような感覚に打者も戸惑いを見せた。

 

 

『浮き上がったのか?俺は確かに上から叩いたつもりだったが。』

 

 

普通のストレートであれば、当たっていた。

 

しかしこの大野特有のストレートが。

純粋な縦回転と全身から繰り出される強い回転が、とてつもない揚力と加速性を生み出す。

 

そのストレートは常人とは比にならないキレを誇る。

 

 

 

最後もストレート。

内角低めの直球を反応させず、見逃しの三振に切ってとった。

 

 

緩い球で崩し、速い球で苦手なコースを抉る。

 

極めてシンプルながら、効果的な攻め。

相手が内角の攻めが見慣れていないからこその、強気な攻め。

 

そしてこれは有効的なだけでなく。

 

強気な大野の調子を後押しする、可燃剤となりうる。

 

 

 

 

続く8番に対しては、初球外角低めストレート。

 

 

(外に外すくらいでいい。それでも振ってくるはずだ。)

 

(OK。)

 

 

アメリカチームの目付は、どちらかというと外に広い。

 

これはアメリカというか、海外のストライクゾーンの違いによるもの。

だからこそ日本での外いっぱいが打ち頃になる可能性もあるのだ。

 

 

外に2球、これをファールで追い込む。

 

続くボールは、カーブ。

縦に大きく割れるこのボールで空振りを奪いに行くも、バットに当てられてファール。

 

 

(反応したか。)

 

(高い打点からのカーブは見慣れているのだろう。だが、それが目的だ。)

 

 

低めに落ちるボールで目線を下に落とした。

あとは、料理するだけ。

 

大野のストレートがあれば、斬れる。

 

 

 

高め、三振。

 

ボール気味の釣り球のストレートで空振り三振で切ってとった。

 

 

 

最後の打者は、マウンドに上がったコンラッド。

 

長身の左打者が、打席に入る。

 

 

初球、ストレート要求。

外のボール球、これをしっかり投げ切ると、ファールでカウントを稼ぐ。

 

やはり、腕が長いからよく届く。

 

 

しっかり捉えられたが打球は一塁線切れてファール。

 

 

2球目、今度はインコース。

甘めのコースに投げ込む。

 

ここまでなかった甘いコース、コンラッドは迷わず振りにくる。

 

 

しかしボールは高速で横移動。

真横に吹き上がるようにスライドしたボールは内側を抉るように切り込んでいき、コンラッドのバットの根本に当たった。

 

 

 

 

高々と上がった打球は、ピッチャー正面。

 

この打球を大野は、敢えて掻っ攫うように左手で掴み取った。

 

 

特段意味はない。

しかしこのマウンドの王であること。

 

そして、こちらが優位であるという、見下ろしていることを強調するように。

 

 

打球を掴み、コンラッドを見下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

『どうだコンラッド。目の前で見た感想は。』

 

『ナルミヤもそうだが、すごい球の圧力だった。』

 

 

元々制球がいいことは聞いていた。

 

すでに完成された制球力とキレのある変化球でゾーンをいっぱいに使ってくる投手。

どちらかというと、かわしてくる投手だと思っていた。

 

 

それゆえに、この向かってくる投球には、コンラッドも驚いた。

 

 

『あれが日本の、甲子園優勝投手。ジャパンのNo. 1ピッチャーか。』

 

 

アメリカチームの選手たちがベンチでそう話す。

すると彼らを管轄する監督が、彼らに向けて言い放った。

 

 

『しっかり目に焼き付けておけよ。近い将来、彼らこそがこの大きなベースボールの世界を引っ張っていくリーダーとなっていく存在になるはずだ。無論、君たちと一緒にね。』

 

 

そう言って、アメリカチームのメンバーは再び口角が上がる。

 

そしてこの試合に、より没頭していくのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナイスピッチ。見せつけるねえ。」

 

「落とせばよかったのに。惨めな姿晒してたら笑ってやった。」

 

 

稲実コンビに抜かれながら、ベンチへ歩いて向かっていく。

そして、じっとアメリカチームのベンチへ目を向けた。

 

 

ここまで許したヒットは、0。

しかしながら、一発がある打線。

 

正直怖い。

 

この手のチームは、一発出始めると止まらない。

一つの間違いさえ許せない。

 

だからこそ、内容以上に大野は相手打線に重圧を感じていたのだ。

 

 

(追加点が欲しいところだけど。)

 

 

そう大野が思った矢先。

スコアボードの打順を見て、その心配が杞憂であったことに気がついた。

 

 

ここから始まるのは、上位打線。

 

都内ナンバーワンの、12番コンビから始まる。

 

 

 

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