やあ、東京選抜→青道高校に戻ってきた大野夏輝だよ。
試合は結局、一勝一敗という結果。
1試合目は、3人の投手リレーで0封。
成宮が4回を被安打2の無失点で試合を作り、俺が8回までを被安打1の無四球で真田に繋ぐ。
最後は抑え登板した真田がテンポよく三者凡退に抑え、試合は終了した。
2試合目は、乱打戦。
試合序盤に先制を許したものの、こちらもすぐに追いついて食らいつく。
点の取り合いとなるシーソーゲームの末、最後は粘りの末に8-7で敗北を喫した。
まあ、結果よりもあれだ。
こういうエキシビションマッチも、楽しい。
中々ない試合だし、それこそ普段対戦している相手とチームを組んで戦うというのは本当に面白かった。
それも相手は、戦い方も考え方も全く違うアメリカのチーム。
新鮮な気分で挑めたし、楽しかった。
「収穫はあったな。鳴や真田の球筋を直に見れたし。お前も調子上げてるみたいだしな。」
帰路を歩きながら、俺は頭の後ろで腕を組む。
同地区のライバルである2人の投手を、うちの主砲が直に見ることができたのは、かなりのアドバンテージになる。
薬師もシードがなくなったこともあり早い段階で当たる可能性が出てきた為、真田を見れたのがかなり大きい。
さらに、御幸も好調。
この試合を通じてホームラン1本を含み、8打数5安打6打点と大暴れ。
甲子園から戻って長打力に磨きがかかり、打棒でかなり存在感を見せていた。
そんなことを思いながら御幸に話しかけると、彼は溜め息をついて答えた。
「能天気なこと言うよ。球筋見られてるのはお前も一緒だし。星田とか稲実の奴らに見られたのは、そこそこ痛い。」
「それはお互い様だろ。お前が2人のピッチングを見れた方が大きいと思う。」
すると御幸は、目を見開いて頭をかいた。
「平気でそういう事言うよな、全く。」
「打ってくれるんだろ?」
「そりゃあな。打つしかねえんだから。」
俺のピッチングを見られた代わりに、御幸は西東京のエース級投手を2人も見れた。
捕手でリードしてくれたのは乾だからバッテリーの傾向を見られることも無かったし。
俺自身、御幸ありきなところはあるからな。
彼と組んでる時を見られていなければ、大したダメージにはならない、と思う。
あとはそうだな。
俺たちが留守の間も練習試合があった。
それこそ相手は強豪、甲子園にも出場経験のある山守と成邦高校だ。
山守に関しては今大会ベスト8で、阿吽の双子バッテリーかなんかで話題になっていたし。
まあ俺がいなくてもどうにでもなることは秋大で証明済みだから大丈夫とはいえ、問題は御幸が不在だったということ。
普段マスクを被っている正捕手がいないというのは、かなり痛手。
「そういや、残ったヤツらはどうだったんだろうな。」
「それなら心配いらないぞ。」
おっと。
急に聞こえてきた白州の声に若干驚き身を震わせたが、すぐに平静に戻る。
気がつけば、もう青道高校の寮まで到着していた。
「お出迎えとはどーも。」
「出迎え流行ってんの?」
少し前…具体的に言えば一昨日の稲実グラウンドでの既視感に思わず笑ってしまった。
「なんの事だ。」
「何でもねーよ。そっちはどうだった?」
俺がそう聞くと、白州は指を3本立ててその手をこちらに向けてくる。
彼らしからぬそんなポップな表現に、俺も御幸も思わず顔を見合わせた。
「えっと。」
「三連勝だ。ちゃんとお前らがいなくても連勝伸ばしておいたぞ。」
「あっ、はい。」
ここまで共に生活していると、何となくわかる。
表情こそ崩していないが、少し不服そうにする白州。
仕方ないでしょうが、突拍子もなく意味わからんことしだすんだから。
土曜日は川上と東条のリレー。
打線も探り探りながら各々がしっかりと自分の仕事をこなしていき、11-4で勝利を収める。
そして日曜。
この日は変則ダブルヘッター、強豪2校とぶつかり合う。
まず山守との試合。
先発を任されたのは降谷-小野のバッテリー。
初回から力感なくゾーン勝負をしていき、ストライク先行のいいテンポで試合を掌握。
時折投げるカーブがいい具合に相手を崩していき、7回を投げて2失点としっかり試合を作った。
さらに降谷の好投に打線も応える。
この試合2番に入った白州と3番の小湊が連打で先制をすると、中盤にも相手バッテリーを攻め立てて5得点。
最後はノリがしっかりと試合を締めて、5-2で勝利を収める。
2試合目の成邦との試合は、沢村-奥村のバッテリー。
この日は変化球の精度が少し甘かったものの、ストレートで要所を締める投球。
時折打ち込まれるシーンは見受けられたが、中盤以降変化球も安定して失点を許さない。
打線も相手エースの明石から中々得点を奪えなかったものの、中盤に連打で一気に4点を奪うと、最後まで投げきった沢村の粘り勝ち。
仕上げてきた成邦相手に、4-3。
エース不在の中、沢村の粘りの完投は次期エースの姿を連想させた。
「まあ、心配はしてなかったけどな。特にピッチャーに関しては。」
「本当に良くやっていたぞ。チームをピッチングで引っ張る覚悟と自覚は、誰かさんに通ずるものがあったよ。」
本当に大きくなった。
入った時の漠然としたエースという形ではなく、自分が何をしなければいけないのか。
それがわかってきたからこそ、自然とチームを引っ張るという立場になったのだ。
「因みにそっちはどうだったの。」
「4回被安打1無失点8奪三振。」
「.625ホームラン1本6打点。」
「だいぶ暴れてきたな。」
確かに。
お祭りごとというか、こういう試合が大好きな2人だから、何だかんだ大暴れしてきた自覚はある。
「んじゃ、とりあえず監督に報告行ってくるわ。」
「そうだな、とりあえずお疲れ。」
「おう。」
そして白州と別れを告げると、俺と御幸はそのまま監督室へと向かっていった。
「ご苦労だったな、2人とも。」
報告がてら、監督室へ。
恐らく試合の総括をしていたのか、並べられたスコアブックとノートに目が行く。
が、すぐにその視線を戻した。
「どうだった、向こうは。」
「えぇ。かなり収穫は多かったです。直に他校のエース級を、それも実戦の彼らを見ることができたのはかなり大きかったですね。」
落合コーチと御幸がやりとりしている中、俺は他校の主軸を思い出す。
稲実の4人組は特に凄かった。
成宮の完成度はとてつもなく高かったし、昨年とは比べ物にならないほど総合力が上がっていた。
野手3人も。
確実に、俺たちの前に立ちはだかる。
あとは、各チームの4番たち。
やはりチームの主軸ということもあり、勝負強い選手が多かったし、打席での雰囲気なんかも凄かった。
「大野、お前はどうだった。」
急に話を振られて、少し戸惑う。
いやまあ普通に考えれば報告に来てるんだから俺も聞かれるのは当然なんだけど。
「言わなきゃいけないことは御幸が言ってくれたんですけど。両投手はやっぱり良かったですね。」
「真田と成宮か。」
「ええ。特に真田、彼も甲子園を経て相当進化してます。」
成宮も然る事ながら、特に真田。
やはり彼の伸び代というか、未知数なところはある。
甲子園を経て彼もまた、立ち回りを少し変えているように感じた。
プレートの使い方、さらには身体の使い方も変わっていた。
より軸足側に乗せたあとは踏み込み足。
そこに体重を乗せるというよりは、弾くようにして反発の力を利用している。
だからこそストレートはより力強く、効率的にパワーを発揮している。
そのお陰か球速自体も、以前までの140km/h弱から140km/h中盤まで出ていた。
プレートはできるだけ三塁側まで使い、シュートにより角度がつくように投げていた。
そのおかげか、右バッターの外から入ってくるシュートでカウントを取る場面を何回か見ていた。
投球術にも磨きがかかってる。
彼単体で見れば脅威というほどではない。
しかし薬師のエースと考えると、なお怖い。
「それなりに収穫があったのならいい。何より怪我とかしなくて。」
「それはまあ、俺たちも意識してましたから。」
みな、仕上がっている。
最後の大会に向けて。
甲子園というたった一つの夢の舞台への鍵を手に入れるために。
俺たちが目指しているのは。
いや、行かなきゃいけないのは、そんな場所なのだ。
厳しい戦いになるのはわかっている。
だからこそ、面白い。
だからこそ、燃えるのだ。