燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード16

夏の本戦の組み合わせも発表され、具体的な目標が出来た今日この頃。

灼熱の大地に汗ばみながら、俺は投げ込みに励んでいた。

 

否、汗ばむなんて生易しいものじゃない。

真夏の気温に耐え凌ぎながら、俺は額に溜まった汗を拭った。

 

 

 

毎年恒例、夏大直前の合宿。

過酷な夏を戦い抜く為の、最後の追い込みだ。

 

今日は、その初日。

ここから一週間は、夏の本戦に向けて野球漬けの日々を過ごす。

 

とはいえ、昼間は学校があるため勉学にも励む。

 

 

野手陣がノックで汗を流し、体力技術共に高めている最中、俺たちも投げ込みに勤しんでいた。

 

 

「真っ直ぐ。」

 

「真っ直ぐOK。」

 

アピールするように右手の握りを見せ、俺は投球モーションに入る。

 

ノーワインドアップから、身体を三塁側へ。

そのまま腰を大きく捻り、ある地点まで届いたところで身体を捻転。

 

遠心力と重力、そして捻転によるバネを最大限活かして全身を縦回転させる。

 

高い位置からリリースされた白球は、一也の構えたミットに寸分違わず収まった。

 

「ナイスボール、コースも完璧。」

 

そう言って、一也が返球してくれる。

我ながら、中々良いコースに決まったとは思う。

 

「回転数もいい感じかな。結構キレてた気がする。」

 

「軸も綺麗に縦だったから良かったぞ。球速はないけど、中々打てる球じゃない。」

 

「そりゃどうも。」

 

今はまだ、体力的にも余裕があるから、ある程度の球はいく。

後は、後半になってきてどうかだな。

 

 

もう一球、真っ直ぐ。

今度は先ほどとは対角線状のコース。

 

インハイから、アウトロー。

実戦でもよく使う、打者の視界を惑わす投球。

 

 

「ツーシーム。」

 

「OK、ここな。」

 

そう言って構えられたコースは、右打者のインコース低めボール球。

インコース甘めからボールゾーンに切り込んでくる俺のウイニングボール

 

多くの打者から空振りを奪ってきた、俺の決め球。

このボールも、一也が要求したコースに完璧に決まった。

 

「これなら哲さんでも空振りかな。」

 

「普段なら空振り、追い込んでたらバットに当てられてる。」

 

それくらい、信頼してる。

 

「次、カーブ。」

 

息を一つ吐き、ボールを握りなおす。

人差し指と中指をくっつけて縫い目にかけ、親指も二本の指と垂直になるような角度でボールに引っ掛ける。

 

スピンもかかりながら適度に抜けたボール。

一度ふわりと浮かんでから、斜め下に落ちる。

 

丹波さんのそれとは違い、落差よりもキレと球速差を意識したボール。

まあ、身長の違いもあるから、丹波さんの方が角度も落差もある分空振りを奪いやすい。

 

ストレートよりは制球も効きにくいものの、低めにしっかり決まった。

 

 

「スプリット。」

 

今度は、落ちるボール。

ツーシームほどじゃないが、スピードを維持しながら手元で小さく沈む縦変化。

 

投球幅を広げるために、一也から教え込まれたが、落差も小さいため現状ではそんなに使っていない。

まあ、今後練習していきたいボールの一つだ。

 

 

「スライダー。」

 

今度は、横。

利き腕と反対側に、斜め下に滑るように曲がっていく変化球。

 

これも上に同じ、決め球にするにはまだ精度が低いため、カウント取りで使うのが主になる。

 

 

これが、今現状の俺が使える変化球。

基本的には、この5つを駆使して打者を抑え込んでいく。

 

決め球はツーシームとカーブ。

後は、裏をかいてストレートで見逃し三振を狙う。

 

 

 

この後も投げ込みを続け、100球ほど投げた。

合宿一日目とはいえ、追い込めるところは追い込む。

 

そして、体幹トレーニングへ。

俺はある程度大丈夫なのだが、特に一年生2人なんかはフォームの安定感がまだ無いため、コントロールがバラけたり抜け球になったりする。

 

そのため、体の芯を鍛えることで再現性を高めていく。

 

良いフォームで投げれば、当然良いボールもいく。

何より、制球が安定する。

 

ということで、当面の課題フォームの安定に協力している所存である。

 

 

 

 

そして気がつけば、日が落ちてくる。

ああ、もう夕方かとか呑気に思いながら、俺はタオルで汗を拭いた。

 

「ほら、いくぞ。」

 

同じくタオルで汗を拭く一年生2人にそう声をかける。

すると、沢村が首を傾げながら訪ねてくる。

 

「いくって、どこっすか?」

 

ああ、そうか。

こいつらは初めてだから、合宿の段取りとかもわかんねーのか。

 

「ああ、ひとまず飯だ。練習は夜まで続くんだから、胃になんか入れねえとぶっ倒れるからな。」

 

そして何より

 

「マネージャーが握ってくれたおにぎりを食べて英気を養うのだ。」

 

そう言い残し、俺はベンチに向けて走っていく。

 

「あ、ずるいっすよなっさん!」

 

そう言いながらついてくる一年生2人。

 

まあ、間違いじゃない。

実際食べなきゃ、これからの練習で体力が保たなくなる。

 

後は、食べる量だけ考えれば…な。

 

 

俺の言葉で相当食欲が出たのか、バクバクおにぎりを食べる沢村。

それをさらに焚き付ける、悪ーい先輩方。

 

ああ沢村、ご愁傷様。

 

これから始まるのは、地獄のランメニュー。

ただでさえまだスタミナがない一年生2人。

 

降谷は言うまでもないが、いくら毎日走っている沢村でも一年生なら、例外なく死ぬ。

ああ、あとは野手の春市くんもね

 

と言うことで、今日はベースランから。

普段からやっているメニューの一つながら、これは一軍強化合宿。

 

普段の半分以下の人数で、それを二面に分けておこなっている。

 

 

インターバルは短いし、もう一つのグラウンドのペースによっては、プレッシャーが与えられたりと中々きついことになっている。

 

何より、夜といえどクソ暑い。

暑さで体力も奪われている。

 

 

チラりと横目で、一年生が走っているグラウンドへ目を向ける。

うん、絶好調に死んでる。

 

「なんだ夏輝、向こう見る余裕あんのか?」

 

「純さん俺よりペース遅くないっすか?」

 

さらっと純さんに煽られたため、軽く返しておく。

だって、事実だし。

 

「てめ、やったろうじゃねえか」

 

「ええ、やっちまいますか。」

 

成り行きで始まる、競争。

まだ初日ながら、自ら追い込んでいくスタイルである。

 

 

と言うことで、俺と純さんのせいでペースアップしたことで、反対側のグラウンドの本数が増えるという被害を振り撒きながら、合宿初日は終わりを告げた。

 

 

最後に一つ。

本数増やしてすまない、一年生諸君。

 

 

 


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