早朝。
小鳥の囀りと共に喧しい蝉の鳴き音が、この暑い夏の空を染める。
夏になり、日も長くなった。
明け方というのは、少し明るすぎる。
そんな夏空を、俺はそっと見上げた。
「今日か、決まるのは。」
夏の大会に臨む、最後のメンバー。
これが、選定される。
いずれくるとは思っていたが。
それでも。
ここまで一緒にやってきただけに、こうして選ばれない選手がいるという事実。
やはり心にくるものがある。
(あんまり重く考えちゃいけないのは、わかっているんだけどな。)
この青道高校という強豪だからこそ、ベンチに入れないことは皆入る時からわかっていることだ。
層が厚く、切磋琢磨できるからこその強さもある。
それだけに、入学した時から皆覚悟はしていたはずだ。
でも。
いざその時になると。
(いかんな、今日は。)
今日はなんとなく、その気にならなくて。
軽く走り込んで、俺はいつもより少し早めに自室へと戻っていった。
「お帰りなさい、大野先輩。」
部屋に戻ると、瀬戸が準備で着替えをしていた。
「おはよう。これからバット振りに行くのか。」
「ええ。金丸先輩が先に行ったんで、俺も準備出来次第いきます。」
そうか。
彼もまた、選ばれるかどうかの瀬戸際。
一年生の中でも奥村、由井、結城と一軍帯同していた彼もまた、活躍を見せていた。
セカンドとして出場した試合では打率.270を記録。
主に2番で起用されており、チャンスメイクをどんどんしていた。
守備も高い走力を生かして広い範囲をカバー。
主に組んでいた高津のフォローをしながらうまく立ち回れていた。
特に塁上の揺さぶりは倉持にも負けていない。
盗塁走塁などすでに高い技術を誇っていた。
そこが瀬戸のセールスポイントであり、それを買われて一軍帯同しているのだ。
同室の後輩の贔屓はあるが、割とベンチに入れてもいい選手だと思う。
特にうちのようにレギュラーが固定されており、怪我にも強い選手揃いだとこういう代走の切り札という選択肢もあっていいと思う。
代打の切り札、代走の切り札。
あとは、守備固め要員。
昨年でいえば、小湊や門田さんなんかがその位置にいた。
この日、練習前に集合。
室内練習場に一軍帯同の選手が集められ、最後のベンチメンバーが発表された。
一軍帯同で追加招集されたメンバー。
一年生から4人が、新たに招集された。
控え捕手として奥村。
そして代打の切り札、外野と捕手で由井。
外野レギュラーで結城。
そして、代走の切り札と小湊のバックアップで瀬戸が選出された。
「瀬戸も選ばれたか。」
「ま、意識の高さが見えてたしな。あの足は魅力だし、守備走塁の安定感は一年の時の倉持に通ずるものがある。」
特に俺と同室の金丸と一緒に、よく練習に取り組んでいた。
それこそクリス先輩から受けた技術を、瀬戸にどんどん継承している。
俺が他の投手にしているように、金丸もまた後輩にそうしているのだ。
それが監督の目にも入ったのだろう。
練習試合でもかなりチャンスをもらっていたし、それをしっかりものにしていた。
セカンドの控えには、木島もいる。
安定感のある三年生がバックアップでいれば、瀬戸も気楽にできるはずだ。
他はまあ、いうまでもない。
正捕手の御幸の控えとして、奥村。
彼の観察力と投手の力を引き出す能力に関しては秀でたものがある。
特に過酷な夏の大会。
投手はもちろん、捕手もかなり過酷だ。
30度を超える炎天下、それも観客に囲まれた球場は特に気温が上がりやすい。
それを重い防具をつけた状態で、長時間我慢しなくてはならない。
何より、投手よりも疲労具合がわかりにくい。
だからこそ、この控え捕手と言うのがかなり重要になってくる。
由井は、代打と外野、そして捕手。
主な起用法は昨年の小湊と同様、代打の切り札として期待されている。
特に勝負強さとコンタクト力、そしてパンチ力の打撃の総合力が非常に高い。
だからこそ、ここで打ってほしい、流れを変えたいという場面で起用されるのが多いかな。
また、案外器用。
外野も守ってみれば形にはなっているし、投手によっては結城に変わってレフト起用もありだろう。
捕手としても後逸がかなり減り、高校野球の球に順応している姿は見えている。
そして、結城。
現在かなりレギュラーで使われる機会が増えてきている選手。
一年生ながら卓越したパワーを誇るため、一発で試合の流れを一気に引き寄せる可能性を秘めている。
なかなか当たらない。
しかし、当たればよく飛ぶ。
下位打線においたら、かなり怖いのではないだろうか。
投手からしても下位打線に一発がある打者がいると、休まるところもなくかなり疲れやすくなるはずだ。
上位に置くには少し頼りないが、下位におくにはかなり有効な打者ではある。
それに今は、だ。
今後どのような形であれ、確実に中軸を担う打者になる。
だから今は、その糧になるように。
それで、いい。
昨年は、3人。
そして今年は、4人。
それだけ有望な選手が来てくれている、ということだろう。
実力があれば、年齢なんて関係ない。
そして、だ。
追加招集があるということは、つまり。
ここで、選ばれなかったものもいる。
一軍帯同していた選手。
三年生からは、川島と関、三村が。
二年生は金田と高津が、指名から漏れた形になった。
そしてそれ以外も。
この20人のメンバーに選ばれなかった三年生は、この時点で現役を終える形になる。
(悔しいさ、俺も。)
できることなら、みんなで行きたい。
ここまで共に頑張ってきたメンバーなのだから。
今この場にいる奴らに、頑張ってきていない選手なんていない。
だからそれが、報われてほしい。
だが、勝たなきゃいけないのだ。
この20人の枠は、勝てるチームづくりを。
選手を選ばなきゃいけないのだ。
だから、選ばれた俺たちができることは、ただ一つ。
勝つことだけだ。
勝ち続けなければいけない。
そして俺は、勝たせる投手でなくてはいけない。
チームを勝たせる。
それが、俺のできること。
青道高校の大野夏輝の、最後の使命なのだ。
戦うことのできない選手もいる。
だからそれを、背負う。
俺が。
拳をギュッと握った時。
御幸にとんと、肩を叩かれた。
「言っただろ、一緒に背負うって。」
「…わかっている。」
でも、それでも。
これで背負わなければ、エースではない。
俺がそうしたいから、そうするのだ。
俺は俺らしく。
それでいて、その上でチームを背負うのだ。
大野夏輝として。
いや、青道高校エースの、大野夏輝として。
目指すのは、頂点だ。
誰が相手だろうと。
全てを倒して、最後まで青道高校の夏で終わらせる。
何にせよ。
「決まったな、最後のメンバーが。」
夏の大会の、最後のメンバー。
そして、三年生の。
俺の高校野球最後の大会が、着々と近づいてきていた。