燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード169

 

 

 

 

ベンチメンバーが決まった。

 

目指すべき頂点、そこへ向けて共に戦うメンバーが。

肩を並べて戦う精鋭が、決まった。

 

 

それはつまり、選ばれなかったものがいることの象徴。

 

彼らの上に俺たちが立っているということを、理解しなくてはならない。

 

 

 

『これからも、俺の誇りであってくれ。』

 

 

ふと、昨日の監督の言葉を思い出す。

 

ベンチ外になった、3年生に送った言葉。

それは、選手ではなくともチームの力になってくれという力強い頼み。

 

 

そんな彼らの代表として。

俺たちは、戦わなければならない。

 

 

 

彼らの誇りを。

そして、彼らの思いを。

 

胸に込めて、戦いの場へ向かうのだ。

 

 

 

 

 

 

 

俺たちが戦う舞台は、過酷な夏。

連日30℃を超える炎天下の中でのプレーを強いられる。

 

日本の、特に東京の夏は過酷だ。

 

湿度が高く、気温も高いため汗が出やすい。

そこから熱中症、脱水症状のリスクが高まってくる。

 

 

 

さらに言えば、球場。

周りが客席で囲まれており、尚且つそこには多くの観客が入っている。

 

ただでさえ暑い夏。

球場の作り上、熱が逃げにくく人口密度で熱気が生まれやすい。

中の体感温度は、気温以上に高く感じるのだ。

 

その環境はどんどん体力を蝕み、パフォーマンスの低下や怪我の危険性にも繋がってくる。

 

 

 

だから、暑さに負けない体力。

この夏の大会に関しては、それが非常に重要になってくるのだ。

 

 

 

 

 

さて、その体力をつける為に、これから青道高校でも恒例の夏合宿が始まろうとしていた。

 

 

 

 

「キツイんですか、合宿って。」

 

 

夏合宿を明日に備えた大野部屋。

数少ない…というか、唯一の合宿全員参加部屋である。

 

 

俺は勿論、金丸はスタメンのサード。

 

そして今回1年生の中からベンチに選出された、瀬戸。

 

 

 

「どうかな。そこそこの水準のキツさだとは思うが。強豪ってほどのシニアじゃ無かったから元々練習緩かったから基準がわからん。」

 

「適当なこと言わないでくださいよ夏輝先輩…。」

 

 

瀬戸に聞かれた通り俺は答えると、金丸がため息をついてツッコミを入れる。

 

そうか。

まあ確かにキツイとは思うが。

 

キツいと思うためにやるトレーニングな訳だし。

それが当然なわけだし、辛さは人それぞれだ。

 

経験してきたものの差でも、変わってくる。

 

 

 

「この人は異常だから真に受けない方がいいぜ。沢村と降谷、あと小湊は去年死にかけてたからな。」

 

「うお、マジっすか。」

 

 

 

そういえば、そうだったな。

 

今でこそ沢村はよく走れるスタミナ十分の投手だが、当時はまだ体力も発展途上。

元々スタミナのない2人と一緒に死んでいた。

 

 

というか1年は例年死にかけてる。

なんなら1年の時は俺も死んでいた。

 

 

 

「よく走るし、よく動く。連日のトレーニングで身体も重くなるし、何より夏場で回復が遅い。しっかり食って寝なきゃ、マジで死ぬからな。」

 

「なるほど。」

 

「そういうことだから、瀬戸も早く寝ろよ。俺達も寝るから。」

 

 

そう促し、俺は部屋の電気を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

合宿スタート。

 

まずは早朝のランニングから。

チーム全員で並び、身体を起こすように走る。

 

 

戻ってきてからはバッティング。

 

それぞれでペアを組み、トスバッティングを行っていく。

 

 

どちらかと言うと、型の確認やスイングの確認作業。

 

 

 

実戦的な練習は午後にやるから、ここではあくまで基礎的な練習をする。

 

 

 

午後に技術練習を行う。

打撃練習も実戦形式で、実際に守備も入って試合に近い形で。

 

 

ランナー一塁で、俊足のランナー。

バッテリーは、マウンド裁きのいい沢村と由井。

 

セオリー通りならバントでもいいが

 

生憎俺は、転がす方が可能性が高い。

 

 

カウント2-1。

打者有利で、ランナーが走りやすいカウント。

 

 

(整えたいよな、この場面。)

 

 

カウントを。

もっと言えば、彼らのバッテリーとしてのリズムを。

 

一度、締め直したいタイミングだろう。

 

 

彼の生命線。

混じり気のない、キレのあるフォーシーム。

 

比較的制球しやすく、この球でリズムを作る。

 

 

(でも、ここで縋るのはあまりに安直だ!)

 

 

 

外角低め、フォーシーム。

これを逆らわずに逆方向へ。

 

敢えて引っ張ろうとせず。

 

外野の前に落とすイメージで弾き返した。

 

 

 

「ぐあー!ここでも夏輝先輩に敗れるとは…!」

 

「わかり易すぎるんだよ。特に流し打ちが上手い打者なんだから、強気にいっても良かったな。」

 

 

御幸に解説をされ、尚もぐぬぬと続ける沢村。

 

まあ、その通りだね。

だからカウントを悪くするといい事がないし、多少危険でもストライク先行で攻めた方が抑える確率が高い。

 

 

「いい変化球があるんだ。カットボール改とかでフライ狙い、或いはスプリームとか落としてゴロでも良かった。多少甘くてもランナーが走りたい場面、ストレート狙いで変化球は見逃す予定だった。」

 

「夏輝先輩が一枚上手だったという訳ですか…!」

 

「ほら、次行けよ。」

 

 

守備から打撃。

時間がないからこそ、考えて行う。

 

今できることをとにかく行い、可能性を潰していく。

 

 

何試合に1回、あるかないかのプレー。

そして、いつ起きるかも分からないプレー。

 

しかしそれが起こる可能性があるのなら、夏に向けて確認しておく。

 

 

起きるか分からないということは、起こるかもしれないということ。

今わかるのであれば、ある程度のルール作りをする。

 

 

それこそ、夏は一点を争うゲームになる。

 

特に準決勝、決勝。

恐らく上がってくるであろう強豪校には、必ず絶対的エースがいる。

 

そのワンプレーで。

勝敗が決まることだってある。

 

 

備えあれば憂いなしだ。

今できることは、全てやらなくては。

 

 

 

 

 

 

 

練習が一段落すると、ここで補食。

 

そろそろ日が落ちてきた。

練習強度に対してエネルギーが足りなくなってくるこの時間に一度補給を行い、この後の練習でも高いパフォーマンスで取り組むことができる。

 

 

 

何より。

 

 

「マネージャーの手作りおにぎりで英気を養うのだ。」

 

「去年と同じようなこと言ってる!?」

 

 

そうしてベンチ前に駆けていく。

当たり前だ、マネージャーが丹精込めて作ったおにぎり、無下にする訳には行かない。

 

 

一度練習を切り上げ、栄養補給。

 

エネルギーとなる米に、糖分も多いバナナ。

そして豊富なビタミン成分とタンパク質の多い納豆など、この後のハードワークに耐えられるように。

 

 

「おっ、いい食いっぷりだな結城。どんどん食えよ。」

 

「良いんですか。」

 

 

あっ…。

金丸先輩の餌食となってしまった結城を見ながら、俺は静かに手を合わせる。

 

 

「瀬戸、同室の先輩からのアドバイスだ。食べ過ぎるなよ。」

 

「何となく察してます、この後のメニュー。」

 

 

何せこの後は。

 

 

 

 

 

 

 

「っしゃあ元気だしてくぞ!」

 

「っらぁー!」

 

 

ここから先は、ランメニュー。

 

 

追い込み。

過酷な夏場を乗り切るための体力を付けるという意味合いもあるが、きつい練習を全員で行って忍耐力と団結力を高める。

 

 

しかし、メインは追い込み。

普段のベースランよりも、きつい。

 

 

 

行う人数も少なければ、普段よりもコートを増やして行う。

 

より数が多く回って来て、休憩も短い。

 

 

 

日が落ちているとは言え、夏。

特に湿気の高い日の夜は、熱帯夜となり身体を蝕む。

 

 

案の定、1年のペースがどんどん遅れていく。

昨年の沢村たちもそうだったが、普段よりもペースが早い練習は、3ヶ月練習をしてきて慣れてきた身体に突き刺さるのだ。

 

 

 

「オラ1年!ペース落ちてんぞ!」

 

「後ろがつっかえてるぜ!」

 

 

野次に、由井の顔が上がる。

そして続けて、奥村と瀬戸、結城も。

 

唇を噛み締め、険しい表情を浮かべる。

 

 

 

そうだ、それでいい。

 

クソ喰らえと、反骨心こそ強さに変わる。

今辛い思いをして、試合で笑え。

 

 

 

「へいへい夏輝さん!余所見とは随分余裕そうですね!」

 

 

俺が別グループに目を向けていたのが分かっていたのか、沢村が俺を煽る。

 

面白い。

 

 

「俺を煽るってことは、覚悟が出来ているんだろうな。」

 

「ここで勝ってこそ、エースへの第一歩だと言うもの!負けませんよ夏輝さん!」

 

 

 

歴史は繰り返されるということか。

昨年俺と純さんがそうだったように、今年は沢村からペースをあげるように煽ってきた。

 

初日から追い込むスタイル。

自らに試練を与える。

 

 

 

自然と俺たちのグループの回転が早くなる。

 

余談だが、当然の如く遅れた1年たちのグループの本数を増やすことになった。

 

 

すまない、1年生諸君。

きつい思いを今のうちに味わってくれたまえ。

 

 

 

 

 

 

 

 

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