燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード172

 

 

 

 

夏の合宿もいよいよ大詰め。

 

一通り練習メニューを終えた週末。

合宿最後の土日は、練習試合で締めくくる。

 

 

投手陣は試合前ということで、調整。

 

追い込むことも大事だが、怪我をしては元も子もないということでコーチの指示で軽めにした。

 

 

 

今日は俺と降谷は完全に投手メニューのみ。

 

外野守備練習や打撃練習も参加はなし。

体幹メニューや軽めのピッチングで練習を終える。

 

 

 

 

そんな中、野手たちは最後の練習メニューをこなしていた。

 

 

 

「どうした!もう終わりか!」

 

「まだまだァ!」

 

「声だけでどうする!足を動かせ足を!」

 

「っしゃあ!」

 

 

 

監督直々のノック。

去年同様、最後の追い込みは彼自身のバットでその厳しさを見せつける。

 

望は、頂。

目指すべき場所は高く、険しい。

 

 

だからこそ、直々に。

 

ある種、監督と闘うのだ。

険しい頂点を再び取るために、その厳しさをこちらに突き立てる。

 

監督の高い理想と完成系を、それぞれが超えるために。

 

 

 

今より上へ。

もっと先へ。

 

 

「負けてねーっすよね。去年のあのひとたちにも。」

 

 

沢村が、そう呟く。

 

去年の、強い3年生たち。

いや、今は俺たちが3年生な訳だが。

 

昨年の最高学年は、前評判が低かったからこそその成長度合いと完成度の高さが本当に素晴らしかった。

 

 

 

だが。

力と団結力で言えば、今の俺たちの方が上だ。

 

俺はそう信じてるし、実際そうだと思う。

 

 

 

凄いチームメイトたちだ。

 

 

御幸は、チームの柱

個性溢れる投手陣を見事に纏めながら、爆発的な攻撃力と鉄壁の守備を束ねる長。

 

ゾノは、努力の結晶。

天才でもなければスターでもないが、それでも並外れた努力はチームを励まし、全体の底上げに繋がった。

 

小湊は、打撃の天才。

兄の真似事から始めた未完の大器は、兄以上の卓越した打撃技術で、チームに安定した攻撃力を与えた。

 

倉持は、加速装置。

時に後ろから仲間の背中を押し、時にチームを引っ張る、そして卓越した走力はチームの意識全体を加速させた。

 

金丸は、起爆剤。

その負けん気と逆境での強さから、土壇場での勝負強さと粘り強さをチームにもたらした。

 

白州は、縁の下の力持ち。

個性溢れるこの面々を束ねながら、それぞれの良さを損なわないように後ろから支え続けた。

 

 

他にも皆が、すごい。

皆がチームを作り上げてきたし、皆でここまで来れた。

 

素晴らしい選手たちと、仲間。

 

 

本当に良かった。

このチームで野球ができて。

 

この青道高校で、仲間と出会えて。

 

 

「俺を日本一の投手にしてくれると言ってくれたんだ、これくらいやってくれなきゃ困る。」

 

 

そう言って、俺は笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

合宿最後の練習試合。

 

疲れた身体に鞭を打つ、というよりはこの疲れた状態で最大限のパフォーマンスを発揮するのが目的。

 

 

 

 

 

「夏の合宿総決算!まずは1試合目、疲れがある中でしょうが、やるっきゃありません!先鋒として景気づけに頑張らせて頂きますんで、バックの皆さんよろしくお願いします!」

 

「バラしてどうすんだ。」

 

 

 

一発目に先発するのは、沢村。

 

疲労が残る中、得意の打たせてとるピッチングで主導権を譲らない。

 

 

特にこの日はチェンジアップが冴えており、低めに制球されたストレートとの緩急差で上手く引っ掛けさせる。

 

途中から織り交ぜたスプリームと小さいカットボールを低めに集め、テンポ良く投球し7回を3失点に留める。

 

 

疲労はバックも同じ。

いつも通りの守備範囲とは言い難い状態でのこの試合組み立ては、上出来と言って良いだろう。

 

 

所々甘く入ると痛打されてしまったものの、最後まで1度もリードを許すことなく長いイニングを投げた。

 

 

 

打線もボロボロながら奮起。

序盤には御幸がホームラン、中盤に小湊が走者一掃とチームの主軸が打点を荒稼ぎ。

 

更にはこの日5番として起用された金丸も、その起用に答えるように2打点を上げる。

 

全体で8得点と、柏木に対してしっかりと要所で点を奪い取り、8-4でまずは勝利を収める。

 

 

 

 

 

ダブルヘッダーの2試合目は、東条。

東条もまた、沢村同様打たせてとるピッチングで試合を掌握する。

 

力感なく低めに集める投球は、バックを上手くリズムに乗せる。

 

 

ストレートとカットボール、ツーシームと緩めのスライダーでゴロを打たせる。

そしてピンチを背負うと、新たな決め球であるパームで空振りを奪い、今までにない武器での可能性を見せた。

 

 

この試合では2番起用された白州が打って走って大活躍。

スリーランホームランを含む5打点に、2つの盗塁と疲れがありながらも積極的なプレーでチームを鼓舞。

 

打線も7回に逆転に成功すると、最後は9-7で勝利。

粘り強く投げた東条は自己最長となる8回を投げきり、勝利に貢献した。

 

 

 

 

 

 

 

そして、合宿最終日の日曜日。

 

 

 

1試合目の菊田の先発は、降谷。

 

前日丸々休みがあったからか、前日2人に比べてもかなり疲労は少ない状態。

それもあり、序盤から奪三振を量産。

 

 

合宿後ということもあり、無駄な力感が抜けているからこそ低めに集まった投球。

ストレートとフォークを投げ分けながら、ランナーを背負うとギアを入れて高めのストレートで空振りを奪う。

 

時折混ぜる縦のスローカーブで崩しつつ、圧巻の投球内容を見せつけた。

 

 

試合は接戦で迎えた6回。

代打で起用された由井のタイムリーを皮切りに、打線が爆発。

 

6回に一挙5点を奪い、菊田を一気に突き放す。

 

 

最後は昨日の2試合に引き続き、ノリがリリーフ。

ここまで中継ぎとして3試合目を投げる彼が残った2回をピシャリと抑えて、試合は8-2で勝利した。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、合宿最後の試合。

強豪である九重の先発を任されたのは。

 

 

「確かに、総決算だな。」

 

 

視線の先にある左手のグローブを開け閉めし、感触を確かめる。

 

 

合宿で少し重くなった身体。

マウンドの上で軽く跳ね、体を揺する。

 

 

 

うん、調子は悪くない。

 

確かに疲れがあるから身体が重いけど、それはみんな同じ。

 

 

 

「どうだ、疲れは?」

 

「そりゃあ、ある。お前も同様だろうしな。けど、去年ほどじゃない。」

 

 

昨日も休ませて貰ったしね。

 

それ以上に、スタミナがついたことを実感する。

 

緩やかでも、成長しているということだろう。

疲れているが、去年の合宿のように全然だめって言う訳でもない。

 

 

 

感覚は良い。

余計な力が抜けている分、指先の繊細な感覚は普段よりも研ぎ澄まされている。

 

去年ものにした感覚は、今の俺の大きな武器になった。

 

 

「お前の言う通り、総決算だ。春から着手してるギアチェンジも、今日の状態ならかなり重要になるぜ。」

 

「ノリも疲れてるだろ。求められているのは完投ということは、理解している。」

 

 

もちろん先発するのも疲れる。

だがそれ以上に、状況に応じて準備して、大事な場面に何度も出なくてはならないノリも、このチームに必要不可欠な選手だ。

 

力感は抜きつつ。

あとは、ピンチで力を入れること。

 

春の選抜で露呈した、ペース配分。

 

もう感覚は、掴めてきた。

 

 

 

 

互いのミットを合わせ、それぞれの持ち場に戻る。

 

俺と、相手投手だけの玉座。

マウンドというこの小さな山に立ち、グローブを口元まで上げた。

 

 

いつも通り。

見慣れた一也の構え、サインに頷く。

 

幾度となく投げてきたそのコースを狙い澄ます。

 

 

 

(…ここ。)

 

 

 

俺の中での、最高点。

最も球に力を乗せられる到達点で、スピンをかける。

 

 

遅い快速球が、先頭の左打者の最も遠い位置に吸い込まれた。

 

 

 

2球目は、さっきより少し遠く。

これを打者は見送り、1ボール1ストライク。

 

 

 

(見送ったってよりは。)

 

(ハナから手ぇ出す気なかったな。)

 

 

 

出塁率が高く、足も速い。

恐らくは、追い込まれてからも粘り強い。

 

となれば、早くカウントは取らせてもらう。

 

 

3球目、縦のカーブ。

外から入ってくるこのボールも見送り、2ストライク。

 

 

 

ここは勝負。

一度ふわりと浮かぶ軌道を見せたからこそ、速い球で決める。

 

高低差、さらには緩急差。

2つの要因で異なるこのボールを使った後。

 

 

俺のストレートは、更に輝きを増す。

 

 

 

インハイストレート。

甘く入れば、危険なコース。

 

しかし。

 

 

俺は、間違えない。

 

 

 

「ストライク!バッターアウト!」

 

 

 

見逃し三振。

まずは先頭打者に全く反応させず、アウトを一つ奪い取った。

 

 

 

御幸に向け、人差し指をピンと立てる。

 

 

まず、1つ。

そうジェスチャーを交わし、俺は彼から投げ返された白球を受け取った。

 

 

 

続く2番は、ツーシームでセカンドゴロ。

 

3番に対しては高めのカットボールを打たせてライトフライ。

 

 

疲れはある中だったが、初回は危なげなく三者凡退で終わらせた。

 

 

 

 

「出力がいつもより出てねーから、カットとツーシームはあまり曲がらんな。ストレートは130出れば上出来ってことかな。」

 

「それでもキレは出てるから、空振りは奪える。カーブとチェンジの配分を増やして、決め球にも使おう。」

 

 

 

状態も、最悪では無い。

確かに疲れはあるが、身体は動く。

 

キレも出せてるし。

バックも頑張ってくれている。

 

 

 

「このレベルなら多少抑えていても、纏められる。」

 

「おい、あまり舐めるなよ。相手も強豪だぞ。」

 

 

舐めている?

馬鹿言え。

 

 

「正しい物差しで言ったまでだ。安心しろ、最後まで投げ切る。」

 

 

疲れているのは重々承知。

しかし、その条件下で結果を出してこそ。

 

それに。

 

 

「こんな所で苦戦を強いられていては、日本一のチームとは言えない。そうでしょう、監督?」

 

 

俺がそう言うと、監督も小さく頷いた。

 

 

「夏の甲子園は、春とは比べ物にならないほど過酷だ。このコンディションでしっかりと勝ち切る。まずは先制点。立ち上がりの不安定なところを突いて得点を奪ってこい。」

 

 

その監督の言葉に答えるように、小湊と御幸のタイムリーで2点を先制すると、中盤にもしっかりと追加点を奪う。

 

 

俺自身も投球でチームに貢献。

 

途中に連打で失点こそしてしまったものの、要所を抑えるピッチングでリードを許さない。

 

 

最終的には9回を投げきり、被安打7の2失点。

 

 

試合も4-2で、合宿最終試合も勝利で締めくくる。

 

過酷なこの夏合宿の総括となるこの練習試合4連戦を全て勝利で飾り、夏の大会への仕上がりを見せた。

 

 

 

 

 

 

 

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