燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード173

 

 

 

 

恒例の夏合宿を終えて、いよいよ調整。

ある程度溜まった疲労も解消した今日この頃。

 

俺たちが練習試合で汗を流している中、落合コーチは都内のホールへと足を運んでいた。

 

 

 

理由は、簡単。

 

夏の大会、所謂最後の甲子園をかけたトーナメントの抽選会である。

 

 

シードは決まっていたし、一応確認でコーチが行ってくれた。

 

 

 

「どうだろうな。」

 

 

食事を済ませ、他の3年生と談話しながらそんな話題になる。

 

 

「シードは決まってるし、どこで稲実や市大と当たるかやな。」

 

「何にせよ、そこ2つは倒さなきゃ行けないって訳だ。」

 

 

 

恐らく、準決勝で市大三高。

決勝で稲実、かな。

 

シードを取り逃していながらも怖い相手もいる。

 

 

長く強豪の仙泉や、強打がウリの成孔。

それに忘れてはいけないのが、あの薬師高校。

 

彼らと早い段階で当たる可能性も、ある。

 

 

「できることなら序盤は強豪を避けたいが。」

 

 

正直、やりたくない。

 

特に成孔や薬師なんかは。

乱打戦の末にやられる、所謂事故的な負け方をする可能性が出てくる。

 

 

 

分かりやすいところで言えば、市大三高と薬師。

去年のこの一戦が、その一例だろう。

 

地力、総合力。

全てにおいて上だった市大三高が、それこそ大番狂わせを起こされた。

 

 

当時の粗だらけだった薬師のその攻撃力と勢いに飲み込まれた、と言うべきか。

前評判では、それこそ名前すら知られていなかったチームが食われるほど、何が起こるか分からない。

 

 

 

出来れば当たりたくない。

それこそ調子が上がる前の序盤には、特に。

 

 

 

「残念ながら、過酷なトーナメントになりそうだぞ。」

 

 

 

そう言って、白州がトーナメント表を持ってくる。

 

 

 

「何を言っている。白州が引いてないから今回は当たりのはずだ。」

 

「秋大のことはもう許してくれ。」

 

 

 

白州といえば何を隠そう、前回の抽選会で魔境のトーナメントを引いた男。

 

成孔、帝東、稲実(番狂わせがあったから鵜久森)、市大三高、薬師という錚々たる面々とぶつかった秋大。

流石にこの男にくじを引かせる訳にはいかないということで、落合コーチが出陣した…という背景もある。

 

 

期待の落合コーチ。

白州ほどではないことを祈っているが。

 

 

「悪いが、そう上手くは行かなかったな。」

 

 

それが淡い幻想だったことを思い知ったのは、ほんの数秒後だった。

 

 

渋い顔をしながらこちらにトーナメント表を向ける。

 

稲実は別ブロック、てことは決勝か。

準決はやっぱり、市大三高がこっちくるよね。

 

何となくそんな予感してたし、仕方ない。

 

 

 

そんな順当が続く中。

思いもよらぬ組み合わせに、俺たちは目を丸める。

 

そして、白州が言っていた意味を改めて理解する。

 

 

「おいおい、冗談だろ。」

 

「紛れもなく、事実だ。」

 

 

そして再び、分かりやすく眉を寄せて白州を見る。

 

 

敢えてこちらと目を合わせない白州。

また俺は、トーナメント表に視線を落とした。

 

 

 

「いきなり、薬師かよ。」

 

 

 

全国高等学校野球選手権大会西東京地区の2回戦。

つまり、シードである俺たちの初戦となる、この試合。

 

その対戦相手となりうる可能性が高いチーム。

 

 

 

今年度の春の選抜ベスト4であり、接戦の末に清正社に敗れた強打のチーム。

 

春の都大会こそ疲労で序盤に敗退したものの、やはり打線は全国トップレベル。

 

 

全国の猛者に対して超攻撃的な野球を披露。

4番の轟雷市を中心とした強打のチームの筆頭、且つそのチーム全体の勢いからかなりの話題性があり、それこそテレビでもかなり取り上げられていた。

 

 

はっきり言って一番当たりたくなかった対戦相手。

欲を言わなくても、最初には当たりたくなかった。

 

 

 

「よりにもよって、一番危ねーとこと当たったな。」

 

「まあ、決まってしまったものは仕方ないな。誰が相手でも、勝たなきゃ話にならん。」

 

 

 

さっき言った「事故」が最も有り得る相手。

というよりは最近地力も付いてきたこともあり、都内でも4強の看板が板に付いてきた。

 

本来であれば準々決勝以降に当たるような相手。

 

しかしこれが俺たちの初戦で当たるというのがらトーナメントの怖いところだな。

 

 

 

 

「嘆いていても仕方ない。どちらにせよ、強い相手を倒さなきゃ甲子園には行けないんだ。」

 

 

 

もっと言えば、大会終盤には強い相手しかいない。

 

多くの対戦相手を蹴落とし、その思いを乗せてきた強い相手しかいないのだ。

 

 

勝ち抜いていけば、どちらにせよ強い相手と当たる。

 

それが少し、早いだけの話だ。

 

 

 

「わかっとるわい!どんな相手が来ようと、俺たちは勝つしかないんや!」

 

「それさっき言った。」

 

「ゾノ、ちょっとうるさい。」

 

「ゾノはもう少し打ってくれたら助かるな。」

 

「じゃかあーしぃ!」

 

 

相手は、強い。

だからと言って、負ける言い訳にはならない。

 

 

 

勝つんだ。

 

このチームで、長く試合をしたいから。

俺を生かしてくれた、この青道高校で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

某所。

青道高校がトーナメント表に目を通している裏で、この高校もまたそのトーナメントの内訳に表情を歪めた。

 

 

「真田先輩!なんでよりにもよって青道引いちゃうんすか!」

 

「ははっ、わりい。」

 

 

青道といえば、春の選抜。

つまり春の甲子園で優勝を収めた、今の日本で最も強い高校。

 

ドラフト候補である4番の御幸を筆頭とした抜け目ない強力打線に加え、高い守備力。

 

磐石な投手陣に、それを束ねる絶対的なエース。

 

 

 

そんな相手を2回戦で迎えることとなったのは、同じく春の選抜でベスト4に輝いた薬師高校である。

 

 

 

「まさか序盤にぶつかるとはな。それも、一番当たりたくねー相手に。」

 

 

 

監督である雷蔵が、手元のトーナメント表からナインたちに視線を戻す。

 

 

チームの状態は、決して悪くない。

選抜から戻って以降もチームの状態も上向いており、打線は特に好調。

 

特に4番の雷市は、甲子園で全国屈指の投手を見てきたからか更なる飛躍をした。

 

 

他の2人、つまり秋葉の出塁率と三島のパンチ力にも磨きがかかり、大会でも大暴れ。

 

チーム全体の底力も向上し、全体的なレベルアップもした。

 

 

更に1年生には即戦力左腕で、新たなる武器も手に入れた。

 

 

力は付いている。

以前に比べて、穴もなくなった。

 

しかしそれでも。

 

 

現実的に見て、勝機はかなり薄いと雷蔵は感じていた。

 

 

 

「そんなにすごいんですか、この大野さんは。」

 

 

すらりと高い身長。

そして特徴的な癖毛の青年が、雷蔵にそう聞いた。

 

 

 

「おう友部。すげえなんてもんじゃねえ。1年の時とは言え、雷市がコテンパンにされちまったくらいだからな。」

 

「そんなことがあるんですね。俺たちから見れば、雷市さんが抑えられるなんて想像できないのに。」

 

 

青年…もとい、その即戦力左腕である友部の問いに、雷蔵も思わず顔を顰めた。

 

 

自分とて、自慢の息子があんなにも簡単に抑えられるとは思わなかった。

 

それこそ、当時ドラフト候補でもあった真中を打ち砕いたときには。

都内には、成宮以外の敵はいないと思っていたくらいだ。

 

 

しかしまあ、怪物というのは案外近くにいる。

 

 

 

「つくづく、因縁がありますよね。」

 

 

声、今度は友部とは違う。

 

ここ2年間、雷市と同様チームの柱として本当にずっと聞いてきた声。

 

 

このチームのもう1人の柱である、エースの真田である。

 

 

 

「ったく、気楽に言ってくれるぜ。これで勝たせなきゃいけねー俺の身にもなってくれよ。」

 

「後援会もいますしね。」

 

 

 

そんな雷蔵でも、少しの期待。

それこそが、この2人の柱が暴れてくれること。

 

 

 

エースである真田は、甲子園でも投球の質の高さを見せた。

 

決め球であるシュートにも磨きがかかりつつ、ストレートの球威も増している。

 

球速も冬のトレーニングを経て、ベースも140中盤まで出るようになった。

 

 

下半身が安定し、制球も改善。

今までインコース主体だったものも、左打者の外に逃げるシュートが有効的に使えるようになってきた。

 

 

 

上手くハマれば、強豪相手でも大量失点はしない。

それくらい、最近の真田は技術メンタルともに完成しきっている。

 

あとは、雷市。

全国でも有数のホームランアーチストという評価を受け、さらに進化をした彼が、何とかしてくれれば。

 

 

 

「それ以外、方法ねえよなぁ。」

 

 

そう言って、雷蔵が頭を掻き毟る。

ただ少しの可能性を信じるしか、ない。

 

こと野球に関しては現実主義な彼ですら、それを願う他ないほど、強敵であった。

 

 

 

対してエースの真田は、こう言う。

 

 

「まあ、分かりやすくていいじゃないすか。どうせ強い相手倒さなきゃ、上には行けないんす。それが少し、早いだけの話ですよ。」

 

 

そんな楽観的なセリフに、思わず雷蔵はため息を吐きたくなる。

しかしそれを止めたのは、真田の表情を見てすぐのことだった。

 

 

(ったく、どうしたらこのトーナメントを見てそんな表情が出来るんだか。)

 

 

キラリと鈍く光る黄金色の瞳。

 

その口角は、若干ながら上がっている。

 

 

既に燃えているのか。

その瞳と表情は、やはりあのときの彼らの表情に酷似している。

 

 

「負けの言い訳なんざ、あとで幾らでもできっからな。今はただ、勝つことだけを考えるしかねえ。」

 

 

そうして、雷蔵はトーナメント表を置いてベンチから離れた。

 

 

 

「オラてめえら!真田が負けられねーってっからよ!20点取れるくらい振り込めよ!」

 

 

雷蔵の檄に、選手達が声を上げる。

 

 

 

そんな最中、エースは静かに闘志を燃やしていた。

 

 

(あの時。一緒に投げた時からずっと思ってたんだ。同じマウンドで、お前みたいなアツい奴と投げ合いたかったんだ。)

 

 

ぐっと、拳を握り込む。

そして、星々が煌めく空へと目を向けた。

 

 

(見てるんだろ、頂点を。なら、話は早い。)

 

 

握りしめた手を、そっと空へと向けて、開いた。

 

 

 

(紛れもねえ最強のエース、ぶっ倒して頂点を取らせて貰うぜ。)

 

 

真田の胸に、闘気が宿る。

 

正に、激アツ。

燃え上がる心の炎に、真田は再び笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







アメリカチームとの試合の時点で察している方もいると思いますが、今回真田は怪我をしてません。

全開の状態です。
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