燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード175

 

 

 

 

 

早朝。

最後、夏の大会の開会式を控えた俺は、いつもとなんら変わることなく明け方の空を見上げた。

 

 

「っし、行くか。」

 

 

軽くストレッチをして、ゆっくりと走り始める。

 

 

夏場だからか、すでに日は登っている。

しかしまだ日が登って間もないためか、心地よい。

 

 

 

 

開会式とはいえ、俺たちはシードのためここから1週間試合はない。

 

しかしこのランニングは、いつもの日課。

所謂ルーティーンというもの。

 

調子を維持するためにも必要な工程として、毎日行う。

 

 

一年生の時。

体力がないと御幸に言われて始めたランニングも、気がつけば俺の日課になった。

 

 

今ではこれもまた、心地いい。

 

 

 

 

 

「おはようございます、夏輝さん!今日もタイヤ日和ですね!」

 

「おはよう。確かにいい天気だな、タイヤ日和かはわからんが。」

 

 

 

そして沢村がくる。

 

いつも通り。

彼はタイヤを引きずり、俺はそれと一緒に走る。

 

 

これもあと何回か。

もう終わりが見えてきた。

 

 

寂しさすら感じつつ、いずれ終わるこの高校野球に悔いを残したくないと、俺は改めて感じた。

 

 

 

続いて降谷が合流し、彼も共に走り始める。

 

そして野手もポツポツと外に出てきて、練習を始める。

 

 

いつも何処かで。

必ず誰かが練習をしている。

 

 

俺たちだけではない。

 

もっとずっと前。

この青道高校が強豪と言われた頃には出来上がっていた、この風景。

 

 

俺の一つ上も、東さんの代も。

さらに遡って、監督が現役の頃も。

 

 

紡がれて、継承されて。

そして今に至る。

 

このチームにとっての当たり前。

 

 

貫いて、ここまできた。

 

 

 

それはこの夏も変わらない。

そしてこれからも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、行こう。」

 

 

白州の合図に、皆が頷き準備をする。

 

それぞれが己のユニフォームを身に纏い。

これから最後の熱戦を繰り広げる舞台へ。

 

 

バスに乗り込み、神宮球場へ。

 

俺はいつも通り、御幸の隣で会場へ向かう。

 

 

「案外緊張してねーな。」

 

「まあ、今日はまだ試合ないしな。それに今更。」

 

 

やり残したことはない。

もうここまでやってきたことを、やり遂げるだけだ。

 

 

「行こうぜ。」

 

「ああ。」

 

 

 

全国高校野球選手権大会西東京地区大会。

 

良くも悪くも印象の残るこの球場。

俺からしたら、あまりいい思い出ではないが。

 

しかしここが、決戦の舞台になる。

 

 

 

 

ちなみに開会式は東西合同で行うため、ここには都内総勢250近くの高校が集まっていることになる。

 

 

そして神宮球場に集結して試合をするのは準決勝以降。

 

まずはここに戻ってくること。

そうでなければ話にならない。

 

 

 

バスを降り、辺りを見回す。

 

人口密度が夏場の湿度と相まって蒸し暑さを倍増させている。

しかし、嫌な暑さではない。

 

 

これもまた、「熱気」か。

 

 

 

ちらほらと見える知った顔に、軽く会釈をする。

 

あれは成孔、相変わらずでかいな。

それに帝東の乾はアメリカ代表との試合ぶりだな。

 

 

 

そしてすぐ。

俺の前に現れたのは、市大三校の背番号1。

 

 

「投手として相見えるのは初めてだな、天久光聖。」

 

「大野だっけ。投げあうの楽しみにしてるよ。」

 

 

天才、天久光聖。

 

最速150キロオーバーの直球と高速で変化する縦スライダーと切れ味のある変化球が武器の本格派右腕。

 

 

 

 

おっと、あれは。

馴染みのあるその顔を見て、俺は思わず足を止めた。

 

 

 

「よう。」

 

「真田。」

 

 

いつものような、軽い空気ではない。

明らかに、こちらを意識している。

 

それもそうか。

 

相手からしたら、最初の関門。

秋からの因縁の相手と言うべきところか。

 

 

 

真田の表情が物語っている。

 

笑顔ではあるものの、なんとなく目が据わっているような感じがする。

早くも臨戦体制というわけか。

 

 

互いに目線を合わせる。

どうやら俺はこの真田と何かと縁があるらしい。

 

そして、なんとなく波長が合うのだ。

 

 

俺をじっと見据える真田。

彼に対して俺は、真っ直ぐ目を見て答えた。

 

 

 

「そう焦るなよ。すぐに相対することになる。」

 

 

すると真田もまた、口角を上げて答えた。

 

 

「…お前と投げること、楽しみにしてるよ。」

 

 

そうして、彼は離れていった。

 

 

 

 

「なんか、雰囲気違いましたね、真田さん。」

 

「まあな。それだけ入れ込んでいるんだろ。」

 

 

完全に戦う顔をしていた。

 

最後の大会だからな。

青道のエースが俺であるように、今年の薬師は真田のチームだ。

 

轟もそうだが。

それ以上に、チームの最後の砦としていつも支えた。

 

 

薬師がここまでどんな苦難と戦ってきたかは俺にはわからない。

しかし、それでも。

 

 

この夏に入れ込む気持ちはきっと、俺たちと同じはずだ。

 

 

 

 

 

 

面白い。

ならその思いも共に、ねじ伏せる。

 

勝つのは俺だ。

俺たちだ。

 

 

 

 

 

 

 

そしてその間も無く。

やはりこの男は、俺の前に現れた。

 

 

「や、久しぶりじゃん。」

 

「一ヶ月ぶりだろ。お前のホームグラウンドであってんだから。」

 

 

先の春の都大会では圧倒的な投球で、帝東に対して1試合15個の奪三振を奪った怪物投手。

 

関東大会でもその圧巻の投球は全開。

猛者だらけの大会で防御率0.00と完全に試合を掌握しつづけた。

 

 

 

キングの名の下、敗北を糧にさらなる進化を遂げて復活を果たした、まごう事なき世代最強左腕。

 

 

 

「何もいうまい。決勝で会おう。」

 

「マウンドで語ろうってわけね。お前らしいよ。」

 

 

 

俺の因縁の相手であり、倒すべき相手。

 

勝たなければならない、相手。

 

 

 

「じゃあな。また決勝で。」

 

「うん。またね。」

 

 

 

そうして、稲実の面々とも別れる。

 

倒すべき相手。

それがいざ前に出てくると、実感する。

 

 

こいつらを倒してようやく、頂点が見えるのか。

 

 

そう考えると、道のり険しすぎる。

 

 

 

「ほんと、頼むよ。打ってくれなきゃ勝てない。」

 

 

横にいる4番で女房役の男に、そう投げかける。

 

ハナから心配はしてないけど。

最近の好調を見る限りは、打線が全く打てないということもまず無いだろうし。

 

 

「分かってる。去年みてーに見殺しにはしねえ。」

 

「鳴からは3.4点取ってくれりゃあ嬉しいな。」

 

「冗談きついぜ。」

 

 

半分は、冗談。

半分は、本気で思ってる。

 

 

まあ実際、今の成宮からそう点を取るのは容易くないだろう。

 

それこそレベルで言えば、本郷クラス。

世代最強、超高校級というに相応しい左腕である。

 

 

でも、去年のことがある。

俺も1点も取られる気はないが、取ってくれるに越したことはない。

 

 

何にせよ、強豪揃いの魔境トーナメント。

 

だがそれを勝ち抜いてこそ、意味がある。

 

 

まずは薬師の真田と轟。

 

そして市大の天久。

最後に、成宮鳴。

 

 

こいつら全員に投げ勝って、甲子園。

頂点まで行かせてもらう。

 

 

(約束みたいなものも、あるしな。)

 

 

次世代最強の怪童との約束を胸に仕舞い。

俺は、神宮球場の中へと赴いた。

 

 

 

 

 

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