燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード176

 

 

 

 

 

夏の甲子園予選の開会式も終え、無事最後の夏が開幕した。

 

 

各地でそれぞれ試合が行われ。

半分弱の高校が、その夏を終える。

 

 

 

俺たちはシードで1回戦目、2回戦目は試合がない。

だから俺たちの対戦相手は、その2回の試合を勝ち抜いてきた勢いのあるチームということになる。

 

 

そしてその相手こそ。

 

 

「まあ順当にくれば、そうなるよね。」

 

 

俺たちが所属する山の、1回戦目。

 

まずは坂乃江高校と豊吉高校の試合。

この試合が接戦の末に、豊吉高校がサヨナラで勝利を収める。

 

 

初戦から早速サヨナラ勝ちを見せた、勢いのある豊吉。

 

2回戦目はその豊吉と、センバツベスト4の薬師。

下馬評では薬師が圧倒的な評価だったが、それでもムラッ気のあるチーム。

 

それだけに、何かしらの番狂わせもあるのではという、一部界隈での話題があった。

 

 

まあ、しかし。

現実はそう、甘くない。

 

俺たちの初戦にあたる試合で対戦相手となる高校。

それを決める試合だったのだが、文字通り薬師の圧倒的な強さを見せつけるだけの試合となってしまった。

 

 

スコアで見れば、21-1の5回コールド。

 

前評判通り、薬師が攻撃力を見せつけて24安打の21得点。

特に4番の轟はとことん勝負を避けられながらも、少ないチャンスを確実に仕留めて2打数の2安打、2本塁打。

 

まるでパワプロである。

 

 

ちなみに2打数しかないのは、ランナーがいる状態ではほぼ敬遠されていたから。

 

まあ、確率を考えればそうなる。

実際、勝負した2打席両方でホームラン打たれてるし。

 

 

 

そして怖いのは、轟以外の打者。

 

彼が敬遠された鬱憤を晴らすが如く、打ちまくりコールドまで持っていった。

 

 

さらに、投手。

以前までは先発としてフォークピッチャーの三島が投げていたが、この日の先発は1年生の新戦力。

 

 

友部先人。

最速140km/hに迫るストレートを投げるスリークォーター気味の左腕。

 

速いストレートと長身で長い腕を生かした角度のあるスライダーは奪三振率も高く、ピンチでも中々動じない。

 

 

この試合でも4回を投げて1失点。

初回にばたつきこそしたものの、全体を通して見れば概ね良好といえるだろう。

 

特に目を見張るのは、奪三振数。

 

12個のアウトのうち三振は7個。

半分以上のアウトを三振で奪うという。

 

 

大事な初戦を任されるだけはある。

そしてその期待に応える実力と自信も、あるようだ。

 

 

しかし彼を先発させたのは。

 

多分、俺たちとの試合を見越してのことだろう。

 

 

友部に全幅の信頼を置いているというよりは、どちらかというとエースを温存しておきたかった。

俺は、そう捉えていた。

 

 

その証拠に、最終回を投げたエースの真田。

 

明らかに、彼は調整登板だった。

 

 

 

「どう思う?」

 

「明らかに調整だろ。次の試合、先発するためにな。」

 

 

ノリの問いかけに、御幸も頷く。

 

まあ、やっぱりそう判断するよね。

 

 

 

今、チームで最も実力のある投手であり、マウンドでの立ち振る舞いもまたエースそのもの。

 

チームを鼓舞し、マウンドに上がれば試合の流れを強引に持ち込む。

 

 

そんな彼が、この大一番に先発しないわけがない。

 

 

 

 

「一也、そろそろ投げる。」

 

「ああ、悪い。今日はどうする。」

 

「試合までまだ2日ある。今日は全体的に投げる。」

 

「OK。確認も兼ねて丁寧に投げろよ。」

 

 

御幸と言葉を交わし、頷く。

 

 

「球数は投げるなよ。徐々にスピードを上げて、最大出力で数球。明日と試合前日は完全に調整だけしかしないから、前回の感覚をしっかり染み込ませろよ。」

 

 

コーチからの確認も頭にいれ、投げ込む。

 

 

まずは立ち投げで数球。

アップと怪我予防で、念入りに。

 

特に夏場で体温が上がっているからこそ、身体がほぐれているか分かりにくい。

 

肘の怪我持ちの俺は、尚更。

だからこそ、しっかりと体をほぐす。

 

 

そして徐々にスピードアップ。

ストレート、カーブ、チェンジアップ。

 

負荷のかかりにくいこの変化球から、さらにスピードアップ。

 

 

 

身体はほぐれてきた。

 

ここから、この夏の俺の全速力。

練習だが、ギアを上げて投げていく。

 

 

 

 

大きく腰を捻り込み捻転、全身を縦回転させる。

俺の固有フォームであるトルネード投法で、まずはストレート。

 

右打者の外角低めに構えられた御幸のミットに向けて、力を入れた真っ直ぐを投げ込んだ。

 

 

「ナイスボール。キレもノビも十二分。」

 

「それは轟を過小評価しすぎだ、今のコースでも狙いにくる。」

 

 

俺が御幸の言葉にそう返すと、落合コーチが顎髭を触りながらいった。

 

 

「わかっているなら良い。コースが良くてもあいつは振りにくる、何なら多少ボール気味でもヒットにするからな。」

 

「そうですね。できれば球威というか、球の質に念頭を置きたいところだな。」

 

 

 

「いや。コースに決めた上で、だ。」

 

「それが大野夏輝のピッチングだから、だろ?」

 

「わかっているならわざわざ言うな。」

 

「お前ら本当にめんどくせーな。」

 

 

そんなやりとりを3人で交わしながら、俺は投球を続ける。

 

ストレートは大体球速130キロくらい。

まあ、練習というのを考慮すればまずまずのスピードだな。

 

 

指先の感覚はいつも通り。

これも変わりなく。

 

最後の夏だからって急に能力が上がるわけではないし、それを期待などしていない。

 

いつもの通りだ。

それが、良いのだ。

 

 

続けて、ツーシームファストボール。

高速で変化しながら、手元で大きく落ちる俺のウイニングショットの一つ。

 

 

俺が決め球に使える要素は、欲しいところで空振りを奪えるという点と、どんな状況でも自在に制球できること。

 

そして、ストレートとのギャップを生み出せるということ。

 

 

それを満たすことのできた、俺の初めての決め球。

俺を、この大野夏輝を象徴する決め球の一つになった。

 

 

 

「いいね。いい意味でいつも通り。」

 

「そりゃどーも。」

 

 

 

 

 

続くボールは、カットボール。

冬に手に入れた変化球で、ジャイロ回転で高速で真横に大きく変化する、ノビのある変化球。

 

これもまた、上に同じ。

 

要所でもしっかり制球でき、空振りを奪える。

それでいて、俺のフォームと柔軟な広背筋と肘から生まれる、固有変化球である。

 

 

「これがモノになっただけで大幅強化だったよな。」

 

「最初は暴れ馬だったがな。よく懐いてくれた。」

 

 

沢村のカットボール改にも、力になれたしね。

 

 

 

 

 

続くボールは、縦のカーブ。

ドロンと落ちる、気持ち速めのキレのあるカーブ。

 

ストレートと軌道差と緩急差が大きいため、速球待ちにはよくはまる。

 

落差は、まあまあ。

俺は身長もないから、高さによる落差のギャップが作りにくい。

 

 

「何気に便利。他が優秀すぎてあれだけど、普通にいいよ。」

 

「褒めてるのか?」

 

「じゃなきゃ要求してねーよ。」

 

 

 

 

そして、チェンジアップ。

カットボール同様、冬のトレーニングで得た産物。

 

変化は、特にない。

 

ストレートの遅い版、完全にタイミングを外すためだけの、所謂チェンジオブペースと呼ばれる。

 

成宮のそれの、下位互換。

でもまあ、よく刺さる。

 

 

「まあ、便利。肘の負担も少ないから投げさせやすいし。」

 

「確かに。春先はよくお世話になった。」

 

 

 

 

そして、スライダーとスプリット。

悪くないが、特段よくない。

 

カウントは取れるが、決め球には使えない。

 

そうだな、ビックリドッキリメカだな。

ハッタリ程度には使える。

 

 

これは去年からあまり進化はないかな。

 

正直落ちる変化球はツーシームで事足りるし、曲がる変化球はカットで事足りる。

中途半端で、正直あんまり使わない。

 

 

 

 

 

 

これが、俺の現在地。

そして、高校までの俺の最高地点。

 

あとは。

持ち合わせた力を最大限に生かし、投げる。

 

 

センバツはチームの力もあり、全国制覇。

 

チームを勝たせるエースに、なれたかな。

 

 

まだ確信は持てない。

俺にとっての甲子園は、あくまで夏だ。

 

最後の甲子園で優勝しなければ、そこで再び監督を胴上げしなければ。

 

その為には、去年負けたあいつを倒さなければならない。

 

 

 

 

まだ終われない。

まだ止まれない。

 

 

その第一歩に。

 

まずは薬師高校、捩じ伏せさせてもらう。

 

 

 

 

 

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