燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード180

 

 

 

 

 

「真田はストライクこそガンガン取ってくるが、決してコントロールの良い投手ではない。早打ちはせず、甘い球を待つ。粘り強く好球必打。お前たちなら出来るはずだ。」

 

 

初回を3人で止めた青道高校、その裏の攻撃。

 

 

まずは先頭打者である倉持が、打席の準備を始める。

 

瞬足のリードオフマン。

高い走塁技術に裏付けされた塁上での立ち回りは、その強打の青道の加速性へ一役かっている。

 

 

「だが、中途半端なスイングでは返って真田をリズムに乗せかねない。しっかりと強く振り切り、内野の頭を超える打球を狙っていけ。」

 

 

監督である片岡に耳打ちされ、倉持は小さく頷く。

 

打席では、平均値。

しかし塁に出れば、水を得た魚が如く活躍する。

 

 

 

マウンドには、薬師のエース、真田俊平。

力強いストレートと、近い球速で変化する高速変化球で打者に敢えて打たせるピッチャー。

 

その熱気と闘魂は、投球スタイルと相まって打者に立ち向かっていく姿が、薬師という挑戦者的なチーム形状を象徴していた。

 

 

 

(立ち上がりはあんまり良いイメージねえよな。中継ぎメインだったってのもあるけどよ。)

 

 

多少のムラッ気はあるものの、安定感のある投手。

しかし立ち上がり自体は制球が安定していないケースがある。

 

 

初球、真ん中付近に来たら狙う。

 

 

 

そう頭の中で整理し、左打席に立つ倉持はバットを掲げた。

 

 

 

まずは初球。

ワインドアップから放たれたストレート。

 

力強い彼の、文字通り真っ直ぐが倉持の胸元に決まった。

 

 

「ストライク!」

 

 

コース、キレ。

共に初球とは思えないほど、完璧なボール。

 

同時に、イメージよりもかなり速度があると倉持は感じた。

 

 

(ストレート強いな。でも、これに合わせねえと。)

 

 

2球目。

今度は同じようなコースから、少しインコースに落ちるカットボール。

 

完全に詰まったものの、一塁線切れてファール。

 

 

テンポ良く投げ込まれ、早くも追い込まれる。

 

これが真田の、強み。

ストレート狙いの打者に対して高速の変化球で打たせてカウントを取れる。

 

 

 

3球目。

外に少し外れているボールを我慢し、1-2。

 

 

 

最後はインコースのツーシームを打たされる。

高いバウンド、瞬足の倉持なら十分内野安打も有り得る。

 

だがそれを阻んだのは、この薬師のもう1人の柱であった。

 

 

 

「カーッハッハ!」

 

 

サード轟の軽快なチャージ。

グローブで取れば間に合わないと判断すると、ベアハンドでボールを掴み送球。

 

少し高くなった送球を三島がしっかりと掴み取る。

 

 

際どいタイミングはアウト。

 

まず先頭の倉持は、守備のファインプレーもありサードゴロに抑えて見せた。

 

 

 

悔しそうな表情を浮かべながら、倉持は次の打者である大野の元へと向かった。

 

 

「惜しかったな。」

 

「やられたわ。ヒット一本損した。」

 

 

しかし、重要なのはそこではない。

彼が大野に伝えたかったのは、その真田の気迫と。

 

打席から見えた、彼の様子であった。

 

 

 

「今日の真田、やべえぞ。」

 

「やばいって、何が。」

 

「打席であいつの面見りゃわかる。お前ならな。」

 

 

倉持からの言葉に、何となく心当たりがある。

 

そしてそれが本当に当たっているとしたら。

相当厳しい闘いになる。

 

 

 

(できるだけ粘りたいが、どうかな。)

 

 

倉持の反応を見るに、かなりストレートは走っている。

 

コントロールも大荒れではないし、むしろ多少荒れてる方が彼としては強みになる。

 

 

マウンド上、プレートの一塁側一杯に仁王立ち。

少し深く被られた帽子の鍔から見え隠れする黄金色の瞳。

 

 

少し伸びた襟足と彼の切れ長の鋭い目付きは、どこか野性味というか少し危なげな荒々しさを著している。

 

 

 

胸の前に置かれたグローブ。

そこから腕を天高く振り上げ、頭の後ろで抱えるように腕を組む。

 

腕を胸の前に戻しながら全身を半回転させ、足を上げて静止。

 

 

(…来る。)

 

 

突如として襲いかかる、寒気。

 

真田から放たれているプレッシャーか、それを直に受けた大野は思わず身構えた。

 

 

 

高く上げられたグローブ。

そこから地面を弾くように踏み込み足で蹴り上げる。

 

 

「っらあ!」

 

 

 

外角ストレート。

胸元に走る直球を振りにいくも、振り遅れて空振り。

 

速い。

 

やはり大野も、倉持同様そのストレートの速さに驚嘆した。

 

 

 

(140中盤。いきなりこのスピードか。)

 

 

速度で言えば、剛腕で言われている天久にも近い球速である。

 

さらに、この強さ。

球速以上に、力強さを感じる。

 

手元で伸びるキレと、強度の高さ。

 

 

このボールこそ、彼が冬に最も進化させたボールである。

 

 

 

 

同じようなボール。

バットの先に当たり、これはファール。

 

 

しかしここから大野が粘る。

 

インコースに投げ込まれたストレートをファール。

そして4球目もまた同じようにカットしてファール。

 

 

5球目、今度はカットボール。

食い込んでくるこのボールもバットに当てる。

 

 

6球目、少し抜け気味のストレートが外れてボール。

 

 

(こいつ、しつこいな。)

 

(2番を任されているからには、仕事はさせてもらう。)

 

 

 

投げている真田も、なんとなく大野の意思を汲み取り、内心で舌打ちをする。

 

 

明らかに、長打を狙っているスイングではない。

 

むしろ、ヒットすら狙っていないように感じた。

 

 

できるだけ相手投手の情報を引き出し、投手が嫌がることをする。

 

 

 

(まあ、いいや。決めようぜ秋葉。お望み通り全力投球で。)

 

(…わかりました。ここは全力で。)

 

 

 

そうして構えられたコースは、真ん中高め。

 

コースは気にせず、力でねじ伏せる。

センバツでも追い込んでからの力強いボールで、抑えていた。

 

 

ワインドアップ。

帽子の陰から若干見えた表情に、大野は目を見開いた。

 

 

勝負の7球目。

最後は、146キロの直球で空振り三振に切って取られた。

 

 

 

 

(こいつも、目覚めたか。)

 

 

投げ終わり。

勢い余って右足が振り上がる。

 

その姿を見て、相当力を入れていたことが見てとれた。

 

 

 

何より、その表情。

どこか余裕があり、見下ろしている。

 

煌めく瞳は、成宮や天久。

 

そして、大野と同じ表情が酷似していたのだ。

 

 

 

 

更に3番、アベレージヒッターの小湊も内に食い込みながら沈むツーシームを打たせてセカンドゴロ。

 

大野同様、初回を3人でピシャリと抑えて3アウト。

 

 

高い得点力を有する青道を完全に見下ろす形で、三者凡退に仕留めてみせた。

 

 

 

「ナイスピッチナーダ先輩!」

 

「愛してるぜ真田ー!お前ならやってくれると思ってたぜ!」

 

「出来すぎなくらいですよ、監督。」

 

 

 

薬師ベンチは、エースの圧巻の投球に大盛り上がり。

 

先制の許せないこの試合。

その心配を振り払うような、圧倒的な投球は薬師ナインの大きな勇気になった。

 

 

 

 

あまりに長い、投手戦の予感。

未だ地区の3回戦ながら、全国でも高いレベルの試合が展開されようとしていた。

 

 

 

「なるほど、倉持の言っていた意味がわかった。」

 

 

守備の準備を忙しくするナイン。

各々が駆け足で守備位置に向かっていくのを横目で見ながら。

 

「こちらの」エースもまた、悠然とマウンドへ向かった。

 

 

急ぐでもなく。

ただゆっくりと。

 

まるでこの試合の中心は自分だと言わんばかりに、自分勝手に歩いた。

 

 

 

 

マウンドへと到達し、静かに空を見上げる。

 

会場の熱気、そして夏の気温。

この球場異様な空気を感じ取りながら、大野はゆっくりと目を閉じる。

 

 

声の圧。

細かいところまで聞こえる訳では無いが。

 

やはり、薬師の方に流れは傾いている気がする。

 

 

 

どうやら皆、この薬師というチームが相当好きらしい。

 

挑戦的で、攻撃的。

そしてロマン溢れる2年生スラッガーに、炎のエース。

 

 

力で劣る部分を勢いでカバーする姿、立ち向かう姿は観客にとって応援したくなる要素なのだろう。

 

 

(まあ、俺には関係ないか。いや。)

 

 

ひとつ息を吐き、ゆっくりと目を開ける。

 

青く輝く空。

これが、夏の空。

 

 

(俺達には、な。)

 

 

そしてその青空と同様。

 

大野夏輝の瞳もまた、青く輝き始めた。

 

 

 

 

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