燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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細かい描写が増えているので、読むの疲れるかもしれません。
悪しからず。





エピソード186

 

 

 

『決死のヘッドスライディングの判定はセーフ!1点ビハインドのこの土壇場に増田と秋葉の連続ヒットで逆転のランナーを置きました!』

 

 

一塁ベースを抱え込み、ユニフォームを真っ黒に汚した秋葉が右手を握り込む。

 

この試合唯一の。

そして最初で最後の、得点圏にランナーを置いた大チャンス。

 

しかもこの場面で、打席に入るのは。

 

 

『苦しい苦しいこの試合展開、遂にやってきた千載一遇のチャンスで打席に入るのは主砲、轟雷市!誰1人まだ諦めない!薬師高校の夏はまだ終わらない!』

 

 

 

ネクストバッターズサークル。

肩膝立ちでバットを杖代わりにして虎視眈々と。

 

その機会を待ち望んだ轟が、その閉じられた目をゆっくり開いた。

 

 

笑みは、ない。

固く結ばれた口元は、普段のような野球を全力で楽しんでいる彼の表情とは掛け離れた真剣な眼差し。

 

虎のように鋭い眼光。

怖いほどに純粋に、轟はチームの為に打つと意気込んだ。

 

 

入れ込んでいる訳では無い。

 

もっと深く。

深層までまで没頭し、集中力を最大限まで高めている。

 

 

彼の身に纏う風格と空気感。

迷わず、御幸はタイムを取って内野を集めた。

 

 

「内野は定位置、外野は少し深めの引っ張り警戒で。最悪1点取られても裏の攻撃がある。まずは集中してこの打者を抑えよう。」

 

 

シフトの確認、そして意思疎通。

守備の連携を再確認し、内野が散らばる。

 

マウンドに残された2人のバッテリーは、素直に目の前の打者の感想を述べた。

 

 

 

「凄い雰囲気だな。」

 

「あぁ。恐らくあれがあいつの本気というか、最高地点だろうな。」

 

 

 

限界まで集中力を高め、深く深く潜り込んでいる。

 

楽しむのではない。

どこか使命感のように。

 

本能のままに、迫り来る。

 

 

 

「容易くねえぞ、ありゃ。」

 

「これまでもそうだっただろ。あいつと相対しているとき、俺は一度も警戒を解いたことは無い。」

 

「これまで以上にってこと。下手したら持ってかれて3ラン、有り得るからな。」

 

 

 

御幸の言葉に、大野もゆっくりと頷く。

 

普段なら、完全にねじ伏せて「そうはならない」と否定するが。

今の轟なら高い確率で打ってくると、大野自身も彼の力量を見定めて認識を改めたのだ。

 

 

それ程までの、強敵。

今までも都内トップクラスだったスラッガーが、責任感と覇気を身にまとい、大野の前に立ち塞がるのだ。

 

 

 

「全身全霊を持ってして、倒す。」

 

「あぁ。逃げねえからな、お前の全部使ってあの怪物スラッガー抑えんぞ!」

 

「当たり前だ、行くぞ一也!」

 

 

 

珍しく、声を張り上げて大野と御幸が拳を突き合わせる。

 

怪物と怪物。

最後の最後で、この試合最高の山場がやってきた。

 

 

 

 

御幸も離れ、マウンド上にただ1人。

 

孤高に空を見上げたエースが、ゆっくりと息を吐き出す。

 

 

その眼を閉じ、心を落ち着けるように何度か深呼吸。

 

いつも通りではない。

 

いつもより、深く。

相手の轟がそうであるように、純粋に。

 

 

目の前にいる打者だけに、ただ只管に没頭する。

 

 

 

(…いける。)

 

 

 

そう確信し、大野は最後に息を吐き出し。

ゆっくりと、紺碧に色付いた宝石のような瞳が姿を現した。

 

この試合で最大の、集中。

 

 

最大限感覚を研ぎ澄ました状態で、怪物スラッガーと相対する。

 

 

 

(待ってたぜ、夏輝。)

 

(あぁ、待たせた。行こう。)

 

 

 

大野が見据える先。

 

轟が、ゆっくりとバットを掲げ上げる。

 

 

オーソドックスな構え。

その懐の深さが、内外を苦にしない怖さを感じる。

 

セットポジション、上体を前屈みにしてサインを覗き込んだ。

 

 

 

(今の状態を確認する。お前と、轟の。)

 

(そうだな。)

 

 

 

御幸が構えたコースは、外角低め。

若干外のボールゾーンに外している、フォーシーム。

 

打ち気のある普段の轟なら、恐らく振りに来る。

 

 

御幸の意図を汲み取り、そのサインに大野が頷いた。

 

 

 

ランナーがいながら、簡易的なトルネード。

クイックの速さを多少捨て、勢いのある球を投げ込む。

 

まずはアウトローにストレート。

 

 

「ッシ!」

 

 

ふわりと、青い帽子がマウンドに落ちる。

 

キレのある137km/hのストレートが、構えたコースドンピシャに決まる。

これを轟は、見送った。

 

 

(ほう。)

 

(手が出てねえってより、見切ってた感じだな。なら。)

 

 

2球目、インハイ。

先程の外のボールと相反する、内側高めのストレート。

 

ストライクゾーンの端から端、極めて難しい投げ分け。

 

 

しかし、その分。

効果は、絶大である。

 

反応速度の早い選手でも、ストライクゾーンの端から端となると、見極めは難しい。

特に鋭く速いストレートを投げる投手のそれは、特にである。

 

 

「っらァ!」

 

 

2球目は、138km/hのインハイストレート。

これは轟も反応するが、タイミングが合わずファールとなる。

 

 

(合わせてきたな。さっきまでと反応がまるで違うぜ。)

 

(織り込み済みだ。ファールでカウント取って、追い込んでから勝負。追い込めばできればカットで行きたい。)

 

(だな。落ちる系の対応力は割とあるし、去年もツーシーム当てられてるからな。)

 

 

 

純粋な強い縦回転から手元で伸び上がるようにして加速するストレート。

 

それに対して、同速で手元で失速し大きく沈むのが、彼のツーシームファスト。

 

 

この2つの投げ分けで、昨年は轟を抑えてきた。

 

しかし、落ちるボールもあまり苦にせず早い変化球への対応利用が素晴らしい轟に対して、ツーシームはヒットになる可能性が高い。

 

 

できれば、見慣れていないジャイロのカットボール。

類を見ない、大野夏輝のウイニングボールである浮き上がるカットボールで、仕留めたい。

 

 

 

3球目。

御幸が出したサインは、チェンジアップ。

 

緩急にあまり強くない彼に対して、緩いボールを使ってタイミングを外す。

 

 

しかしこれに、大野が首を振って否定の意思を見せた。

 

 

(珍しいな、首振んの。)

 

(生半可なボールじゃ、やられる。直感的にな。)

 

(なら、それは信じるべきだ。ただ、轟くらいのバッターになりゃ緩い球見せねーと慣れられる。ボール先行でも仕方ないから、カーブで視線を一度リセットさせよう。)

 

(OK。)

 

 

 

ここは打って代わり、縦のカーブ。

 

外から入ってくるこのボール。

ストライクになれば儲けもの、最悪ボールでもいい。

 

そう思い投げ込まれた緩い変化球は、外に僅かに外れてボール判定となった。

 

 

 

(いい、いい。これは軌道を見せるだけで十分。寧ろストライク入って痛打される方がヤバかった。)

 

 

大袈裟なくらいに、御幸が大きく頷く。

 

言葉の交わせない、この18.44m。

敢えてこういう風に意思を示すだけでも、バッテリー間でのコミュニケーションはより良くなりやすい。

 

尤も、この2人ほど意思疎通が取り合えていれば、不要なのかもしれないが。

 

 

 

4球目、インローにストレート。

 

先のカーブの軌道が有効的に活かされ、轟も振り遅れる。

 

 

頭の中で分かっていても、視覚的に一度焼き付いてしまったカーブの軌道。

だからこそ、少しタイミングをずらすことが出来た。

 

 

 

追い込んだ。

カウントは2-2の並行カウント。

 

どちらかと言うと、遊び球を使えるバッテリーが有利のカウントである。

 

 

 

(決めに来る覚悟で。最高ギアで、ここに決めよう。)

 

 

 

御幸のサインが出され、肯定するように大野が数度小さく頷く。

 

外角低めのストレート。

コースよりは威力とキレを意識した、ボール。

 

轟ほどのコンタクト力とパワーがあれば、多少のボール球でもヒットにする可能性が大いにある。

 

そうなると、できれば力で押し切りたい。

 

 

強く、キレのある。

打者から見て脅威だと感じるストレートで、捩じ伏せる。

 

 

「っらァ!」

 

 

金属音にも似たような風きり音と共に、快速球。

 

手元で大きく伸び上がり、加速するストレート。

刹那、鈍い金属音が轟のバットから響いた。

 

 

「ファール!」

 

 

電光掲示板に表示された数字は、140km/h。

回転数も多く、手元で加速するボールは降谷のストレートにも引けを取らない体感速度。

 

 

それがしかも、外角低め一杯。

 

つまり御幸が構えたドンピシャ、ストライクゾーンで最も長打を打たれにくいそのコースに完璧に決めている。

 

 

 

(やべえ。今のボール、ココ最近で一番いいストレート。この威力でこのコースに決めりゃまずヒットゾーンには飛ばねえって。)

 

 

 

だからこそか。

これをバットに当てたということに、御幸は却って轟という打者の実力に寧ろ恐さすら感じた。

 

 

最大限の集中力と、スイングスピード。

そして、打席から放たれる、異様なほどの圧力。

 

 

 

 

今、間違いなく。

 

全国トップクラスのスラッガーは、この轟雷市であった。

 

 

 

(いい反応だ。なら。)

 

 

 

6球目。

先程とほぼ同様のコース。

 

そこからボールゾーンに落ちるツーシーム。

 

 

ストレートと球速差が限りなく小さく、それでいて大きく落ちる。

軌道も近い為、見極めは非常に困難であるこのボールを、同じコースから落とすことでストレートと偽装する。

 

 

打者が追い込まれているカウント。

 

特に打ち気の轟であれば、高確率で振る可能性のあるボール。

 

 

しかしこれを見切られ、フルカウントまで持っていかれてしまった。

 

 

(マジかよ。)

 

 

ミットに収められた白球。

思わず、固まってしまう。

 

確実に、振るとは思った。

三振とはいかなくても凡打か、ファールか。

 

 

この速度感を目で追えるとなると、本格的に対処のしようがなくなる。

 

 

 

しかし当の本人である大野は、御幸に早くボールを返すように要求する。

どことなく割り切っているというか、想定していたと言わんばかりに。

 

グローブを開き、白球を受け取った。

 

 

 

毅然とした、エース。

やはりこの背中に御幸は、また助けられた。

 

自分のリードを信じる。

 

相棒がそうしてくれているように。

自分自身で、大野を最大限に活かしているという、自信を。

 

 

そして、自軍のエースを信じる。

 

目の前の打者を、完璧に抑えられると。

どんなにすごい打者でも、抑えられる力はある。

 

 

 

外のボールゾーンから抉りこんでくるように入ってくるツーシーム。

 

外角低め一杯にバックドアで入り込んでくるこのボール、これを轟はバットに当てる。

 

 

鋭い当たりは三塁線切れてファールとなった。

 

 

 

(やっぱりコンタクトしてきてる。多分、見えてる。)

 

 

 

ファールになったとはいえ、いい当たりだった。

 

タイミングも悪くないし、スイング軌道も完璧。

あとは若干修正できれば、ヒットに出来ている。

 

 

やはり、対応出来ている。

 

それを再確認して確信し、2人はアイコンタクトをとった。

 

 

 

(よし。なら、これで行こう。理想はさっきのストレート。)

 

(分かった、決める気で行く。)

 

(ボールは絶対ダメ。威力で押し切るけど、ちゃんとゾーンに決めよう。出来るだろ?)

 

(当たり前だ。何球投げてきたと思ってんだ。)

 

 

 

8球目、外角低めのストレート。

 

先程と同様に、ストライクゾーンギリギリいっぱいのコースにバチッと決まるベストボール。

 

 

またも140km/hを記録したこのストレートも轟はバットに当て、スタンドへ。

レフト線きれてファールとなった。

 

 

 

徐々にハードコンタクトに近づいてきている。

 

タイミングも合い始めているし、打球も上がってきた。

 

 

痛打されても、おかしくない。

フルカウントで攻めざるを得ない状況。

 

はっきり言って歩かせるという選択肢もあるが。

 

 

 

このバッテリーには、ハナから逃げるという文字は、無いのだ。

 

真っ向から攻める。

そしてそれを実行し、成功する実力が。

 

 

ある。

 

 

 

(餌は撒いた。)

 

(低めに徹底的に集めて、轟もだいぶこの低めのゾーンに目がいってるはずだ。)

 

(あぁ。ここで決める。)

 

 

 

御幸が構えたコースは、内角高め。

 

集中力の高まったこの場面、特に長打のある轟であれば非常に危険なコース。

 

 

しかし、敢えて低めを続けてボールの軌道を目に焼き付けた。

 

最後の決め球の威力を、より高めるために。

 

 

 

バッテリーが選択したのは、ジャイロ回転で浮き上がりながら高速で曲がるカットボール。

高めで伸び上がる、彼の見慣れていないこの変化球で空振りを狙う。

 

 

ここまで布石として投げてきた、低めの落ちる球。

それに相反して浮き上がるボールを、選択した。

 

 

インハイ、甘く入れば痛打される。

 

しかしそれを、間違える投手ではない。

 

 

トルネード投法から、投げ込まれる高スピンのボール。

弾丸のように回転する鋭いカットボールは、このボールが最も輝くインハイに向かっていく。

 

 

ストライクゾーンギリギリのコース。

 

ここから高速で、真横に吹き上がりながら曲がる。

 

 

多くの打者を圧倒し、三振の山を築き上げてきた。

 

 

風きり音と共に。

大野夏輝のもう1つの剣が、鞘から引き抜かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…っ!」

 

 

しかし、刹那。

轟のバットから、金属音が鳴り響いた。

 

 

コースは、完璧。

 

ストライクからボールに変化する球。

しかし空振りを取れるとほぼ確信していただけに、食らいついた轟に御幸も思わず絶句した。

 

 

正に、怪物。

歴戦の猛者をも薙ぎ倒してきたこのボールを、捉えてきた。

 

それも、追い込まれて且つ視線も完全に低めに持っていかれている状態でバットに当てた。

 

 

 

何で、空振りが取れる。

どうすれば、凡打を打たせることができる。

 

御幸の脳裏に駆け巡る、選択肢。

 

しかしどうしても、悪い予感が先走る。

 

 

 

それをかき消したのは。

やはり目の前の、エースであった。

 

 

(逃げるなよ。らしくねえリードしたら、付け込まれる。)

 

 

帽子の影からチラリと見える瞳が、御幸を射抜く。

 

 

(去年も、初見のツーシームを捉えてんだ。こいつはいいバッター。これくらいは想定してる。)

 

 

 

一息吐き、御幸も落ち着く。

 

思考を整理し、考える。

その結果、御幸は自軍のエースの最大出力に全てをかけてサインを出した。

 

 

(本気で言っているのか。)

 

(本気だぜ。ここまで完成されているなら、それを超える力で向かっていくしかねえんだ。)

 

 

小手先は、通用しない。

 

ならば。

全てを捩じ伏せる力で、相手を上回る。

 

 

(信じろよ、自分自身を。俺もお前を信じる、夏輝。)

 

 

 

防具越しに胸を拳で叩き、ミットを構える。

それを見て、マウンドの大野も笑顔で小さく頷いた。

 

 

(本当に底が見えない。俺が今まで見てきた中でもトップクラスのバッターだ。)

 

 

小さく息を吐き、セットポジションに入る。

 

マウンド上、舞い上がる旋風。

風を巻き込むようなトルネードが生み出される。

 

 

(こんなにもすごい選手が、こんなに近くにいる。)

 

 

最高地点。

全身のエネルギーを集約したストレート。

 

投げ込まれたそのボールは。

 

 

 

正に彼の、原点とも言える投球であった。

 

 

 

『142km/hストレートで空振り三振!吼えた大野夏輝!最後は外角低めに決まる速球でスイングアウトの三振を取りました!』

 

 

 

吼える大野に、項垂れる轟。

 

その対比に、グラウンドはくっきり明暗が分かれた。

 

 

 

最後のバッターは、運命のイタズラか。

ここまで力投を演じた、真田俊平。

 

最後は彼に対して、最大限の敬意を払い。

 

 

そして、薬師高校という強い者たちへの、手向けとして。

 

 

 

全力投球で、真田を捩じ伏せた。

 

 

『最後はツーシームで空振り三振!息の詰まるような投手戦、死闘の末に勝利を収めたのは、選抜優勝の青道高校!4回戦進出!』

 

 

 

 

 






少し長くなってしまった。
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