丹波さんが怪我するイベントを作る必要がなくなったので、色々順番を変えています。
あまり深く考えないでくださいお願いします(本当は時系列ごちゃってただけ)
夏の合宿もいよいよ大詰め。
と言うことで、総決済の練習試合である。
お相手は、なんと関西地区最強と名高い大阪桐生高校。
エースで4番の舘を中心とした強力打線が売りの強打のチームだ。
「わかってるとは思うけど、お前今日打ち込まれるからな。」
「今更言うなよ。疲れだって取り切れてないし、そもそも普段通りだったとしても、抑えられるとは限らない。」
軽くストレッチをしながらそう答えると、一也は少し笑った。
「確かにな。けどまあ、俺も最小失点に抑えられるように協力すっから。」
「ああ。後は打ってくれることを信じよう。」
「それなら任せろ。」
あ、哲さん。
急に現れたのは、我が主砲で主将。
頼もしいキャプテンの登場に少しびっくりしながらも、俺は息を吐いた。
「はい、任せました。」
ちなみに、メンバーはいつも通り。
レフトに降谷が入る以外は、大して変わらない。
基本的にレフトは、打てる俺か降谷が入り、守備固め等の大事な場面では坂田さんか門田さんが入るとのこと。
とりあえず今日の試合は、降谷がレフトへ。
俺が降板後は、2人の守備位置を入れ替えて、俺がレフトに入る。
と言うことで、早速試合に入っていこう。
先攻めは、大阪桐生。
と言うことで、先発のマウンドには俺が上がる。
身体の調子は、ハッキリ言ってよくない。
だって疲れ溜まってるし。
まあ、やるしかあるまい。
先頭打者が、左打席へ。
二年生の、好打者。
俺と一也と、同じ歳。
強豪で二年生ながら上位の打線にいる理由も、あるのだろう。
さてと、まずは様子見だ。
相手の出方ではなく、俺自身の。
一也の構えるミットを見る。
コースは、インコース低め。
いつも通りのフォーム。
トルネード投法から、全身を縦回転。
遠心力と身体の捻転、そして反動全てを生かしてボールにのせる。
(うっ)
少し、感覚が良くない。
案の定、抜けたストレートは甘く入ってしまう。
相手もそれを見逃すことなく、しっかり捉えてきた。
「あ」
「行ったな。」
一也がそう呟いたのも、頷ける。
音も感覚も、完全にスタンドを越えるであろう当たりだった。
なんとなく、帽子の鍔に手をかける。
気持ちが、少しばかりリラックスするから。
俺は打球の方向すら見ずに、ゆっくり深呼吸をした。
「いやー、気持ちいいくらい吹っ飛んだな。」
「悪い、感覚と意識にズレが生じた。」
駆け寄ってきた一也にそう返し、俺はまた息を吐く。
いつもより、感覚が尖っている。
良いように言えば、研ぎ澄まされているというべきか。
まだ、自分の中でベストタイミングが掴めていない。
早くこの状態に適応しないと。
「わかってるならいい。少し抜けやすいなら、引っ掛けるくらいの気持ちでもいいと思うぞ。」
「わかった、そうする。」
まあ、一発食らうくらいならボールの方がマシだからな。
一也なら、基本なんでも取ってくれるし。
2人目のバッターが、右打席へ。
できれば、こいつのうちにアジャストしておきたい。
いつもの感覚で少し「早かった」。
なら、少しばかり遅らせてあげたら、どうかな。
初球、同じくストレート。
これが低めに外れて、1ボール。
(少し引っかけすぎたか。)
(大丈夫だ、さっきよりも良くなってる。)
頷く一也に内心少し安堵しながら、俺は続けてモーションに入った。
今度は、真ん中低め。
まだ左右のコントロールは少し甘いか。
これを掬い上げられて、センター前へ。
決して悪いコースではなかったのだが、やはり相手も上手い。
低めのボールをうまく合わせて、内野の頭を越えるシングルヒットを打たれた。
(上手いな。)
(そりゃ、桐生だからな。)
当然と言ったら、当然か。
強打が売りのチームの上位打線なのだから。
さてと、ここからクリーンナップか。
どうやって抑えるべきかな。
ストレートの感覚もだが、変化球だってどうかわからないし。
とりあえずは、そこらへんも試しておきたい。
(て感じだけど、どうでしょう。)
(焦るなよ。まずはストレートからだ。)
そりゃそうだよな。
ここで変に感覚狂ってふり出しからってのも嫌だし。
ここからクリーンナップ。
前2人は(どちらかというと)好打者だったため、ここからの打者たちは一発が絡んでくるから、より慎重に。
とはいえ、感覚を掴むのが最優先。
一也の要求通り、まずはストレートを外角に投げ込んだ。
少し引っ掛ける意識で、だけど振り抜く。
お、良い感じかも。
俺の感覚通り、この試合初の見送り。
ストレートが、外角の中段に決まった。
指先の感覚的にも1番しっくりきたな。
多分力入れたら、もっと。
再び構えられたコースは、外角。
同じく、ストレートを放る。
(さっきの感じでいいぞ。同じところに来い。)
(おう。)
また、モーションへ。
ランナーが走ろうが、関係ない。
今は目の前の打者に、俺の感覚に集中する。
少し、甘い。
だけど、回転の感覚や力の入れ具合はいい感じだ。
金属特有の快音が、鳴り響く。
引っ張り方向に強い打球。
しかし、その打球が抜けていくことはなかった。
哲さんが、あわや長打コースというライナーを見事にダイビングキャッチ。
さらに予めリードを取っていた一塁ランナーも戻り切れずに、アウト。
思わぬ形でのダブルプレー。
俺はもちろん、チーム全体が盛り上がった。
「ナイスです哲さん、助かりました」
「気にするな。自分が納得できるまで、俺たちが守ってやる。」
なんともまあ、心強い。
なんだかんだで、内野は本当に強固な守りだからな。
(悪い一也、コントロールは細かくできねえ。)
(中々痛いけど、仕方ない。ある程度制球して、後は強いボールだけ頼むぞ。)
(了解。)
広く構える一也。
コントロールはあまり気にするなという、意思表示か。
けどまあ、次のバッターは。
「ほな、よろしゅう。」
4番か。ここまでのバッターとは違って、ガチの怪物だからな。
投手特有の感覚ってのもあるし、打たれるかも。
まずは、カーブ。
流石の一也も警戒しているか。
外角から、ゾーンに入り込んでくる。
このボールには流石の舘さんも見逃す。
変化球の感覚は悪くない。
本調子なら、もっと良くなるだろうし。
問題はやっぱり、真っ直ぐか。
一也が構えたコースは、内角。
とは言え、明らかなボール球。
見せ球か。
このボールは見逃され、1ボール1ストライク。
次も、ストレート。
今度は外角の低め。
コースは完璧、外角低め厳しいコース。
しかし、舘さんの放った打球は大きく上がった。
するどい当たりあわやホームランかというところで、打球は左に切れてファール。
やばい、厳しく責めたはずなのに。
どうやって抑える、どうする。
頭によぎる、迷い。
その時、一也からボールを投げ返された。
パアンと、明らかに強く。
(大丈夫だ、今のは少し鈍かっただけだ。コースは気にするな、強く来い。)
そう、だったな。
今はまず、ストレートの感覚を掴む。
ここでリセットするように、深呼吸。
集中だ、集中。
指先に感覚を集中させろ。
後は、今までの反復でなんとかなる。
集中しろ、限界まで研ぎ澄ませ。
「フっ!」
全力で振り抜かれた右腕。
しかし、指先にカチリとハマるような感覚が、突き抜けた。
俺の中で、何かが噛み合った。
いつもより遅い球速。
しかしそのストレートは、風を切り裂くようにして大地を駆け抜けた。
ギュウン!
そんな音が、俺の中で響き渡る。
コースは、真ん中高め。
球速は、たったの114キロ。
しかし。
西日本でもトップクラスの舘さんのバットは、空を切った。
この後、青道高校打線も反撃を開始。
初回からエース舘を叩き、いきなり3得点をあげる。
対する大阪桐生は、中々大野のスピンの効いたストレートと変化球の組み合わせを攻略しきれず、4回を2得点と自慢の強力打線も形を潜めていた。
5回はお互いに無得点、5−2と青道リードで後半戦へ。
ここから大阪桐生は反撃開始。
6回、ついに舘にホームランが飛び出すと、この回4得点とついに逆転をする。
「まあ、球が速くなったわけじゃねえし、慣れられたらな。」
「るっさい。」
尻上がりに調子を上げている舘に、徐々に得点が鈍化していく青道。
対して、徐々に大野を攻略していく大阪桐生。
誰の目にも、勝敗が見えてきた頃、青道ベンチが動く。
この回で大野は降板。
7回からは、一年生の怪物ルーキーがマウンドへ上がる。
しかし、これもまた疲労の影響で打ち込まれてしまう。
球速こそあれど、コースが甘い。
全国の豪速球投手を見てきた大阪桐生相手に、いきなり2失点してしまう。
が、一年生の力投に応えるように、打線も奮起。
疲れの見えてきた館を打ち込み、11−10と再度逆転する。
こうなると、お互いの強力打線はヒートアップ。
シーソーゲームには拍車がかかり、8回にはお互いに2得点ずつ取り合う。
13−12で迎えた最終回。
ツーアウトランナー二三塁と最後のピンチの場面で打席には、4番の舘が入る。
初球、ストレート、高めの釣り球を見逃し1ボール。
2球目、今度は低めいっぱいに決まるストレート。
これも見逃して、1ボール1ストライク。
3球目、外角高めの真っ直ぐを当てたものの、前に飛ばずファール。
4球目、再度高めのストレート。
これもバットに当てたものの、三塁線切れてファール。
ヒットゾーンには飛んでいないものの、徐々にアジャストしていく舘。
捉えるのも時間の問題かと思われていた。
5球目、低めのストレート。
これもバットに当たり、レフトポール側切れてファール。
汗を拭う降谷。
ここで御幸は、とあるボールのサインを出す。
(ストレートの軌道はもう染み込ませた。後は、料理するだけだ。)
少し驚いた表情を浮かべる降谷に御幸も笑って返す。
(散々練習で投げたんだ。いつも通り腕を振り抜けば勝手に落ちる。)
コクリと、降谷が頷く。
セットポジションから全身を縦回転。
高い打点から投げ込まれたボールはぐんぐん進んでいく。
(ど真ん中、貰いやでえ!)
そうして振り抜いた舘のバットの遥か下。
最後はフォークボールで空振り三振。
接戦の末、大阪の強豪校である大阪桐生を13−12で下した。