試合で長い話が続いていたので、今回は短めで。
「っしゃあ!」
最後の打者である真田を空振り三振で切り落とし、右拳を握り込むと共に声を上げる。
直後、胸を撫で下ろすと同時に笑みが零れた。
真田との、緊迫した投手戦。
そして、轟を筆頭とした強力打線。
その2つからの解放された俺は、思わず溜め息をついてしまった。
「良かったぁ…、まじで。」
まず最初に、零れた本音。
それを聞いて、横にいた御幸が俺の肩を掴んだ。
「ほんとお疲れさん、夏輝。」
「まじで疲れたよほんと。もうこの大会投げられん。」
「冗談でもそういうこと言わないで、まじ。」
それくらい疲れたっていう比喩だろう。
内心でそう呟きながら、俺は共に戦った仲間と共に整列した。
「届かなかったわ、すげえよお前。」
礼を終え、声をかけてきた真田。
この試合で俺が本当に苦労した、相手。
彼の熱投があったからこそ、今日の試合は死闘になったのだ。
「また会おう。次に投げ合えることを楽しみにしてる。」
すると真田が驚いたように、目を見開く。
確かに高校野球は彼にとって最後かもしれない。
しかし彼ほどの実力ならきっと。
もっと上の舞台で、巡り合わせがあるはずだ。
いずれ。
きっとそれほど遠くない未来。
また、どこかで投げ会えると思うんだ。
「また、か。」
真田が苦笑しながらそう返す。
今は、まだ考えていないだろうが。
でも真田はきっと。
いや、真田だけではない。
きっとこの轟も、いずれまた上の舞台で会えるはずだ。
最後の打席。
あれははっきり言って、ココ最近で一番怖かった。
緊迫と、重圧。
でもそれが、楽しかった。
「強いチームだったな。」
「そうだな。きっと来年も、苦労することになる。」
引き上げる薬師のナインを見送りながら、俺はこの試合ずっとバッテリーを組んだ御幸とそう話した。
「苦しい試合展開だが、よく我慢して投げきってくれた。」
ベンチへ戻ると、監督から肩を叩かれる。
「いえ、エースですから。」
「明日はゆっくり休め。今日の投球内容だと、実感以上に疲れが溜まっているだろうからな。」
落合コーチからそう付け加えられ、俺は小さく頷く。
まあ確かに、疲れはしたからね。
ここはお言葉に甘えさせてもらおう。
苦しい試合だったが、まだ初戦。
まだまだ、先は長い。
特に終盤になれば、連戦続きになる。
できればそこまで、疲労は残したくない。
幸いウチには、安心できる投手が他にもいる。
「次の試合は任せたぞ。」
「はい喜んで!」「はい。」
同時に返事をした沢村と降谷。
そして、啀み合う2人。
本当に、仲がいい。
まあ、次の先発は監督のみぞ知る、だ。
どちらでも、信頼をおけることに変わりは無いがな。
「うん、肘も炎症なさそうだね。投げ終えてこれなら上々。よく我慢してケアしてきた。」
試合後、念の為病院へ。
久しぶりの夏大で、しかもフルイニング投げた。
それも、かなり高い出力で投げ続けていた為、確認がてらね。
違和感も無かったし、勿論痛みもなかった。
だから大丈夫なのはわかっていたけど、実際診てもらってプロからそう言って貰えると、安心できる。
「試合、見たよ。すごいピッチングだったね。」
「…相当待たせましたからね、みんなを。だから、頑張れました。」
「そういうのはインタビューで言うんだよ。」
確かに。
そんな事を思いながら、俺は荷物を左肩にかけた。
怪我をしてから、約1年弱。
フォーム改善から、肘に負荷が掛かりにくい状態をつくり、最近は全く問題もなくなった。
この先生にも。
そして、フォーム改善を手伝ってくれた御幸と落合コーチにも。
勿論、支えてくれたチームメイトのみんな。
我慢してくれた、監督にも。
本当に、皆に支えてもらってきた。
皆に、助けてもらった。
だからこそ、恩返しも込めて。
チームを背負って、闘う。
それも俺の、「らしさ」だから。
「ありがとうございます。」
「今日は帰って休むんだよ。明日もノースロー、明後日からゆっくり動かしなさい。」
「そのつもりです。流石に疲れましたからね。」
頷き、俺は病院を後にした。
「お勤めご苦労様です!」
「おかえり、どうだった。」
学校に戻ると、お出迎え。
なぜか門前で待っていた沢村と御幸に右手をあげて答える。
「どうもなにも、確認でしかないからな。良好だってよ。」
「ま、だろうな。」
次の試合は、3日後。
当然俺は投げる予定は、ない。
いざとなれば投げるが、その必要はない。
おそらく先発で降谷、状況次第で第2先発の沢村か。
とはいえ、次の試合で降谷が炎上するとも思えない。
そう考えると、沢村は次の試合は投げないかな。
降谷が長いイニング持ってくれれば、試合慣れの為に東条を投げさせると思う。
3試合目までに皆に投げさせたいと思うから、ここで先発沢村か。
順当に行けばここでノリと、登板間隔が空きすぎないように俺も少しなげると思う。
準々決勝で再度降谷。
ここは沢村も準備しておいて欲しいが、ノリと東条。
おそらく2人への継投で、降谷は長いイニングあまり投げさせないようにしたい。
で、準決勝。
恐らくは、というよりほぼ確実に市大三高が来ると思う。
決勝は、ほぼ間違いなく稲実。
この連戦で、俺は2試合とも先発になる予定。
準決勝の天久との投げ合い。
春の投球を見る限りは、ここはかなり厳しい試合になる。
決勝を控える中で消耗したくない。
なのでここは、継投で沢村、降谷も投げてもらう。
あくまで予定だが、一応こんな流れで投手運用はしていくと落合コーチと監督から言われている。
これが最低限先発の疲れを分配した計画。
それでいて準決勝、決勝の超高校級2人との投げ合いで俺たち3人が全開で投げられるようにした、投手運用。
予定だけど。
長いイニングを俺と沢村、降谷で投げて、ノリと東条の2人で中を継いでもらう。
この炎天下だからこそ、5人でしっかり回すことでこの過酷な夏を乗り越える。
しかし、それができるには前提として、勝つこと。
1度負ければ終わりのこのトーナメントで、最悪のケースは敗退。
だからこそ、その危険性があれば。
勝つために、いつでも俺は投げるがな。
まあ、その心配はおそらく要らない。
そんなにヤワな野手じゃなければ、貧打ではない。
真田の前に中々得点を奪えなかったが、あれは正直真田が良すぎた。
向こうが点を奪えなかったのと同じように、こちらも真田を打ちあぐねていただけ。
当の本人たちは、そんなこと思ってないだろうけど。
打てなくて相当歯痒い思いというか、フラストレーションが溜まっていると思う。
だからきっと、次の試合からは爆発してくれるはずだ。
そう簡単に割り切るような、諦めるヤツらはここにはいないからな。
そうそう、心配はいらないと思う。
まずは、次の試合。
投手としてはしっかり休んで、他の投手に任せる。
それで、来るべき決戦のために。
力を蓄える。