2回戦目。
相手は、八弥王子高校。
身体能力の高い堅守好打のセカンド川端が率いるチームだ。
良くも悪くも、彼が中心のチーム。
1人が飛び抜けているチームはその1人が活躍すると流れが変わるが逆に、その1人が抑えられたとき、何も出来なくなる傾向にある。
その1人というのが、この川端である。
前の試合では、2本のタイムリーヒットで3打点。
さらにいくつものファインプレーと、攻守で暴れている。
「どれだけこの川端にやらせないか。それが肝だな。」
ベンチからマウンドに向かおうとする降谷に、俺がそう伝える。
彼も小さく頷き、ゆっくりとマウンドへと向かう。
今日の先発は、予定通り降谷。
ここまでの調整で状態も悪くないし、ブルペンではいつも通りの状態だった。
絶好調ではない。
まあ、正直これくらいの方が丁度いい。
変に気負うこともないし。
野手のスターティングメンバーは、ほぼ変えずに。
センターには東条、レフトには攻撃面でのインパクトも兼ねて結城が入る。
察している通り、俺はベンチ。
この試合に関しては、完全休暇らしい。
打順は、2番に白州が入って5番に金丸。
6番にゾノ、7番に降谷、8番に結城、9番に東条が入っている。
上位打線でチャンスメイクし、クリーンナップで仕留める。
そして下位打線からは、一発狙い。
そんでもって、9番に出塁率の高い東条を置いて上位に繋げる。
「まず1人目だぞ、降谷!」
ベンチから声を掛ける。
すると降谷がちらりとこちらを見て、再び御幸へと視線を戻した。
まずは先頭の、井上。
俊足の左打者が、打席へ。
ここはストレート押し。
外148km/hのストレート2球で追い込むと、最後は力を入れたボール。
真ん中高めで大きく吹き上がる151km/hのストレートを振らせる。
完全に詰まった当たりはセカンドへ。
弱いフライを小湊が掴み取り、先頭の井上をまずはセカンドフライで打ち取った。
続く坂下に対しても、ストレートでカウントを取る。
ここも外中心で、低めに140km/h後半のストレートを続けると、最後はフォーク。
低めのストライクゾーンからボールゾーンにストンと落ちるこのボールで空振り三振。
まずは2者凡退。
ここで打席には、3番の川端。
このチームで最も警戒しなくてはならない、柱の選手を迎える。
対して、初球。
まずはフォークで様子見をする為に、低めへ投げ込む。
これをしっかりと見送り、まずは1ボール。
2球目、低めのストレート。
147km/hのボール、これは川端も捉えきれずにファールとなる。
力感が上手く抜けていて、球が走っている。
球速も安定しているし、コントロールも大荒れしているわけじゃない。
3球目、ストレート。
しかしこれは真ん中低めに外れてボールとなる。
4球目、これが勝負のボールとなる。
外角高め、148km/hのストレート。
高めから吹き上がるように唸りを上げるストレートを川端がバットに当てる。
捉えた打球は二遊間。
そう思った矢先、セカンドの小湊が逆シングルでスライディングキャッチ。
そこから身体を起こして一塁に送球。
際どいタイミングはアウト。
ここはセカンド小湊のファインプレーで、川端をセカンドゴロに仕留める。
いい当たりだったが、ここはバックが盛り立てた。
降谷自身も、外中心でしっかりゾーンに集めている。
シンプルな思考だからか、降谷もしっかり投げきれている感じはするな。
適度に荒れてはいるのだが、大きく外れるボールはない。
球速以上に、状態は良さそうだ。
「ナイスピッチ。よくコントロールできてるね。」
「ありがとうございます。」
相手先発は、エースの夏目。
右のサイドスローから、小さく動く変化球を主体として投げていく打たせてとるタイプのピッチャー。
決して球速は速くない。
打ち頃だからこそ、動くボールを打たされて上手い守備に阻まれる。
少ない球数でテンポよくアウトを奪い、リズム良く攻撃に繋げる。
(ってのが、理想でしょ。)
このピッチャーのというよりは、このチームの試合運びの理想。
自分たちはリズムに乗って、相手は焦らせる。
特に二塁手の川端のファインプレーから、チームが盛り上がることが多い。
(でも、そう簡単に上手くいくかな。悪いけどうちの打線は。)
そちらの思い通りに行くほど容易く、単純な打者は誰1人いない。
誰1人、な。
「セーフ!」
まずは先頭の倉持がサード前方に高いバウンド。
鈍い当たりだが、俊足の倉持からしたら十分。
守備のいいサードと競争になるが、ここはうちのチーターに軍配が上がる。
さて、打率は普通だが塁に出れば完全に水を得た魚。
単打だとしてもその盗塁技術で実質ほぼ二塁打確定にしてしまう。
しかし勿論、相手もそこには警戒してくる。
確かに順当な考えだ。
こんなほぼ確定で走る様なやつを野放しにするわけにはいかない。
打席に入るのは、今日2番での起用の白州。
バントも十分考えられるケース。
自然と相手バッテリーも慎重に攻める。
しつこく牽制を入れた3球目。
ここで倉持がスタートする。
球種さストレート、タイミングとしてはギリギリになりそう。
しかし白州もヒッティング。
盗塁を警戒して投げてきた速いボールしっかりと引っ張る。
ベースカバーに向かった川端の逆を付いた形になり、一二塁間抜けるヒットとなる。
さらにスタートを切っていた倉持は減速することなく一気に三塁を蹴る。
慌てたライトがバックホームするも、少し雑になった送球は高くなり、スライディングした倉持が見事本塁セーフ。
その間、隙をついた白州も二塁を陥れてチャンスを継続させる。
鮮やか、そしてあっという間の得点劇。
正にこれが、攻撃的一二番による速攻で早速先制点を上げて見せた。
さらに3番の小湊がショートの頭を超えるヒットでランナー一三塁の大チャンス。
改めて感じる、うちの打線の強さ。
前の試合では真田が良すぎたせいで1得点に止まったが、やはり爆発力も安定感も去年に負けていない。
そしてしみじみ感じる。
ほんと、味方でよかった。
未だノーアウト。
この大チャンスの場面で打席に回るのは、4番の御幸。
高い長打力と、3年生になってから得た安定感。
さらに言えば、チャンスに強い集中力は健在である。
その性質は、御幸特有。
ランナーが貯まれば溜まるほど、そしてランナーがホームに近づけば近づくほど、打力が向上する。
もちろん、そんな相手にバカ正直に勝負する必要はない。
一発も見込める打者で、その可能性が非常に高い。
対する次の打者は、パンチ力こそあるものの、御幸には劣る2年の金丸。
ここは無理せず、半ば歩かせ気味に四球を与えて満塁とする。
ランナー満塁。
ここで打席には、2年生の金丸が入る。
今大会。
というか、初めてのクリーンナップでの起用。
この金丸がコールされたとき、若干ながら観客席がざわつく。
まあ、観客たちの言いたいこともわからなくはない
打率は三割に満たない。
ホームランも極端に多いわけではないし、目立った成績でもないかもしれない。
彼の上にいる打者たちに比べると、やはり見劣りしてしまう。
しかしそれ以上に、チャンスや打って欲しいときに打ってくれる。
何より、逆境。
チームが劣勢の時、もしくは己が不利な状況のときこそ集中力が高まる。
監督から呼ばれ、金丸がベンチに戻る。
そして少し言葉を交わしたのち。
俺も一言、加えた。
「目立つなら、いい場面だぞ。ここは熱くならなきゃだぞ、金丸。」
期待されている。
そして、それに応える実力は確実に、ある。
ここまでしっかり経験もしてきた。
それに、戦ってきた。
俺の言葉に小さく頷く金丸。
薬師との試合、歯痒い思いをしたんだろ。
同じ2年生のサードと比較されて。
何より、打てなくて。
だったらムキになれ。
もっと強気に、もっと負けん気をだせ。
それができるからお前は、ここで選ばれているんだぞ。
「負けんなよ金丸。観客全員、見返してやれ。」
「はい!行ってきます!」
そうして走り抜けた金丸。
0アウトランナー満塁。
ここで打席に入るのは、青道高校の起爆剤。
マウンドにはサイドスローから小さい変化球を低めに集める投手。
打たせてとるピッチャー。
そして持ち合わせた変化球。
金丸も、見慣れているはずだ。
(容赦するな。決めちまえ。)
そう思った矢先、4球目。
低めの小さいカットボールを掬い上げ、大きく高い打球を放った。