八弥王子との試合は、初回から大盛り上がり。
金丸の満塁ホームランを含む6得点で一気に得点を重ねると、2回以降も降谷はしっかりと抑えて青道ムードで試合を運ぶ。
2回には御幸のタイムリーで、3回には前園のタイムリーで5点を追加すると、もう止まらない。
4回裏に代打で起用された由井のタイムリーツーベースで2点をさらに追加してダメ押し。
守っては、降谷が好投。
初回からストレートが走っており、150km/h前後を外に集めて空振りを奪っていく。
特に圧巻だったのは、3回。
フォアボールで許したランナーを二塁に置いた状態での、川端の打席。
ここで自己最速タイの155km/hを連発。
川端も何とか粘ったものの、カウント2-2からの6球目に真ん中高めのストレートで空振り三振を奪う。
この打席に、川端は思わず苦笑い。
それもそのはず。
6球のうち、ストレートは5球。
そのうち3球が155km/hという豪腕ぷりを遺憾無く発揮し、真っ向から完全に捩じ伏せて見せた。
こんな具合で降谷は八弥王子打線を圧倒。
フォアボール2つを出してしまったものの、被安打はたったの1つ。
さらに奪った三振は、アウト12個のうち7個とアウトの半分以上を三振で奪うという怪物の名に相応しい姿を見せた。
4回終了時点でコールド圏内の13-0。
降谷は余力を見せながらも、ここで降板。
そのままベンチへ下がり、マウンドには2番手としてノリが上がる。
彼はもう、言うことはない。
その安定感は職人芸。
不安なメンタル面も3年生に上がった責任感と度重なる経験で克服し、大事な場面でも任せられるような投手になった。
サイドスローから角度のあるスライダーでカウントを奪いつつ、要所で混ぜるストレートで詰まらせる。
そして最後は縦に落ちるシンカーでゴロを打たせてアウトをとる。
テンポよく8球で、三者凡退。
アウトを3つ積み重ねて、ゲームセット。
13-0の5回コールドで、八弥王子を下した。
続く5回戦目。
対戦相手は、法兼学園。
思い切りのいいスイングで勢いにガンガン乗る強気な打のチーム。
特にメジャーで流行りのアッパースイングを中心に取り入れており、前の試合でも低め中心に集めるピッチャーに対してかなり有利に試合を運んでいる。
チーム全体で取り組んでいるのだろう。
徹底して、打者たちがアッパースイング気味で振ってくる。
とはいえ、粗は多い。
ガンガン振ってくるアッパースイングのチームでいい例で言えば、成孔か。
しかし彼らほどパワーがある訳でもない。
アッパースイングといえば、スイングの軌道上低めは非常に捉えて長打になりやすい。
しかしそれに対して、高めに関しては非常に弱い点がある。
「高めの使い方はかなりミソになりそうだな。」
「たしかに。」
見た限りは、スイングの割に怖い打線では無い。
対処さえしっかりできれば、大丈夫。
先発は沢村だが、俺も登板する予定だ。
打順は、以下の通り。
1番 遊 倉持
2番 中 大野
3番 二 小湊
4番 捕 御幸
5番 右 白州
6番 三 金丸
7番 一 前園
8番 左 降谷
9番 投 沢村
ほぼいつも通りの、並びで。
当たっている金丸はそのまま、クリーンナップ後の6番で起用。
やはり最低限の守備と一発のある打撃が期待ができる降谷をレフトに入れてある。
今日は俺も、スタートから2番センターで出場する。
序盤は野手として、そして最終回に抑えとしてマウンドに上がる予定だ。
先攻は俺たち青道。
それはつまり、相手先発投手がマウンドに上がるということ。
こちらとしての予想はエース格の先発、背番号1のサイドスローか。
しかしマウンドに上がったのは、異なる背番号。
背番号18の卜部が、マウンドに上がった。
恐らくは、こちらに対する秘密兵器。
いい、投手を温存して、隠し球としてこちらにぶつけてきたのだろう。
「投球練習見る限りは、本格派かな。」
「だろうな。綺麗なオーバースローを見るに持ってるのは縦変化…だったりして。」
ベンチ前で屈伸をする倉持に、俺はそう返して答えた。
「追い込まれる前に打った方がいい。お前が出ると出ないで、試合の運びは変わってくる。様子見は俺らに任せろ。」
「わーってるよ。任しとけ。」
速球派とはいえ、対応できるはず。
倉持も打撃好調だし、出塁はある程度期待して良いだろう。
左打席に入る、倉持。
彼がすっと、バットを掲げた。
初球、アウトコースストレート。
少し浮いているが、142km/hの速いボールが決まった。
やはり、速い。
キレも悪くないし、コントロールもそこまで荒れてない。
しかし、そうだな。
(捉えられない球じゃないだろ。)
2球目、外の高めに来たストレート。
これを逆らわず逆方向へ。
合わせた打球は三遊間を抜けるヒットとなった。
こちらに向けて右拳を向ける倉持。
それに笑顔で返して、俺は打席へと向かった。
見た感じは、やはり速球派。
ストレートも140km/hオーバーがアベレージか。
結構、速い。
特に凄いのが、序盤からこんなにポンポン140オーバー出せること。
少なくとも俺には、できない芸当だ。
ギアを上げてリズムに乗ることができたら、どうなるか。
正直計り知れない。
しかし、弱音は言っていられない。
倉持に様子見は任せろなんて啖呵を切ったからには、仕事はさせてもらう。
「よろしくお願いします。」
ヘルメットの鍔に手を当てて、軽く会釈をする。
特に反応のない捕手を見て、俺は左の打席へと入った。
上背は、大して。
でもやっぱり、身体の厚みはそこそこある。
持ち球は、わからない。
今のところ140中盤のストレートのみ。
フォームを見る限りは、縦変化か。
フォーク系か、縦のスライダーか。
三振を取りに来たいのであれば、何となくその2つが有り得そう。
ベンチをちらりと見る。
監督とアイコンタクトをとり、サインを確認する。
指示は特になし。
てことは、スイングしに行ってよさそう。
小さく頷き、俺はバットを揺すって投球を待った。
(初球は、ストレートか。倉持の足も警戒してるだろうし。)
140km/h中盤ってなると、目安は真田くらいか。
倉持の反応を見るに、捉えられなくはない。
狙ってみようか。
そう思った初球。
クイックモーションで投げられたボールは、俺のバットよりも下に滑り込んだ。
(沈んだ。)
スピードとしては速く、そして小さく落下した。
軌道とスピード、それに落差。
恐らく球種は、スプリットか。
降谷のフォークと同速、それでいて落差はそれ以下。
ただし軌道は、降谷のそれよりストレートに近い。
(なるほどね。こりゃ組み合わせたらかなり厄介だわ。)
もう一度、ベンチへと目を向ける。
すると監督からのサイン。
今回は、さっきとはまた違うサインが出された。
(少し見れるか。)
(出来る限りは。)
ヘルメットの鍔に触れ、小さく頷く。
とりあえず、今考えられるボールはストレートとスプリットのふたつ。
低めに集められたら目付けは難しいが、様子見だな。
2球目、今度はストレート。
これは球筋を見るのに見送るが、高めに外れてボールとなる。
しかしまあ、速いな。
これで143km/hってなると。
力感的にはそんなに入れて無さそうだし、ギア上げたら140後半出るんじゃないか。
3球目、同じくストレート。
高めのこのボールをもう一球見送るも、これはストライクゾーンに決まって2ストライクと追い込まれる。
さて、と。
ここからが、俺の仕事。
できればもう一球、スプリットの軌道を見たい。
4球目、ここもストレート。
内角低めのボールをカットしに行き、ファールにする。
5球目、外角高めのストレート。
これも振り遅れてファール。
6球目、真ん中高めに外れるストレート。
恐らく釣り球だろう、ここは我慢しきって見送り。
これによってカウントは並行カウントとなる。
(さーて。粘る打者にそろそろ変化球使いたくなるんじゃないの。)
7球目の低めのストレート。
これもカットして、カウントは継続。
そろそろ球数も嵩んで、空振りを奪いたいところ。
うーん、見逃すのが一番効果的な気がするけど。
ストレートと擬態させている速い変化球。
これを見切っているとアピールするのが、相手としてはかなりのダメージになる、と思う。
事実俺がそうだから。
ストレートに近い振らせる軌道のボールを見送られたとき、少なからず動揺は生まれる。
特に選択肢が少ない、投手なら。
そろそろスプリットか。
待っていた8球目。
ごちゃごちゃ考えるな。
変化球に反応する目も反射神経も。
それを対応できるぎじもある。
たしかに余裕を持って見送るのが、1番ダメージがでかい。
しかし。
(生憎、そんなにいい
真ん中低めのスプリット。
ボール球のこれを上手く合わせてセカンド頭上。
内野を越えてライトの前に打球を運び、クリーンナップに繋いだ。
明らかに表情を変えるバッテリー。
高々決め球を狙い撃ちしただけだろ。
それだけでこんなにコロコロ表情変えてちゃ、話にならないぞ。
なんてったってこのあとは。
俺より怖いバッターが、ゴロゴロいるんだからな。