燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード190

 

 

 

 

初回、続く小湊がセンター返しで先制点を奪うと、ランナー二三塁の場面。

 

4番の御幸は歩かされるが、続く白州がタイムリーヒットを放ちさらに2点を追加する。

 

上位打線の連打で早速3得点を奪うことに成功。

 

 

このいい流れでマウンドに上がるのは、今日先発の沢村である。

 

 

 

「やるべきこと、整理はできてるか。」

 

「高めに強いストレート、あとは低めからボールに外れる変化球の使い方ですね。」

 

「OK。それくらいシンプルでいい。迷わずお前の長所を生かしていけば、それほど苦労する相手じゃない。」

 

 

今大会初先発。

というよりは、夏の大会で初めての先発のマウンド。

 

しかし硬くなってる様子は無い。

 

 

まあ、肝っ玉は座ってるからな。

心配をする方が、失礼か。

 

 

 

「らしくいけよ、沢村。」

 

「はい、夏輝さん!」

 

 

ポンと軽く背中を叩き、それぞれの守備位置へ向かう。

俺はセンターへ、沢村はマウンドへ。

 

そしていつも通り。

 

彼特有の掛け声が、グラウンドに響き渡った。

 

 

 

「空は晴天、雲ひとつない綺麗な青空の元、多くの人の支えもありここで野球ができます!一戦一戦、全力投球で望んでいこうと思いますので、バックの皆さん、今日もよろしくお願いします!」

 

 

「いい声出てる。」

 

「1つずつね、栄純くん!」

 

「後ろは任せろ!」

 

 

沢村の言葉に各々が反応する。

そして俺は、中堅手から沢村の投球を見届けた。

 

 

やることさえやれば、そう簡単に打たれる投手じゃない。

 

強いストレートと、同じような軌道から変化する速い変化球。

できることなら、試せるものも試したい。

 

 

でもまずは、欲張らずに。

 

 

まずは先頭。

初球外角低めのストレート。

 

134km/h、しっかりと制球されたボールはストライクゾーンいっぱいに決まる。

 

 

2球目、今度は高め。

 

アウトハイに136km/hのキレのあるストレート。

これもまた打者は見逃し、早くも2ストライクと追い込む。

 

 

(高めは見送るか。目付けなのか、完全に低め狙いなのか。)

 

 

どちらにせよ、好機。

沢村の状態もいいし、そのまま押し切れば。

 

流れは完全に掌握できる。

 

 

(俺を超えたいんだろ。なら、ここは押しどころだぞ?)

 

 

頼れる、そして身近に成長を見届けてきた後輩。

それでいて、エース争いをしたライバル。

 

原石は磨き抜かれ、煌びやかな宝石が顔を出し始めた。

 

 

まだデカくなるのは、わかっている。

それでも。

 

見せてみろ、今の輝きを。

 

 

 

『ここは3球勝負、内角高めのストレートは138km/hで空振り三振です!』

 

 

投げ終えた勢いで、弾むように左足を振り上げる。

それを見て、俺は自然と口角が上がるの自覚していた。

 

 

なんて事ない、1球かもしれない。

 

しかし、そのストレートは。

キレも角度も、そして力も。

 

正に欲しい所に、要求通りの完璧なボールだった。

 

 

 

 

さて、まずは先頭打者を完璧に捩じ伏せた沢村。

 

低め狙いで強振してくる打者に対して、真っ向勝負で抑えることができたのは大きい。

 

 

相手も流石に迷うことは無いだろうが、少なからず動揺はしているはずだ。

 

続く2人目の打者。

先程のストレート押しが効いていれば、他のボールもまた生きてくる。

 

 

寧ろここから先が、沢村の真骨頂。

 

キレのあるストレートを左右に散らしながら、同じようなスピードと軌道で独特な変化をするボールを振らせる。

幅広く、どんな打者でも柔軟に対応できるピッチング。

 

 

まずは同じくアウトハイのストレート。

それを見送って、1つめのストライクをとる。

 

そして2球目。

 

今度は、相手が狙いの低め。

外角低め、少し内に入った甘いボール。

 

 

打者も狙いのこれを強振するも、バットは空を切る。

 

 

何故なら、沢村の投げたボールはバットの僅か下。

手元でかくんと、利き腕側に落ちた。

 

彼の決め球の1つであるスプリーム。

速い速度でシンカー気味に、ツーシームとスプリットを足して2で割ったような変化をするボール。

 

これを振らせて、早くも2ストライクで追い込んだ。

 

 

 

早い変化球で追い込んだ3球目。

 

先ほど先頭を切ったボールと同じような直球。

 

 

インハイに抉りこむようなストレートは、完全に打者を詰まらせる。

 

詰まった打球は、サード正面。

金丸が軽快に捌いて、2アウト目を奪った。

 

 

 

最後の打者は、クリーンナップの一角。

 

このチームで特にスイングが鋭い打者であり、一発も警戒しなくてはならない打者である。

 

 

しかし、方針は同じ。

なら、攻め方も対応されるまではとことん続けていい。

 

特にそれが、相手のウィークポイントなら、なおさらな。

 

 

ここまで続けてやられているのが、高めのストレート。

追い込まれてからのこのボールに対応できていない。

 

 

なんとかまずは、このボールをなんとかしなくてはならない。

 

 

そう思ってきたころだろう。

しかしうちの沢村は、そう簡単にはいかない。

 

 

初球の速球に狙いを澄ました打者。

彼が目にしたのは、ストレートとかけ離れた緩いボールであった。

 

 

『初球、チェンジアップは空振り!』

 

 

速いボールだけではない。

この遅い球が、打者のタイミングを外す。

 

外の低めに決まったチェンジアップをまずは振らせて、空振りを奪う。

 

 

 

2球目は、それと相対するボール。

内角高めのストレートを投げ込み、カウントを稼ぐ。

 

打者もこの緩急に翻弄され、振り遅れてファール。

 

 

早くも2ストライク。

そして、打者もまるでタイミングが合っていない。

 

 

続く3球目。

今度は外角高めのボール。

 

僅かに外れているこのボールを相手は見逃し、1ボール2ストライク。

 

 

 

ラストボール。

最後に御幸が選択したボールは、カットボール改。

 

スライダーよりも遥かに打者の近くで。

そしてカットボールよりも大きな変化量の彼特有のウイニングショット。

 

 

追い込まれてから投げられれば、対応できない。

 

敢えて高めに投げ込まれたこの誘い球を振らせて、空振り三振に切ってとった。

 

 

「おーしおしおし!おしおしおーし!」

 

「るせぇ!」

 

 

マウンドから走りながら声を上げる沢村。

 

そしてそれにツッコミを入れるように、蹴りを入れる倉持。

 

 

 

しかしそれにしても、完璧に近い立ち上がりだった。

キレのあるストレートを軸に制球しながら、多彩な変化球で打者に的を絞らせない。

 

降谷のような、圧倒的な力ではない。

しかし高い水準で纏まりながら唯一無二性も持ち合わせた、好投手。

 

 

どちらも、天才。

そして、これからもっと輝きは増していく。

 

 

 

 

 

2回の表。

初回の勢いのまま、先頭の倉持のヒットからチャンスメイク。

 

小湊のタイムリーヒットと御幸の2ランホームラン、降谷の2点タイムリーツーベースなどで5点を追加する。

 

 

沢村も2回以降、安定したピッチングを披露。

際どいコースに集めながら、決めるところで高めのストレートで空振りを取っていく強気な投球。

 

特に制球も荒れることなく、御幸の要求から大きく外れるボールも無かったことが、沢村の状態の良さを表していただろう。

 

 

それは、完全に投球内容にも、結果にも顕著に出ていた。

 

3回までのアウト9つに対して、打者9人。

つまり、パーフェクトピッチで一巡を終える。

 

 

 

そして4回。

この大会初、遂に俺がタイムリーを放つ。

 

交代したサイドスローのエースのカットボールを上手く捉えてライトの横。

フェンス手前まで飛んだ打球での長打でタイムリーツーベースで、コールド圏内となる10点目を奪った。

 

 

 

4回裏。

ここから予定通り、ノリがマウンドへ上がる。

 

 

中々登板機会に恵まれなかった彼だが、やはり信頼の置ける男。

ピンチでも開き直って投げることができ、何よりコントロールが良いから大崩れしにくい。

 

メンタルが弱いと散々言われてきたが、2年生たちの台頭と最後の夏への覚悟からか、大きく成長してきた。

 

 

(目に見える進化は少ないかもしれない。でも、本当に信用出来る投手になってくれた。)

 

 

 

低めのストレートと、スライダー。

そしてシンカーを集めてカウントを稼ぐ。

 

追い込んでからは低めから変化するボールで振らせる。

 

左打者に対しても角度のあるインコースのストレートや外から落ちるシンカーで差し込みに行くピッチングを展開。

 

 

打者3人に対して、三振2つを含む三者凡退。

 

特に3番に対しては外のスライダー2球で追い込んだ後の、高めのストレートでの3球勝負。

 

 

浮いたのでは無い。

意図して投げ込んだ、力の籠ったインコース高め。

 

昨年まではやらなかった攻めで、クリーンナップを捩じ伏せてみせた。

 

 

 

「ナイスピッチ、後ろから見てもいいボールだった。」

 

「ほんと?」

 

「一也と違って嘘は苦手な方だよ、俺は。」

 

 

マウンドから降りたノリの背中に、ポンとグローブを当てる。

 

 

まあ、事実である。

御幸は捕手というポジションである以上、どうしてもその場での最善を選択しなければならない。

 

多少の嘘を絡めながら本人の良さを引き出すこともある。

 

それは捕手として、必要なことだから。

 

 

(半分、性格の悪さもあると思うけど。)

 

 

そんなことは心の中に留めておく。

 

 

 

 

そして、5回表

川上の代打で出てきた由井のタイムリーで追加点。

 

全く攻撃の手を緩めずに更に2点。

 

 

 

12-0で迎えた裏の守り。

ここで3点以上取らなければ5回コールドとなってしまう場面。

 

何とか反撃の糸口を掴みたい。

いや、せめて一矢報いたいという法兼に対して。

 

 

(やるな、沢村。それにノリも。)

 

 

ベンチに置かれたグローブ。

この前の回まで付けていたグローブを置き、もう1つのグローブを嵌め直す。

 

先程までの、少し長めのポケットの深いグローブではない。

 

投げるのに特化した、橙色のグローブ。

 

 

ベンチの階段をゆっくりと上がり、帽子を被り直す。

少しばかり気持ちを整理するように。

 

ここまでは野手としてプレーしていたから。

 

最後は投手として。

何よりこの青道のエースとして、相手チームにも最大の敬意を払う。

 

出し惜しみは、しない。

 

 

踏み荒らされたマウンドを少し足で慣らし、プレートの上に立つ。

 

やることは、変えない。

いつも通り、内容を整理して。

 

何より、俺の俺らしさを全面に出して。

 

身体も、心も。

何もかも全開で、いく。

 

 

息を吐き、俺はゆっくりと目を開く。

 

 

「分かってるな。」

 

「あぁ。攻め方は理解しているつもりだ。」

 

 

小さく御幸が頷く。

そして手渡されたボールを右手に握り、グローブを前に出した。

 

 

「何事もなく終わる。だけど、それだけじゃダメだ。」

 

「あくまで、この先も見据えて、な。調子の確認と現状の状態の確認。使えるボールは全部投げたい。」

 

 

 

打順は、4番から。

このチームで最もシャープなスイングをする、強打者。

 

しかし攻め方は、変えない。

 

 

強気で。

それでも、乱雑ではなく。

 

 

まずは、狙っているであろう外角低め。

そこから急激に落ちるツーシームを振らせて、1ストライク。

 

 

やはり狙いは低めのストレート一点狙いか。

 

特にコントロールがいい投手には、リスクを最小限にする為に低めを投げてきたところを強振して打ち込むというのが彼らの戦い方なのだろう。

 

 

(1発狙いというのは悪くは無いが。)

 

 

当たらなければ、そう怖くない。

 

 

2球目。

今度はインコース膝元。

 

ズバッと決まったこのボールに審判の手も上がり、2ストライクと早くも追い込んだ。

 

 

(低め狙いでも、手が出ねーよ。)

 

(追い込んだぞ。最後の攻めは、お前に任せる。)

 

(んじゃ、ここ。)

 

 

御幸が構えたコースは、真ん中高め。

 

思わず眉間にしわが寄るのを自覚し、すぐに戻す。

 

 

(4番だけど。)

 

(大丈夫。もう目線は下がってるよ。)

 

(まあ、いい。お前が言う最善なら、応えるだけだ。)

 

 

危険なコース。

それも、相手はチームで最もスイングが鋭いバッター。

 

もっと厳しく、それにもっと球数を使ってもいいかもしれない。

 

 

しかし、ここで攻めてこそか。

 

 

 

(悔いすら、残させん。)

 

 

 

最後はギアを入れたストレート。

真ん中高めから吹き上がるように加速する、136km/hのボールはバットを掻い潜り、御幸のミットに収まった。

 

 

投げた勢いそのまま、身体を半回転。

 

流れのまま、マウンド横に置かれたロージンバックに手を当てる。

 

 

 

(まず、1つ。)

 

 

 

打たれない自信は、ある。

しっかりと抑えられるほど力の差はあることを自覚しているし、出来て当然なのはわかっている。

 

 

しかし、それでも。

内心ほっとしながらも、毅然として己の人差し指を立てる。

 

そのサインに御幸も小さく頷き、声を上げた。

 

 

「OK!ワンナウト!」

 

 

ロージンが余分に付いた指先に、フッと息を吹きかけて飛ばす。

 

マウンド上に仄かに舞う粉塵が、宙に消える。

それを確認して、俺は再び御幸へと視線を戻した。

 

 

白球を握り、御幸のサインを覗き込む。

出されたものは、先程まで一度も出されなかったサイン。

 

それに頷き、俺はグローブを胸元へと上げた。

 

 

(迷わせる。ストレート狙いなら、まず前に出されるはず。)

 

 

初球、外角低めのチェンジアップ。

ストレートと同じ腕の振りから放たれる、特に変化のない遅いボール。

 

そのコースのストレートを狙っていた打者のバットは完全に回り、空を切る。

 

 

2球目、同じコースにストレート。

分かっていても、一度見てしまった緩い軌道。

 

それと相対する速いボールについていけず、振り遅れてファールとなる。

 

 

 

3球目。

外角低めのストレート。

 

僅かに外に外したこのボールは見送られ、1ボールとなる。

 

 

(我慢したか、流石。)

 

 

最後の意地か。

でも、余計に粘られても面倒だ。

 

出し惜しみは、しない。

 

 

(ここで終わらせる。)

 

(あぁ。)

 

 

最後はインハイ。

胸元のストライクゾーンからボールゾーンに変化する、ジャイロのカットボール。

 

ストレートと同スピード、同軌道から急激に伸びながら曲がる、俺の俺だけの変化球。

 

このボールを振らせて空振り三振。

 

 

打者も何を振らされたか分からないといった様子。

やはり初見じゃ、中々捉えられないな。

 

 

(それだけ、あの試合の轟の最終打席は研ぎ澄まされていたという訳か。)

 

 

でも、今は目の前の相手。

余計なことは、考えなくていい。

 

そう言い聞かせて、俺は最後の打者と相対する。

 

 

 

初球、外のギリギリ外れるカーブ。

相手もこれを我慢して見送り、まずは1ボール。

 

続く2球目。

外角高め、力を入れたストレート。

 

これはアジャストされることはなく、ファールで1ストライク。

 

 

 

 

(見ているんだろ、どこかで。)

 

 

息を吐き、全身を捻転させる。

 

来るべき決戦の相手。

そして、その前に立ち塞がる難敵。

 

 

最早、語るまい。

 

態度で。

投球で。

 

俺の全てを、見せつける。

 

 

3球目、インコースの膝元一杯のストレート。

ギリギリ決まったコースに審判の手も上がり、打者も顔を顰める。

 

 

(大野夏輝を、青道高校を。)

 

 

御幸から出されたサイン。

頷いて、モーションに入る。

 

 

(待っていろよ、天才ども。勝つのは俺だ。俺たちだ。)

 

 

最後は135km/h、外角低めのストレート。

 

強いスピンの効いた伸びのあるストレートで空振り三振を奪い、俺は拳を握りしめた。

 

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