燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード191

 

 

 

『最後は外角低めのストレート!沢村、川上と続き最後はエースが締め括って5回コールド、圧倒的な投手力を見せつけて青道高校、準々決勝進出!』

 

 

小さくガッツポーズを作るマウンド上、大野。

 

そして歩み寄った御幸とハイタッチをすると、その強ばった表情を解いて笑みを浮かべた。

 

 

 

「5回パーフェクト、何気に凄いことやってんのよ。」

 

 

煩わしいマスクを外し、御幸がそう呟く。

しかし対して大野は、その結果が当然と言わんばかりに冷静に答えた。

 

 

「向こうもこんなにガッツリ高めを攻められるとは思っていなかっただろうし、2度目やればこう上手くはいかん。」

 

「んなことは分かってるよ。でも、2度目は無い。」

 

 

一度負けてしまえば、次は無い。

 

それが夏の怖さであり、最後の大会の怖さ。

俺たちにも言えることであり、対策できなかった相手が悪かったと言えばそれまでである。

 

 

「それに、褒められるべきは沢村だ。あそこまで完璧に試合を作ったのだからな。俺と、それにノリもそれに乗じたに過ぎない。」

 

「試合中はノリに優しくしてた癖に。」

 

「事実を言っているまでだ。本人にも言ったが、俺はお前と違って嘘が得意じゃない。」

 

 

はいはいと、ため息混じりに御幸が答える。

 

しかし、実際この試合のMVPは間違いなく沢村。

 

初回から相手のやりたいことを尽く潰していき、弱点を完全に突いていた。

 

 

当たれば、怖い。

しかし限りなく、当たらないように対処できていた。

 

高めの強いストレートと低めの変化球。

 

降谷にはない、沢村の安定した制球力と投球幅のなせる技。

 

 

贔屓目で見ているせいかもしれないが、今都内で成宮に次いで質の高いサウスポーではないかと、大野は感じていた。

 

 

「あの投球スタイルは今後の沢村の進む方向性として間違っていないと思う。あれが確立して地力が増せば、いずれは成宮と肩を並べるくらいにはなる気がするよ。」

 

 

ベンチに戻りそんな事を言っている大野。

そんな彼が沢村に声をかけに行ったのを確認すると、御幸はまたもため息をつき、横にいた落合に視線を向けた。

 

 

「ですって、コーチ。」

 

「あいつは若干天然が入っているよな。自己肯定感が低いのもあるが。」

 

 

何を隠そう、沢村の現在の投球スタイル。

 

高い制球力で、特段球速は速くないがキレのあるストレートをコースに集めつつストレートに近い軌道とスピードの変化気を操る。

 

決め球はチェンジアップと、高速で大きく変化するカットボール改、そして高速で手元で大きく落ちるスプリーム。

 

 

沢村も真似て、という訳では無い。

しかし少なからず参考にした部分と意識していた部分はあった為、沢村自身も明確な目標地点として大野の姿を映していた。

 

 

 

それ以上に、沢村の描いているエース像は、正しく大野夏輝の姿なのだ。

 

毅然とし、勇敢に。

そして強気でありながら、丁寧に。

 

仕事のようにある時は淡々と。

そして何とか流れを変えたいときは、ド派手に。

 

チームが消沈していれば、その背中で鼓舞する。

 

 

何より、大事な局面を押さえ込んで吼える姿は、感情を全面に出す沢村にとってあまりにわかりやすく、格好良かった。

 

 

 

 

無論、細かい能力で言えば違いは沢山ある。

 

分かりやすいところで言えば左右の違い。

それに純粋な縦回転、所謂オーバースローの大野に対して若干スリークォーター気味の沢村。

 

若干アーム気味の大野よりも、柔らかい肩関節を生かした出処の見えにくいフォームの沢村の方が、球持ちがよく相手もギリギリまで目付けがしにくい。

 

 

しかし、それと比べても余りある大野夏輝という凄さ。

 

怪童と称されるストレートの質も、針穴を通すと言われる制球力も。

それに多種多様な変化球とそれぞれの精度で言っても大野に軍配が上がる。

 

それ故に大野がエースであり、全国でも指折りの投手でもあるのだ。

 

 

 

(最近はめっきり言うこと無くなっちまったな。嬉しいような寂しいような。)

 

 

そしてすぐ、自分の中で感じたこと無かった感情に落合は自身で驚きを隠せなかった。

 

 

今までは勝ちを第一に、それでいて投手はある種自分の育てた駒として考えている節があった。

それこそドライに、あまり情を入れることも多くなかった。

 

 

(中々俺も、自覚以上に感情が揺れ動くらしいな。)

 

 

尤も、それは大野という投手の存在によって変わったというのは落合自身も理解していなかった。

 

 

 

「だが、トントン拍子にコールド出来るのもここまでだな。」

 

「ええ。ここからベスト8、相手も確実に強くなる。エース格もプロに目を付けられるような好投手ばかりですからね。」

 

 

次の相手の創成。

そして市大三高と、稲実。

 

各所で順当に勝ち上がってきている強豪校。

 

そこを勝たねば、甲子園の舞台は見えてこないのだ。

 

 

 

「楽な相手なんて、ここまでだっていなかったですよ。」

 

 

みな、信念を持って。

最後の夏に賭けてきていた。

 

強い気持ちを持つ選手たちは、最後まで何を起こすかわからない。

 

だからこそ、油断もできなければギアをあげている場面も多々あった。

 

 

そう付け加えて、大野は少し乱れた前髪をかきあげた。

 

 

 

「試合、見にいくぞ。この後創聖の試合だろ。」

 

「わあーってるって。」

 

 

創聖学園。

堅牢な守備と高い攻撃力、そして毎年質の高い投手を輩出するベスト8常連の強豪校。

 

ここまでの試合も2試合連続でコールドで勝ち上がっている。

 

 

キーマンは間違いなく、この2人。

 

まずはエースの、柳楽。

最速146キロのストレートと大きく落ちるツーシーム、所謂創聖ツーシームと呼ばれる変化球を投げる本格派の右腕。

 

 

ストレートも非常に質の良いボールを投げており、特に手元で落ちるツーシームと相まって投げ分けた際の軌道のギャップが大きい。

コントロールもよく基本ゾーンで勝負するため、球数少なく強気に攻めることが多い。

 

そのため、高い制球力を活かしつつ、速さも近く質の高い2球種の投げ分けが彼の持ち味である。

 

 

「軌道はツーシームってよりはスプリットっぽいな。」

 

「俺と比べたらな。縦の要素が大きくて、ストレートと若干の球速差がある。」

 

 

試合を見ていた白州がそう言う。

 

確かに大野に比べると、どちらかというと変化はフォーク系というか、縦の変化球に近い。

まあ実際、彼のツーシームがあまりにおかしい軌道をしているだけなのだが。

 

 

 

 

「奈良って確か東京選抜に来てたんだよね。」

 

「上手かったぜ。守備もそうだけど、打撃もパンチ力あって。ポジショニングが結構面白くてさ、かなり大胆にとったりもしてたな。」

 

 

もう1人のキーマンは、4番セカンドの奈良。

 

東京選抜に選ばれるほどの実力の持ち主であり、走攻守揃った内野手。

 

 

打撃ではシャープなスイングから放たれる鋭い打球を量産。

 

さらには走塁技術、走力もかなり高いため足を使った攻めもできる。

 

 

特筆すべきは守備。

セカンドの名手といえば、先日対戦した八弥王子の川端。

 

彼が華やかで派手な守備と形容するならば、奈良は堅実で地味な守備。

 

凄さは分かりにくいかもしれないが、確かに広い守備範囲。

それは、大胆な守備シフトや球際の強さなんかがそれを表している。

 

 

 

 

試合は、大方の予想通り創聖ペースで進んでいく。

 

序盤から先発の柳楽が好投。

低めのストレートとツーシームの出し入れで打たせつつ、時折見せる高めのストレートで空振りを奪う。

 

 

(キレがいい。特に指にかかったストレートは。)

 

 

球速としては、140キロ前後。

確かに速いのだが、それ以上にキレがある。

 

おそらく体幹の速度とホップするような軌道は傍目で見るよりも感じると思う。

 

 

そんなことを考えながら、大野は右手を顎に当てた。

 

 

「低めの見極めに関してはやっぱり、実際に見てみないとわからないな。特にツーシームに関しては独特な変化するだろうし、こればかりは試合中に対応するしかない。」

 

 

 

この柳楽が7回を投げて1失点と試合を作る。

 

野手も中盤にかけて得点を重ねていき、9−1の7回コールドで試合を終了させた。

 

 

 

「決まったな、準々決勝。」

 

 

試合が終わり、大野が立ち上がる。

それに合わせて他の選手も立ち上がる。

 

 

出揃った、ベスト8。

 

ここから戦いの舞台は、神宮球場へと移る。

 

 

 

 

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