燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード197

 

 

 

 

試合は、既に中盤戦。

青道の初回の2得点以降、ぴたりと針が止まった時計のように試合展開は硬直する。

 

 

青道先発の降谷は、ここまで被安打1つにフォアボール1つの好投で未だに失点はなし。

 

テンポよく組み立てているのが功を奏しているが、少し捉えられている。

 

 

対する柳楽も、初回以降は失点を許さないピッチング。

 

ヒットで出塁こそ許しながらも、二塁は踏ませない。

要所を抑えるピッチングというよりは、青道側が中々繋がりに欠けているという状況である。

 

 

 

 

回は、5回の表。

2-0で迎えたこの回もまた、柳楽の前に打線が沈黙した。

 

8番の結城はツーシームで空振り三振。

9番の東条もツーシームを打たされてサードゴロ。

 

そして初回にヒットを放った倉持もまた、奈良のポジショニングに阻まれてセカンドゴロとなる。

 

 

 

(嫌な感じだな。)

 

 

防具を身につけながら、御幸は眉間に皺を寄せてそう思う。

 

 

 

勝っているとはいえ、中々追加点が奪えない。

 

それこそ柳楽が完璧なピッチングで抑え込まれているというよりは、打線が繋がっていないというところで抑えられている。

 

そこがまた、ムードが悪くなっている要因の一つだった。

 

 

 

(何とか起爆剤が欲しいところだが…)

 

 

降谷がギアを上げて、捩じ伏せるのが一番。

しかしそれを狙って変に力が入ってしまう方が、怖い。

 

それこそ、相手の思う壷だろう。

 

 

追加点が欲しい、何とか緊迫した状況を打破すべく焦った所に付け入る。

 

だからこそ、ここまで負けているながらも彼らは落ち着いて戦っているのだろう。

そのどこかマイペースな余裕すら、御幸は不気味に感じていた。

 

 

降谷も状態は悪くない。

しかし、次の試合から市大三高、稲実と連続で緊迫した投手戦が想定される。

 

そこで投げる可能性の高い降谷を、あまり引っ張りたくはない。

 

 

今のところ準備しているのは、川上。

 

6回以降いつでもいけるように準備をしているが、ピンチになれば緊急登板できるように試合序盤からブルペンへと入っていた。

 

 

 

「降谷、とりあえずこの回までだ。」

 

「はい。」

 

 

普段ならば、まだ投げると言わんばかりにアピールをする降谷。

しかし彼もまた、このあとの試合の過酷さが分かっているからこそ、ベンチの指示に大人しく従っていた。

 

 

全員で勝つ。

 

特に過酷な夏場を勝ち抜くためには、総力を決して戦わなければならない。

 

 

「ここからの3人を捩じ伏せて、攻撃に繋げよう。それがお前に残された、降谷暁の役目だぜ。」

 

 

御幸がそう言うと、降谷は小さく頷く。

そして、ゆっくりとマウンドへと向かっていった。

 

 

この回、6番から始まる創聖の攻撃。

 

思い切りのいい打者たちに対して、降谷は真っ向勝負で捩じ伏せていく。

 

 

6番の中沢をフォークで空振り三振。

7番の神田を高めのストレートを振らせて空振り三振。

 

そして、8番の後藤すらも今日最速の155km/hのストレート。

アウトコースのこのボールを振らせて、空振り三振。

 

 

「…っしゃあ!」

 

 

最後のこの空振り三振を奪った瞬間、降谷は右手を握り込む。

珍しく感情を顕にしながら、マウンドを後にした。

 

 

任された最後の回。

 

この5回を、三者連続の空振り三振。

想定していた、というよりは希望していた結果そのままに尽くしてくれた降谷の姿がエースと重なり、御幸は思わず身震いした。

 

 

 

「ここだぞ。降谷が流れを作ったここで一点でも多く奪って流れを取り切る。」

 

 

監督である片岡がそう発破をかける。

 

この回は2番の白州から。

そんな最中、1人の男がブルペンへと向かっていった。

 

 

 

 

同時にそれを観客が確認すると、ざわついた後にベンチサイドは大盛り上がり。

そして、マウンドに上がった柳楽もまた、若干目を見開いた。

 

 

(お前も投げるのか。)

 

 

マウンド上、打席に入る白州を見下ろしながら、柳楽は横目で青道高校側のブルペンを目で追っていた。

 

 

 

じわりと、汗が滲むのを感じる。

 

暑さのせい、だけではない。

それは確実に、焦りも要因。

 

失点をした場面でも表情すら崩さなかった柳楽の表情が、一瞬強ばる。

 

 

ただでさえ2点ビハインドの場面。

しかし安定感のない降谷が相手であれば、後半に得点を奪うこともできたはず。

 

だがここで、大野が出てきたら。

 

 

先を想定してしまった柳楽は、思わず表情を歪めてしまう。

 

その瞬間を、白州は見逃さなかった。

 

 

 

初球、ストライクゾーンに来たストレート。

これに対して、敢えて強振。

 

キレのあるフォーシームに思わず空振りをしてしまったが、それでいい。

 

柳楽に見せたかったのはその姿勢。

先程と同様、ストライクゾーンに来れば狙っているぞと。

 

 

これは初回に初球をホームランに打った白州だからこそかけることのできる、圧。

 

 

 

 

もう1つ。

それは、ストレート狙いだという意思表示。

 

迂闊に入れてくれば、やられる。

しかし狙いがわかる分、攻め方もある程度思い切って配球できる。

 

 

(ゾーンから落ちるツーシーム。しつこく行こう。)

 

 

ストレートとツーシーム。

スピードの近い2つのボールを、ストライクゾーンとボールゾーンで出し入れする。

 

コントロールが良く、しっかりと投げ分けのできる柳楽の最も効果的な攻め。

 

 

 

2球目の、ツーシーム。

ボールゾーンに落ちるこの球を、我慢して1ボール。

 

3球目も同じようなボールを見送り、今度はボール先行となる。

 

 

(ストレート狙いじゃないのか。それとも、見極めてる?)

 

 

あまりに、余裕を持って見送られている気がする。

こうなると、ストレートとツーシームを見極めている可能性が高い。

 

勝負するのは、危険か。

 

 

しかし白州の狙いは。

 

 

(追い込まれるまでは、見る。)

 

 

 

案外、シンプルなものだった。

 

初回にホームランを打っている打者で、いきなりの強振。

それでいて、バットコントロールもいい。

 

 

本能的にバッテリーも警戒を強めてしまう。

 

だからこそ、ファーストストライクを献上してでもバッテリーに対して迷いを植えるために強振したのだ。

 

 

 

この打席の駆け引きは、白州の勝ち。

高めのストレートを余裕を持って見逃して、フォアボールで出塁。

 

クリーンナップへと繋ぐチャンスメイクをしてみせる。

 

 

 

 

試合は中盤戦。

 

何とかこの山場を乗り切って反撃の糸口を掴みたい創聖と、一気に突き放したい青道という、互いにとって大きな場面。

 

ノーアウト一塁。

この場面で始まる、青道の怖いクリーンナップ。

 

ここで乗り切ることができれば。

創聖としても、大きく流れに乗ることができる。

 

 

 

 

しかし青道のクリーンナップは、易しくはなかった。

 

小湊が一塁方向にゴロを転がして、1アウト二塁。

さらに御幸が半ば歩かされたフォアボールで出塁すると、ランナー一二塁の場面を作る。

 

 

コントロールのいい柳楽が許した、フォアボールのランナー2人。

 

ここで打席に入ったのは、2年生の金丸。

ストレートには滅法強く、パンチ力のある青道の次期4番候補のバッターである。

 

 

しかしそれに対して、変化球には弱い。

特に落ちる系のボールに対しては、空振り率も高くクリーンナップの中で特に三振率が高い。

 

 

 

 

ネクストバッターズサークルで大きく深呼吸をする金丸。

 

ここが山場だと、本人もかなり意識しているのだろう。

流れ出る汗をユニフォームの袖口で拭い、もう一度息を吐き出す。

 

 

身体が、少し固まっている。

それを自覚しながらも、やらなければならない。

 

クリーンナップを任せて貰っているからには、結果を残したい。

 

 

その気概が焦りを生み出し、表情も強ばる。

わかりやすく緊張したこの金丸の姿を見たブルペンの男は、珍しく大きな音を立ててその直球をミットへと捩じ込んだ。

 

 

パァンという、小気味の良い破裂音。

 

思わず金丸もブルペンへと目を向ける。

 

 

「…大野、先輩?」

 

 

そう自然と零す。

同時に、今この時点で大野がブルペンにいることに気がついた金丸は、己がどれだけ緊張して視野が狭まっているかを認識した。

 

 

鋭い視線が、金丸を射抜く。

気がする、ではない。

 

確実に自分に対しての視線だと、金丸は確信していた。

 

 

 

(3年生を押し退けてクリーンナップを任せてもらえてるんだ。ここで答えなきゃ、男じゃねえ。)

 

 

緊張と焦りで流れていた汗。

 

しかしそれは徐々に、金丸の沸騰するような血潮による発汗へと変わっていく。

 

 

瞳孔が開き、鼓動が早まる。

そして、打席に入る直前にその口角を上げた。

 

 

 

後ろ重心で、懐を広く取りながらバットを掲げる。

元同室のクリスから教わった、彼の打撃フォーム。

 

小湊や東条のような、器用な打撃はできない。

降谷のような、圧巻の恵体とパワーも持ち合わせていない。

 

 

あるのはここ一番での集中力と、熱くなる場面での勝負強さ。

大事な場面で活躍できる、熱いハート。

 

そこに、確かな技術とオフでのトレーニングによるフィジカルも上乗せされて来た。

 

 

圧倒的では無い。

 

それでも、泥臭く。

そして大事なところで打つ姿は、青道4番の系譜。

 

 

 

勝負を決めたのは、3球目。

 

ツーシーム2球で追い込まれたが、金丸の頭には先日の大野との実戦形式を思い出した。

 

 

『2球種を投げ分ける投手なら、こうしてしつこく続けてくることもある。特にお前のように得意球がわかりやすい打者なら。』

 

『ってことは、それを逆手に取れば…』

 

『そういうことだ。たまの大事な場面、敢えてストレートを捨ててでもその軌道を焼き付けて打ち返すことも、手段のひとつだと思うぞ。』

 

 

3球目。

ストレート狙いの打者に対して、全球ツーシーム勝負。

 

 

前の2打席。

そして、追い込まれるまでの2球。

 

もう、目に焼き付いている。

 

ストレートだったとして、それで三振でも構わない。

泥臭く、そして粘り強く。

 

 

(天才に勝つにゃ、思い切り努力して思い切り頑張らなきゃいけねえ!綺麗にやろうとは思わねえ。)

 

 

金丸は、3球目の低めのツーシームを引っ張った。

 

 

(俺は俺のやり方で、打ってやる!)

 

 

打球は、サードライン際。

鋭く強い打球は三塁手の横を抜けて長打コースとなる。

 

 

 

二塁ベース上、右拳を握りしめる。

 

試合を決定づける、追加点。

2点を追加して、この試合4得点目を奪ったのは、青道。

 

 

同室の後輩の姿に思わず表情が崩れたが、すぐに一緒にプルペンへと入っていた奥村に視線を向けた。

 

 

 

「さて、大野先輩はここで終わりだ。ここから先は、青道のエース大野夏輝だ。付き合ってくれるな、奥村。」

 

 

そうして、エースはその役目を全うすべく、白球を右手に握りしめた。

 

 

 

 

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