燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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エピソード201

 

 

 

 

 

市大三高との準決勝を控えた、7月末。

 

俺は監督やコーチなどの配慮もあり、稲実戦に集中するべく今回は野手としての先発出場となっている。

 

 

とはいえ、前回も天久を完璧に攻略できていない上に、相手は新球種も手にしている。

 

少なくとも、真田と同等クラス。

下手をすれば、実力自体はそれ以上かもしれない。

 

攻略は、容易ではない。

 

 

「シュッ!」

 

 

脱力気味にバットを揺すってから、来た球を弾き返す。

 

 

打者の中ではマシン打撃をあまり好まない選手もいる。

 

まあ実際の投手の球と感覚も違えば、生きているボールや勢いのあるボールは来ない。

とはいえ俺のように場数の少ない投手に関しては、全然マシンで事足りる。

 

というか、俺はそこまで気になる次元ではない。

 

 

速いボールをフォームを振り負けずに打ち、変化球にも合わせる。

とにかくそれに限る。

 

 

 

まずは天久のスピードボールを打つ。

最速150km/hで強いボールを投げてくるピッチャーで、それもかなり強気に攻めてくる姿がよく見られる。

 

特に気持ちよく投げている時は、ガンガン真っ直ぐで勝負してくる為、スライダーだけに意識を向ける訳には行かない。

 

 

何球か続けて、今度はスライダー。

斜め下に迫りながら滑り落ちるこのボールを弾き返す。

 

掬うようにして、センター返し。

 

 

それを何度も続けている内に、後方からの視線を感じて俺は打席を外した。

 

 

「上手いですね、大野先輩。特に流し打ちめっちゃ綺麗です。」

 

 

こちらを見ていたのは、順番待ちをしていた由井。

そろそろ変わるタイミングかと確認すると、ヘルメットを外して由井の言葉に答えた。

 

 

「あぁ、当てるのはな。一也曰く、肘の抜き方と手首が器用なんだってな。」

 

「確かに。内角の捌き方とかはほんと、参考になります。」

 

 

よく言うよと、そう思った。

 

由井も割と天才型で、来た球に上手くミートして弾くタイプ。

長打も多いが極端にパワーがあるというより、上手く芯に当てて飛ばしている。

 

そうだな、タイプ的には小湊。

どちらかというとアベレージヒッターで、最も調子が良い時は反応でバンバン打ちまくる。

 

降谷や結城のような典型的なパワーヒッターとは、反対だ。

 

 

「まあ、あんまり考えすぎないことだな。特に君のようなタイプは。」

 

 

ほれ、チェンジだろ。

そう言って俺は、由井に打席を譲ってブルペンへと向かった。

 

 

 

「どうですか、2人の調子は。」

 

 

ブルペンのベンチにドカりと座り、顎髭に触れている中年男性に声をかける。

 

もはやブルペンの主として定着したこの落合コーチ。

この青道のブルペンを底上げし、全国でも有数の投手王国を作るのに一役かってる男。

 

そして俺の、大野夏輝の投手復帰を支えてくれた1人である。

 

 

「あぁ。状態はかなり良いな。コントロールもある程度纏まっているし、最高とは言い難いがまあ、許容だろう。」

 

 

そう言って満足気な表情を浮かべている。

 

恐らくコーチの目からみても、状態はかなり良いのだろう。

 

 

しかし極端な期待を持たせないために、ある程度含みを持たせて言っている。

この人の性格なら多分、そうだと思う。

 

 

その証拠に、俺の目から見ても降谷と沢村の調子はかなり良さそうに見えた。

 

 

「コントロールも纏まってますし、脱力も出来てて良さそうですね。本人たちには言えませんが。」

 

「まあ、な。」

 

 

そう言って、コーチが若干口角を上げる。

 

本人たちに調子がいい事を言ってしまえば、彼らはそれを意識して変な力が入ってしまう。

 

特に2人のような未成熟の投手は、意識次第でかなり乱れることがある。

 

それこそ、いい状態に持っていこう持っていこうと意識をし過ぎて変な力が入り、却って調子を落としたり怪我に繋がったりすることもある。

 

 

責任感を持つことも、決して悪いことじゃない。

しかしそれで調子を崩しては、元も子もないのだ。

 

なんと言っても、今のふたりは頼りになる。

下手に気負わなくても、変に意識しなくても。

 

2人は既に、この都内を代表できる格の投手となっているのだ。

 

 

 

 

降谷は、圧倒的な最大出力とプレーで見せる姿勢。

それに加えて、極端だった調子の下振れがかなり減り、制球力もスタミナも大幅に改善された。

 

 

そしてストレートを生かす、2つの変化球。

 

まずは、フォーク。

ストレートに近い軌道でストンと真下に大きく落ちる変化球。

 

落差と軌道も相まって高い奪三振率を誇り、慣れのお陰かかなり制御も上手く出来ていた。

 

 

そしてもう1つは、スローカーブ。

ストレートとは真逆、完全に打ち気を逸らす緩い変化球。

 

緩急でタイミングを外し、彼の最大の特徴であるストレートをより輝かせる。

 

 

精神的にも成長し、安定感が出てきた。

さらにトレーニングを重ねたことで下半身にも粘りが出て、フォームも固まった。

 

制球も前ほどは悪くないし、ゾーンでどんどん勝負できる。

 

 

創聖との試合でもそうだったが、ここ最近は本当によく試合を作れていた。

 

 

 

 

沢村は、空気を変えるピッチングと底知れぬ明るさ。

それに加えて、これまでに無かった快速球と彼だけの個性とも言えるオリジナル変化球たち。

 

 

キレのあるフォーシームを軸とした、空振りも取れるムービングボール。

 

 

カットボール改とスプリームは、ストレートに偽装して打者を惑わす高速変化球。

高い制球力で、正に縦横無尽にボールを動かす。

 

あとは、チェンジアップによる緩急。

ストレートと同様の腕の振りから放たれる、遅いボールで一気にタイミングを外す。

 

さらに言えばツーシームやカットボール、無造作に動く高速チェンジアップなど敢えて小さく動かす変化球で打たせてとることも出来る。

 

 

入学後からしつこく続けてきたランニングでスタミナは十二分。

その上足腰もかなり強くなった為、左右への投げ分けとコントロールはかなり良い。

 

 

出会った頃とは本当に、別人になった。

それは2人ともそうなのだが、沢村は特にそうだ。

 

 

 

「夏輝さん!今日はどうでしたか!」

 

「大野先輩。どうでしたか。」

 

 

耽っていると、急に近くにいた沢村と降谷。

こいつらは本当に、俺の気も知らずに。

 

落合コーチの視線。

 

 

(余計なこと言うなよってことですね。)

 

(下手なこと言うなってこと。)

 

 

右目を瞑り、小さく息を吐くコーチに俺も頬をかいて一言返した。

 

 

「ま、悪くなさそうだな。試合も近いから投げすぎんなよ。」

 

 

そう当たり障りも無いことを言って、俺はそそくさとブルペンから離れていく。

 

そろそろ休憩時間も終わりだし。

野手練習の方に、戻らなきゃいけないし。

 

 

そう思い、俺はグラウンドの方へと戻って行った。

 

 

 

 

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