燃え上がれ青炎!   作:聖戦士レフ

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あけまして…というには遅いでしょうか…。
今年もよろしくお願いします。






エピソード203

 

 

 

 

 

7月26日。

 

時刻は10時に近づき、選手たちがグラウンドへと足を踏み入れる。

 

 

全国高校野球選手権西東京大会。

甲子園出場校を決める、所謂夏の大会。

 

遂に甲子園への切符をかけて戦うチームは、4つまで減った。

 

 

(すげー歓声。)

 

 

多くのチームがその夏を終え、夢の舞台への道が潰えている中。

 

この神宮球場で、また頂点を争う戦いが始まろうとしていた。

 

 

市大三高と青道高校による、準決勝。

互いに甲子園常連校と言われ、全国でも名の知れた強豪校同士の試合。

 

加えて、地区のライバル関係である市大三高と青道、更には互いに今年も高い完成度まで持ってきている。

 

 

会場は既に満員。

 

このカードの注目度と、西東京大会の注目度を表している。

 

 

特に市大三高エースの天久は関東大会での好投もありドラフト候補という注目ぶり。

 

選抜優勝校であり強力打線を誇る青道に対してどんなピッチングをするのかという点でかなりの観客が押し寄せていた。

 

 

 

ざわめき、そして熱気。

神宮球場に漂う独特な空気に、マウンドで準備をする沢村は固唾を飲む。

 

そして同時に、昨日の夜のことを思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミーティングを終え、少し夜風に当たろうと寮外の遊歩道へ向かう。

 

すると一足先に待っていたのは、決勝に備えて温存されているエースであった。

 

 

薄手のパーカーに半ズボン。

ラフな格好で身を包み、その両手をポケットに収めている。

 

湿気った風に流される白銀の髪はどこか儚さすら感じるが、それ故に彼の後ろ姿は夜空と相まって絵になった。

 

 

「夏輝さん!」

 

 

呼び掛けに気が付き、大野はゆっくりと2人の方へと振り返った。

 

 

「どうしたの、こんな所で。」

 

「夏輝さんこそ。」

 

 

何となく反射的に聞き返し、遊歩道で見下ろしていた大野の元へと近づいた。

 

 

「何、ただ風に当たっていただけだ。試合前にはよくここにいるし、特段不思議なことでもない。」

 

 

すると、ふわりと柔らかい風が吹く。

 

夜ということもあり、夏場にしては過ごしやすい気温。

心地よい風が吹き抜けると、乱れた前髪を直して大野は口を開いた。

 

 

「明日は頼むな、沢村。」

 

 

階段を登りきった沢村が、大野の顔へと視線を向ける。

 

暗くて表情の全ては悟れない。

しかし何となく、普段とは異なる空気を身に纏っていることは容易に感じ取れた。

 

 

「体調は?」

 

「いい感じです!」

 

 

いつも通りこちらに気をかける大野の姿に安堵しながら、沢村は元気に肩を回して好調を表現した。

 

 

この日のブルペンでは、軽く調整のみ。

とは言え、実戦前の最終確認も兼ねて、全力で10球ほど投じている。

 

監督である片岡自らが打席に入って直々に確認。

 

 

それこそ片岡自身も沢村の状態の良さに太鼓判を押すほどよかった。

 

ストレートは球速こそあまり出していなかったが、細かく制球ができておりキレも出ていた。

 

変化球もよく制御出来ており、調子ムラの出るものも良く変化していた。

 

 

キレや変化もそうだが、何よりコントロール。

インサイドアウトサイド上手く投げ分けが出来ていた為、落合片岡両名から好調であると評価されていた。

 

 

「なら、いい。お前も降谷も並の選手じゃない。いつも通りやれば、結果は着いてくる。」

 

 

しかしそれに対して沢村は、あまりいい反応ではなかった。

 

 

「そうっすよね。」

 

「なんだ、煮え切らない反応だな。」

 

 

そう返されると、沢村は自身の頬を掻きながら言った。

 

 

「やっぱ、プレッシャー掛かりますね。天久さんと投げ合うのもですけど、やっぱり夏輝さんの代わりに任されたって考えると。」

 

「緊張するのは当然だ。それは責任を感じているからこそ。チームを背負う、勝つ覚悟があるからこそ重圧を感じるんだ。逆に俺は、緊張しない奴を信用しない。」

 

 

ポケットに手を入れたまま振り返った大野。

真っ直ぐ沢村の瞳に視線を向け、微笑んだ。

 

 

 

「まあ、行けるさ。何もお前を評価しているのは、俺たちだけじゃない。」

 

 

 

都内だけでなく、センバツという全国での登板機会。

それは沢村に知名度を与え、変則フォームという面白みと話題性の出やすいマウンドでの特徴的な口上は多くの高校野球ファンの心を掴んだ。

 

その明るい性格に対して、投球自体はかなり曲者。

 

右足を高くあげる豪快なフォームから、打者目線からは見えにくい独特なテイクバック。

 

そして放たれるボールは、ストレートを筆頭にキレのある特徴的な球種たち。

 

 

コントロールも良く、精神的にも強い。

特にピンチの場面では一気に集中力が上がり、高いギアで捩じ伏せる姿は現エースの大野と重なる部分もある。

 

 

都内では勿論、話題に。

それこそ都内では成宮に継いで次世代の左腕代表になると、揶揄されていた。

 

 

全国でも長いイニングを投げればかなり良い評価を得られるだろうと、大野だけでなく多くの選手や関係者が感じていたのだ。

 

 

 

「俺は成宮と決着をつけなきゃならない。はっきり言って、手負いで勝てるような相手じゃないことは、俺もわかっている。それこそ力で言えば、劣っているからな。」

 

 

本音だと、沢村は察した。

同時にここまでの大野へ対する違和感もまた、沢村は理解した。

 

普段からどんなに大事な試合が控えていようと目の前の一戦に集中していた大野が、違う。

 

 

見据えているのは、甲子園ではない。

目の前の市大三高戦でもない。

 

そして恐らくは、稲実との決勝戦というわけでもない。

 

 

ただ只管に。

成宮鳴との決戦を、美しい瞳で見据えていた。

 

 

 

「エースとしてあってはならないが、俺は1人の投手として成宮に勝ちたい。」

 

 

少し言い淀み、大野は沢村を見つめて言った。

 

 

「市大三高は強い。そして、天久も。」

 

「はい。」

 

「だが、お前なら。お前たちなら、任せられる。」

 

 

沢村が目を見開くと同時に。

大野はまた、微笑んだ。

 

 

「明日は、任せたぞ。」

 

 

監督である片岡の言葉と重なり、沢村は鼓動が早くなることを自覚した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「沢村。」

 

 

ふと掛けられた言葉に、思わずビクリと肩を跳ねさせる。

 

しかし呼び掛けの主はそれを追求することなく、ミットを口元に置いて沢村の背中に右手を当てた。

 

 

「相手は恐らく、お前の軸にしているストレートを狙ってくる。初回から変化球もガンガンサイン出すからな。」

 

「そうっすよね。」

 

 

御幸からの言葉に沢村も直ぐにグローブを口元に置いて話を始める。

 

相手は強打の市大三高。

左打者が多く、更にスイングスピードも速いから対応力も非常に高い。

 

 

だからこそ、敢えて速く小さい変化球を振らせてテンポよく投げ込む。

 

勿論甘く入ればやられてしまうが、それはどんな球を投げていても同じことであった。

 

 

 

「…不安、か?」

 

 

少し落ち着かない沢村に、御幸が小声で聞く。

 

実際、御幸も沢村と大野が昨日やりとりをしていることはわかった。

 

 

尊敬するエース直々に託された、この試合。

まだ2年生である沢村には少々重く、緊張するのも無理は無い。

 

 

しかし沢村は、予想外なことに首を横に振って答えた。

 

 

「確かに緊張はしてるんすけど、不安とはまた違くて。」

 

 

そう言って、深呼吸をする。

 

それも1度ではなく、2回3回と。

明らかにガチガチに緊張してるじゃないかと、御幸は逆に安心してしまった。

 

 

「…でも、頼られるって良いっすね。大事な試合に託されるって。」

 

 

目を瞑ったまま、帽子の鍔に左手を当てる。

そしてゆっくりと目を開く。

 

 

幾度となく見てきた、仕草。

しかし沢村からは初めて見た、青道のエースのルーティン。

 

鍔から手を離し、ゆっくりと空を見上げる。

 

 

「これが、夏輝さんが見てた景色。」

 

 

最後にフーっと息を吐き、ゆっくりと目を開いた。

 

 

 

「夏輝は、勝ってきたからな。」

 

 

 

御幸がそう言うと、沢村は横目で視線を送る。

 

やはり、悪い人だ。

こうしてまた、乗せてくる。

 

そう思いながら、沢村は高鳴る鼓動を抑えることなく笑った。

 

 

 

「じゃあ、もっと負けられなくなりました!」

 

「なら、一緒に行こうぜ。相棒。」

 

 

そして、御幸の出したミットに沢村もグローブを当てる。

 

 

 

 

試合開始の合図。

その直前に、沢村は後ろを守る内外野手へと向けて声を張り上げた。

 

 

「大会も残り3試合になりました!空は晴天、会場は満員!多くの方々の支えもあり、こうして試合を続けて来ることが出来ました!泣いても笑っても、あと2試合!我ら青道の誇りを胸に、今日も一球入魂で投げていきたいと思います!」

 

 

両手を広げ、熱の充満する会場の注目を一身に受ける。

 

これが沢村。

青道の名物の1つになりつつあるこの口上。

 

 

「ガンガン打ち取っていきますんで、バックの皆さんよろしくお願いします!」

 

 

試合開始を告げる合図。

 

確認して、打席には市大三高の千丸が右の打席に入った。

 

 

 

 

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